アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

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第十六章 日ノ本編其の二 天下分け目の関ケ原にゃ~

432 日ノ本上陸にゃ~

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 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。王様兼ハンターではあるが、便利屋ではない。

 日ノ本で行われる関ヶ原という祭りに、各国の王どもが参加したいと我が儘を言い、女王と玉藻のゴリ押しでわしに多くの仕事が生まれた。建物を作り、家具を運び、食材を掻き集め、三ツ鳥居を設置し、関ヶ原まで毎日働いた。
 その結果、女王から渡された書類を見たら、物凄い金額が書かれていて驚いた。このお金は、わしの仕事の対価だとのこと。後日、各国の王が、ハンターギルドのわしの口座に振り込んでくれるようだ。
 これには、リータとメイバイは褒めてくれるかと思ったが、金額に驚いていてそれどころではなく、褒めてくれなかった。でも、その夜にはめちゃくちゃ褒めてくれたから、まぁいっか。……いや、王様っぽい仕事じゃなかったけどいいのかな?


 とりあえず突貫工事で関ヶ原に間に合ったので、わしと各国の王は、猫の国に設置された三ツ鳥居をドタバタと潜り抜けたのであった。


「ようこそ日ノ本へにゃ~! と、歓迎したいところだけど、三ツ鳥居の前を開けてくれにゃ~!!」

 大声を出すわしのガイドで三ツ鳥居から各国の王が離れると、一緒に三ツ鳥居を潜った、メイバイ、リンリー、ワンヂェンに指示を出す。

「続々と出て来るから、すぐに三ツ鳥居の前を空けるんにゃよ~? それと、置き時計で時間も気にしてくれにゃ~」
「わかってるニャー!」
「私はしばらく、プラカードを持っていればいいのよね?」
「うちは案内係にゃ~?」
「そうにゃ。あとは頼んだにゃ~」
「「「にゃ~!」」」

 三人からいい返事らしき返事をもらうと、わしは各国の王を連れて外に出る。しかし、建物から外に出ても四方八方を壁で囲まれているので、各国の王は、まだ日ノ本に着いた実感が持てないようだ。

「こっちにゃ~。わしから離れずについて来てくれにゃ~。はぐれた場合は、中央の建物に書かれた施設案内を見て、観覧場を目指してくれにゃ~」

 バラバラに動こうとする各国の王を、なんとか先導するわし。先頭には、三大国の王が揃っているので、小国の王も素直に従ってくれている。中には、奇妙な生物が気になるからか、わしから目が話せない王も居るけど……
 そうして建物にある大階段を上がって屋上に出ると、ようやく各国の王が実感が持てる景色が、大パノラマに広がった。

「「「「「おお~~~」」」」」

 屋上からは、祭りやぐらや数え切れない数の提灯、神輿や屋台が並ぶ景色が広がり、各国の王は一同に感嘆の声をあげた。
 そんな中、わしは隣で呟いている女王の顔を見る。

「ここがヒノモト……」
「にゃはは。驚いているみたいだにゃ」
「ええ。ここでどれだけ離れているの?」
「さあにゃ~? ま、東の国から五千キロは離れているだろうにゃ」
「嘘みたいな距離ね……」
「にゃははは。驚く気持ちはわかるけど、それよりも楽しもうにゃ。飲み物を用意するから、くつろいでいてくれにゃ~」

 わしは屋上に設置されたテーブルに、ソフトドリンクや紅茶、コーヒーやお茶菓子を次元倉庫から出して、皆を座らせる。そこでしばらく席を外す事と、望遠鏡を配布してご歓談していてくれと伝える。
 各国の王の処置は終わったので、来た道を戻っていたら、ダッシュで走る従者の群れに遭遇。どうやら王様の世話をしないといけないから、案内係のリンリーを振り切って急いでいたようだ。
 なので、わしは階段を指差し、転ばないように気を付けるように言って先を進む。すると、さっちゃん達、ゆっくりと歩く王族の群れに遭遇した。

「にゃ? さっちゃんが落ち着いて歩いているにゃんて珍しいにゃ~」
「行きたいけど~。お姉様が……」
「にゃはは。双子王女に止められてるんにゃ~」
「「このように王族が集まる場なら当然ですわ」」
「うぅぅ……」

