78 / 187
07 休息
077
しおりを挟む会議室からポイっと追い出されたテレージアは、ムキ―っとしながら勇者を追い掛けて肩にとまる。
「なあ? さっきのみんなは、何があったんだ?」
「あ~。昨夜の勇者はお楽しみにだったから、妬いてるのよ」
「お楽しみ? ずっと寝てたんだけどな~」
「はあ? 何も覚えてないの?」
「疲れていたみたいだ」
「う~ん……。そうなんだ~」
テレージアは昨夜の事を話そうとしていたが、思い留まったようだ。破裂してしまうとでも思ったのかもしれない。なので、話を逸らすみたいだ。
「そうそう! 世界樹、エルフの所にあるのよ。見に行こ!!」
「あ、ああ」
テレージアはパタパタと先導するように飛び、勇者はその後を追う。しばらくして、エルフ達が井戸端会議をしている輪を見付けるが、そこには妖精達も集まり、皆、真剣に話し合っていた。
テレージアはその輪の中心に飛んで行き、勇者はエルメンヒルデに話し掛ける。
「エルメン。おはよう」
「これは勇者様。おはようございます」
「何をしてたんだ?」
「皆で世界樹様のお姿を拝見していました」
「ふ~ん。神様みたいな言い様だな」
「その昔、エルフは世界樹様を崇めていましたからね。世界樹様が枯れてからと言うもの、苦難が始まったので守り神とも言えます」
「テレージアは家だと言ってたぞ。神様に住み着いてしまってもいいのか?」
「妖精は世界樹様に代々仕えていたと聞きますし、我々と役目は違いますので、その文化は尊重しております」
「害虫にしか見えないけどな」
「テレージアさんはですね」
勇者とエルメンヒルデは軽口をして笑い合う。そうしていると、テレージアがパタパタと二人の前に現れる。
「それで、移植先は決まったの?」
「まだです」
「早くしてよね~」
「そう言いましても、より良い土地に移植しないと、すぐに枯れてしまいますよ」
「そっか……立派な木になるように頼んだわね!」
「エルフの誇りにかけて、探し当てます!」
珍しく二人はケンカをせずに、和気あいあいと話すが、勇者は話について行けないようなので質問する。
「世界樹を育てるには、何か条件があるのか?」
「肥沃な大地、豊潤な魔力が無いと育たないと言われています」
「なるほどな。でも、難しそうだな」
「そうですね。昨日、世界樹様の話を聞いて、すぐに最長老様に連絡を取りましたので、魔界中を探してくれる事になりました」
「見付かるまでは、どうするんだ?」
「エルフ秘伝の栄養材と、土に直接魔力を注ぎ入れて乗り切ります。果物もこうして美味しく作っているので、なんとかなるはずです」
さすがエルフと言いたいところだが、果樹園特化なエルフでは、勇者も微妙な顔になってしまった。
世界樹見学の終わった勇者は、会議室に戻ろうかと悩むが、エルメンに昼食を誘われ、いたたまれない空気よりいいかとその場に残る。
昼食にはまだ早かったので、エルフ達にチヤホヤされながら待ち、果物のジャムを付けたパンも、チヤホヤされながら食べる。
その後、テレージアと一緒に会議室に戻ると、ちょうどよかったと会議に参加させられる。
「お兄ちゃん!」
「な、なにかな~?」
語気の強い魔王の言葉に、勇者はだじたじとなる。
「キャサリの町に行ったのですよね?」
「う、うん」
「食糧が足りないとおっしゃっていましたが、この軍の食糧も少し足りないのです」
「あ……勝手な約束なんてして、すまない」
「怒っているわけではありません。足りないので、魔都まで取りに行ってもらえないかと、お願いしたいのです。お兄ちゃんなら今から行っても、夜には帰って来られますよね?」
「まぁ出来るけど、ミニンギーじゃダメなのか?」
「ミニンギーからも、一万の兵を移動させるので、あちらもそこまで食糧が無いのです」
「なるほどな。わかった。今すぐ立つよ。魔都についたら、誰に聞いたらいいんだ?」
「私も同行するので大丈夫です」
「え……ここの指揮はいいのか?」
「あとは準備だけですので、四天王さんと姫騎士さんが見ていてくれます」
魔王のお願いを聞いた勇者は、了承して魔王と一緒に会議室を出る。誰からも反対意見が出なかったと言う事は、すでに決定事項だったようだ。
外に出るとアイテムボックスから背負子を取り出し、魔王を背負って走り出す。町から出るまでは、魔王は恥ずかしそうにしていたが……
そして、町から出ると魔王に気を使って徐々にスピードを上げる。だが、かなりスピードが上がると魔王からストップが掛かる。
「速すぎます~」
「ごめんな~。でも、夜までに戻るには、急がないと間に合わないぞ」
「うぅぅ。我慢します~」
魔王は我慢すると言いながら、「キャーキャー」と叫んで、途中からは楽しんでいた。その甲斐あってか、片道十二日の道のりを、勇者は二時間で走破した。
「もう着いちゃいました……」
「まぁ走る勇者とも呼ばれていたからな」
「こんなに早く着くなら、あんなに飛ばさなくてもよかったんじゃないですか?」
「サシャが楽しそうにしてたから、ついな」
「楽しんでませ~ん」
魔王が頬を膨らませると勇者は気持ち悪い顔になるけど、背負っているのに見えてるの? 甘えた声だけでそこまで想像できるとは、気持ち悪い事この上ない。
それから魔王がいろいろと言い訳をしていると、魔王城と呼ばれるログハウスに到着する。そこで勇者は、魔王を降ろしながら辺りを見渡し、感嘆の声をあげる。
「すごい量だな」
ログハウスには、米、麦、穀物類が山のように集められていた。
「これを全て、持てますか?」
「たぶん大丈夫だけど、魔都が困るんじゃないか?」
「魔都や町では、不作の場合を想定して、三年分の食糧を常に保管しているから大丈夫です。その気になれば、この量より多くを、一年で用意できますよ」
「へ~。さすが農業特化だな。でも、みっつの町を再開させたら、足りなくなるんじゃないか?」
「それも大丈夫です。他の町からも送ってもらうよう連絡しました。フリーデちゃんのお父さんが運輸の段取りもしてくれています」
「フリーデのお父さん?」
「あ、紹介していませんでしたね。フリーデちゃんのお父さんは、運輸大臣です」
「そうなんだ。ひとまず、入れていくか」
勇者が手をかざすと、食糧の山はアイテムボックスに消えていく。魔王はそれを見ながら、驚きの声を……
「そちらの麦は、さっきの麦と違いまして……」
いや。なにやら説明しながら、勇者の邪魔をしていた。勇者は苦笑いで説明を聞き、なんとか入れ終わると魔王を担いでミニンギーに向けて走るのであった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる