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第十九章 冒険編其の一 北極圏探検にゃ~
537 原住民に挨拶にゃ~
しおりを挟む機内は興奮冷めやらぬまま、戦闘機は煙の上がるユーラシア大陸の端を目指して空を行く。
アレは……集落か? 黒い……。エルフの里の外壁みたいじゃな。それよりも高く見えるし、中もけっこう広そうじゃ。猫の街の内壁ぐらい面積があるかも?
黒い集落に近付くと、いきなり降りる事はせずに、しばらく高所を旋回する。
中は……思ったより家は少ないか。中心に建物は見えるけど、残りの半分以上は真っ白。雪が積もっているのかな?
建物は……木材が大多数。所々黒い建物があるけど、これも黒い木で建てたんじゃろう。そこに向けて人々が駆けているように見えるな。何を急いでおるんじゃろう?
空を旋回しながらリータ達と相談し、降りる場所と話し掛ける順番を決める。当然、リータ達は人見知りが出て、わしから話し掛けろと言って来るので、渋々決定となった。
ただし、コリスを原住民に見せるのは少々危険なので、さっちゃん2。人型用の猫耳マントと長靴も作っておいて正解だったようだ。
相談と皆の準備が整うと、さっそく降下。集落の西側、門らしき場所から離れた辺りに垂直に着陸し、皆を降ろしたら次元倉庫に入れる。
皆は少し寒いようだが、バスで向かうのも原住民に何かと刺激してしまうかもしれないので、小走りで門に近付いた。
「×##*×*×!!」
ヤベッ……なに言ってるかさっぱりわからん。弓を構えているところを見ると、かなり警戒させてしまっているな。
外壁の上から数人の厚着の男が弓を構えて喚き声をあげる中、リータ達に止まるように言って、わしはフードを深くかぶり直す。
そうして両手を上げて敵意は無いアピールをしつつ、リータ達と門との距離、ちょうど半分の場所まで進むと、ドサッと腰を下ろした。
「こんにゃちは~。わしはシラタマと申す者にゃ~」
念話で声を掛けてみたら、外壁の上では男達がざわざわしているので、いつも通り簡単な説明してから用件を伝える。
「わしはこう見えて王様にゃ。そちらで一番偉い人とお話をしたいにゃ~」
わしの要求に一同顔を見合わせ、少し話し合ってから、頭に羽を付けた男が答える。
「王様……皇帝ってことか??」
「まぁそんにゃ感じにゃ」
また男達は話し合い、話がまとまったら一斉に弓が向けられる。
「やはり生きていたか! この集落に皇帝など要らぬ! 死ね~~~!!」
そして、一斉射撃。わしはわけもわからず、降り注ぐ全ての黒い鏃の弓矢を手でキャッチしてポイポイ投げ捨てる。
「リータ! 防御体勢で下がれにゃ!」
「はい!」
「コリスも、これ持っておいてにゃ~!」
「うん!」
リータに指示を出しながら、コリスには巨大盾を投げ渡す。さっちゃん2の姿で持てるかどうか不安だったが、両手で軽々持ち上げて運んで行った。
「わしは敵じゃないにゃ~!」
「皇帝は俺達の敵だ!」
「だから皇帝じゃなくて、王様にゃ~~~!」
「魔法だ! 撃て撃て撃て~~~!!」
弓矢ではわしを貫けないと悟った羽男は、戦法を変える。なので、わしも【吸収魔法・球】。魔力は美味しくいただいておく。
【風の刃】か……台湾では魔法を使う者がほとんどいなかったが、ここでは普通に使っておるな。威力は、一般的なハンターより上。マリーか、多くてワンヂェン並みってところか。
全員使えるところを見ると、こいつらが手練れ揃いか、はたまた住人全員が得意なのか……。ま、この程度なら、リータ達でも余裕じゃろう。
「にゃあ? もう無意味にゃ事はやめにゃい?」
出会ってから十分。魔法を撃ち続け、弓矢も撃ち続け、疲れが見える男達に声を掛けてあげる。
「くっ……くそ! 増員を呼んで来い!!」
「増員じゃなくて、偉い人を呼んで来てくれにゃ~」
「誰が族長と会わせるか!」
チッ……どこもかしこも、初見は一筋縄ではいかんな。わしが猫だからか? いや、今回は顔を隠してるんじゃけど……それが悪いのかな??
