攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
25 / 187
03 潜入

024

しおりを挟む

「あ~あ……儲け損ねた」

 勇者のゲームに付き合っていた酒場の者は、勇者の化け物っぷりに恐れ、逃げ出す事となった。

「お兄ちゃん! 怪我はないですか?」
「俺はな。出て行った奴らは怪我をしていたぞ」
「もう! 自分の体も心配してくださいよ~」
「あれぐらいどうって事ないからな。それより飲み直そう」
「……バカ」

 勇者を心配する魔王は頬を膨らまして悪態をつくが、気持ち悪い勇者はニヤニヤと見る。さすがの魔王も気持ち悪くなったのか、元に座っていたカウンターに戻る。
 遅れて勇者も席に着くと、店主のオヤジが声を掛けて来た。

「あ、あんた大丈夫か?」
「丈夫だけが取り柄だからな」
「丈夫だけって……丈夫にも程があるだろ!」
「まあまあ。それより、さっきの奴らは何者なんだ?」
「あいつらか……次兄様の私兵らしいんだが、どうもあいつらが来てからおかしいんだよな」
「どう言う事だ?」
「この町は元々……」

 酒場のオヤジは語り出す。

 この町は姫騎士と呼ばれる者が進軍し、魔族から奪い取ったようだ。その後、残りのふたつの町も奪い取り、人族の領地から一番近いこの町に移住者を募って町として機能させた。
 そこを姫騎士が治めていたそうだが、次兄が来てからと言うもの、姫騎士の姿は消え、治安は悪化して行ったとのこと。
 特にひどいのが、税の取り立て。姫騎士は税を二年間取らないと約束してくれたらしいが、次兄が町を治める様になってからは日に日に税が増え、払えない者は奴隷に落とす。
 さらに、女性が犯される事件が頻発し、犯人を名指しで捕まえてくれるように頼んでも、一切取り合ってくれないらしい。

「ひどいです……」
「皆、女は外に出さないようにしているんだ。それなのに、こんな所に連れて来るなんて、どうかしてるぞ」
「田舎者ですまん」
「あ……そうだったな」
「それにしても、その姫騎士様ってのは、何処に行ったんだろうな」
「町を移動すると、誰かが気付くと思うんだけどな~。噂では、何処かに幽閉されているんじゃないかと言っている」
「幽閉? 姫って言うくらいなんだから、偉いんじゃないのか?」
「姫騎士様を知らないなんて、どんなド田舎から来たんだよ」
「あははは~」

 店主は疑いの目を向けるが、勇者は笑って誤魔化す。

「まぁいいや。姫騎士様は、この国のお姫様だ。文部両道。美しく優しいお方で、国民に人気がある。今回の聖戦の活躍で、さらに人気が上がったな。二人の兄を差し置いて、王様になってくれないかと大望する者も大半だ」
「ほう。最前線で活躍していたのに、そこから戻って、この町に居るのも不思議だな」
「だろ? これも噂だが、帝都の皇帝様を怒らせたらしいぞ」
「左遷ってやつか」
「まぁ憶測おくそくばかりで語られているがな。本当に何処に行ったのやら……」
「心配だな。おっと、妹が眠たそうだ。これ、迷惑料に取っておいてくれ」

 勇者は魔王に服を引っ張られただけだが、言いたい意味が伝わったのか、勘定を支払う。

「金貨10枚!?」
「あ、気にしないでくれ。どうせ払う気が無いだろうと、さっきの偉そうな奴から財布をっておいたんだ」
「ブッ。ゲームで勝ったんだから、正当な取り分だな。ありがたく受け取っておくよ。それより、もう遅いけど、今から出発しろよ? あいつらが仕返しに来るぞ」
「ご心配、ありがとう」

 勇者はオヤジに笑顔を見せると、魔王を連れて酒場を出る。

「早く出て欲しそうだったけど、どうした?」
「さっきの姫騎士さんを、味方に出来ないでしょうか?」
「何処に居るかわからないからな~」
「でも、いい人でしたよ!」
「聞いた話はだろ? 会ってもいない者を信用するのは危ないぞ。特に王族は、表の顔と裏の顔があるから、気を付けた方がいいって聞いた事がある」
「私も王族ですけど、裏の顔なんてありません!」
「わかったわかった。少し調べてみよう」
「絶対ですよ~?」
「うん。その言い方もかわいい!」
「もう!」

 茶化す勇者に頬を膨らませる魔王。よけい勇者を喜ばせながら宿屋に戻ると、赤い顔をしたテレージアに出迎えられる。

「おっそ~い! てやんで~」
「酔ってるのか?」
「あんな酒の一本や二本で酔うかい!」
「一本や二本? その小さな体で、一本空けたのか!?」
「足りないっつうの!」
「あ……私も飲みたかったです~」
「だろ? もっと出せ、勇者~」
「いいけど、明日は忙しくなりそうだから、あまり飲み過ぎるなよ?」
「「やった~!」」

 二人は喜び、ハイタッチしてから酒を飲む。テレージアはどこから出したのか、長いストローを使って瓶から直接チューチューと飲んでいた。勇者が蚊みたいだと言ったら、かなりキレていた。
 勇者は酔ったテレージアに触られても何も感じなかったが、酔った魔王は別だ。甘えて抱きつかれると、硬直して動けなくなる。さらに魔王とテレージアは服を脱ぎ出したので、目を閉じ、瞑想するハメとなった。
 二人は備え付けのお風呂に入る為に脱いでいたらしいが、勇者が居るのだから気を使ってあげて欲しい。まぁヘタレだから見る事は出来ないけど……

 お風呂から上がった魔王とテレージアは、裸のままベッドに飛び込み就寝。勇者は寝息が聞こえるとお風呂に入り、何やら興奮していたが、魔王の残り湯よりも、裸を見て興奮した方がお得だったのに……

 こうして人族の町への潜入初日は、多少のトラブルはあったものの、無事に終わるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...