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07 休息
073
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人界まで長兄を追った勇者は、探索するには時間が掛かると判断して魔界へと走る。テレージアから危険な森に入るなと言われたが、勇者は無視してスピードを上げる。
森を猛スピードで駆け、木を避け、魔物を振り切り、亀裂を飛び越えたその時、勇者の進行方向から炎の塊が飛んで来た。
勇者はそのまま進もうかと思ったが、背中に世界樹とテレージアを背負っているので、大きく横に飛んでかわす。
そのせいでリュックを揺らしてしまい、テレージアが文句を言いに顔を出した。
「もう! 枝が鼻に入ったじゃない!!」
かなり痛かったらしく、テレージア激オコだ。しかし、そんな場合ではない。
巨大な魔獣が勇者の行く手を阻む。
「キマイラか」
獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ魔獣。キマイラが威嚇しながら勇者に近付く。
「わ! なんとかしなさ~い!!」
勇者の頭をポコポコしていたテレージアも事態の深刻さに気付いたのか、叫びながらリュックに逃げ込んだ。
「まぁやる事はひとつだけどな」
勇者は呟いてからキマイラを睨み、真っ直ぐ駆ける。キマイラは近付く勇者に威嚇の声をあげると、右前脚を振り上げ、叩き付ける。
勇者はその攻撃を避けると、キマイラの横を通り過ぎてダッシュで逃亡。やる事は、逃げるだけのようだ。
キマイラが振り向いた時には、遥か遠くに逃げ、追い掛けようもなくなっていた。
その後、勇者はゴーレムと出会い、巨大な蜘蛛と出会い、多種多様な魔獣に追われては振り切る。だが、進行方向が狂い、森から岩場に入ってしまったようだ。
「ふぅ。ここまでは追って来ないのか」
勇者は一息つくために岩に腰掛け、水筒を取り出す。すると、揺れが収まったと気付いたテレージアがリュックから出て来た。
「もう着いたの~?」
「ちょっと休憩だ。テレージアも飲むか?」
「うん。ちょうだい!」
勇者はコップに水を注いで、ストローを挿してあげる。テレージアは待ってましたとチューチューと吸い付く。
「プハー! 生き返る~。ところで、ここは何処なの?」
「さぁな~。進行方向をかなり逸れたから……死の山かな?」
「ブフゥゥーーー!!」
勇者の発言に、テレージアは飲んでいた水を盛大に吹き出し、咳き込む事となった。
「ゲホゲホッ。なんて所に連れて来るのよ!」
「しょうがないだろ。魔獣から逃げ回っていたんだからな」
「ちょっとは戦え!!」
テレージアの言い分はもっともだが、攻撃の出来ない頑丈な勇者では仕方がない。
「それにしても変わった山だな。四角? 一枚岩かな?」
「なに暢気な感想言ってるのよ! 死ぬ~~~」
「苦しいのか?」
「え? そういえば、なんともないわね」
テレージアはふわふわと飛んで、自分の体を確認する。
「お婆さんが、嘘を言ってたのかしら?」
「どうだろな。骨はいたるところにあるから、嘘ってわけじゃないだろう」
「骨!?」
「どうも魔獣も、こっち方面に追い込もうとしていたみたいだし、何かあるのかもな」
「じゃあ、早く移動したほうがいいんじゃない?」
「そうだな。日が暮れそうだし、急ごうか」
勇者は立ち上がってリュックを背負うと、テレージアが入るのを確認して走り出す。岩場から森に入ると、行きよりも多くの魔獣に襲われるが、その都度、スピードを上げて、ついに魔獣の巣を抜ける。
そこからも凄い速さで走るが、日は完全に落ち、マジックアイテムの光を頼りに森を抜けた。だが、勇者の予定していた場所と外れていたようだ。
