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第八章 戦争編其の一 忍び寄る足音にゃ~

227 新たな戦争にゃ~

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 トンネルで戦っていたわしは、帝国軍人ケンフを殴り飛ばし、簡単に勝利をもぎ取った。しかし、手を上げてガッツポーズをしていても寂しいだけなので、ケンフに近付いて手当てをする。

 完全に手加減ミスじゃ。あごが顔に減り込んでおる。このまま死を待つのもいいが、治してやるか。痛いの痛いの飛んで行け~。こんな顔じゃったかな? まぁいっか。あとは水魔法をぶっかけてっと。

「なんだ!? 水? 戦闘中だろ! 構えろ!!」

 水を浴びたケンフは、驚きと共に飛び起きた。

「あ~。記憶が飛んでるみたいだにゃ。もう決着がついたにゃ」
「はあ? どこも痛いところがない。まだ始まったところだ!」
「いや、わしの攻撃を何度も受けてたにゃろ? その記憶も飛んだにゃ?」
「あ……たしかに、かなり重たい攻撃を喰らった」
「わしが全部治してやったにゃ。話したにゃろ? 腕を切り落としてくっつけた話にゃ」
「聞いてはいたが……」
「はぁ。わかったにゃ。少し本気を見せてやるにゃ」

 わしは力を隠す隠蔽魔法を解いて、すぐに掛け直す。それだけで、ケンフは顔を青くし、ガタガタと震えて尻餅をついた。

「ば、化け物……」
「そうにゃ。これで理解してくれたかにゃ?」
「は、はい!」
「それじゃあトンネルを出るにゃ。ついて来るにゃ~」
「はい!!」

 わしはケンフを連れて、敵兵の入ったひつぎを引っ張り、トンネルから出る。そして、ケンフに「待て!」と、犬のように言ってトンネルの中を走る。
 およそ二キロ地点まで走ると土魔法を使い、トンネルを塞ぎながら外に出る。

 こんなものかな? これだけ深く埋めれば、数ヵ月くらいは、穴は開通しないじゃろう。

「あの大きなトンネルが、こんなに簡単に無くなった……」

 ケンフの呟きはひとまず無視。十人以上の人間を運ぶには、乗り物が必要だ。わしはズーウェイを連れて来ると、全ての人間を一ヶ所に集めて、前回より小さな土の亀、【玄武】を作り出す。地面が盛り上がるので、全員乗せるには楽ちんだ。
 ケンフはあごが外れそうなぐらい口を開けていたが、もちろん無視。木を薙ぎ倒しながら進む【玄武】は揺れが酷いので、仕方なく、ズーウェイの膝に乗る。
 小さいと言っても【玄武】は体長15メートルはあるので、すぐに街道が見えて、車に乗り継ぐ。棺に入った敵兵は、牽引用の台車で揺れが酷いだろうが、知った事じゃない。

 三人で車に乗ると、ぶっ飛ばし、街道をロランスの街に向けてひた走る。初めて乗る高速で動く乗り物は、二人には刺激が強かったみたいだ。
 ケンフはついに顎が外れたので、キャットアッパーで顎を戻してやり、ズーウェイは何かモゾモゾしていたので、ここではやめろとだけ言っておいた。

 そうこうしていると夕暮れ前に街が見え、門に向かう。兵士が守りを固めていたが、わしが外に出て事情を説明すると、車のまま通してもらえた。
 王のオッサンの居場所はロランスの屋敷と聞いたので、ゆっくりと街を進む。兵士が、ガン見していたが気にしない。ロランスの屋敷に着くと、敵兵が掘り起こされていたのも気にしない。

 そして車から降りると、わしは出迎えられる。

「「その女と何処に行ってた(ニャー)!」」

 怒ったリータとメイバイにだ。今回ばかりは、ポコポコで頭まで埋められた。苦しかったが、甘んじて受ける。
 わしが地面に埋まって動かないでいると、さすがにやり過ぎたと感じたのか、二人に救出された。ここで迂闊うかつな事を考えるとまた埋められそうだから、無心だ。

 わしが戻ったと聞いたのか、騒ぎを聞き付けたのか、オッサンが屋敷から出て来て声を掛ける。

「うお! 土まみれじゃないか! 何と戦って来たんだ!?」
「………」

 わしは返事をしない。リータとメイバイの顔を見るだけだ。

「そ、そうか……ご苦労であった」

 何故かねぎらわれた。どうやら察してくれたみたいだ。

「それで、ノエミからトンネルに向かったと聞いたが、どうなったんだ?」
「とりあえず埋めて来たにゃ。捕虜も連れて来たから、契約魔法をお願いするにゃ。詳しい話は中でいいかにゃ?」
「ああ。わかった」


