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三章 引きこもり皇子、働く
057 エステルの悩み1
しおりを挟むフィリップが帝国の将来を語ったら、最後には「この話は秘密ね」と言って皆に紙飛行機をワイロとして配り、1人で応接室から出て行った。
残されたエステルたちはというと、頭がいっぱいでしばらく喋ることもできず。なんとか復活しても、フィリップの話には触れずに紙飛行機を飛ばして遊んでいた。
それからメイドが夕食の準備ができたと呼びに来たところで、イーダは宿屋に戻ると言ったが、エステルに呼び止められて数日滞在することとなった。
夕食の席では、バクバク食べるフィリップを3人がジックリ見ているだけなので、ホーコンが不思議に思って質問していたけど、頭の整理がついていないから適当に相手していた。
完全に日が落ち、お風呂も済ませたら、エステルの部屋にイーダと緊張するウッラも集められていた。
「どうして呼ばれたかわかっていまして?」
全員がソファーに座るなりエステルが言い放つので、イーダまで緊張。ウッラは心臓が口から飛び出しそうになっている。
「あの……私たちが殿下の部屋に行かないかと……」
「あわわわわわ」
イーダの答えに自分も含まれていたから反論したいけど、あわあわするだけのウッラ。だが、エステルの呼び出しの理由は違うらしい。
「違いますことよ……その……恥ずかしいのですけど……わたくし、まだそういうことはないので、殿下とどうしたらいいか聞きたいのですわ」
なんのことはない。経験者の2人からその方法を聞き出したかっただけ。エステルも恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして、両手で顔を覆っている。
「そういうことでしたか。でしたら、私が協力を惜しみません!!」
イーダは立ち上がり胸を叩いてそんなことを言っているけど、実はおこぼれをもらえないかと考えている。人妻が浮気相手なら、絶対に皇后の立場を脅かさないとの免罪符を持って……
「まず、ドアから入り、殿下の顔を見たら微笑みながら駆け寄ってください」
「ええ……駆け寄るのですわね」
「そして目の前まで行ったらしゃがんで殿下のズボンを脱がし、自主規制に吸自主規制のです!」
「イーダ様! 拙速すぎます! お嬢様もついて来られていませんよ!!」
「あ……」
イーダの展開があまりにも早すぎて、ウッラが怒鳴るようにツッコンだ。ちょっと失礼だがエステルが顔を真っ青にしていたから、そのことは不問となった。
とりあえず、イーダはこれ以上喋るとエステルから嫌われるかもしれないので、ウッラに任せることにした。
「殿下に身を任せたらいいのです。そうすれば、優しくしてくれますので」
「どうやってそこまで誘うのですの?」
「えっと……抱いてくださいと言うとか……」
「ウッラ、あなた……」
「違います違います! 私、自分から誘ったことはありませんから!!」
エステルが泥棒猫でも見るような目をするので、慌てて事実を告げるウッラ。誘わずにフィリップが部屋に訪ねて来るのも、エステルだけじゃなくイーダにも不評であった。
「少し落ち着きましょう。こんな話、素面でするものではなくてよ。お酒を用意しておりましたの。ウッラも付き合いなさい」
「はいっ!」
雇用主から勧められたのでは、断ることのできないウッラ。でも、貴族様と飲むので、お酒は自分が注ぐと、これだけは譲らなかった。
「乾杯ですわ」
「はい。乾杯です」
「か、乾杯」
ひとまずフィリップの愚痴を肴にお酒を飲む3人。エステルとイーダはグビグビ飲んで、ウッラはチビチビ。愚痴にもあまり入っていけない。
そうして酒が進むと、エステルはコップをテーブルに叩き付けた。
「2人はすぐに殿下としているのに、わたくしはどうして誘われないのですの~!」
どうやら酒が回って絡み酒となっているみたい。イーダとウッラも、どう扱っていいか困っている。
「私の場合は、最初は脅されていましたので。その後は夜な夜な窓から部屋に入って来て、都合よく使われていたので……」
「私も似たようなものです。窓から入って来て『ちょっとだけ、ちょっとだけ』って迫られて断れ切れずに……」
「殿下から来てるじゃないですの~。わたくしの部屋には訪ねて来たことないのですわよ~。どうしてですの~」
エステルが泣き崩れるのでイーダは言葉を探していたら、ウッラにいい言葉が浮かんだ。
「以前、ホーコン様も同じような質問をしていました。すると殿下は、お嬢様は結婚相手だから誘いづらいと言ってましたよ」
「わたくしが悪いとでも言いたいのですの~?」
「違います違います! 続きがありまして、そんなことを思うのは初めてだからと、殿下はお嬢様のことを初恋相手だと言ってました。それほど好きだと言うことです!!」
「ちゅき??」
呂律がおかしくなっているエステルを見て、イーダも畳みかける。
「そう! ちゅきです! 私たちなんて、酷い扱いですよ。体しか求められていないんですから。ね?」
「はい! 私なんて、好きなんて言われたこともありませんよ。そういえば……」
「それは酷いですね……」
ここでウッラが一番酷い扱いをされていたと決定したので、さすがにイーダも哀れんでいるけど、勝ったとも思っている。
「殿下はわたくしがちゅき………」
ただし、いまはそんなことにかまっている余裕はない。
「「はい! ちゅきです!!」」
「エヘヘ。ちゅき………本当かどうか確かめに行きますわよ!!」
「「は~い……」」
やっとエステルが笑顔になったのはいいことなのだが、こんな夜遅くにフィリップの部屋に行くのは悪いと思うイーダとウッラ。いや、酔っ払いを連れて行くことが面倒みたい。
しかし、行かないことにはエステルが納得しないので、2人は肩を貸してフィリップの部屋に連れて行くのであった……
「殿下~。入れてくださいませ~」
「お嬢様、声が大きいです!」
フィリップの部屋のドアをドンドン叩くエステル。夜間に男の部屋を訪ねるのだから、淑女としてどうなのかとウッラは止めている。
これは人の家の娘との行為を家族に知らせているような騒ぎなので、フィリップも焦ったのか慌ててドアを開けた。
「えっちゃん、どうし……オッフ」
「殿下~。ちゅきちゅき~」
ドアを開けるなりエステルが倒れ込んで来たので、フィリップは受け止めて話の途中で言葉が止まる。
「ちょ……酒くさっ!? 柔らかさは凄いけど、酒くさっ!?」
なんとかエステルの胸から脱出したフィリップの第一声はこんなもん。でも、両手はエステルの胸から離していない。
「殿下……その手はなんなのですか?」
「小さいほうがいいって言ってませんでした?」
「イーダ! ウッラ!? 何してるかわからないけど、えっちゃん支えてくれ! 寝てるんだよ!!」
「「揉んでるだけでは??」」
「ちっが~~~う!!」
失礼なイーダとウッラ。フィリップは寝ているエステルを押し返して……いや、ニヤケ面で両手で胸を揉みまくっているから、どう見ても変質者。
なのでいくらフィリップが否定しても、2人は冷めた目をするだけで助けてくれないのであったとさ。
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