 どうやらさっちゃんは、双子王女のシンクロ攻撃で動けなかったようだ。ちなみに双子王女が関ヶ原に出席するので、セイボクとウンチョウが猫の街を見ていてくれている。

「まぁ双子王女も、たまにはハメを外して楽しんでくれにゃ~」

 王族の群れはプラカードを掲げるリンリーの案内で先を進み、わしは三ツ鳥居に向かう。そうして三ツ鳥居に着くと、ちょうど開通したようで、次の王族組が走り込んで来た。

「出口はあっちですニャー! そのまま、走ってあちらに行ってくださいニャー!!」
「こっちにゃ~! こっちが出口ですにゃ~!!」

 わしの指示通り、案内を努めるメイバイが声を張りあげ、ワンヂェンもプラカードを掲げて声を出している。その姿を見ながら、わしはメイバイのそばに寄って、三ツ鳥居から出て来る人がいなくなるのを待つ。

 三ツ鳥居を通る人がいなくなれば、わしはメイバイに一声掛ける。

「お疲れ様にゃ。その調子で案内は頼むにゃ~」
「うんニャ。でも、もう少し案内係が欲しいニャー」
「わかっているにゃ。次でリータが来るから待ってるにゃ。てか、わしも急がにゃきゃ!」

 メイバイと無駄話をしている暇の無いわしは、一瞬で三ツ鳥居を通り過ぎて振り返る。

「にゃんだ。まだまだ余裕があったにゃ~」

 わしが三ツ鳥居が閉じるのを見ていると、リータが声を掛けて来る。

「シラタマさん。交代ですか?」
「うんにゃ。ご苦労だったにゃ~」
「では、これを……」
「あ、わしは自分の腕時計があるから、向こうで使ってくれにゃ。置時計はあるけど、何個あっても足りないにゃんて事はないからにゃ」
「そうですね。わかりました」
「それじゃあ、次、開くから準備してくれにゃ~」

 次の組を呼んで整列させたら三ツ鳥居を開く。次は、どうしても連れて行きたい護衛。イサベレと兄弟もまざっていたのだが、声を掛ける事も出来ずじまいで走り抜けてしまった。
 その最後にはリータと玉藻がいたので、リータが走って行くと、玉藻に一声掛ける。

「王族が暇そうにしてたら、にゃにか話をしてやってくれにゃ~」
「ああ。話したい事がいっぱいあるから事欠かぬわ!」

 どうやら玉藻は、日ノ本を売り込みたいようだから、うずうずしてわしの交代を待っていたようだ。なので、一瞬で三ツ鳥居を通り抜け、姿が見えなくなった。
 わしと玉藻が交代した理由は、もしものため。三ツ鳥居には膨大な魔力の補充が必要になるので、関ヶ原参加者が取り残されると、もう一度開くには莫大な魔力保有者のわしと玉藻が分かれていないと、すぐに開通できなくなるからだ。
 三ツ鳥居は五分おきに開いているので、日ノ本側にいるメイバイが十分も開かなくなったと気付いたら報告を上げ、一番目の三ツ鳥居に、わしと玉藻が魔力を補充する手筈となっている。
 だが、そんな杞憂は起きずに、なんとか最後のひとつを残して、最後の組となった。

 最後の組は、さっちゃん2に変身したコリスとオニヒメ。護衛に雇ったヂーアイとエルフの男が二人。コリスは元の姿の巨大リスだと詰まる可能性があるので、変身させた。
 エルフ組は大声で指示が出せないので、片言でも話せるリンリーを先に送って、今頃、日ノ本側での王族の護衛を玉藻と変わっているはずだ。
 ちなみに護衛のエルフは、リンリーを含めた四人を要請したのだが、何故か三ツ鳥居からヂーアイが出て来たので、追い返そうとしたけどテコでも動かなかった。
 まぁヂーアイは車イスだけど、エルフの里で一番強いから大目にみる。死ぬ前に里を出れたから、いい思い出になるだろうしな。まだまだ生きそうじゃけど……

 最後の組が揃うと、わしはノエミに声を掛ける。

「連れて行ってあげられなくてごめんにゃ~」
「ううん。女王陛下から仰せつかっている私の仕事はこれなんだから、シラタマ君が謝る事じゃないわよ。それに、魔道具の研究も楽しいからね」
「魔道具研究もいいけど、三ツ鳥居の魔力補充を忘れないでくれにゃ~?」
「それこそ大丈夫よ。各国からいっぱい魔法使いが応援に来てくれてるのよ? あ、元々は護衛の魔法使いか」
「にゃはは。それは頼もしいにゃ。それじゃあ、わし達は行くにゃ~」

