攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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 次兄に嫌がらせした勇者とテレージアは、笑いながらウーメラの街を離れる。しばらく走り、夜が更けるとベッドルームを取り出して眠りに就く。その時、勇者は魔王の残り香をくんくん嗅いで、テレージアに気持ち悪い目で見られていた……

 夜が明けるとテレージアに朝食を催促され、ギャーギャー食べると、ベッドルームをアイテムボックスに仕舞って南に向けて走る。
 勇者の走りは速いので、朝の内に、ミニンギーの町に到着する。門には魔族の兵士が立っていたので、止められないように通行証のテレージアを見せて通してもらう。雑に羽を掴まれたテレージアは怒っていたけど……

 そうして中に入ると……

「お兄ちゃん!」

 勇者の帰りを待っていた魔王が駆け寄って来た。

「サ、サシャ?」

 しかも、魔王は勇者に抱きついた。そのせいで、勇者は直立不動。テレージアにぐふぐふと笑われる。

「ど、ど、どうしたんだ?」
「だって……黙って居なくなりますから~」
「さ、さ、散歩に行くって、い、言ったぞ?」
「いつまで経っても、戻って来なかったです~」
「す、す、すまな……プシュー」
「魔王……離れてあげなさい」

 勇者は魔王に甘えた声を出されて、ついにショートした。ぐふぐふ笑っていたテレージアも、勇者の命の危機を感じたのか魔王をいさめる。
 魔王もテレージアの言葉に恥ずかしくなったのか、飛び退く事となった。

 しばらく固まっていた勇者だったが、テレージアが魔王にこれまでの経緯を話していると復活し、会議室に通される。

「お兄ちゃん! 本当ですか!?」
「えっと……何がだ?」
「テレージアさんが言った事ですよ!」
「あ、うん。そうかな~?」

 会議室でも魔王は近く、ヘタレ勇者は魔王を直視できないみたいだ。

「魔王。どうしたの? 何かあった?」

 魔王の態度に、不思議に思ったテレージアは質問する。

「え? 何がですか?」
「勇者と距離が近いわよ。勇者はヘタレなんだから、もう少し離れてあげないと、話も出来ないわよ」
「別に何もありませんけど?」

 魔王はケロッと答えるが、テレージアの物言いはもっともだと思ったのか、椅子を引いて少し離れる。
 その後、矢継ぎ早に質問し、詳しい説明を終えた勇者は姫騎士に質問する。

「長兄の奴、転移マジックアイテムで逃げたんだが、行き先に心当たりはあるか?」
「あのマジックアイテムは、行き先が固定式だから、王都だな」
「王都か~。あんなのひょいひょい使われたら、捕まえようがない」
「そうでもないぞ。貴重な物だから、数はそう多くない」
「姫騎士も持っているのか?」
「私は……受け取っていない……」
「そっか……。次兄が持っていたら、次の戦いで厄介だな」
「まぁ指揮官不在になるのだから、あとはなんとでもなるだろう」

 勇者も姫騎士の意見は正しいと感じて頷く。

「あ、そうだ。長兄は、勇者の剣なんて持っていたけど、それもいっぱいあるのか?」
「勇者の剣!?」

 勇者の発言に、姫騎士はぐいっと身を寄せる。剣オタクの姫騎士には失言だったようだ。

「ど、どうだった?」
「ま、まぁ……凄い剣だったかな?」
「そうであろう、そうであろう。山をも斬り裂いたと言われる名剣だもんな~」
「山……」

 うっとりする姫騎士の言葉に、勇者は何か気付いたようだ。

「それって、北に見える山の事じゃないか?」
「あの高い山か?」
「ここからは分かりにくいけど、斬られたように、崖になっているんだ」
「ほぉ。変わった形の山だと思っていたが、伝説の舞台があの山だったのか……ところで勇者殿は、その剣で斬られたのか?」
「ここをちょっとな」

 勇者は右手の裾を捲り、姫騎士に見せる。姫騎士は手を取ってマジマジ見るが、傷は見付からないようだ。

「どこを斬られたのだ?」
「あ、俺は傷の治りが早いから、もう治っているな」
「頑丈な勇者殿は、怪我をしてもすぐに治るのか……」

 姫騎士は勇者の手を触り、傷跡を探すが、頬を膨らませた魔王が間に入って来る。

「触り過ぎです!」
「ん? ああ……」
「私にも見せてください!」
「わ!」

 魔王は勇者の手を取ろうとするが、勇者は魔王の手が触れると、驚いて手を引いてしまう。

「どうして私には、触らせてくれないのですか!」
「ちょっとビックリしただけだ。いま、心の準備をするから待ってくれ」

 勇者は数度深呼吸をしてから手を差し出す。すると魔王は、勇者の手をこねくり回し、傷の有無を確かめる。

「お兄ちゃんの手、おっきいのですね」
「プシュー……」
「わ! お兄ちゃん!?」
「魔王……あんた、勇者に恨みでもあるの?」

 最愛の妹に似た魔王に手を撫で回され、勇者は本日二度目の思考停止。何度も勇者をショートさせる行為は、テレージアには嫌がらせと受け取られたみたいだ。
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