攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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08 魔族と人族

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『第一作戦成功です! 続いて、捕縛作戦に取り掛かってくださ~~~い!』
「「「「「おおおお!!」」」」」

 魔王の叫びを聞いた魔族軍は大声で応え、津波で瓦解した次兄軍に迫る。

 先頭を走るは姫騎士、勇者ペア。おんぶで敵陣深々と侵入すると、剣を拾って向かって来る次兄兵が少なからず居る。
 そんな輩は、姫騎士が峰打ちで斬り倒す。勇者はと言うと……姫騎士の後ろにピッタリくっついて気持ち悪い。

 それに続くは人族兵。向かって来る次兄兵を複数で囲み、極力降伏を呼び掛け、応じない者は捩じ伏せる。

 最後に追うは魔族兵。戦いは人族兵に任せ、津波で倒れた兵士や奴隷を拘束し、無力化していく。

 向かって来る者は次兄軍の三割程度なので、次兄軍は魔族軍に圧倒され、開戦から小一時間で終局する事となった。
 だが、指揮官であるはずの次兄が見付からず、勇者と姫騎士はどこに行ったのかと話し合う。

「どこにも居ないな」
「あの津波だ。兄様は森の中まで流され、逃げているのかもしれない」
「あ~。それは厄介だな」

 勇者と姫騎士がどうしようかと悩んでいると、レオンが部下を連れて追い付いて来た。

「勇者様。指揮官は見付かったか?」
「それが森に逃げたみたいなんだ」
「森か……だったら、この者を連れて行けば、見付かるかもしれない。イーナ。同行してやれ」
「は、はい!」

 レオンの言葉に、頭から耳が生え、尻尾を振る白髪の女性が前に出る。

「獣人?」
「いや。フェンリルだ。昔は狼そのものだったらしいけど、いつしか獣人のようになったようだ」
「フェンリルなら、においで追ってくれそうだけど……」
「大丈夫だ。血を引いているから、狩りでは優秀だぞ」
「なるほど。じゃあ、行こうか」

 勇者と姫騎士は簡単な紹介を聞くと、イーナを伴って森に入る。森に入るとイーナは耳をピクピクさせ、鼻をヒクヒクし、痕跡を探しながら歩く。
 しばらくすると、集団が北に向かった痕跡を発見し、勇者に報告を入れる。勇者と姫騎士は頷き、イーナを先頭に森を駆ける。
 しかし、狼の身体能力を持つイーナと、驚異的な身体能力を持つ勇者から姫騎士が遅れる。いくら足が速いと言えど、足場が悪く、障害物が多い森では、二人について行くには難しい。
 なので勇者がおんぶし、イーナに楽々ついて行くが、そのせいで今度はイーナが自信喪失。尻尾が下を向いた。どうやら、森では誰にも負けないと思っていたようだ。



 探索を始めて数十分。イーナが鼻をヒクヒクさせ、停止を促す。なので勇者は歩みを止めて姫騎士を降ろす。

「見付かったか?」
「はい。この先に5人組がいるです」
「当たりか外れかわからないけど、襲ってみるか。それで、イーナも戦うのか?」
「わ、私は無理なのです!」
「狩りが出来るなら、人族ぐらい大丈夫じゃないか」
「いえ……。私達の狩りは基本、罠による狩りなので、戦うのは……」

 どうやら、罠を張って待つか、追い込むかの方法でしか、狩りをした事がないようだ。魔族は徹底して戦いから遠ざかっているので、二人も苦笑い。
 結局、姫騎士をおんぶした勇者の突撃で強襲する事となった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 勇者が次兄達を見付けるその少し前、次兄は四人の騎士を連れて森を逃げていた。

「くそっ! くそ~~~!!」
「殿下。静かに……追っ手に気付かれてしまいます」
「誰のせいで!! ……くそっ」

 次兄は悔しさのあまり喚き散らしていたが、騎士の言葉で見付かる危険性を思い出し、声を小さくする。だが、それでもブツブツ愚痴を口走り、道が歩きにくいだとか、疲れただとか言って、騎士を困らせる。
 次兄のせいで逃げる速度は遅くなり、逃走からおよそ一時間、後方からガサガサと、枯れ木を踏む音が凄い早さで聞こえて来た。

「なんだこの音は……」
「で、殿下。私どもの後ろに隠れてください!」

 次兄は不思議に思っただけだが、騎士は迫る速度に逃げ切れないと判断し、次兄を下がらせて剣を抜く。

 騎士が次兄を背に、囲むように陣形を組むと、追っ手が姿を現す。

「お! 見たことがある顔だ」
「ああ。ゲーアハルト兄様だ」

 次兄達の手前で急停止した勇者は、おんぶしていた姫騎士を降ろす。そのやり取りを見た、次兄は声を大にして叫ぶ。

「き、貴様はあの時の!? それにクリスティアーネ!? お前! 生きていたのか!?」

 次兄、驚き過ぎだ。勇者を指差して叫んだかと思うと、姫騎士を幽霊を見たかのように叫び、交互に視線を送る。
 次兄の叫びに、勇者は頭を掻きながら質問に答える。

「こいつが戦争下手なバカ兄貴?」
「テレージア! ついて来てたのか!?」

 その前に、ふわふわと現れたテレージアに驚いた。

「いや~。気になって、ついて来ちゃった」
「お前な~。怪我している人もいるんだぞ」
「仲間に任せて来たから大丈夫よ!」

 テレージア……そう言う事ではない。

「ついて来たのならば、仕方がない。早く兄様を捕らえて戻ろう」

 姫騎士も呆れながら言っているぞ? だが、勇者達のやり取りは、次兄が我に返る時間には十分だったようだ。

「俺様を捕らえるだと……クリスティアーネ。お前は何をしている! 敵はその男だ!!」
「兄様。私は……」
「まだわからないの? ホントバカね~。姫騎士は魔族の側についたのよ」
「チビの妖精が、俺様にバカバカ言うな!」
「バカだからバカって言ってるのよ。バーカバーカ!」

 うん。テレージア絶好調。だが、いまは邪魔だ。

「テレージア殿……忙しいので、それぐらいにしてくれないか?」
「あ、うん。向こうで見てるわ」

 ほら、怒られた。さすがの姫騎士も、台詞を取られて怒っているようだ。

 そうして邪魔者のテレージアは、パタパタと姫騎士達から離れるのであった。
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