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連載
〜もしも学園に通う世界だったら〜1
しおりを挟むもしも学園。ここは、貴族の子息令嬢が集まる学園である。そして付け加えるならば、この学園の支配者は、女神の同じ髪と瞳の色を持ち公爵家の娘であり王の姪であり生徒会長のリュートの婚約者であるアイリス=ウェルバートンだった。
誰もアイリスには逆らえない。絶対的存在。
そのためアイリスには風紀への勧誘が耐えないが、一番いじめをしているのがアイリスなので、風紀は涙を流して諦めている。
そんなアイリスは制服を着て(ボタンやカフスは宝石が輝いている)、生徒会室で寛ぎながらリュートを待っていた。
「ねぇ、そこの田舎娘」
「はい!」
「なぜおまえがここにいるの?」
「サイラスさまがここで待ってろと」
リュートさま、部外者は立ち入り禁止の神聖な生徒会室をサイラスは待ち合わせ場所にしているわ!と、部外者でありながら入り浸っているアイリスが、サイラスに敵意を向ける。
「まあまあ。いいじゃありませんか」
そんなアイリスを宥めたのが、生徒会副会長であるメアリ=カーロイナだった。もしも学園の百合であり、世界がひっくり返ったのか何なのかと周りは驚くが、アイリスのマブダチである。
「でもメアリさま。こういうのはしっかりしておくものよ。ここは貴族の社交を学ぶ場だもの」
アイリスは自他共に認める特例である。
「ふふ。午後からの授業はダンスの練習だから、わたくしは人が多い方が憂鬱が紛れていいわ」
「ええ!メアリさま、すっごく綺麗に踊ってるじゃないですか!」
「おまえはその田舎訛りを治しなさい。発音の授業、ちゃんと受けてるの?」
「ま、まあまあですかね」
「そもそも。わたくしの取り巻き筆頭のカレンだってここに立ち入ったことがないのに、おまえみたいな人間が出入りすれば反感を買うに決まっているでしょう」
「じゃあカレン様も誘って一緒にお茶しましょう!」
「ここは生徒会室よ!」
き、とアイリスが目をつりあげたタイミングで、閉めていた重厚な扉が開く。入ってきたのは生徒会長のリュートと、下っ端のサイラスだった。
「リュートさま」
先程の田舎娘に向けていた顔はどこへやら。美しく微笑んだアイリスに、青色の瞳が向く。
「アイリス」
リュートとアイリスは学年がみっつ離れているので、生徒会室に来ないとなかなか会うことはない。
姿を見るためだけにここに通っているアイリスは、濡れるような黒髪と青い空の瞳を持った麗しい婚約者殿に夢中だ。
「サイラスさま!」
「悪いな、待たせて。書類に不備があって、それを書いてもらおうと思ったんだ」
どうやら田舎娘には真っ当な用事があったらしい。数ヶ月前にこの娘は王都に引っ越して学園へも転学してきた。
まあ、なら仕方あるまい。
放置でよし、と判断した。
「そういえば、もう一人転校生が来るらしいぞ」
「またですの?」
メアリが目を見開く。アイリスはまた田舎臭い人間が増えるのかと、リュートの次に女子生徒から人気があったサイラスを射止めてしまった田舎娘を見つめた。
そしてそんな会話も忘れ、一ヶ月が経った頃。いつものように生徒会室で寛いでいたアイリスは、こんこん、と控え目にノックされた扉に視線を向けた。
サイラスが立ち上がって扉を開く。そこには見慣れない女子生徒がいた。
「あ、あの。初めまして。今日からこの学園に通うことになりました。ユーナ=ロバックです」
ああ、この娘が、と少し前の記憶をアイリスは引っ張り出していた。肩で揺れる薄い茶色の髪、茶色の瞳。ごくごく一般的な容姿だが、あの田舎娘とは違って田舎臭くはない。
ロバック家。アイリスは聞いたことがない。聞いたことがないということは、よっぽど小さな家なのだろう。
「ロバックさん。ようこそ。職員室の方へは?」
「行ってきました。ここで、これを渡して、寮に案内してもらいなさいと」
「なるほど。承りました」
ぽ、とユーナは頬を染めて外つらだけはいいサイラスを見ている。この男、あの田舎娘に近づくために猫を被って以降、キャラを低迷させていた。
アイリスは扉から視線を外して、興味をなくす。
転校生だろうがなんだろうが、顔と名前を把握すればあとはどうでもいい。
銀色の髪を耳にかけ、隣に座っているリュートに顔を向ける。
「ねぇ、リュートさま。コーランドがオーレオンのショコラをくださったの。メアリさまが戻ってくれば一緒に食べましょう」
「オーレオンの?それはすごいな」
「ええ。コーランドに頼めばなんだって用意してくれるわ」
侍女がいないこの学園では、棚から荷物を取ることもお茶をいれることも、全て自分で動かないといけない。しかしそこはアイリス。サイラスに取ってこさせようともう一度入口に視線を向けると。
ユーナとかいう女がこちらを覗き見ていた。覗き見、というか、ガン見である。
なにかしら、と太陽より輝く黄金の瞳を細める。
「アイリス。相手は転入生だぞ」
「あら。覗き見なんて人として無礼です」
ユーナはアイリスとサイラスを見比べて、おろおろとしている。しかしもう一度アイリス、と窘められてしまえば、仕方ないとアイリスは「なんでもないわ」とばかりに笑って見せるしかない。
ユーナは美しく微笑んだ美貌にほ、と息をついて、今度はリュートとアイリスを見比べている。この学園の絶世の美男美女に見惚れているのか、それとも。
「ロバックさん。あちらら生徒会長のリュートさまと、その婚約者のアイリス=ウェルバートンさまです。丁寧に、丁寧に接してくださいね」
「サイラス」
「アイリス」
む、とアイリスはリュートを睨みつけるが、リュートは立ち上がりサイラスの方へ行ってしまった。
「よい学園生活を」
リュートはその一言だけ告げ、サイラスに寮へ案内するよう促していた。ユーナは、頬を赤くしながらぺこりと頭を下げ、サイラスと共に出ていった。
そして、アイリスはリュートと二人きりになる。
「アイリス、きみはどうしてすぐ人を叱ろうとするんだ」
「叱ってませんわ。わたくし、そんなに暇じゃなくてよ」
なにせこれからオーレオンのショコラを食べるのだ。あんな小娘どうだっていい。まずはメアリが戻ってくる前に、紅茶を淹れないと。
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