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08 魔族と人族
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しおりを挟むとばっちりで怒られていた勇者であったが、切り倒した木をアイテムボックスに入れると、人族達から走って逃げる。
そして、キャサリの外壁近くに集められた木の置き場に近付くと、エルフのエルメンヒルデが人族と一緒に作業をしている姿があった。
「あら、勇者様。私に会いに来てくれたのですか?」
「い、いや。木を持って来たんだ」
ぐいっと来るエルメンヒルデに、まだ慣れていない勇者は後退る。
「ここに出したらいいのか?」
「はい?」
そして勇者……離れすぎだ。エルメンに声が届いていないぞ。さすがに勇者も気付いたようで、ほどほどの距離まで近付くとエルメンの指示する場所に木を取り出すが、思っていたより大量だったので驚ろかす事となった。
「これは私達だけでは手に余りますね」
「そうなのか?」
「乾燥させる人員が私しかいませんからね。いまは人族の方が枝を切り落としてくれているのですが、それも足りません」
「なるほど。姫騎士とサシャに、人員補充できるか聞いて来るよ」
「お願いします」
勇者はエルメンヒルデと話を終わらせると、姫騎士を後回しにして、魔王に会いに行く。いや、魔王に会いたいから会いに行く。
匂いを辿れば、街の外で建築作業をしていた魔王をすぐに見付けたようだ。相変わらず気持ち悪い特技だ。
「サシャ~~~」
大声で寄って行く勇者も気持ち悪い。
「そんなに急いでどうしたのですか?」
「サシャに会いに……じゃなく、エルメンが人員を補充して欲しいって言っているんだ」
勇者はエルメンヒルデとの話を伝えると、魔王は少し考えてから答える。
「そんなに木が切り出されているのですね。魔族からは出せないので、姫騎士さんに掛け合ってもらえますか?」
「まぁこの人数じゃ仕方ないか。でも、もう大きな家が建っているんだな」
「これは人族の兵隊さんの宿舎です。単身者が多いようなので、部屋割りは多くして、一棟に三百人は収容できるようになっています」
「へ~。そんなにあっと言う間に出来るなんて、土魔法様々だな」
「まだ外観だけですけどね。これから中に取り掛かるので、完成は夕方頃でしょうか」
「そっか。サシャも忙しいんだな。それじゃあ、姫騎士の所に聞きに行ってくるよ」
「あ、待ってください」
「ん?」
「姫騎士さんの所に行くなら、あっちでお弁当を作っているので、持って行ってくれませんか?」
「わかった」
勇者は後ろ向きに歩き、手を振る魔王をずっと見て歩き続けるが、魔王は一向に前を向いて歩かない勇者に気持ち悪くなったのか、建物の中に消えて行った。
魔王が見えなくなると勇者は残念そうに前を向き、魔王が指差していた場所でお弁当を受け取り、姫騎士の元へ走る。
「姫騎士~。サシャから弁当の差し入れだぞ~」
「もうそんな時間か。全員、集合させてくれ」
姫騎士はベティーナに声を掛け、勇者と共に休憩の準備をする。と言っても、勇者の出した大きな布の端を持って広げるだけ。布が広がると、アイテムボックスからお握りと漬物がセットとなったお弁当を取り出す。
集まった人族兵は、隊長クラスが整列させ、お弁当と魔法使いが出した水をコップに入れて渡す。
勇者もここで食事を済ますようなので、切り株を椅子にして食べ始めると、姫騎士も同じ切り株に腰掛ける。
「うん。うまいな」
「みんな普通に食べてるけど、人界にも米はあるのか?」
「少ないが、一部の小国で生産されているぞ。まぁここに来てから何度も食べているから、最初ほど戸惑ったりしていないよ」
「そっか」
世間話をしながら勇者は二個目を口に入れると、エルメンからのお願いを思い出し、兵の配分を話し合う。
あれからも木は切り倒されて増えているので、かなりの人数をエルメンの元へ送るようだ。魔法使いも多く送って、エルメンから乾燥魔法も習うように指示を出していた。
食事を終えた勇者が木をアイテムボックスに入れていると、森を切り分けている方向から騒ぎ声が聞こえて来る。
人員配置を話し合っていた姫騎士も気付いたようで、勇者と頷き合って騒ぎの元へ走る。
「ブラッディーベアか」
「でっかい熊だな~」
現場に到着すると、全長10メートルを超える赤毛の熊が、兵士と睨み合っている最中であった。
「音に驚いて出て来てしまったか」
「だろうな。縄張りを侵されるかと思っているのかもな。どうする?」
「これから何度も現れても時間が取られるし、討ち取ってしまおう」
「じゃあ、俺が頭を押さえるから、トドメをよろしく」
「おう!」
勇者を先頭にして二人で走り、姫騎士は道を開けろと声を張りあげる。兵士達は防御を優先してゆっくり下がり、姫騎士の合図で両側に別れる。
その間を勇者と姫騎士が駆け、ブラッディーベアと対峙する。勇者がさらに近付くと、ブラッディーベアは威嚇の声を出し、腕を振り下ろした。
姫騎士はその攻撃を止まって見ているが、勇者は珍しく避ける。攻撃を避けた勇者はさらに踏み込み、拳が届く距離に入って攻撃する。
ガブッ!
「「「「「はあ?」」」」」
もちろんブラッディーベアがだ。勇者の拳が届くと言う事は、ブラッディーベアの牙も届く距離。見事に勇者は噛まれ、兵士達は攻撃すると思っていたので惚けた声を出す。
しかし、頑丈な勇者にその牙は効かない。その上、ブラッディーベアが噛んだまま持ち上げようとしても【不動】の効果でピクリとも動かない。
「もらった~!」
兵士は何が起きているかわからなかったが、姫騎士は別だ。ブラッディーベアの頭が下がっているのは絶好のチャンス。飛び上がり、刀を突き刺す形で頭に飛び乗る。
「ガァァーーー!!」
「おっと」
ブラッディーベアは痛みで頭を振り上げようとするので、勇者はさせまいと暢気な声を出して牙を掴み、頭を固定する。
姫騎士も振り落とされないように刀を掴んでいたが、足場がしっかりとした瞬間に、刀をさらに捩じ込む。
その攻撃で、ブラッディーベアは脳を破壊され、沈黙する事となった。
「お疲れさん」
「いや、これほど簡単にトドメを刺せたのは、勇者殿のおかげだ」
「俺は何もしてないよ。姫騎士の腕だ」
二人はお互いを称えあっていたが、勇者が噛まれた事によって混乱していた兵士は復活し、勇者に詰め寄る。
どうして無事なのか、どうして避けないのか、いったい何者なのかと……
「頑丈な勇者だからだ」
その答えは、よけい混乱させるからやめたほうがいい。結局兵士達は、姫騎士に怒られて仕事に戻って行くのであった。
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