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01 勇者召喚
006
しおりを挟む魔王にお兄ちゃんと呼ばれた勇者はご満悦。にこにこと今後の話に移った。
「あとは、お風呂も一緒に入ろう!」
「え……」
「ダメなら、俺は魔族は救えないな~」
「……わかりました」
「寝室も一緒にしよう!」
「さすがにそれは……」
「兄妹なら一緒に寝ても不思議じゃないだろ?」
「兄妹?」
「そうだ。俺は妹と一緒にお風呂に入って、一緒に寝たいんだ」
四天王の三人は勇者の我が儘に拳を握り込んでいたが、頭にクエスチョンマークが浮かんで手が広がった。
「えっと……私達の関係は、兄と妹なのですか?」
「その方が結婚する時に燃えるだろ?」
勇者は質問するが、その変な質問にどう答えたらいいのか、魔王は考え込む。
(兄妹の振りをする必要があるのかな? すぐに結婚の話になると思ったのに……)
魔王が黙っていると、勇者が次なる指示を出す。
「それと敬語は禁止な! 俺達は兄妹なんだからな」
「は……うん。わかったです」
「まだ敬語になってるぞ~。サシャはお兄ちゃんの事を敬ってくれているんだな~」
「う、うん。あはは……え? サシャ??」
「あ、名前は、なんて言うんだ?」
「お兄ちゃんがサシャの方がしっくり来るのなら、私は改名しま……しよっかな~」
「う~ん。そこまではしなくていいよ。サシャってあだ名にしよう」
「そう。わかったわ。お兄ちゃん」
「うっ。尊い……」
勇者は魔王の会心の笑顔を喰らい、膝を突く事となった。心配する四天王の三人は、どう扱っていいかわからず、テレージアはニヤニヤと眺めるだけであった。
夕食はとっくに終わっているので、魔王は各自解散を言い渡し、四天王の三人は城から出て行き、テレージアはフリーデを寝室に寝かせる為に部屋から出て行く。
残された二人はリビングで静かにくつろいでいたが、魔王は立ち上がる。
「ね、寝るのか?」
「ううん。お風呂に入って来るね」
「そ、それなら俺も!」
「さ、さっき入ったじゃないですか!」
「また敬語……いや、それはそれでアリか。やっぱり敬語で話してくれ」
「はあ……でも、本当に一緒に入るのですか?」
「い、いいんだ。背中を流してやるよ」
「……あ、ありがとうございます。それじゃあ、一緒に入りましょう」
「お、おう!」
ぎこちない会話をした後、勇者と魔王は風呂場へ向かう。そして勇者はババババっと服を脱ぎ捨て、先にお風呂に入って行った。
残された魔王は、緊張しながら服を一枚ずつ脱ぐ。
(うぅ。恥ずかしいよ~。男の人の前で裸になるなんて、子供の頃にお父さんと入ったとき以来。でも、魔族の未来のため、行かなきゃ!)
魔王は服を脱いで裸になると、顔をパンパンと叩いて、お風呂の扉を開く。そこには檜作りの大きな湯船に浸かった勇者の姿があり、魔王は恥ずかしそうに体を手で隠して歩く。
そしてシャワーの前に座ると、勇者に声を掛ける。
「あ、あの……お兄ちゃん。背中を流してください」
「あ、ああ。いま行く」
勇者は湯船から出て歩き出す。魔王は振り返らず待っていると、後ろから声が聞こえる。
「ん……どこだ?」
「お兄ちゃん?」
「あ、そっちか」
勇者は再び歩き出すが、今度は湯船にドボーンと落ちる音が聞こえ、魔王は恐る恐る振り返る。
(あ、タオルで隠してくれてる。でも、また変な方向に歩いて行ってるけど……目を瞑ってる? 自分から言い出したのに、私の裸を見たくないの? そんなに見るに耐えないモノなの!?)
魔王は気を落とし、自分のお腹や二の腕をプニプニと揉んで確認する。すると、よけい落ち込む事になったようだ……
だが、勇者は一向に近付く気配が無いので、気分を紛らわす為に鼻歌を歌う。そうこうすると、やっと勇者が後ろに立ち、魔王に触れる。
「あ、そこは……」
「うわ!?」
「??」
勇者は魔王の頭に触れるが、すぐに手を離す。その行為を不思議に思った魔王は
問い掛ける。
「どうしたのですか?」
「いや、なんでもない……あ! 角はどうしたんだ?」
「アレは魔王の威厳を出す為に被っていたのです」
「魔王は直に生えているんじゃないのか?」
「昔は生えていたらしいです。でも退化して、無くなったみたいです」
「ふ~ん……」
「そろそろ背中を流してくれますか?」
「あ、ああ」
勇者は目を瞑りながら手を伸ばすが、魔王の肌に触れると飛び退き、ドボンと湯船に落ちる事となった。
「あの~……背中を流してくれるんじゃんなかったのですか?」
「えっと……いいお湯だから、浸かっていたくなったんだ! 気持ちいいな~」
「そうですか……」
勇者は何やら言い訳をして、魔王の声と反対に体を向ける。魔王は勇者の態度が気になったが、勇者に洗われるよりいいかと割り切り、体や髪を洗い流すと湯船に浸かる。
しばらく無言が続く中、静寂に耐えられなくなった勇者が口を開く。
「そういえば、この世界の魔族は人間みたいな姿なんだな」
「それも退化のせい……いえ。進化かもしれません」
「進化?」
「千年前までは、もっと獣に近い魔族がいたようです。でも、勇者様が先代魔王様になってから、魔族は野菜を食べるようになって、人族の体に近付いたと歴史書に書かれていました。まだ少し、元の姿を残している魔族はいますけどね」
「なるほど」
「それにしても、異世界の勇者様なのに、言葉が通じてよかったです」
「そういえばそうだな」
「先代魔王様は、言葉が通じなくて苦労したと言われていましたけど、同じ言葉を使っている異世界があるのですね」
「不思議な共通点だな」
勇者と魔王は裸の付き合いをして打ち解けたのか、本当の兄妹のように話が弾むのであった。……勇者は最後まで、目を開ける事はなかったとさ。
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