遺影

葛城 惶

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 通夜の晩、遺影は無事に出来上がった。うちの担当者はなかなか腕がいい。穏やかな良い表情に仕上がった。

 俺が感心しながら、控え室にその遺影を持っていくと、なんと、遺影の人、ハツさん本人がいるではないか。

 俺は“見えた!”と思い、動転してその場から逃げ出したくなった。

 だが、落ち着いてよくよく見てみると、似てはいるが、その女性は六十代ぐらいで、明らかに生きている人間という感じだった。

「失礼ですが、ハツさんのご遺族の方ですよね?」

 俺は生唾を飲み、おそるおそる、その『ハツさんそっくりの人』に声を掛けた。

「はい、ハツの姪のよしえ(仮名)と申します」
 
 その女性はおっとりとした仕草で一礼すると、そう答えた。

 どうやら、推察するに写真の担当者のミスで、家族写真に写っていたよしえさんの顔を遺影にしてしまったらしい。
 内心慌てふためき、担当者に憤ったが、なんにしても、もう通夜まで時間が無い。
 俺は仕方なく事情を説明して、よしえさんに平謝りした。

「あら、私のお葬式のときに使えるから、いいじゃないの」

 よしえさんは、そうブラックユーモアを交えつつ、快く許してくれた。

 ハツさんの葬儀や出棺などは無事に終わり、こちらの多大なミスにも関わらず、特に責められることもないまま、葬儀は無事に終わった。

 喪主や参列者を無事に送り出し、斎場の片付けを終えた俺は、社に戻った。そしてすぐさま写真担当者のところに怒鳴り込んだ。

「お前、遺影の故人、間違えただろう!」

「はぁ?何のことだ?」

「ハツさんの遺影だ。今日、葬儀のあった......」

「間違いなんかしてねぇよ。俺はプロだぜ!」

 担当者の突き出した元写真を見て、俺は言葉を失った。
 その写真は、間違いなく、棺桶の中のハツさんと同じ顔をしていた。

ーそんな.....ー



 俺は元の写真を返しながら、遺影を確かめようと決意した。
 が、どういうタイミングの悪さか、ハツさんの娘さんと連絡がつかず、数日が経った。

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