 わしは台車に乗せた捕虜の棺を消すと、乗り物酔いに苦しんでいる者を兵士に引き渡す。ついでに、わしに付いた土も操作して綺麗になった。
 その後、リータとメイバイは用意してもらっていた部屋に戻ってもらい、ズーウェイも猫耳族の元へ、兵士に案内してもらう。
 皆が離れるとオッサンに連れられ、会議室にケンフと一緒に入る。ケンフをわしの後ろに立たせて席に着くと、会議の出席者にコーヒーをせがまれたので、次元倉庫から取り出して話を聞かせる。

「「「「「ズズ~」」」」」

 コーヒーをすすりながら……。わし一人じゃないから、怒られる事はない。

「トンネルをふさいだのか……」
「ダメだったにゃ?」
「いや。助かるが、その先の国へ、行って見たかったってのは本音だな」
「たしかに興味はあるにゃ~」
「だが、これで時間を稼げたのだから、トンネルに砦を築けば、守りが堅くなる」
「必要無くなるかもしれにゃいけどにゃ」

 わしがオッサンの案をいらないと言うと、オッサンは他にも案があるのかと思って質問する。

「どういう事だ?」
「これから、わしが乗り込もうと思っているにゃ」
「乗り込むだと……」
「わしはあの国が許せないにゃ。猫耳族を差別し、命を軽んじる国にゃ。そんにゃ国は、わしが滅ぼして来るにゃ」
「……あの娘の為か?」
「そうにゃ。メイバイを泣かせた国は、絶対に許さないにゃ!」
「自分の母親の時より怒っていないか?」

 わしはオッサンの言葉に怒りが込み上げるが、拳を強く握り、声を低くして話し出す。

「思い出させるにゃ。お前の命も、この国の命も、おっかさんが復讐を望んでいなかった事と、さっちゃんや女王、街の者達が優しいから、わしは怒りを収められているにゃ。もしも酷い国だったら、今頃とっくに滅びているにゃ」
「す、すまない」

 わしの静かな怒りが部屋中に伝わり、皆は口を閉ざしてしまい、沈黙が続く。そんな中、わしは気を落ち着かせる為にコーヒーをすする。
 そうして部屋に音が戻ると、オッサンがわしの後ろを見ながら声を発する。

「それで、その男はなんだ?」
「わしの犬にゃ。にゃ?」
「ワン!」
「猫が犬を飼っているだと……」

 ケンフの奴……「ワン!」と返事しおったな。オッサンの言いたい事はわかるけど、続きを話そう。

「冗談にゃ。絶対服従の捕虜にゃ。ちょっと話を聞いたけど、強い者と戦いたいだけの馬鹿にゃ。軍関係はあまり詳しくにゃいけど、向こうの暮らしぐらいは聞けるにゃ」
「そんな者をどうするんだ?」
「こいつを連れて行って道案内させるにゃ。一人ぐらい、捕虜を貰って行ってもいいにゃろ?」
「ああ。帝国軍の情報を詳しく知る者は足りている。連れて行っても問題無い」
「ありがとにゃ。それじゃあ、わしは休ませてもらうにゃ。あと、ケンフにも部屋を用意してやってくれにゃ」
「牢屋じゃないのか?」

 牢屋より犬小屋を……いかんいかん。ケンフが妙な返事をするから、ボケてしまいそうじゃ。

「心配にゃら牢屋でいいにゃ。でも、逃げないにゃ。にゃ?」
「ワン!」
「だそうにゃ」
「はぁ……念の為、牢屋に入れる」
「よろしくにゃ~」

 わしは部屋を出ると首を傾げる。何故、ケンフが二度も「ワン!」と、返事をしたのかと……。恐怖で少し、頭をヤッてしまったのかもしれない。


 どうでもいい事を考えながらリータ達の部屋に向かうと、お風呂に行く途中だったらしく、拉致されてお風呂に入る。
 二人を魔法で洗ってあげるが、イサベレが湯船に潜んでいやがった。仕方なくイサベレともお風呂を共にするが、下半身を触ろうとするな!

