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本編
2人のストーカー
しおりを挟む非現実的なものを見て、僕は喉に何かが詰まったようにえずいていた。楠原さんは入念に手洗いをして、僕をリビングの椅子に座らせてくれた。
楠原さんは僕がビニール袋の中身を見ないように注意してくれたのに、僕は好奇心や疑心があって見てしまった。お菓子と手紙だと思っていた中身は過去未だに見たことのなかった残酷なもので、楠原さんが支えてくれなければ気を失っていたと思う。
例のビニール袋には、いつものストーカーさんがくれる僕の欲しいものではなく、明らかに僕を害することを目的としたものが入っていた。あの袋をそのままにして置いておく訳にはいかないので、楠原さんがビニールの中身を片付けてくれると玄関に向かってくれた。僕はそれに頷くばかりで、椅子から一歩も動けなかった。貧血になったときのように頭もくらくらしてまともに機能しない。
しばらくすると楠原さんがリビングに戻ってきて僕の隣に腰を掛けた。何を話すでもなく、ただ背中を撫でる指が優しくて、苦しかった呼吸が軽くなった。
「警察に行こう。」
僕の呼吸も落ち着いてただぼーっとしていたら楠原さんは僕の手を握ってそう言う。
少し考えた僕はその言葉に頷くことができなかった。
「明日、行きます。」
「早い方がいい。」
最もな意見をいわれ口ごもる。でも、僕の意見は引けない。
「明日になって今日のことを知らないストーカーさんが来たらストーカーさんの方が捕まっちゃいます。今日手紙を書いて、明日受け取ってもらってから行きます。」
楠原さんはしばらく僕を睨んだあと、呆れてため息をついた。それから頭を撫でて、しょうがなく頷いてくれた。
「俺も行くから。」
「ありがとうございます。」
僕の惨めに小さな頭脳はパンク寸前で、ストーカーさんの安否を考えるだけでいっぱいだ。もしあの酷いことを容易にする変質者にストーカーさんが鉢合わせしてしまったら。もし相手が刃物を持っていたら?
小動物ではなく、ストーカーさんが変質者の前にいたなら?
まともに吸い込んだ血生臭いにおいがぶり返してきてえずく。
同じ状況であるはずの楠原さんが背中を撫でてくれて、情けなさで涙もでる。
それでも胸につっかえた何かは僕を支配してとても理性で押さえ込めるものではなかった。
『はあ!?ストーカーが二人に増えた!?』
先輩のあまりの大声は楠原さんの電話越しから僕にまで届いた。
『何やってるんだよ!無事なのか!?』
スピーカモードにさえせず、楠原さんはダイニングテーブルにスマホを置いた。慌てている先輩の声を聴いていたらさっきまでどん底だった空気も浮上する。
「無事です。」
『だから早く警察に行けって言っただろ!何考えてんだよ!』
はぁーーっ。と先輩のため息も聞こえてきて申し訳なくなり電話越しにぺこぺこ謝る。
『…言いたくなかったんだけどな。俺の知り合い、ストーカーに足刺されて車椅子生活してるんだよ。』
小さく呟いた先輩の言葉に息を飲んだ。続け様にため息をついた先輩はまた叫ぶように投げ掛けてくる。
「警察に行けよ!後悔しても遅いんだ。知り合いが二人もストーカーに人生狂わされたなんて話なんて酒のつまみにもならない。」
「はい。」
先輩はいつも僕のストーカー被害を真剣に聞いてくれた。ポロッとつい溢してしまった日常の嬉しいことを、先輩は心配して怒ってくれていた。
それなのに、先輩の話を話し半分に聞いていて、ストーカーさんはそんなんじゃない。なんて根拠もない自信を持っていた。ストーカーというものは怖いと注意してくれたのは先輩だった。
本物の“変質者”にあったら先輩の言うことが飲み込めた。
仕事場にしか居場所がなくて、親しい人もいないとひねくれていたからストーカーさんの身近さに嬉しいと思っていた。
でも今は、先輩も背中を支えてくれる楠原さんもまっさらだった僕の友人の枠にいてくれる気がする。
でも、そのページの中にストーカーさんという存在があるのも確かで、だから申し訳ない。
「明日、警察に行ってきます。」
「おう。頑張れよ。」
何度も言われた言葉に今度こそ僕は頷いた。
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