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三章 引きこもり皇子、働く

055 来客3

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「どいつもこいつも好き放題言いやがって……」

 フィリップたちがワーワーやっていたら、赤ちゃんの作り方を聞いただけでフリーズしていたエステルが再起動した。

「「「ヒッ……」」」

 その顔は、般若。エステルは「ですわ」設定が崩れる程の怒りのせいであまりにもおぞましい顔になっているから、フィリップたちは恐怖に震えた。

「殿下はわたくしの物なんですぅぅ! わたくしと結婚するんですぅぅ! 誰にもあげないんですぅぅ!! うわ~~~ん」

 その後は、子供返り。脳がパンクするような話の内容と、今まで溜めた様々な怒りが爆発して、エステルは癇癪かんしゃくを起こした子供のように泣いてしまった。

「あの……その……殿下!」
「僕!?」
「殿下しかいないじゃないですか!」

 エステルが引くほど泣いているので、イーダもウッラも冷静になってフィリップの背中を押す。フィリップは嫌々だけど、エステルのそばまで行って後ろから抱き締めた。

「そうだね。僕はえっちゃんの物だよ。だから泣きやんで。ね?」
「うぅぅ……嘘っぽいですわ。え~~~ん」
「ほら? あの話をしたのは、えっちゃんだけだよ~? 僕を一番詳しく知ってるのはえっちゃんだけだよ~? 愛してるよ~??」

 なかなか泣きやまないエステルを、子供をあやすように宥めるフィリップであった……


「ホントにホントに~?」

 フィリップがめっちゃ頑張った結果、エステル、今度はアホになる。

「うん。愛してるよ」
「もう一回言って~」
「うん。愛してる」
「もう一回」
「愛してるよ」
「エへへへ~」

 フィリップの愛の言葉に、エステルはご満悦。頭も撫でられて嬉しそうだ。しかし、ふたつの視線に気付いて血の気が引いて行く。

「う、ううん! いまのは忘れてくださいまし! 一生のお願いですわ!!」

 冷静になってしまったエステルは、咳払いして頭を下げる。そのせいで、そんな姿を見たことのないイーダとウッラは焦ってしまう。

「あ、頭をお上げください。そんなことしなくても言いませんから!」
「そうですよ! 今日のことは、何もかも忘れますから!!」

 今度は2人が頭を下げ続けるエステルを宥め続けるのであったとさ。


「えっと……次は何の話をしよっか?」

 女性陣がグデ~ンとテーブルに突っ伏すと、フィリップが他人事のようにしているので、全員に睨まれていた。

「あの……協力者の話を……それと、殿下がここにいるのはどうしてですか?」

 その中を、そろりと手を上げたイーダ。エステルに気を遣っているみたいだ。

「協力者の話は……僕はいるとしか言っていないよ。バレたのは、イーダがここに来たからだね。そもそも疑われていたかも? 食事のあと、えっちゃんに引き止められていたのは、僕の反応を見るためでしょ?」
「ええ。といっても、少しですわよ。可能性を潰すためにやっただけですわ。まさか信頼していたイーダだったとは、さすがに驚きましたわ」

 エステルから信頼していると言われたイーダは慌てて立ち上がって頭を下げる。

「申し訳ありませんでした!」
「いまとなってはどうでもいいことですわ。いえ、感謝しないといけなかったですわ。イーダのおかげで、お父様の名を傷付けることにならなかったですし、殿下とも結婚の約束を取り付けられたのですもの」
「あ……私がくっつけたようなもの……」
「はい! 次は僕がここにいる理由ね!!」

 いい感じで仲直りになりそうだったのに、イーダがいらないことを言い出したので、フィリップは手を叩いて注目を集めた。

「僕がここにいる理由は、辺境伯の力を借りたかったからだよ」
「え……殿下は何かやろうとしているのですか?」
「やろうとしているんじゃなくて、現在進行中。お父さんから聞いてない? あ、僕の存在は秘密裏にしているから、それ以外でね」
「お父様は殿下と会っていたのですか!?」
「うん。でも、いまは置いておこうよ」
「何も聞いてませ~ん」

 イーダは涙目で答えると、エステルが話に入る。

「何も聞いてなくとも、少しは気付いているはずですわ。領内で変わったことがありますでしょう」
「変わったこと……あっ! お父様が奴隷にお金を使っていることがずっと気になっていたのです。どうして家畜に平民並みの給料を払ったり、農業ばかりに力を入れているのか不思議でしょうがありませんでした!!」

 イーダの家畜発言にフィリップが片眉を潜めたので、エステルが前に出た。

「言葉に気を付けなさい。それは、殿下が命令したことですわ」
「え……なんで家畜なんかに……」
「イーダ!」
「えっちゃん、いいからいいから」

 エステルがイーダを叱りつけようとしたので、フィリップは止めた。

「これが普通の貴族の認識だよ。えっちゃんだってそうだったでしょ?」
「わたくしは……そうですわね。言えるような立場ではありませんでしたわ」
「いま、帝国は、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ」

 ここでフィリップは、イーダにも今回の作戦と経緯を伝える。その話を黙って聞いていたイーダも帝国の危機がわかってはくれたが、突然大声をあげる。

「殿下って、そんなに頭がよかったのですか!?」

 そう。フィリップは、学院時代は有能さを隠していたから信じられないのだ。

「やだな~。えっちゃんの策略も全部僕が潰してたの知ってるでしょ?」
「え? アレって、有能な部下がいるから全部丸投げしてたと言ってたじゃないですか」
「あ~……アレ、全部ウソ。僕が1人でやってた」
「ウソ……」

 イーダは当時を思い出して、顔を青くする。

「あの世界一の暗殺者はどうしたのですか?」
「あいつ? あいつはけっこう美人だったから生け捕りにしようとしたけど、自殺しちゃった。もったいないことしたな~」
「いやいや、美人とか関係ないですよね??」

 フィリップの話について行けないイーダはエステルに話を振ると……

「殿下はそういう人ですわ。連絡役も全て消されていましたわ」
「ウソ……勝てるわけがない……」
「もっと言いますと、二万人のボローズ軍は、殿下が1人で突撃して追い返していましたわ」
「はあ!?」

 それよりも信じられない話を聞かされて、イーダは敬語を忘れるのであったとさ。
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