「あれは……ウーメラの町か~」
勇者は残念な声を出すと、テレージアがそれに応える。
「お腹ペコペコなんだけど~?」
いや。食事の催促だったようだ。勇者は一度森に入り、開けた場所で料理を取り出す。今回はアイテムボックスに元から入っていたサンドイッチのようだ。
「うまっ! こんなの持ってるなら、早く出してよね~」
「お前が作れって言ったんだろ?」
「そうだっけ? まぁ今度、何が入ってるかチェックしよう」
「妹の為に用意した物だからダメだ!」
「え~~~! ……じゃあ、魔王経由で頼むわ」
確かにその方法なら確認できるだろうが、妖精女王のくせに、意地汚い奴だ。小さい体のくせに、ふたつもペロッと完食するし……
「そういえば、なんでわざわざ森に戻ったの? 街道で食べればよかったじゃない?」
「ああ。ウーメラの町には次兄が居るだろ? ちょっと嫌がらせしてから帰ろうかとな」
「嫌がらせ?」
勇者がテレージアに嫌がらせの内容を伝えたら、ぐふぐふ言って笑い出す。その後、きっちり嫌がらせをした勇者とテレージアは、魔王の待つミニンギーに向けてひた走るのであった。
* * * * * * * * *
とある朝……
次兄は兵士の慌ただしい声で起こされ、機嫌を悪くする。そして、兵士の案内のまま、慌ただしくなった原因の壁に到着する。
「なっ……」
次兄は壁を見て言葉を失う。それは何故か……。壁に大穴が開いていたからだ。
「なんで壁に穴が開いているんだ!」
「殿下! あちらにも穴があります!!」
「なんだと!?」
「殿下~! 向こうにも……」
「西にも……」
「東にも……」
次兄の元へ、続々と壁に穴が開いていると報告が入る。勇者達の嫌がらせは単純。壁に穴をたくさん開けるだけ。
魔族が爆発で死んだと思って、見張りを立てなかった次兄が悪い。そのせいで、勇者達は労せず穴を開けられたのだからな。
「くっ……誰の仕業だ~~~!」
この日、次兄は喚き散らし、兵士達に八つ当たりしまくって、かなり嫌われたらしい……
森を猛スピードで駆け、木を避け、魔物を振り切り、亀裂を飛び越えたその時、勇者の進行方向から炎の塊が飛んで来た。
勇者はそのまま進もうかと思ったが、背中に世界樹とテレージアを背負っているので、大きく横に飛んでかわす。
そのせいでリュックを揺らしてしまい、テレージアが文句を言いに顔を出した。
「もう! 枝が鼻に入ったじゃない!!」
かなり痛かったらしく、テレージア激オコだ。しかし、そんな場合ではない。
巨大な魔獣が勇者の行く手を阻む。
「キマイラか」
獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ魔獣。キマイラが威嚇しながら勇者に近付く。
「わ! なんとかしなさ~い!!」
勇者の頭をポコポコしていたテレージアも事態の深刻さに気付いたのか、叫びながらリュックに逃げ込んだ。
「まぁやる事はひとつだけどな」
勇者は呟いてからキマイラを睨み、真っ直ぐ駆ける。キマイラは近付く勇者に威嚇の声をあげると、右前脚を振り上げ、叩き付ける。
勇者はその攻撃を避けると、キマイラの横を通り過ぎてダッシュで逃亡。やる事は、逃げるだけのようだ。
キマイラが振り向いた時には、遥か遠くに逃げ、追い掛けようもなくなっていた。
その後、勇者はゴーレムと出会い、巨大な蜘蛛と出会い、多種多様な魔獣に追われては振り切る。だが、進行方向が狂い、森から岩場に入ってしまったようだ。
「ふぅ。ここまでは追って来ないのか」
勇者は一息つくために岩に腰掛け、水筒を取り出す。すると、揺れが収まったと気付いたテレージアがリュックから出て来た。
「もう着いたの~?」
「ちょっと休憩だ。テレージアも飲むか?」
