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その後の二人
盛福
しおりを挟むクラスメートの絋に告白し続けて20回目。ようやく僕はお付き合いをしてもらえることになった。学校へ向かう足取りが軽くて気を抜いたら口角が上がってしまう。
「三倉おはよ。」
絋とは登校時、学校の最寄りの駅で待ち合わせの約束をしている。僕たち、本当に付き合ってるんだななんて思って浮き足立つ。
「おはよう絋。待っててくれてありがとう。すごく嬉しい。」
「付き合ってるんだからこれくらい当たり前だろ?」
そう言って絋は僕の横に並んで歩く。駅で待ち合わせて登校するのは人生で初めてだ。緊張していたけど嬉しくて、今日1日は幸せになれる気がする。
「今日の放課後、なにか用事あるか?」
「ううん。特にないよ。」
「なら初放課後デートでも行くか。」
「で、でーと。」
「付き合ってるんだからデートくらい行くだろ?」
まさか絋からこんなセリフが聞けるなんて。
感動していると呆れた絋に頭を撫でられる。
「放課後になにか用事があるなら言えよ?基本登下校は一緒な。」
うんうんと頷いて見せると絋は満足そうに微笑んでまた前を向いた。その横顔もかっこいいな。
「三倉、一緒にお昼食べに行くぞ。」
教室に入って席に座った辺りから記憶がない。なんだか頭も体もふわふわして、現実から隔離されたみたいに靄がかかってる。夢じゃないんだ。だって朝、紘と一緒に登校なんてカップルらしいことをしていたんだから。
「紘。」
「お昼。置いてくぞ。」
「い、一緒に食べたい!」
「ならぼーっとしてないで行くぞ。」
紘は慌てている僕を笑顔で待っていてくれる。まるで王子様だ。
「ほら、昼休憩無くなる。」
「はい!」
お昼も紘と一緒なんて夢みたい。でも現実なんだ。僕と紘が付き合えている事実が胸を熱くする。
「紘、ありがとう。」
「?どういたしまして。」
お付き合いって、最高かもしれない。
放課後、僕は浮かれまくっていた。人生初めてのデートがこれから始まる。
これから行われるのは正真正銘、あのデートだ。今までは2人でのお出掛けを勝手にデート認定して満足していたが、もう僕らはカップルなんだ。つまり、これから行われるのはデートなんだ。
脳にバグが起きたのか頭の悪い言葉の羅列しか考えられない。だって、これから僕は好きな人とデートに行くから。
「三倉、帰るか。」
「うん!」
紘と並んで歩く。こういうのも久しぶり。
しばらく距離を置かれていたことが遥か昔のように今は幸せで、紘から目が離せない。
カフェに行ってスイーツを食べて、洋服をみて、ゲーセンで遊んで…。
普段通りのコースを遊ぶ。デートってもしかして、お出掛けと変わらない?
「どうした三倉。そんなとこで立ち止まったら危ない。」
家まで送ってくれている紘が、急に道に立ち止まった僕を端に寄せる。デートと浮かれていたが、そもそもデートってどういうことなんだろう。意味が分からずそれらしい単語に浮わついていた。そういえば紘はとてもモテているし、デートについて詳しいんだろうな。
「紘、デートって今までのお出掛けと変わらないものなの?」
そう聞けば紘は少し表情を曇らせて、僕の手を掴んで引っ張った。急に引っ張るから身体がよろけて、僕たちは真っ正面に向き合う。
「今までだって…」
紘は掴んだ手を離すことなく僕を睨んだ。
「今までだって、俺はデートのつもりだったけど。」
「ひぇ…」
余りのことに変な声が出てしまった。
僕がデート認定していたお出掛けは、本当にデートだった。
「じゃあまた明日な。朝、ちゃんと駅にいろよ。」
僕が返事する間もなく、紘は道を戻っていった。
ずっと片想いし続けていたのは、きっとこの日を為なんだ。そう思える程素敵な一日だった。朝の紘も昼の紘も夕方の紘もかっこよかったな。
放課後デートの後は頭がキャパオーバーを起こしたのか、湯船に沈みかけたりご飯茶碗を落としてしまったりと家族に心配されるほど気が緩んでしまった。お陰で今日はいつもより少し遅めの就寝だ。
今日は満月。紘もこの綺麗な真ん丸の月を見ているのかな。
「紘、睨んでいたけど怒ってたのかな。」
でも、睨む紘もかっこよかったな。
「お休みなさい。また明日。」
紘には伝わらないけど、紘のことを考えて呟く。僕のことを寝る前に少しだけ考えてくれていたらいいな。
この日は夢を見る間もなく、ぐっすり眠れた。
「あいつ…まさか寝たのか?」
ベットに横になっていた俺は、通知の来ないスマホから目を離す。
あれだけデートに浮かれていた三倉は、今までのデートをお出掛けと言いやがった。俺だけ意識していたみたいでムカついたので訂正したら、真っ赤になって頷いていた。最後の最後まで、デートは大成功だ。なのに三倉は今日は楽しかったの一言もなしに寝たのか?
時刻は午前3時。
早寝早起きの三倉が起きているとは到底思えない。電話にだってでないし。
「寝る前にお休みくらい言えよ…。」
今日は好きを言えなかった。三倉相手だとタイミングを伺うよりも勢いだな。
俺は一言メッセージを飛ばして部屋の明かりを消した。
明日の三倉は、今日以上に浮かれているに違いない。
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