58 / 142
三章 引きこもり皇子、働く
058 エステルの悩み2
しおりを挟む「つつつ……え?」
朝、目が覚めたエステルは頭を押さえながら体を起こすと、隣に人がいたのでマジマジと見ている。
「で、殿下……キャーーー!!」
数秒後、エステルがソプラノ歌手かってくらい澄んだ悲鳴をあげるものだから、隣で寝ていたフィリップも跳び起きた。
「な、なに!?」
「なに!? じゃありませんことよ! わたくしの部屋でなにをしていますの!?」
「あ~……えっちゃんか。ここ、僕の部屋だよ」
「え……」
フィリップに指摘されて周りを見渡すと、間違いなくエステルの部屋ではない。
「どうしてわたくしはここに……」
「覚えてないの? 昨夜は大変だったんだよ~」
フィリップから語られる昨夜の真相。エステルが立ったまま寝てフィリップが押し返していたら、けっこうな騒ぎだったので屋敷中の者が集まって来たのだ。
その中には辺境伯夫婦もいたので、フィリップがエステルの大きな胸を揉んでいる姿もバッチリと見られてしまった。
それでと言うわけではなく、一部始終を見ていたウッラから報告を聞いたホーコンは、「娘の初めてを見守ろう」とか解散を言い渡して去って行ったので、フィリップもどうしていいかわからず。
なので、ひとまずエステルをベッドに寝かせて起きるのを待っていたらしいが、外から物音が聞こえていたので、フィリップも手を出せずにベッドに飛び込んでそのまま朝を迎えたらしい。
ただし、エステルに言っていないことはある。胸を揉んだことと、寝ているエステルの胸を弄んだこと。あと、そのせいで興奮して朝方まで眠れなかったことだ。
「まったく記憶にありませんわ……」
「酒くさかったから、そのせいかもね。どれだけ飲んだの?」
「確か……」
昨夜のことを思い出すエステル。その内容はフィリップへの愚痴ばかりだったので、言うわけにはいかない。
「思い出せませんわ……」
「まぁ、思い出せないならそれでいいんじゃない?」
「ですわね……でも、いちおう聞きますけど、殿下は寝ているわたくしに何もしていませんの?」
「うん。何も……いたっ! なんで!?」
「それはそれでムカつきますわ!」
よかれと思って何もしていないと言ったのに、エステルに叩かれまくるフィリップ。なので両手を握って引き寄せ、流れで抱き締めて小声で喋る。
「大きな声を出さないでね?」
「え、ええ……」
エステルが頷くと、フィリップは静かにベッドから抜け出してドアに向かう。そうして一気にドアを開けると、雪崩の如く……
「お父様、お母様! あと、イーダまで何をしていますの!? メイドや執事もいるじゃいですか!?」
3人ほどドアに耳をつけていたので倒れ込み、その他は奇麗に整列してる。全員、エステルの悲鳴を聞いて集まって来たけど、中で何が行われているか聞き耳を立てていたメンバーだ。
「というわけで、手を出したくても出せなかったんだ。ゴメンね~」
「全員、出て行け~~~!!」
その集団を見て恥ずかしくなったエステルは、「ですわ」設定を忘れて全員を部屋から追い出すのであった。
「なんで僕まで……」
この中で唯一のエステルの味方だと思っていたフィリップも追い出されたので、ブツブツ言っているのであったとさ。
エステルを怒らせてしまったので、一同解散……とはいかず、フィリップは寝坊したからもうお昼になっていたので、食堂に集結。
「てか、マジで見張り立てないでくれない? 事が始まったら呼びに来てもらうつもりなの??」
「いや、それは……申し訳ありません……」
フィリップのマジ説教に、あの巨体のホーコンも小さく見える。さらにフィリップは「娘のあえぎ声を聞きたい変態」というレッテルを貼っていたので、どんどん小さくなっていた。辺境伯夫人は、優雅にお茶してる。
「あとイーダ……何がしたいの?」
「あの……なんかノリで……」
「そんな子だったっけ??」
「殿下と出会ってから変わったみたいな??」
イーダへのマジ説教は、不発。確かにフィリップが改造処置をしたのだから、それ以上ツッコめなくなった。ホーコンも復活して関係を聞いて来たから、学院時代の数少ない友達と嘘をつかないといけなかったからってのもある。
