82 / 187
08 魔族と人族
081
しおりを挟む次兄と口喧嘩して邪魔だったテレージアが離れると、姫騎士は覚悟の目で次兄を見つめる。
「兄様。聞いた通り、私は魔族側につきました。いえ……魔族に協力してもらい、人族の女王となります」
「お前が女王? 笑わせてくれる。父上がそんなこと、許すわけないだろ!」
「ですから、奪い取るつもりです」
「奪い取るだと……。人気だけで、なれるわけがないだろ……あ!」
次兄は何か思い付いたようで、ニヤニヤした顔に変わった。
「俺様が皇帝になってやろうじゃないか? そうすれば、腹心として、重宝してやろう。男系が皇帝となる我が国の法律があるのだから、損な取引じゃないだろ?」
虎視眈々と狙っていた玉座。チャンスが来たのだと、嬉々として姫騎士に問い掛ける。その問いに、姫騎士は首を横に振る。
「何故だ?」
「兄様を皇帝になどにしたら、我が国が滅びてしまうからですよ」
「俺様以上に適任者がいるか!」
「まだわからないのですか……奴隷であっても我が国民です! それを武器も持たせずに死地に追いやろうとするなんて、皇帝のすることですか!!」
「ぐっ……」
姫騎士の怒声に、次兄は畏縮する。しかしそれも一瞬で、すぐに立ち直る。
「聞いていたな! 妹は魔族に寝返った。帝国に対しての完全な反逆だ。我が名の元に刑を執行する。死刑だ~~~!!」
「「「「……はっ!」」」」
姫騎士の死刑と聞いた騎士は戸惑うが、最高指揮官の言葉には逆らえず、剣を構える。それを見て、姫騎士も刀を抜いて構える。
「そっちの男は剣は効かないぞ。取り押さえて縛れ!」
騎士と姫騎士の距離がジリジリと迫る中、勇者の頑丈さを思い出した次兄の指示が飛んだが、無意味。力が強い事を忘れている。
飛び掛かる二人の騎士を、勇者は避けようともせずに抱きつかれてしまうが、潰れることはない。逆に追い掛ける必要が無いので、ラッキーと突っ立ったまま、姫騎士の戦闘を観戦する。
姫騎士の相手の二人の騎士は、距離が詰まると片方が斬り付け、姫騎士が避けると時間差で、もう一人が斬り付ける。そのせいで姫騎士は防戦となるが、徐々にスピードに慣れると、タイミングを合わせて反撃。
鎧に守られていないむき出しの腕に峰打ち。その一撃で一人の騎士は剣を落とす。もう一人の騎士は、刀を振って姫騎士の止まった瞬間を狙ったが、今まで本気で動いていなかった姫騎士には掠りもしない。
避けたと同時に腕を殴って、こちらも剣を落としてしまう。騎士は痛みを堪えて剣を拾うが、利き腕は使い物にならなくなったようだ。
「まだやると言うのなら、次は逆の腕を斬り落とす。私はそなたらを殺したくない。降参してくれないか?」
姫騎士の優しい目で見つめられた騎士は、剣が下がっていくが、次兄がそれを許さない。
「お前達! 俺様の命令に背くのならば、全員死刑だ! 俺様を国に戻さなくても死刑だからな!!」
次兄の言葉を聞いた騎士は、お互いに目を見合わせ、悩んでしまう。そんな中、黙って騎士達に抱きつかれていた勇者が、のほほんとした声を出す。
「姫騎士に勝てないんだから、どっちみち死刑だな。でも、姫騎士は優しいから、死刑なんかにしないぞ。こっちについたほうがいいんじゃないか?」
勇者の質問に、騎士はその手があったと思ったのか、勇者に抱きつく力が弱くなった。
「貴様~~~! 父上が動けば魔族など、10万の兵に押し潰されるんだぞ。その時は、どうなるかわからないのか!!」
「お前がバカな事はわかったぞ」
「貴様まで俺様をバカにするのか!?」
「だってな~……敵将を逃がすわけないだろ?」
「くっ……近付くな!」
勇者は騎士を軽く振り払い、話ながら次兄に歩み寄る。その表情は怒っているように見え、次兄も後退る。
「かわいい妹を殺そうとするなんて重罪だ。死んで欲しいぐらいだ」
やはり勇者は気持ち悪い理由で怒っているようだ。でも、姫騎士の前では言わないほうがいい。顔を赤くして怒っているぞ。
「私が、かわいい……」
ん? 照れて顔が赤くなっているようだ。その中でも勇者は次兄に迫り、次兄はついに走り出す。だが、勇者のダッシュで簡単に追い付かれ、後ろ向きに抱き抱えられた。
「お、降ろせ!」
「あ~。前にも同じ事を言っていたな」
「さっさと降ろせと言っているんだ!」
「じゃあ、俺も同じ事を言ってやる。お仕置きの時間だ」
「お仕置き……」
次兄は10メートルの高さの壁に置き去りにされた恐怖を思い出し、顔が青くなる。
「ま、待て! 話し合おうじゃないか。俺様が皇帝となった暁には、お前の地位も保証してやる。貴族として土地もくれてやるぞ!!」
「そんな物に興味ない」
「では、何が欲しいんだ?」
「妹が居れば、それでいい」
「そうか! クリスティアーネが欲しいんだな?」
「それはお前の妹だろ? 俺は俺の妹が欲しいんだ」
「は??」
うん。シスコンならではの答え。次兄も「何を言ってるんだこいつ」て、目で見ている。
「そろそろお仕置きの時間だ」
「待て! 何をする気だ!!」
「たかいたか~い!!」
「ぎゃ~~~~!!」
勇者は次兄の質問に答えず、力いっぱい放り投げる。ほのぼのとした勇者の言葉に続き、次兄は悲鳴をあげて高速で上昇し、天高く輝く星となったとさ。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる