攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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09 帝国

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 サシャの部屋に訪れた長兄は、ウサギパジャマを褒めるのに失敗してしまう。そのせいでぷりぷりしてしまったサシャをヨハンネスと共に宥める事となり、ようやく機嫌が直ったところで本題に入る。

「明後日には出発する予定だが、問題ないか?」
「ないっしょ~!」

 長兄の質問に、サシャはノータイムで答えるが、長兄には心配事があるようだ。

「明日の予定を聞いておこうか」
「監視でもしようって言うの?」
「いや。今日の様な事があるのなら、各所に協力要請を出そうと思ってな。次の日の出発に支障が出るかもしれないから、早めに手を打っておきたいのだ」
「そゆことね。毎日は仕事をしない主義だから、明日は休むしぃ」
「……本当だな?」
「信用ないしぃ!!」

 そりゃ今日の出来事のあとなんだから、疑った目を向けられるのは仕方がない事だ。

「あ……必要な物の買い出しなんかをしないのかと思ってな」
「『あ……』って言ったしぃ!!」

 沈着冷静な長兄も、さすがにしどろもどろとなってしまう。これもサシャの性格が悪いのだが……

「必要な物があるなら、出来るだけ準備はするぞ」
「ほとんど持ってるから、酒と食べ物ぐらいかな?」
「それは軍が運ぶから、サシャが用意する必要は無いな」
「あ! 馬を用意して欲しいしぃ」
「馬?」
「ライナーの馬車じゃ乗り心地が悪いから、自分の馬車に乗ってくしぃ」
「自分の馬車なんて何処にあるのだ?」
「収納魔法だしぃ」
「……わかった」

 ニシシと笑ってピースするサシャに、質問する気を無くした長兄は、約束してから部屋を出る。
 その時、ヨハンネスも部屋から出て行ったが、小さくガッツポーズしていた。いや、心の中は阿波おどり状態。よっぽどサシャの椅子にはなりたくないのであろう。


 翌日は予告通り、部屋で休むどころか部屋から一歩も出ず、ウサギパジャマのままベッドでコロゴロするサシャ。ヨハンネスがやって来ても適当にあしらって、本を読み続ける。
 ヨハンネスは本の内容が気になったようなので借りていたが、顔を青くして投げ捨てた。健康的な男子の読む本ではなかったようだ。
 三食の食事も部屋まで運ばせてゴロゴロと食べ、ヨハンネスにはしたないと怒られていたが、刀で脅すのはかわいそうだからやめて欲しい。
 夜になるとヨハンネスはお守りから解放され、誰も居ない部屋で、酒を片手に愚痴を吐き続ける。


 そして翌朝、城の広場に騎士や兵士が集められ、サシャとヨハンネスも参加する。そこで長兄は出陣の挨拶をし、暇なサシャは真面目に聞いているヨハンネスに話し掛ける。

「ねえねえ? 話し長くね?」
「しっ! いま始まったところだろ」
「だってウチ、関係ないしぃ」
「大有りだ! サシャがかなめだろ!!」
「あ、ライナーが睨んでるしぃ」
「うっ……頼むから静かにしてくれ」
「なんか面白い話してくんない?」
「………」

 返事が無い。無視をする事に決めたみたいだ。

「じゃあ、あんたの愚痴を聞いてあげるしぃ」
「………」

 返事が無い。長兄に睨まれたくないのだろう。

「だ~れ~が~馬鹿勇者だって~? だ~れ~の~頭が空っぽだって~?」
「!!?」

 返事が無い。誰も居ない部屋で愚痴っていたのを聞かれて驚いているのだろう。

「だ~~れ~~の~~胸が無いんだって~~~~~~?」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 返事があった。サシャの殺気が怖かったのであろう。ただし、恐怖で声が小さくなり、ブツブツと謝罪し続けるので、長兄に睨まれたのはサシャだけであった。

 その後、出陣の挨拶の終わった長兄は、サシャとヨハンネスを叱りつけるが、謝るのはヨハンネスだけ。サシャはと言うと、腕を頭の後ろで組んで口笛を吹いていた。
 まったく聞く気の無いサシャに呆れて、長兄は馬車の件を質問する。

「それでサシャの馬車を出してくれるか?」
「オッケ~! ちょっと離れててね~」

 サシャは呪文を唱えると、一人乗りの馬車。いわゆるチャリオットが出現する。ただのチャリオットでは無く、縦長の屋根付き。サシャが横になって走る分には、まったく支障がない馬車だ。

「変わった馬車だな」
「揺れが少ないし、寝てても進めるしぃ! でも、運転が出来ないんだよね~」
「そうか……馬はヨハンネスが操れ。いいな?」
「はっ!」

 ヨハンネスも馬車がいいのだろうが、サシャの椅子にされるぐらいなら、馬に乗って移動したほうが楽であろう。それに貴族と言っても、騎士。馬の扱いには手慣れた物だ。
 チャリオットと馬を繋ぐと、長兄の馬車に合わせて発車。チャリオットにも重量軽減のマジックアイテムが使われているので、ヨハンネスを乗せた馬は軽々と馬車を引く。

 城を出て、町を走り、帝都を出ると七万の兵と合流。もう少し時間があれば、他国から三万の兵が着いていたのだが、サシャのせいで待つ時間は無かった。

 こうして第二次魔界攻略に挑む帝国軍は、勇者サシャと言う強い味方を加えて、出陣したのであった。
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