俺をよく知るあなたを知りたい

ちとせあき

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本編

浮わつく気持ち

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お隣さんとご飯を食べるようになって早一ヶ月が過ぎた。食費代については完全折半でいいと言ったがお隣さんは頑固で、結局「食べさせて貰っているお礼ですから。」という言葉と共に二ヶ月分の食費を毎月貰う事になった。流石に貰いすぎなので余った分は返すと条件付きだ。
それに出退勤も一緒にしている。生まれてから1人に慣れていた僕は初めての体験に怯えていたが、今では2人並んで外を歩くことが楽しい。思えばストーカーさんの時も、最初の置き袋は怖かった気がする。
あれだけストーカーさんの手紙を生き甲斐にしていたのに、今ではお隣さんとの生活も生き甲斐なのだから僕は単純だ。
でも、ストーカーの件が終わるとお隣さんとの約束も終わるので僕は生き甲斐がなくなってしまう。二つの生き甲斐を無くして生きていけるのかが今の悩みの種だ。
「今日のお昼、一緒に食べませんか?」
僕の心配を他所に、お隣さんはどんどん僕の生活に入り込んできた。


NOを言えなかった僕は何故か昼にお隣さんと対面している。お隣さんオススメのお洒落なイタリアンの店にサラリーマン三人は目立ってしょうがない。ちなみに一緒に昼飯を食べる予定だった先輩は僕の隣に座っている。
先輩は、陰気で内気で人とのコミュニケーションを取りたがらない僕が最近仲良くしているお隣さんがどんな人か気になったみたいだ。何度か無理矢理付き合わされていないか聞かれた。最初は無理矢理だったが、今ではお隣さんとの関係は楽しみに変わっているので同意だと伝えたらますます気になったらしい。
先輩から僕はどう見えているんだろうか。
保護者気取りの先輩にため息が出る。
僕をお昼ご飯を誘ってきた二人は、僕なんて放っておいてストーカーさんの話をしている。対策をどうするかとか警察への相談とか被害を受けている本人より熱心だ。
あまり大事にしないでくださいと言えばお説教が始まったのでもう僕は一言も話さないことにして、お洒落で少ないパスタを頬張った。
二人は話ながらもパッとパスタを食べ終え、お会計をした。
「松野のことで何かあったら連絡しましょう。」
2人でそう言って連絡先を交換していた。僕は二人の連絡先を知っているし、交換しても意味がないことは分かってはいるが、なんだか仲間はずれみたいでモヤモヤした。


夜ご飯を食べ終わってお隣さんが帰ると僕はストーカーさんに手紙を書く。今日あった些細なことを報告していて、日記みたいだ。ストーカーさんは相談にものってくれるし励ましの言葉もくれる。今までの手紙は100均で買った大きな箱に入れて保管していて、たまに寝る前に読み返している。
ストーカーさんは僕のことを好きなのかな。
今日も布団に入りながら手紙を読み返してふと思った。
ストーカーさんがお隣さんなら良かったのに。
眠気で意識がはっきりしない中、僕はそう思ってしまった。
いつの間にかストーカーさんよりも、お隣さんが僕の心を埋めていた。

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