 こうして最後の組のわし達が三ツ鳥居を潜ると、猫の国との道が途絶えるのであった。




「これで全員にゃ。メイバイ、リンリーとワンヂェンを呼んで来てくれにゃ~」
「はいニャー」

 三ツ鳥居を潜り、メイバイがリンリー達を連れて来ると、猫の国組プラス、エルフ組の前でわしは注意事項を語る。

「いちおう日ノ本からも護衛の侍を出してもらえるけど、内部はわし達の管轄だからにゃ。王族直属の護衛も内部の警備はしてくれるけど、揉め事や予期せぬ事態があるかも知れないにゃ。その場合は、王族や玉藻からはそれなりの権限はもらっているから、力尽くで止めてくれにゃ。その時、絶対に手加減は忘れるにゃよ~?」
「「「「「にゃっ!」」」」」

 わしは注意事項を説明し終えると、敬礼する皆を横目に、首を傾げながら歩き出す。

 こういう場合って、「はっ!」とか「はい!」じゃね? 気の抜ける掛け声は、まだバリエーションがあったのか……てか、誰が皆に教えておるんじゃ??

 犯人探しはしたいが、十中八九リータとメイバイだから、無駄な詮索せんさくはやめておいた。そうして大階段に近付くと、リータ達には観覧場に先に向かってもらう。
 そこで、なんとなく作っていた急なスロープを、ヂーアイが車イスで登れるか見ていたが、誰にも押されずに余裕で登っていた。たぶんわしの作った車イスだけど、そんな機能は付けていないはず……
 とりあえず、別行動をするわしは、オクタゴン中央にある塔に入る。

 ここは大食堂。中は広々とした空間と、大きなテーブルが多数並んでいる。その先には、ふた手に分けれたオープンキッチン。右手側に日ノ本の料理人が作業をしている姿があり、左手側には猫の国や他国の料理人が作業をしている姿がある。
 いい匂いの漂う中をわしは進み、左手側のキッチンに近付くと、見知った人物に声を掛ける。

「料理長、エミリ。お疲れ様にゃ~」

 二人は……いや、多国籍料理人、十数人は昨夜前乗りし、料理の準備をしてくれている。日ノ本の料理だけにしよかと考えていたが、王族から不満が出る可能性があるので、いろんな国の料理をビュッフェ形式で食べれるように変更したのだ。
 余ったら、わしの次元倉庫行きなので、いくら作ってくれてもかまわない。いや、これはわしのピンハネ分なので、いっぱい作って欲しいものだ。うちには腹をすかせたコリスとオニヒメがいるからな。別に困窮していないけど……

「猫さん! お疲れ様です」

 わしが声を掛けると、東の国の料理長は手が離せないからか、エミリをこちらに寄越した。

「キッチンの使い勝手はどうにゃ?」
「いつもと勝手が違いますけど、皆さん、いつものキッチンより使い勝手がいいと言っています。さすが猫さんですね!」
「にゃはは。張り切って作ってよかったにゃ~。食材が足りなくにゃったら、いつでも言ってくれにゃ。肉にゃら腐るほどあるからにゃ」
「地下の冷蔵庫を見ましたけど、足りなくなる事があるのですか? 高級肉が大量にありましたよ?」
「さあにゃ~? わしも適当に入るだけ出したから、一日の消費量を見て、報告してくれたら助かるにゃ」
「わかりました!」

 エミリから準備状況を聞くと、日ノ本の料理人からも状況を確認。どちらもやや遅れ気味だったが、観覧場に顔を出すと王族達は話が弾んでいるので、不満を言って来る者はコリスしかいないだろう。
 とりあえずコリス用に高級肉の串焼きを多目に出しておいて、王族達にはお茶菓子の追加。玉藻の演説を熱心に聞く王族の間に入り、エルフの里の者も紹介する。

 もちろん珍しい種族なので、玉藻の話に飽きている者は、ヂーアイの元へと話を聞きに行った。王族には念話の入った魔道具を渡しているし、エルフ組には念話を教えておいたので、言葉が通じなくても喋る事に困らないだろう。


 まだ関ヶ原は始まっていないのに、熱気の凄い王族達に、わしは注目を集めて宣言する。

『もう夕刻にゃんで、そろそろ夕食にしましょうにゃ。リータ、メイバイ、先導してやってくれにゃ~』
「はい!」「はいニャー!」

 リータとメイバイがプラカードを持って階段に向かうと、ぞろぞろと大移動。わしは最後尾を歩き、はぐれる者が居ないかを監視する。
 そうして食堂に入り、各国の従者から人数確認を聞くと、また注目を集めて食堂の使い方を説明する。

『右手は日ノ本、左手は多国籍料理が用意されていますにゃ。食べたい料理を取って、適当に食べてくださいにゃ。では、前夜祭の始まりにゃ~』

 前夜祭の内容は、ただの食の交流。護衛や従者は日本料理コーナーへと我先に走り、各国の王族の前に日本料理が揃うのであった。
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