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本編
おかしな関係
しおりを挟む僕に変質者がつきまとうようになってから、四六時中楠原さんと過ごすようになった。出社退社と夕飯はもちろん、買い出しも寝泊まりもする。僕は自分の部屋にいるのが怖いからお隣の楠原さんの部屋に居座っていて、楠原さんもそれを咎めることはしない。楠原さんの部屋は間取りが広く、一部屋が物置になっていたのでそこに必要なものも置かせて貰った。
まるで同棲みたいだなと、居候の身で申し訳ないが思ってしまう。
でも、部屋を借りてから隣で眠れなくなったのが残念だった。恋人でもないのにずうずうしいが、楠原さんの隣は安心するから一緒に寝たかった。
楠原さんがストーカーさんだったなら、喜んで添い寝してくれるのにな。
…本当に、最高に愚かな思考を僕は手にしてしまった。
あれから楠原さんは何度か警察署に行ってくれているらしく、休日に出掛けることが多い。等の本人が置いていかれるのかは納得いかないが、それも楠原さんなりの配慮なんだろう。
楠原さんとスーパーから帰っていると、エレベーターに乗る際に腕を引っ張られた。
いつも隣にいる楠原さんがしたことのない行為に、何も受け身がとれないまま衝撃を受ける前に目だけ瞑る。
「え?」
ガシャンッ!
遅れて聞こえた僕の声と何か金属が落ちた音は同時だった。
僕は少し壁に腕を打ち付けたけど、全く痛みは感じなかった。
下に目を向けると楠原さんが誰かを押さえつけている。
「110。電話して。」
現状に見合わない冷静な声にしばし唖然としてから慌ててスマホを取り出す。その間にも取り押さえられている人は何か騒いでいた。
「はい。事件ですか。事故ですか。」
「た、助けてください…」
スマホにすがり付くようにしても、後からきた震えはなかなか止まらなかった。
それから警察が来て、犯人取り押さえやら事情聴取やらでパニックを起こした僕がただ右往左往している中で、楠原さんはやっぱり冷静に対応していた。こんなときでも彼を見つめてしまうのは何故だろうか。
僕の部屋にある証拠品と防犯カメラが回収されて、とりあえず警察に連れていかれてさんざん話を聞かれた。
残業よりも疲れたその作業だが、おかげで変質者は捕まったらしい。
変質者の目的はなんと僕ではないと言う。
一つ下に住む家族の娘さんが目当てで、一つ上の僕の部屋と間違えていたらしく、頻繁に出入りする僕を見て彼氏だと思い嫌がらせをしていたと言うのだ。
あの家族に被害がなかったことにほっとしながらも、巻き込まれ方が理不尽すぎて呆れてしまった。
夜が明け、一人家へ帰らされてとぼとぼと道を歩く。
そういえば、もうストーカーさんとは会えないのかな。
唯一の繋がりであったあのビニール袋の交流が失われてしまった今、僕らを繋ぐものはもうない。
寄り道にコンビニに行って、お菓子と栄養剤を買う。最近はもう栄養剤も買うことがなかったから懐かしい。
道の途中で鳴ったスマホの着信音で足が止まった。
画面には楠原さんの文字。どうやら今事情聴取を終えたらしい。
「楠原さん?今回はありがとうございました。楠原さんがいなかったら僕、どうなっていたかわかりません。」
「…松野さん、警察署の近くの公園わかりますか?」
「公園ですか?あの大きめのなら分かります。」
「来て貰うことってできますか。」
楠原さんも今日は疲れてしまったんだろうか。いつもより覇気のない声に心配になる。
「勿論です。今家の近くのコンビニなので、急いでいきますね。」
通話をきって踵を返す。
この栄養剤は楠原さんにあげよう。
長らくお待たせしてすみません。
あと1話で本編完結です。
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