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本編
警察
しおりを挟むストーカーさんへの手紙が回収されていることを確認して、楠原さんと共に家をでる。僕を心配した楠原さんは昨日も泊まってくれて、僕が寝るまで背中を撫でてくれた。
楠原さんはマンションにある駐車場を契約しているそうで、僕たちは車に乗って最寄りの警察署へ向かう。自分の住んでいるマンションなのに、車を持っていないから駐車場なんて契約時以来来たことがなかった。なんなら車の免許も持っていないしこれから取るつもりもないので生涯無縁の場所だ。
いつの間にか楠原さんはあの血だらけ袋と玄関を写真に納めていたらしい。これを証拠として警察署に持っていく。ただ怯えていた僕と違って、やっぱり楠原さんは冷静で頼りになる。
車の中はとても静かだ。たまに楠原さんが話しかけてくれるけど、どうも僕は声がでなくて頷くばかり。
警察署は近所なので車内で話せなくても問題はなかったが、警察署内で事情を話す際まで僕は上手くしゃべることが出来なかった。
代わりに楠原さんはうまくストーカーさんのことだけを切り抜いて、今回の変質者について話してくれた。
でも、警察からの対応は僕たちが思っていたものとは違った。
「実害はないので、調査は難しいですね。パトロールは強化しますが、それ以上のことは…」
「実害というと、どのようなことをされたら動けますか。」
「そうですね…」
楠原さんはまだ何か警察の人と話していたけど、僕は調査は難しいという言葉に固まってしまった。まだ僕は変質者に怯えていなければならないらしい。無性に怖くなってしまって、両手を強く握りしめて下を向く。
その手が大きな左手に包まれて、初めて息が吸えたようにむせた僕を、話していた二人は心配してくれた。
楠原さんに背中を押されながら車に戻る。
どれだけ時間がかかったのか分からないが話しは終わっていて、僕は椅子から立ち上がった時にふらついたため楠原さんが背中を支えてくれた。
車に戻ると楠原さんは軽くため息をついて僕の頭を撫でる。
「後は私に任せてください。それから、これからは出社も退社も私と一緒ですよ。」
「はい。」
今日一日中、何も役に立たなかった僕はまた頷くことしかできなかった。
マンションに戻ってから僕は鍵とチェーンを閉めて部屋にこもる。楠原さんは連絡するまで絶対に部屋を開けないようにと忠告し、どこかへ出掛けてしまった。
連日変質者に振り回されてしまった僕はとりあえずキッチンへ立つ。一緒に振り回されていてくれる楠原さんに何かご飯を作らなければ。それにいつも通りのことをしたら心も落ち着くかもしれない。
とりあえず冷蔵庫にある野菜と豚肉で豚汁を作る。普通の味噌汁ではなくて豚汁だとテンションが上がるので、手っ取り早く自分がご機嫌になるためによく作っていた。
炊き込みご飯と卵焼き、あと何か一品作ろうかと悩んでいたら楠原さんは帰ってきた。まだご飯は炊き上がっていない。
「松野さん。部屋の前に小型防犯カメラ設置してもいいですか?」
大きな袋を片手に帰ってきた楠原さんは玄関先で何か作業をしている。これはダメと言ったところで設置されそうだ。
もちろん、防犯カメラがあった方が安心するので答えはイエスだ。
僕はまた頷いてから慌ててお願いしますと今度は言葉で伝えた。
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