攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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 魔の森にある砦を後にした勇者はテレージアと合流すると、背中に太陽の光を受けながら、東に向けてひた走る。そうしてかなりの距離を走ったところで、テレージアがショルダーバッグから顔を出した。

「ぐっ……止まって~~~!」

 勇者の走る速度は速いので、テレージアは顔を歪めながら声を出す。テレージアの行動に、勇者は不思議に思って走るのをやめる。

「どうした?」
「ちょっと付き合ってくれない?」
「俺とテレージアが!? 俺にはサシャが……」
「なに言ってるのよ! 行きたい所があるのよ!!」
「行きたい所?」
「ちょっと行き過ぎたから戻って」

 勇者はテレージアの指示のもと、速度を落として走る。少し戻り、道から外れると森の中を進み、しばらく走れば、テレージアの目的の場所に着いたようだ。

 その場所で、テレージアはパタパタと空を飛び、辺りを見渡して寂しそうな顔を見せる。

「ここは……森が焼けた跡か?」

 勇者は大きな木の焼け落ちた痕跡を見て、テレージアに質問する。

「あたしの実家よ。そこの木が住みかだったんだけどね。人族に焼かれたのよ」
「ふ~ん。大きな木だったんだな。もったいない」
「ホント馬鹿よ。この木の葉は、怪我や病気を治せたのに、あたし達を炙り出す為に燃やすなんて……」
「もしかして、世界樹か?」
「そうよ」

 テレージアは名残惜しいのか、燃えた大木の幹の周りを、パタパタと飛び回る。

「あ……勇者! こっち来て!!」

 テレージアは何かを発見したのか、焦った声を出す。その声に勇者が近付くと、そこにはうっすらと光る木の苗があった。

「それは……」
「世界樹の苗よ!」
「おお~。初めて見たよ」
「よかった~。崩れ落ちる前に、命を繋いでいたんだ~」
「嬉しそうだな」
「だって長年あたし達、妖精を見続けてくれた木だもん。親みたいなもんよ」

 テレージアはそう言うと、苗木に抱き付いて頬擦りする。

「そのままでも、また大木になるのか?」
「どうかな? 少し元気がないかも」
「なら、エルフに育ててもらったらどうだ? 果樹園もやっているみたいだから、出来るんじゃないか?」
「確かに……持って帰ってくれる!?」
「ああ。ちょっと待ってな」

 勇者は苗木に近付くと、スコップを取り出し、根を傷付けないように慎重に掘り起こす。それが終われば大きめの鉢に移植し、リュックサックに入れて背負う。

「まだ、何か用があるか?」
「ううん。ありがとう。チュッ」
「ん?」
「感謝のしるしよ」

 テレージアは勇者の頬にキスをして、照れているのか、顔を赤くしてリュックに入って行った。どうやらおっさんテレージアも、自分でやるのは恥ずかしかったようだ。
 勇者はと言うと、何をされたのかわかっていない。小さな妖精では、キスをされても蚊に刺された程度であったのだろう。
 それから元来た道を戻り、広い道に出ると東に向けて走る。

 そうしてその少し後、森が切れた。


「ここが人界か~」

 勇者が感慨深い声を出すと、テレージアがリュックから顔を出す。

「魔界とほとんど変わらないな」

 あ、ただの独り言だったようだ。

「数百年前は、ここも森だったみたいよ」
「ふ~ん。どうして森が無くなったんだ?」
「人族が切り開いたみたい。それでエルフは住みかを追われて、魔界に逃げたみたいよ」
「そうなんだ」
「それで、どうしてここまで来たの?」
「長兄が何処まで逃げたか探したかったんだけどな~」
「匂いで終えないの?」
「サシャ以外の匂いなんて、嗅ぎ分けられるわけがないだろ」

 相変わらず気持ち悪い勇者だ。テレージアも「キモッ!」て顔をしているぞ。

「妹の場合は、転移魔法を使っても追ってたじゃない? その方法でわからないの?」
「妹の時はただの感で、行きそうな場所をしらみ潰しに探したからな~」
「最悪のストーカーね……」

 うん。テレージアの言う通りだ。褒め言葉ではないのだから、勇者は照れないで欲しい。

「何処に逃げたかわからないし、偵察はここまでだな。帰ろう」

 勇者は踵を返して走り出すが、道から逸れ、森に入る。すると、テレージアが焦ったように勇者に声を掛ける。

「ちょっと! 何処に行くのよ!!」
「ん? 森を突っ切ったほうが早いだろ?」
「そっちはヤバイんだって!」

 勇者はテレージアの剣幕に、走るのをやめて質問する。

「ヤバイ?」
「お婆さんに聞いた話だけど……」

 テレージアは昔話を語り始める。

 この森は魔の森と呼ばれ、森の中央には死の山と呼ばれる場所があるらしい。そこは草木も生えぬ死の世界。生者が辿り着くと命は吸われ、森の栄養分になると言われて恐れられている。
 さらにその周りには狂暴な魔獣が縄張りを作り、死の山に近付く事さえ出来ないと言われている。

「ふ~ん……狂暴な魔獣が居るのに、なんで命を吸われるって知っているんだ?」
「お婆さんはグリフォンから聞いたらしいわよ。そのグリフォンは元々、死の山の近くに縄張りがあったみたいだけど、北に移住して来たみたい」
「グリフォン? 妖精と仲良かったのか?」
「まぁね……人族が攻めて来た時も、一匹で、ずっと戦ってくれてたの」
「守り神みたいだな」
「もう死んじゃったけどね」
「それも人族にか?」
「ううん。寿命よ」
「そっか。他にも死の山から離れた魔獣はいるのか?」
「同時期に、ドラゴンも南に飛び立ったと聞いたけど、どうなったかはわからないわ」
「なるほど。わかった」

 わかったと言いながら、勇者は森を南西に向けて駆け出す。

「わかってないじゃない!!」

 当然、テレージアから苦情は出るが、勇者はさらにスピードを上げて声を遮るのであった。
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