攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
106 / 187
10 勇者VS魔王

105

しおりを挟む

 サシャによって手に入れた人族兵の処置が終わる頃には日が完全に落ち、遅ればせながら姫騎士は四天王の揃う役場に顔を出す。
 もちろんサシャもついて来て、会議室で偉そうにふんぞり返って座り、ヨハンネスもサシャの真後ろに立つ。

「いちおう人族兵は落ち着かせたが、サシャ殿が言いたい事があるようだ」

 姫騎士の言葉に、四天王のおっさん三人は、恐る恐るサシャを見る。

「兄貴と魔王はどこにいるしぃ! まだ抱き合っているって言うのなら、暴れるしぃ!!」

 現在、勇者と魔王は役場の一室で抱き合って眠っている。その事を熟知している三人は、額に汗を浮かべながら嘘をつく。

「も、もう離れているだ~」
「そ、そうだぞ。ま、魔王様も反省している」
「ええ。ですが、疲れたようなので、二人とも眠っています」
「嘘っぽいしぃ!」

 嘘を言い慣れていないおっさん達では、一発で見破られたみたいだ。いや、スベンは冷静沈着な性格なので、レオンとミヒェルが悪いのであろう。
 スベンは二人をキッと睨み、目で黙っているように言い聞かせ、サシャに語り掛ける。

「嘘ではありません。その証拠に、魔王様を起こして参ります」
「う~ん……」

 スベンは賭けに出た。こう言ってしまえば、サシャも確認を取らないのではないかと……

「じゃあ、さっさと連れてくるしぃ」
「は、はい……」

 そして負けた。賭け事なんかした事がないのだから、負けてしまっても致し方ない。
 スベンは渋々立ち上がるが、女性である魔王を無理矢理起こすのは気が引けるのか、姫騎士を誘って魔王達の眠る場所へと移動する。


「まだ抱き合っているじゃないか!」
「面目ありません」

 姫騎士もさすがにもう離れていると思っていたのか、驚いた声を出す。

「ゆ、勇者殿は息をしているか?」

 そして、ピクリとも動かない勇者を心配する。それは当然。勇者は今まで三度、目を覚ましたが、目覚めた瞬間魔王の顔がすぐ近くにあったので、その都度、気絶を繰り返している。

「おそらくは……ひとまず姫騎士さんは、寝ている魔王様を引き離してくれますか?」
「あ、ああ」

 魔王が喚き散らさない今が絶好のチャンスとばかりに、姫騎士は魔王を抱き抱えて会議室に連行する。そうしてサシャの目の前に座らせ、スペンはこの通り寝ている旨を伝える。

「ふ~ん……。ま、これでいいや。ごくろう」
「はあ……」

 偉そうに振る舞うサシャに、一同、どう接していいか悩んでいると、魔王が目を覚ました。

「ん、んん……」
「起きたか」
「姫騎士さん?」

 目覚めた魔王に姫騎士が声を掛けると魔王は辺りを見渡し、目の前のサシャの顔を見て、目を止める。

「鏡?」
「似てるけど違うしぃ!」
「え……あなたは……お兄ちゃん!!」

 事態を思い出した魔王は勇者を探そうと立ち上がるが、姫騎士に抱き締められて動きを止める。

「もう大丈夫だ。サシャ殿は勇者殿を連れ去ろうとはしていない。それよりも、魔王殿は心配する事があるであろう?」
「お兄ちゃん以外……あ! 人族軍はどうなりましたか! どちらにも怪我はありませんでしたか!?」
「ああ。サシャ殿が穏便に処理してくれた」

 姫騎士に喰い掛かる魔王を優しく宥め、これまでの経緯を説明する。そうすると、魔王も冷静さを思い出し、サシャへとお辞儀をする。

「サシャ様。この度は魔族にご尽力いただき、有り難う御座いました。当代の魔王ステファニエ、切に感謝を述べさせていただきます」

 サシャは丁寧に謝辞を述べる魔王を見て、頭を掻きながら応える。

「もういいしぃ」
「いえ。失礼な態度もとったようで、申し訳ありませんでした」
「ウチも久し振りに兄貴に会ったから、少し熱くなってしまったしぃ。でも、なんであんなバカ兄貴に必死で抱きついていたの?」
「それは……勇者様はこの戦争の要なので、手放す事はしたくないからです。ここまで盛り返す事が出来たのも、全て勇者様のおかげです」
「あのバカ兄貴が!? 嘘だしぃ!!」

 勇者の活躍をまったく信じないサシャに、魔王は勇者召喚をしてからの今日までの出来事を話して聞かす。

 そうして、全てを聞き終えたサシャは、大きな声を出す。

「全然戦ってないしぃぃぃ!!」

 そう。勇者は壁を壊したり、走ったり、敵将を拉致って来ただけで、戦う事はした事がない。そりゃ、サシャにツッコまれるよ。

 皆もその声に納得してしまい、苦笑いをするだけであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...