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五章 引きこもり皇子、進軍する
104 説得
しおりを挟むアルマル男爵領で人員を増やして食料を買い足した皇帝抗議隊は、さらに東へ移動している。
ここからは派閥の領地ではないので元奴隷も酷い扱いを受けていると言いたいところだが、アルマル男爵領の隣ということもあり、再雇用されない元奴隷も他領から押し付けられた元奴隷も全て派閥が引き受けたから、平静を維持している。
もちろんそれだけの恩があるのだから、ここの領主もフィリップの演説を止めないし、なんだったら尻尾を振って派閥に入りたいとスリ寄っていた。
フィリップは今まで通り民のために働くようにと諭していたけど、うっとうしくなったのか「あまりうるさいと殺すよ?」と脅していた。流れて来た元奴隷を全員派閥の領地に送り込んでいたから、無能だと決め付けての判断だ。
ここでは元奴隷の若者を500人だけ勧誘。しかし殺到したので、すぐに定員はいっぱい。
これだけ人が集まっていたのは、先行して進んでいたアルマル男爵や騎士たちが宣伝していたから。早い者勝ちで旅費も食費もフィリップ持ちとなっていたから、この町に多くの元奴隷が集まっていたのだ。
早い者勝ちとはなってはいるが、酷い扱いを受けていた者をできるだけ選出したいので、面接は必須。これは連れて来ていた元奴隷が簡単な質疑をして、タダで旅行がしたいってだけの一般人を完璧に排除していた。
どうやら、目を見ただけでその人がどれぐらい不幸かわかるらしい……
次の領地でもその次の領地でも食料を買い足し勧誘を続けて進んでいれば、フレドリク皇帝やルイーゼ皇后に心酔している領主や代官とぶつかる場合もある。
その場合は、フィリップの出番だ。
「あ、そう。お前が殺しかけた元奴隷は、誰が引き受けていたのかな~? お前が食べてる麦は、誰が作ったのかな~? お前の無能が兄貴にバレなかったのは、誰のおかげなのかな~?」
「うっ……」
「僕は別にそのことを報告しに行くわけじゃないんだよ。皇帝の椅子にも興味ない。こんな事態になっているのは誰のせいかと伝えに行くだけなの。わかってくれるよね??」
「はい……」
「ま、陛下には前もってそのことを伝えているから、ここに連絡がないってことは通していいってことじゃないかな~?」
事実を突き付けてやれば、割と簡単に籠絡。後ろめたさがあるし、その事実を報告されるほうが嫌なのだろう。それに戦をしに行くわけではないのは武器の少なさで明白なので、下手に機嫌を損ねて報告されるよりはマシと判断したみたいだ。
もちろんフィリップに言いくるめられない領主や代官も少なからずいる。
「へ~……僕が違うと言ってるのに、戦争しに行くと言い張るんだ。へ~……えっちゃん、これって不敬罪だよね?」
「ええ。殿下を噓で貶めているのですから、不敬罪に当たりますわ」
「んじゃ、皇族権限で死刑に決定~~~!」
「ま、待ってください!!」
その場合は、たんなる脅し。フィリップとエステルタッグで法律を出したら、裁かれた者も焦って前言を取り消す。その謝罪を快く受け入れることで、フィリップへの好感度を上げる作戦でもあるらしい。
ただし、それでも折れない者もいる。
「仕方ないな~……辺境伯、剣貸して。僕が直々に殺す。あいつにも貸してあげてね」
「はっ!」
その場合は、何故か決闘。剣を渡された代官も首を傾げながら立ち上がった。
「お前が生き残るには、皇族の僕を殺すか、僕から逃げ切るかだ。簡単でしょ?」
「私が、皇族殺しを……」
「アハハハ。僕に勝てると思ってるんだ。アハハハ。ほら? 死んだ」
「なっ……」
フィリップは大笑いしていたのに、一瞬で代官の目の前にいて喉元に剣を突き立てられていては驚きも隠せない。周りの者も爆笑だ。
「謝るなら、僕も許しちゃうんだけどね~……どうする?」
「も、申し訳ありません……」
絶対に勝てないと察した代官が許しを求めれば、これも快く許すフィリップ。しかし、中には命を投げ出す代官もいる。
「なるほどね~……じゃあ、5秒後に突き刺すから、カウントダウ~ン!」
「「「「「5、4、3……」」」」」
そうなっては殺すしかない。フィリップは周りの者にカウントダウンさせて、ゼロという声と同時に代官の首をチクリと剣先で突き刺した。
「つっ……ハァーハァーハァー」
「アハハ。死んだと思った? 次こそ殺すから、僕に攻撃するなり逃げるなりしなよ。そんなに簡単に死なれると面白くないだろ。そんじゃあカウントダウ~ン!」
「「「「「5、4、3……」」」」」
「うわ~~~!!」
一度死を受け入れた代官でも二度目は怖いのか、逃げ出すのでフィリップが素早く追いかけて首にチクリ。
またカウントダウンをしたら剣を振って来たので、その剣は簡単に叩き落としてチクリ。またカウントダウンをしたら、しゃがみ込んだのでチクリ。
「ゼェーゼェー……も、もうやめてください! 降参します! 助けてくださ~~~い!!」
何度も正確な時間にチクリと刺された代官は、恐怖に負けて死ぬこともできず。フィリップに涙ながらに命乞いして、許しをえるのであった。
その夜、派閥の者で夕食をしていると、話題はフィリップの決闘の話題で持ちきりだった。
「あのような忠誠心の高い者がほとんど無傷で落ちるなんて、殿下はいったい何をしましたの?」
「う~ん?」
なのにフィリップはモリモリ食べていたのでエステルが質問している。
「あれは拷問の一種だよ。いつ刺されるかわかっているんだから、構えるよね? それがちょっとの痛みだけで終わるんだから、相当なストレスが掛かるらしいよ。ましてや、本当に殺そうとしてるんだから、しんどかっただろうね~」
「だから終わったあとの代官は、真っ白になってましたのね……他にも面白い拷問はありませんの?」
「なにその顔……めっちゃ悪役令嬢みたいだよ?」
新ジャンルの拷問を知ったエステルは目が爛々。これは喜んでいる顔なのだろうが、エステルの笑顔が怖すぎるので、フィリップも新しい拷問は口には出せないし、派閥の者も教えてはダメって目を向けるのであったとさ。
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