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本編 (紘目線)
許しを乞う
しおりを挟む教室のドアが開いて、1週間振りに三倉はゆっくりした動作で入ってきて椅子に腰かけた。
緊張して喉が渇く。深呼吸してから名前を呼ぶ。
「三倉。」
顔を見るのも嫌なのか、俺の方は見てくれない。流石に嫌われていてもおかしくない。俺は唇を噛み締めた。
「今日、放課後。話したい。校舎裏で待ってるから、来れたらきて。」
俺はそれだけ言って、席に帰った。
いくら待っても三倉は来なかった。あれだけいたギャラリーももう帰ったけど、俺は諦めきれずずっと突っ立ったまま。
やっぱりもう修復は不可能か。
スマホが鳴る。こんなときに誰だよ。
しゃがんでスマホを見ると着信は三倉だ。慌てて通話ボタンを押す。
「もしもし、三倉?」
「絋、あの、寒い?」
なんだか気の抜ける声で聞いてくるから力が抜けた。
「スッゴい寒い。風邪引きそう。」
「ごめん、行こうと思ってるんだけど、なんか
足動かなくて。ごめん。」
来ようとしてくれてるらしい。三倉は誠実で素直で健気だから、例え相手が俺でも断らない。
「んーん。そうだよな。俺のこと怖いよな。」
「そうじゃなくて!…嫌われるのが、怖い。」
「…お前、まだ俺のこと好きなわけ?」
「うん、ごめん。」
意味が分からない。あんなことされてまだ好きとか思うか?お人好しすぎて変な奴に騙されないか心配だ。俺の足は動いて、たぶん教室で座ったままの三倉の下へ歩き出す。
「絋が好き。だから、もう忘れたい。」
「自分勝手だな。」
違う、こんなこと言いたくないのに。
「自分でもそう思う。」
「なんで告白やめたわけ?」
「…クリスマス」
「…うん。」
「絋が誰かと過ごすかもって考えたら限界がきちゃって。」
震えている声で、三倉が泣いているって分かる。また俺が泣かせてる。最悪だ。何度俺は間違えるんだ。
「絋が誰かと付き合うって考えたら怖かった。嫌だったから。もう、やめたかった。嫉妬しちゃいけないのに嫉妬するのも、皆に頑張れって応援されるのも、嫌だった。もう傷つきたくなかったから、好きじゃなくなったらいいのにって。」
「でも、まだ好きなの?」
「好き。もうどうしていいのか分からない。」
「三倉。」
スマホを取り上げた。目の前にたってちゃんと三倉と向き合う。
「チョコ投げてごめん。手紙、破ってごめん。」
「ううん、いいんだ。僕もあげようか迷ってたものだから。」
「それでも、ごめんなさい。俺、子どもみたいに嫉妬した。三倉がもう俺のこと好きじゃなくて、恋人からのチョコもらって大切にしてるって思って。」
あまりにも三倉が泣くから背中を擦った。呼吸できてないんじゃないか?
「手紙読んだ。あんなに一生懸命書いてくれたもの破くなんて、最低だ。」
「勝手に、書いたから、」
「ううん。本当にごめん。あと返事、書いてきた。」
貰ったのかも怪しい俺宛の手紙の返答を机の上に置いた。とりあえず三倉が落ち着くように前の席に座って、手紙を読んで貰う。
「…ほんと?」
「うん。」
「本当に?」
「本当に。」
「なんで…?」
手紙には今での謝罪と俺の気持ちが書いた。でも、手紙だけなんて卑怯な真似はしない。臆病な俺は震える手を握りしめながら言葉を紡いだ。
「三倉が俺のことを好きって言ってくれて自惚れてた。毎月24日には告白してくれるし、そのあとは遊びに行けると思ってた。でも、最後の告白だったって聞いて、早く返事しておけばよかったって、すごい後悔した。イブに三倉が告白してくれて、クリスマスには二人でケーキ食べて、正月は神社とかいってとか考えてた。本当に浮かれてた。俺の気持ち伝えないで、三倉に辛い思いさせてたことに気がつかなかった。三倉の思いが変わらないなんて保証ないこと思いもつかなかった。」
クリスマスに渡す予定だったプレゼントを机に置く。
「いまさら、本当に遅いのは分かってるけど。…三倉が好きです。あんなことした俺がおかしいと思うかもしれないけど、好きです。もう一度、好きになって欲しい。2度とあんな、傷つけることしないから。好きってちゃんと言葉で伝えるから。」
なんとか伝えた俺の思いに、三倉は目を見開いて驚いていた。
「う、うわぁ…いや、だって、嘘」
「嘘じゃない。本当。」
「2年も、片想いだから。実らない恋だから。」
片想い、実らない恋。俺への気持ちを三倉が諦め欠けているのは今での俺の行動のせいだ。
「気がないやつにクリスマスにケーキ屋予約しない。」
そう言う俺に、三倉は指を握ってきた。
三倉から触れられたのは初めてだから、驚きと焦りで呼吸が止まった。
「嫌じゃない?」
「うん。むしろ嬉しい。」
「ハグも?キスも?それ以上もするんだよ?」
「ばっ!お前は!」
真剣に聞いてくるこいつはふざけてもからかってもいない。ただ俺の返答を待っている。
「好きだから、そういうこともしたい。」
「僕と?」
「三倉と。」
「好きっていってもいい?」
「嬉しいから勿論。」
「好き、好きです。付き合ってください。」
また三倉から告白された。
「俺から告白したかったんだけどな。」
もう絶対に泣かせない。返事も間違えない。
「俺でよければ、お願いします。」
うわぁ…。と変な声を出して頭を押さえだした三倉は自分の世界に入り込んでしまった。
「…夢じゃないからな?」
首が取れるんじゃないかと思う程頷くから心配になる。
「はい。」
少し前のめりに返事をするから顔が近づく。
三倉は蕩けそうな顔で笑うから、緊張している俺もつられて笑ってしまった。
今度から24日は俺から好きだって言おう。それ以外だって気持ちは伝えるけど、この日は一番に気持ちを伝えよう。三倉が俺への気持ちを悩まないように。好きでいてくれるように。
結局、俺は三倉には敵わなかった。
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