いやいや、わしが王様と言ってから、いきなり話が拗れた。となると、こいつらには明確な敵が居るって事か。
「てか、あにゃた達は、誰と戦ってるんにゃ?」
「何を白々しい……お前達に決まってるだろ!!」
わしの質問に、羽男からいまいち要領のいい返事が来なかったので、わしは覚悟を決める。
マントを脱ぎ捨て、顔を露わにして叫ぶ!
「わしは猫の国、猫王シラタマにゃ! この顔が、お前達の敵にゃのか~~~!!」
わしの叫び声と同時にやって来た増員も、わしの顔を見て固まる。その時間は約一分と過ぎ、男達は声を絞り出す。
「「「「「ば……化け物だ~~~!!」」」」」
当然、立って喋る猫なんて初めて見た男達は驚いて、弓矢や【風の刃】がわしに降り注ぐのであった。
うぅぅ……よけい酷くなってしもうた。
もちろんわしは、悲しくて尻尾を垂らすのであったとさ。
「お前達の族長に会わせろにゃ! それまで、わし達は門の前に居座るからにゃ! 族長に会うまで、にゃん日だって動かないからにゃ~~~!!」
原住民からの一向にやまない攻撃に、ついにわしはキレて踵を返す。そうしてリータ達の元へ戻ると、わしは涙目でリータに抱きついた。
「うぅぅ。化け物って言われたにゃ~」
「よしよし。なんだか久し振りの反応ですね」
「エルフの里の時以来かニャー? こんなにかわいいのに酷いニャー」
「ゴロゴロ~」
リータとメイバイに慰められて撫で回されていても、何も解決はしないので、寒さ対策のバスを取り出す。
こちらも戦闘機同様ヤマタノオロチの鱗で包まれているので、窓の部分のシャッターを下ろせば、ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしないだろう。
そこに、皆の雪や泥は完全に除去して乗り込み、暖房を入れてゴロゴロする。そうしていたら完全に日は落ちてしまい、辺りは真っ暗となってしまった。
「シラタマ殿。いまは何時ニャー?」
メイバイの質問に、わしは右手に付けた腕時計で時間を確認する。
「16時前だにゃ」
「もう暗いのはおかしいニャー」
わしが時刻を告げるとメイバイは首を傾げ、リータも自分の腕時計を確認して驚く。
「わ! 本当です……でも、こんな時間に真っ暗になるのですか?」
「これは、北極に近付いたからにゃ」
「どうしてそんなので、夜になるのですか?」
「昨日、太陽の角度の話をしたにゃろ? 球体の上と下は角度があるから、早く太陽が沈むんにゃ。北極にゃんて極夜と言って、太陽が昇らない季節もあるんにゃ」
「そんなのがあるのですか!?」
「見たいニャー!」
時差の話では、皆は何度もわしを嘘つき呼ばわりしていたが、今回はすんなり信用してくれたようだ。
「わしも見たいんにゃけどにゃ~……極夜は12月のはずにゃから、行ってみにゃいとわからないにゃ~」
「残念ニャー」
「その代わり、オーロラが見れるはずにゃ」
「「「オーロラ??」」」
「女王にあげたティアラを覚えているかにゃ? あの光のベールが空一面に現れるんにゃ。すんごい綺麗にゃはずにゃ~」
「「「「「見たいにゃ~!!」」」」」
わしがうっとりした顔でオーロラの説明をすると、リータ達だけでなく、あまり興味の無さそうだったコリスとオニヒメも興味を持ったようだ。
でも、わしも見た事が無いと言っておろう? 写真も撮れるかどうかわからん。コリスは食べ物から離れよっか? アメならわしが出してやるからな? オニヒメもおたべ~。
リータ達は、わしが見た事があるかの如く質問するので、色をアメで例えてしまったら、コリスはオーロラを舐めたいとか言い出した。なので、手持ちのアメを舐めさせる。頬袋に入れたように見えたけど、溶けないのかな?