 騒がしいお風呂を済ませ、部屋に戻ると、用意されていた夕食を口に入れる。そうしてお腹も膨らむと、これからの話を二人にする。

「イサベレは、自分の部屋に戻らないにゃ?」
「ん。大丈夫」

 その前に、お風呂からずっとつけて来ていた、淫乱いんらんイサベレの駆除だ。

「さっきの食事じゃ足りないにゃろ? 食堂にでも行くにゃ~」
「お風呂の前にも食べたから大丈夫」

 駆除失敗。仕方なくイサベレも参加させる。でも、わしの息子に魔の手を伸ばさないでくれる? これから真面目な話をするんじゃからな。

 とりあえずイサベレは離れてくれたので、わしはリータとメイバイと向き合う。

「明日、日が昇ったらメイバイの国に行くにゃ。これでいいにゃ?」
「はい!」
「……はいニャ」
「メイバイ。にゃにも心配しなくても大丈夫にゃ。わしが猫耳族を助けてみせるにゃ~」
「シラタマ殿~!」

 メイバイは泣きながらわしを抱っこする。落ち着くまで好きにさせるが、メイバイまで何処を触ろうとしている? 下に手を伸ばさないで!

 メイバイは泣き疲れると、眠ってしまった。なので、わしはそんなメイバイを抱きかかえて、ベッドに運んで毛布を掛ける。

「ふぁ~~~」

 わしがメイバイの頭を優しく撫でていると、リータの大きなあくびが聞こえた。

「リータも眠そうだにゃ。もう寝るにゃ~」
「いえ。大丈夫です」
「明日から、どうにゃるかわからないにゃ。野宿が続くかもしれないし、食料が尽きるかもしれないにゃ」
「それなら大丈夫ですよ。車もあるし、収納魔法もあるじゃないですか」
「にゃ! 本当にゃ~。でも、疲れてるように見えるにゃ。まさかオッサンに、こき使われたにゃ?」
「いえ……」

 わしの名推理に、リータは目を逸らした。

「にゃにかやらされたにゃ!? オッサンを殴って来るにゃ!!」
「待ってください! 私達が無理矢理参加させてもらえるように頼んだんです」
「そうにゃの? じゃあ、今日あった事を話してくれにゃ~」
「実は……」

 リータはパンダと戦った経緯、勝利の仕方を説明する。その説明に、わしは怒りたかったが、勝っているので話が終わるまで何も言わない。

「………」

 話が終わっても沈黙を続けるわしの顔を、リータは覗き込む。

「……怒ってます?」
「ちょっとだけにゃ。それより、怪我は無いかにゃ?」
「はい……」
「ひとつだけ、お願いしていいかにゃ?」
「はい」
「そういう事をする時は、先に相談して欲しかったにゃ~。わしの知らないところでにゃにかあったら、悔やむに悔やみ切れないにゃ~」
「す、すみません!」

 わしが困り果てた子供のような顔でお願いすると、リータは凄い勢いで頭を下げた。とりあえずわしは、リータの頭をポンポンと叩いて、イサベレに目を移す。

「イサベレも、二人を守ってくれて、ありがとにゃ~」
「いえ。私も二人には助けられた。お礼を言いたい。ありがとう」
「そ、そんな。私なんて……」
「リータもメイバイも十分強い。さすが私の姉妹」

 姉妹? イサベレとリータ達はいつから姉妹になったんじゃ? 腹違いの姉妹なのか? いやいや、全員生まれも育ちも違う。
 となると、全員同じ男と……わしか!? そんな事はやっておらん!! 否定しないと、また頭まで埋められてしまう!

「にゃんで姉妹になってるにゃ~!」
「一緒のベッドで寝た。恋愛指南書には、同じ男と寝た女は、姉妹になると書いていた」
「いつになったら読むのやめるにゃ~!」
「廃刊になったら? 毎年出てるから、いまは百二十七巻」

 は? 毎年出て百二十七巻って、単純計算で……

「にゃんで百年も続いているんにゃ~~~!」

 わしが叫んでいるのに、誰も聞いてくれない。リータに至っては、変な事を言いだした。

「ベストセラーですね! 私も読んでみたいです!」
「ん。七十二巻がすごい」
「リータに貸すにゃ~!」

 リータはイサベレから恋愛指南書を受け取ると、本を開く。ちょうど挿し絵のページだったらしく、卑猥ひわいな絵が目に飛び込み、顔を真っ赤にする。

「うわ! あわわわ」
「読むにゃ!」
「あ! 返してください!!」
「じゃあ、これ」
「どんだけ持ち歩いているにゃ~!」
「全巻」

 わしがリータから恋愛指南書を取り上げる度に、イサベレの収納袋から新しい本が出て来て、ついに諦めた。しかし、リータは本をベッドで横になって読んでいたのが、疲れていたのか、すぐに眠りに就いた。

 これでようやく有害図書から、リータを守る戦いが終わったのであった。

「やっと二人きりになれた」

 ……かのように思えたが、色魔イサベレとの戦いは続く……
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