攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
83 / 187
08 魔族と人族

082

しおりを挟む

 次兄が空に浮かぶ星となった直後、その場に居た者は空を見上げて言葉を失う。そしてしばらく空を見上げていると、黒い点が見え始める。
 森の中では正確な落下点に移動出来ないと判断した勇者は、高く跳んで木に登る。
 その後、落下して来た次兄は勇者に空中でキャッチされ、着地すると勇者の足は地面に埋まる事となった。

 大きな音を出して着地した二人を心配して、姫騎士や次兄の騎士も勇者の周りに集まる。

「勇者殿! 足は大丈夫か?」
「ああ。ちょっと埋まっただけだ」
「ちょっとって……膝まで埋まっているじゃないか」
「思ったより地面が柔らかかったな。よっと」

 勇者は地面から力ずくで足を抜き、抱いていた次兄を降ろして縄で拘束する。騎士達は次兄を救い出そうと考えるが、自分が空を飛ぶ事を想像してしまい、足が出ないようだ。
 それを見兼ねた姫騎士は、騎士達に語り掛ける。

「騎士として、仕える主君を守るのも結構だが、すでに勝敗は決した。諦めて降参してくれないか? 頼む」

 姫騎士が頭を下げると騎士達は頷き合って、剣を差し出す。姫騎士はその剣を笑顔で受け取り、感謝の言葉と共に握手をする。その時、騎士は顔を赤くしていたが、こんな時に何を考えているんだか……
 念の為、騎士の腕は縛り、テレージアにイーナを呼び寄せてもらって合流すると、勇者が次兄を担いで森の出口に向かう。

 森はそこまで深く入っていなかったので、すぐに森から出る事が出来た。ここで勇者は馬車を取り出して皆を乗せるが、騎士達の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
 馬が居ないのに、どうやって動かすのか……もちろん勇者だ。凄い速さで移動する馬車に、さらに多くのクエスチョンマークを付ける騎士達。ちなみにイーナは自分より速く走る勇者を睨んでいた。

 ウーメラの町が見えて来ると、門に向かって走る。魔族軍はすでに町を占拠していたので、門兵に挨拶してそのまま中に通してもらう。門兵は何か言いたげだったが、馬車馬の勇者の事だろう。
 すれ違う魔族から魔王の居場所を聞いた勇者は、町の中央にある役場に馬車を横付けして皆を降ろす。


 魔王達が会議をしている会議室に案内してもらった勇者と姫騎士は、捕虜の兵士をどこで拘留しているかを聞くと、騎士達の処置をする為に、姫騎士だけ会議室から離れる。
 その後、勇者とテレージアの前に、お茶が並ぶと魔王が音頭を取って会議を執り行う。

「まずは、町の壁をなんとかしないといけませんね。スベンさん。何日ぐらい掛かりますか?」
「ミニンギーと同じくらいの穴の数なら、二日ってところでしょう」
「でしたら、二日の滞在の後、進軍となりますか……」

 魔王達の会議をお茶をすすって聞いていた勇者は、進軍と聞いて珍しく案を出す。

「魔界に居る人族兵はこれで全部だし、少ない人数でいいんじゃないか?」
「あ、そうでした。お兄ちゃんが町の人に説明してくれたのでしたね」
「そうだ。まぁ酒場のオヤジしだいだけど、姫騎士が居れば、町の者も素直に話を聞いてくれるだろう」

 勇者の案に納得した魔王は、キャサリの町に連れて行くメンバーを話し合って決める。そうしていると姫騎士が会議室に戻り、会議に参加する。
 明日の朝、出発するメンバーが決まると、姫騎士が奴隷だった者と次兄の処置を提案する。

「奴隷魔法を使える者に、奴隷を解放してもらいたいのだが、いいか?」
「はい! 皆さんが自由になれるなら、私に許可なんて必要ありませんよ」
「いや。私は現在、魔族軍に所属しているのだから、最高責任者の魔王殿を立てないわけにはいかないだろう」
「私達の関係は友達でもいいのですが……」
「有り難い申し出だが、これだけは譲れない」
「そうですか……わかりました。許可します」

 魔王が残念そうにすると姫騎士は笑顔で返してくれたので、魔王は少し気分が良くなったみたいだ。

「それと同時に、兄様には奴隷魔法を使おうと思うのだが、どうだろう?」
「お兄さんをですか。どうしてですか?」
「兄様は奴隷を軽んじているようなので、同じ気持ちを味わってもらいたいのだ。もちろん、それで刑罰は軽くするつもりはない。事が済めば、裁判を開くつもりだ」
「そうですか……わかりました。姫騎士さんの好きにしてください」
「はっ!」

 仰々しく返事する姫騎士に魔王はあわあわとやめてくれと言うが、姫騎士は魔王の焦った顔を見る為に、わざとやったようだ。魔王の友達発言が嬉しかったのであろう。
 それからも、時々魔王の困った顔を見る為に、仰々しい態度で接する姫騎士であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...