そうして説明に疲れて来たので、晩こはんの前にお風呂に入ろうと提案する。皆もやる事がないからと提案に乗ってくれたが、お風呂をバスにドッキングさせたら、キャットハウスを使わないのかと言われた。
その質問には、いつ攻撃されてもおかしくないと答えて納得させる。
本当は、せっかく作ったから一回ぐらい使いたかったんじゃもん!
心の声は聞かれなかったが、リータ達にはバレバレ。頬をプニプニされながら子供扱いされてしまった。
お風呂から上がると、今日は料理が作れないので出来合いの物で済ませる。エミリの作った料理なので、自分達で作るより美味しいからリータ達は「キッチンを作った意味はなかったかも?」とか言っていた。
作れと言ったのはリータ達なのに……
それからお腹が膨らむと、わしだけ外に出て作業。お風呂は次元倉庫に入れて、代わりにトイレをドッキング。
目の前の集落は外壁があるからそれなりの危険があるのだと推測して、三角錐の硬い建物でバスを守る。それと無数の空気穴を開け、引き戸を付けるとわしは外に出て、夜空を見上げる。
「寒いニャー!」
「こんな所に居たら、風邪ひいちゃいますよ」
しばし夜空を見ながら、焚火で温めたウイスキーのお湯割りを飲んでいると、リータとメイバイが出て来た。
「ずっと戻らないで何してたニャー?」
「オーロラが見えないかとにゃ~」
「オーロラニャ!? どこにあるニャー??」
「それならそうと、誘ってくださいよ~」
「寒いから、みんにゃにはきついかと思ってにゃ。出たら教えてあげようと思っていたけど、雲が出て来たようにゃ。これじゃあ無理だにゃ~」
空を見上げてキョロキョロしている二人は、残念そうにしながらバスに戻る。それから皆にも温かい飲み物を出して、日記を付けたら眠りに就くのであった。
翌朝……
ジリジリと鳴る目覚ましの音で飛び起きた。イサベレのセクハラを受ける可能性があったので、気付けてよかった。
皆も各自目を覚まし、しばらくわしとコリスをモフモフしてから起きる。どうやらこれが、皆の一日の始まりらしい。
布団から出ると、さっそくごはん。その時、イサベレとオニヒメが「大人数の人が来た」と言って来たが、気にせずモグモグ。何やら外から大声や壁をガンガン叩く音が聞こえるが、ゆっくり朝の身支度。
準備が済めば、巨大リスのコリスだけバスに残して、わし達は外に出る。そうして三角錐の建物の引き戸を開けたら、雪がちらつく中、武器を持った厚着の集団が建物を囲んでいた。
「うっさいにゃ~。呼ぶにゃらもう少し静かにしてくれにゃ~」
囲んでいた武装集団が引き戸の前に集合すると、わしは昨日喋った羽男と、近くに立つ男数人に念話を繋ぐ。
「それで、そんにゃに武器を持った者を集めたって事は、わし達と対話も無しに戦争でもする気にゃの?」
ざわざわするだけでわしに喋り掛けもしないので再度問うてみたら、中央が開き、縦長の帽子を被ったデカイおっさんが現れた。
そのおっさんに、羽男が耳打ちしていたので念話で盗み聞き。わしが何を言っていたか聞いていたようだ。
おっさんはわしとの距離を少し残して、担いでいた白い大斧を地面にドスンと下ろし、わしをジロジロと見る。
「いい加減、にゃんか喋ってくんにゃい?」
おっさんに舐めるように見られては気持ち悪いだけなので、喋るように催促すると、ようやく口を開いてくれた。
「いや……奇妙な生き物が居たものだと思ってな」
当然、わしの見た目からの疑問なので、わしの尻尾は項垂れるのであったとさ。
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