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本編
変化した関係
しおりを挟む⚠️軽くですが動物の死骸描写があります。苦手な人は次の話に進んでください。
お菓子にしては重い音が玄関で聞こえて思わず振り返る。楠原さんが影になって見えないけど白い袋は何かに汚れていて、やっぱり昨日の嵐で濡れてしまったかと残念に思った。
「昨日の嵐すごかったですよね。手が滑りました?」
楠原さんの前に落ちるビニール袋を拾おうと半開きのドアを開けようとするが、僕は楠原さんに行く手を塞がれる。その手の主を見れば、信じられないようなものを見た時のように大きく目を見開いていた。
僕がストーカーさんに何をもらっているかなんて何度も話しているから当然知っているはずなのに、何をそんなに驚くことがあるんだろう。
僕が口を開く前に楠原さんがはっとしたように僕を見る。いつも冷静で時に意地悪な楠原さんらしくない焦った表情に不安が押し寄せた。
「これは、ストーカーさんじゃありません。」
落ちたビニール袋を目の前にして言いきる彼を疑問に思って首をかしげる。僕とストーカーさんがやり取りしているコンビニのビニール袋があるのに何を言っているのか。
「いいですか。この中身はお菓子なんかじゃない。」
楠原さんが玄関の先を見せないように立ちふさがる。僕はまだ理解ができなくて首をかしげたままだ。
「どういうことですか?そこにビニール袋、あるじゃないですか。」
まさか僕とストーカーさんの関係性を終わらせるためにそんなことを言っているんじゃないか。僕の置いた覚えの無いあのビニール袋がある時点で、ストーカーさんがここに来たことは間違いがない。なのに中身がないなんてあり得ないじゃないか。
「ストーカーさんではない。…多分、松野さんにはもう一人ストーカーがいます。」
楠原さんは玄関前のビニール袋を見もせずに、ひたすらに僕に言い聞かす。
必死な楠原さんを見て少し笑ってしまった。僕のような平凡かもしくはそれ以外かの人生を歩んできた人間にそう容易くストーカーが出来るわけがない。ストーカーさんの存在は本来は僕に関係ないことなんだ。そんなもの二人もいてたまるか。
「僕のストーカーはストーカーさんだけですよ。」
「違う。これは、明らかに悪意を持っている。」
玄関を閉めてしまったのでもうビニール袋は見えない。
ドアが閉まって外気が無くなったことで、自分の心臓の音がはっきり聞こえる。少し早くなった鼓動は、楠原さんにも聞こえるだろうか。
「…あの袋の中身は、お菓子なんかじゃない。小動物の殺傷死骸です。」
僕の呼吸が止まって、さらに部屋が静かになる。死骸?そんなもの、人生で一度も見たこともない。それに、ビニール袋にそんな物騒なものが入っているとは到底思えなかった。
「見せて、見せてください。」
絞り出した僕の言葉に楠原さんは首を横に降るが構わず僕は玄関を開ける。
ストーカーさんが動物を殺して僕のもとに運ぶなんて考えられない。楠原さんが袋の中身を見せないのは、きっと何かの間違いか僕をからかっているかの二択だ。
落ちたビニール袋の汚れは、よく見たら赤く黒ずんでいた。中を覗いて僕は吐き気がした。
生き絶えた小さな命は僕には重く、楠原さんに支えてもらえなかったら床に倒れていたと思う。
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