給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき

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召喚の儀

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 マテウス・アージェルは四十二歳。
 アストラウス国の王都アージェルの東に位置するアストラウス国立学術学院王都校の平民科の魔術教師だ。

 アストラウス国では貴族も平民も関係なく教育を受けられるようになっていて、十歳になると王都と国の東西南北それぞれに置かれた国立学術学院のいずれかに通うことになっている。
 基本的には貴族令息令嬢は王都校へ、平民は住居に近いところへ進学し、通学が困難な場合は寮生活をしている。
 貴族と平民が通う王都校においては、貴族と平民の区画はきっちり分けられていて、教師もそれぞれ貴族と平民と分かれているという徹底ぶりだ。
 この二つの科が交わることはない。
 たったひとつの行事を除いては。

   *
 
 四大精霊を祀る聖堂には普段の倍以上の人間が入っていた。
 それもそのはず。
 今日は召喚の儀だからだ。

 卒業するまで、または相性がよければそれ以降も含め、パートナーとして精霊を召喚し契約するのが召喚の儀だ。
 魔術の素養のある子どもはすべて十三歳の学年から魔術師コースに進み、魔術に慣れたころにこの儀式を行う。
 稀に上位精霊を召喚する逸材もいるため、万が一の事態に対処する名目で、普段は交流のない貴族科と平民科が合同で行うことになっている。
 場所はセキュリティの関係上、貴族科の敷地内にある聖堂で行う。
 儀式の順番は貴族から始まり、続いて平民が行う。
 今年は貴族科で三十人強、平民科で二十人強いるから、昼食を終えた午後一番から儀式を始めている。
 その年によって魔術の素養を持っている学生の人数は上下する。
 一番酷かったときなんて貴族科と平民科の一人ずつ。
 その学年の授業はマンツーマンだった。
 今年は人数が集まり、才能がある学生もらちらほらといて、マテウスはウキウキとしていた。

 そんな召喚の儀も終盤に差し掛かり、平民科最後の学生が陣の上で魔力を解放する。
 
「汝を欲する者、ここに存り。我が魔力を糧に応えた給え」

 詠唱が終わると同時に陣が光り、現れたのは火の精霊の中でも上位の精霊だった。
 それに気付いた学生は目を見張り驚き、同時に期待でその目を輝かせる。
 監督している教師やすでに精霊を召喚した学生からは感嘆と羨望の眼差しが学生に注がれた。
 
『我、汝の召喚に応えし精霊なり。我と契約を望むならば魔力の交換を』

 精霊が求めるのは召喚者の魔力だ。
 その質と量により召喚術に応じると言われている。
 そして、精霊との契約は魔力の交換をもって成立する。

 精霊を召喚した学生は迷うことなく魔力を交換し、無事に精霊との契約を果たして今日限りの自席へと戻っていく。
 学友からは祝福の拍手が送られていた。

 今年の召喚の儀も滞りなく終わり、一教師としてほっと胸を撫で下ろす。
 このあとは学院長の挨拶で締められ各自解散となるが、マテウスは平民科の学生とともにその区域へと戻ってから解散となる。
 学生に配慮した短い挨拶と祝福を述べて学院長が退席すると学生を二列に整列させ、他の平民科の魔術教師とテリトリーへ戻る準備をする。

「マテウス先生!」

 上背のある僕よりもさらに長身に、魔術師というより騎士という方が納得できる筋肉のついた体。
 燃えるような赤い髪と瞳を持った青年は貴族だというのに、身分に構うことなくマテウスのところへやってきた。

 本来なら話すこともあり得ない立場だというのに、周囲からは微笑ましいような、同情のような視線を送られる。
 それもこの七年間の成果だと言えよう。
 最初は驚愕と嫉妬の視線の嵐だったのが懐かしい。

「ウェルズリー先生」
「やだな。いつも通りアイクって呼んでくださいよ」
「公の場ですからね。節度を持ちましょう」

 マテウスがそう嗜めると、彼は悪戯がバレた子どものように笑って誤魔化した。
 そういうところは今も昔も変わらない。
 彼はアイザック・ウェルズリー子爵。
 当代一の魔術師であり、貴族科の魔術教師で、僕のだ。

 ちなみに、彼がマテウスのファーストネームで呼ぶのはマテウスが平民だからだ。
 平民は家で受け継ぐ姓はなく、その代わり生まれた土地の名前が姓となる。
 つまり、王都校でアージェルさんと呼ぶと、大概の平民科の者はみんな振り返ってしまうというわけだ。
 
「はい。ところで、今夜もお迎えにあがっても?」
「ええ、構いませんよ。約束したじゃありませんか」
「そうですが、少しでもお話ししたくて」

 照れるように笑う彼の顔は実年齢の二十八歳よりも若く見える。
 加えて、端正な容姿の彼が笑うと周囲に爽やかな風が吹いたように感じ、それを見たものは自然と癒されるのだ。
 マテウスもその一人。
 ただ、今はまだ勤務中だ。

「では、僕は学生と戻らなくてはいけませんのでこれで」
「はい。後ほど」

 短く挨拶を交わしすと、二人はそれぞれの行く先と足を進めた。
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