「うん。ちょうだい!」
勇者はコップに水を注いで、ストローを挿してあげる。テレージアは待ってましたとチューチューと吸い付く。
「プハー! 生き返る~。ところで、ここは何処なの?」
「さぁな~。進行方向をかなり逸れたから……死の山かな?」
「ブフゥゥーーー!!」
勇者の発言に、テレージアは飲んでいた水を盛大に吹き出し、咳き込む事となった。
「ゲホゲホッ。なんて所に連れて来るのよ!」
「しょうがないだろ。魔獣から逃げ回っていたんだからな」
「ちょっとは戦え!!」
テレージアの言い分はもっともだが、攻撃の出来ない頑丈な勇者では仕方がない。
「それにしても変わった山だな。四角? 一枚岩かな?」
「なに暢気な感想言ってるのよ! 死ぬ~~~」
「苦しいのか?」
「え? そういえば、なんともないわね」
テレージアはふわふわと飛んで、自分の体を確認する。
「お婆さんが、嘘を言ってたのかしら?」
「どうだろな。骨はいたるところにあるから、嘘ってわけじゃないだろう」
「骨!?」
「どうも魔獣も、こっち方面に追い込もうとしていたみたいだし、何かあるのかもな」
「じゃあ、早く移動したほうがいいんじゃない?」
「そうだな。日が暮れそうだし、急ごうか」
勇者は立ち上がってリュックを背負うと、テレージアが入るのを確認して走り出す。岩場から森に入ると、行きよりも多くの魔獣に襲われるが、その都度、スピードを上げて、ついに魔獣の巣を抜ける。
そこからも凄い速さで走るが、日は完全に落ち、マジックアイテムの光を頼りに森を抜けた。だが、勇者の予定していた場所と外れていたようだ。
「あれは……ウーメラの町か~」
勇者は残念な声を出すと、テレージアがそれに応える。
「お腹ペコペコなんだけど~?」
いや。食事の催促だったようだ。勇者は一度森に入り、開けた場所で料理を取り出す。今回はアイテムボックスに元から入っていたサンドイッチのようだ。
「うまっ! こんなの持ってるなら、早く出してよね~」
「お前が作れって言ったんだろ?」
「そうだっけ? まぁ今度、何が入ってるかチェックしよう」
「妹の為に用意した物だからダメだ!」
「え~~~! ……じゃあ、魔王経由で頼むわ」
確かにその方法なら確認できるだろうが、妖精女王のくせに、意地汚い奴だ。小さい体のくせに、ふたつもペロッと完食するし……
「そういえば、なんでわざわざ森に戻ったの? 街道で食べればよかったじゃない?」
「ああ。ウーメラの町には次兄が居るだろ? ちょっと嫌がらせしてから帰ろうかとな」
「嫌がらせ?」
勇者がテレージアに嫌がらせの内容を伝えたら、ぐふぐふ言って笑い出す。その後、きっちり嫌がらせをした勇者とテレージアは、魔王の待つミニンギーに向けてひた走るのであった。
* * * * * * * * *
とある朝……
次兄は兵士の慌ただしい声で起こされ、機嫌を悪くする。そして、兵士の案内のまま、慌ただしくなった原因の壁に到着する。
「なっ……」
次兄は壁を見て言葉を失う。それは何故か……。壁に大穴が開いていたからだ。
「なんで壁に穴が開いているんだ!」
「殿下! あちらにも穴があります!!」
「なんだと!?」
「殿下~! 向こうにも……」
「西にも……」
「東にも……」
次兄の元へ、続々と壁に穴が開いていると報告が入る。勇者達の嫌がらせは単純。壁に穴をたくさん開けるだけ。
魔族が爆発で死んだと思って、見張りを立てなかった次兄が悪い。そのせいで、勇者達は労せず穴を開けられたのだからな。
「くっ……誰の仕業だ~~~!」
この日、次兄は喚き散らし、兵士達に八つ当たりしまくって、かなり嫌われたらしい……
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