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三章 引きこもり皇子、働く

056 来客4

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 フィリップの知らない一面が多すぎたからイーダはしばらく荒れていたので、全員たじたじ。その中の「頭の中はエロしかない」って言葉には、フィリップ以外は全員頷いていた。
 そんなことを言われたフィリップは「正解!」とか言って笑っていたので、全員呆れて落ち着いて来た。

 それからフィリップは、今までの経緯は覚えているのかと復習させていたら、イーダは奴隷を救うことは引っ掛かるらしい。
 なので、エステルが補足する。

「殿下は、元奴隷とも友達のように接する優しい方ですわ。同じ人間なのですから、救うのは当然なのですわ」
「それはちょっと違うかな~? 元奴隷は、僕の作戦に必要な駒だ。これがないと、兄貴たちと戦えないよ」
「それのほうが嘘ですわよね? わたくしはわかっていますわよ」
「何をわかってるんだよ~」

 2人がイチャイチャし出すと、イーダが素朴な疑問を口にする。

「駒ということは、必要がなくなったら、また奴隷に戻すのですよね?」
「必要がなくなったらね。でも、未来永劫必要だから、戻らないんじゃないかな~??」
「どうしてですか?」
「僕が皇帝になったら、やりたいことがあるんだよね~」

 フィリップが少し溜めると、エステルたちも興味があるのか前のめりになった。

「この大陸の端から端まで、1日で到着できる乗り物を作ったり、大きな船で別の大陸を発見したり。空を飛ぶ乗り物なんかも作りたいな~。あと、その場の風景を切り取って絵にする物。そこから動く絵に移行して、僕の姿と声を残したりね。やることいっぱいだ」
「プッ……」
「笑ったな~? ウッラは後ろ向いてないでこっち見よっか??」

 子供のように語るフィリップを見て、イーダは軽く吹き出してしまった。ウッラも肩が震えているところを見ると、そっち側のようだ。
 なので、今度は2人とイチャイチャしようとしたフィリップだが、エステルに腕を掴まれて立たせてもらえなかった。

「その話……本当に可能ですの?」
「えっちゃんは信じてたんだ。一番笑いそうだと思ってたよ。あ、前にちょっと話してたっけ」
「茶化さないでくださいませ」
「できるから言ってるんだよ。例えばそうだな~」

 エステルに睨まれたフィリップは、ニヤニヤしながら暖炉の元まで歩き、保温していたヤカンを火にかける。

「このヤカンには水が入っているでしょ? 熱し続ければ沸騰して水蒸気が上がるわけだ。んで、ここの先端見てね? その水蒸気の逃げ場がこの狭い所しかない場合、勢いよく出るんだ」

 フィリップは台に置いてあったフキンを広げてヤカンの尖った口に持って行く。

「どう? 室内には風なんて吹いていないのに、フキンは飛ばされているよね? つまり、力があるってこと。この力を馬車の車輪が回転するように伝えると、世にも奇妙な馬のいない馬車が完成するってわけだ」

 フィリップの説明に、エステルたちは狐につままれたような顔になっている。

「この程度なら、僕でも作れるかもしれない。でも、その先は厳しいからね。だから、この帝国にいる人全てに教育を受けさせ、その中から現れるであろう天才に作ってもらいたいんだよ」

 説明の終わったフィリップが席に戻って紙を折っていると、イーダから質問が来る。

「何も全員に教育をしなくとも、貴族だけでもできるのではないですか?」
「あいつらなんて無理無理。頭が固いし保身にその頭を使うしかできないヤツらだよ。新技術なんて、自分の持つ利権に関わるからってブッ潰すに決まってるよ」
「言いたいことはわかりますが、そんな途方もない計画、本当にできるのですか? それこそ、貴族の反発は凄いことになりますよ」
「だろうね~。でも、僕が皇帝になった時に、悪徳貴族が全員いなくなっていたらどうだろう?」
「それこそありえませんよ」

 イーダは不可能だと頭を横に振ったら、エステルは小さく呟く。

「いえ、ありえないことはありませんわ……」
「え??」
「今現在、皇帝陛下と馬鹿皇后が命令に背く者を裁いているのですから、来年になったらほとんどの悪徳貴族が消えていますわ!」

 エステルが興奮して立ち上がると、フィリップが指を鳴らす。

「えっちゃん、あったり~! 兄貴たちが一番しんどいところを全てやってから皇帝の椅子を空けるんだから、楽チンだよね~。アハハハハハ」
「いったい、いつからここまで考えていらしたの……まさか、子供の頃から、皇帝の椅子を狙っていらしたとか……」
「ないない。偶然の産物。ほら? 僕って怠惰じゃ~ん?? アハハハハハ」

 フィリップが笑い続けても、3人は怖いような尊敬しているような目でフィリップの動きを目で追っている。

「さあ! 明るい未来に飛び立とう!!」
「「「うわ~~~」」」

 フィリップが数歩進んで先ほど折っていた紙飛行機を投げると、3人はキラキラした目に変わる。

 フィリップの手から離れた紙飛行機は弧を描き、ゆっくりと室内を飛び続けるのであった……
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