それからフィリップは自分の部屋に近付くなと全員に命令して食事を終えたら、エステルの食事を運ぶ。点数稼ぎがしたいみたいだ。
しかし、エステルの部屋にはエステルはおらず。もしかしてまだ自分の部屋にいるのかとワゴンをカラカラ押して入ったら、マクラが飛んで来た。まだ、誰の顔も見たくないらしい。
フィリップは機嫌を取ろうと「あ~んしてあげる」とか言ってみたけど、激怒されたので食事を置いて逃げ出すしかなかった。
フィリップは「僕の城が……」とか自分の家じゃないのにブツブツ歩き、どこか寝る場所はないかとウロウロしていたら、イーダとバッティング。
何やらコソコソやっていたと思ったら、2人して辺境伯邸から姿を消したのであった……
その夜、食事の席でフィリップとイーダは暗い顔をしていたのでホーコンたちに心配されていたが、どちらも大丈夫と作り笑いをして食事を終える。
そしてまたフィリップは食事をエステルの元へ運んだら、昼食は平らげていたのでワゴンを取り換えて部屋を出る。
そうして歩いていたらウッラが「自分の仕事」とか言って奪い取られていた。あと、イーダとのことも聞かれていたけど、フィリップはお茶を濁して自室に戻った。
部屋に入り備え付けのお風呂でシャワーを浴びたフィリップは、ベッドで寝ているエステルの隣に潜り込んだ。
「まだ怒ってるの? いいかげん機嫌直してよ~」
「う~ん!」
エステルは不機嫌にフィリップを押したが、フィリップは強引に近付いてエステルの顔の真ん前に自分の顔を置く。
「恥ずかしかったんだよね? 辺境伯には、部屋には誰も近付くなと怒っておいたから」
フィリップがエステルの頭を優しく撫でると、エステルはようやく口を開く。
「それも嫌でしたけど、殿下がわたくしに何もしないのも嫌でしたの……わたくしに興味がないのですの?」
「興味がないわけないでしょ。えっちゃんが隣で寝てるから、ぜんぜん寝付けなかったんだから」
「……本当ですの?」
「これだけは本当。それに寝ているえっちゃんにそんなことしたら、傷付くと思って。これから死ぬまで一緒にいるんだから、えっちゃんに嫌われたくないんだよ」
「死ぬまで一緒……」
エステルは頬を赤く染めて嬉しそうな顔になった。
「……抱いて」
「え?」
「二度も言わせないでくださいませ」
突然のエステルの言葉に、フィリップも悩む。
「それが本心ならいくらでもするよ。準備は大丈夫? 後悔しない??」
「どうしてそんなこと言うのですの……」
「いや、えっちゃんを落とすには、もう少し時間が掛かると思っていたから……ただ抱き合って眠ったり、腕枕で眠ったり、ゆっくりと信頼を築いて行こうと思っていたんだよ」
「そ、そうだったのですの……」
「もういいなら、狼さんになっちゃうぞ。がお~」
フィリップが茶化すようにエステルの首に手を回そうとしたら、ビクッとして手を弾かれた。
「あっ! いまのは違うのですわ!!」
エステルは自分でも驚いて言い訳をしているけど、フィリップは何やら考えている。
「う~ん……やっぱり……」
「だから、殿下が嫌いなわけではないのですの……」
「違う違う。そういうことを考えていたんじゃないよ」
「では、何を……」
「ひょっとしてえっちゃんって、男性恐怖症じゃない? もしくは、男性を信用することができないとか??」
「え……」
フィリップの質問にエステルは答えられないので、自分で喋り続ける。
「兄貴たち4人に囲まれて、酷いフラれかたしたもんね。そんなことされたら、誰でも傷付くに決まってる。よくあの場で泣き崩れずに立ち去れたよ……頑張ったね」
「うっうぅ……」
エステルは断罪の日を思い出して、フィリップの胸に顔を埋めた。
「えっちゃんのペースでいいんだ。ゆっくりと、愛を育んで行こう」
「うう、うう……」
声を抑えて泣くエステル。しかしフィリップの言葉には頷いてくれたので、優しく抱き締めるフィリップであった……
11
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる