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16 追憶(移動)
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しおりを挟む「もう勝手にしてくれ。ただし、戦闘が起きた場合は、私の指示に従ってもらうからな?」
双子勇者の行動に辟易したバルトルトは早くも諦めた。
「なんか疲れた顔だしぃ」
「誰のせいでこうなったかわかっているのだろう?」
「……兄貴??」
「お前もだ!!」
本気でわからないといった顔をするサシャを一喝すると、バルトルトは寝床である馬車に去って行った。その後、お腹いっぱいになったサシャは、勇者にシャワールームを取り出させる。
サシャが土魔法で作ったので頑丈だが、勇者の力には対抗しきれないので、ここは甘えた声で「誰かが覗こうとしたら助けてくれしぃ」と言って排除する。
勇者は最愛の妹のお願いなので、「がるるぅぅ」と唸りながらシャワールームの周りを高速回転していた。
周りで見ている者も居るのだが、サシャが箱の中に入って勇者がひたすら回っているだけなので、いまいち何をしているかがわからないようだ。
そうしてシャワーを浴びたサシャはきれいさっぱりとなり、荷車のクッションで眠ろうとするが、勇者が顔を覗き込んで来るので「ギャーギャー」文句を言う。
その声を聞き付けたわけではないが、サシャの見張りの時間が来たと女性が呼びに来た。サシャは勇者に見られるくらいなら見張りに移動し、置いてけぼりになった勇者はしょんぼりして寝袋で眠る。
翌日早くに出発した義勇兵は、バルトルトからとある指示が出ていた。
「サシャとバカ兄貴に近付くな!」
この指示が出た事によってバルトルトの心労が減り、順調に行軍は進む。双子勇者は自前の食料を持っているので休憩の際には隔離し、離れて食事をさせる。
好きにさせている代わりに、夜の見張りはサシャの担当となった。
バルトルトは何か文句を言ってくるものだと思っていたが、サシャは勇者が寝顔を覗き込んで来るよりは、仕事をして離れるほうが心穏やかに過ごせるので快く受け入れてくれた。
翌日は勇者の引いた荷車で眠る事ができるので、勇者と喋る機会も減って、ちょうどよかったのかもしれない。
そうして王都を出発して三日後、お昼休憩を済ませてしばらく進むと、街道沿いにゴブリンが現れた。
バルトルトは先見に出していた騎士から報告を受けると、馬車を停車して義勇兵を全て降ろす。
「お前達、この先にゴブリンがいるぞ。馬車の行軍に飽きた頃だろう? 誰かやりたい者はいるか?」
バルトルトの言葉に真っ先に反応したのは、試験の際に、サシャにからんで来ていたゲオルフ。それに続き、義勇兵から次々と手が上がる。
それを見て、バルトルトは一度頷くが、気になる人物に目を移す。その人物は、荷車に横になったまま話を聞いていた。
「サシャは、あんなに戦いたがっていたのに行かないのか?」
「う~ん……却下!」
「却下だと?」
「ゴブリンっしょ? 百匹ぐらい居たらやる気も出るんだけど、六匹じゃつまんないしぃ」
「六匹? 私はまだ数を伝えていないのに、わかるのか?」
「まぁね~」
「探索魔法も使えるのか……しかし、鍛練が足りないな。ゴブリンは五匹だ」
「え~! 絶対、六匹だしぃ!!」
サシャは確信を持って意見するが、バルトルトは聞く耳持たず。ゲオルフをリーダーに任命し、十人の義勇兵で確実に仕留めさせる。
配役が決まると、バルトルトの合図で十人の兵を先頭に全軍前進。ゴブリン達を視界に収めると十人は駆け、その他は停止する。
それらの指示が終わったバルトルトは馬車から降り立つと、前方を見据えて戦闘を見守る。
十人の兵が戦闘区域に入る中、荷車を引いた勇者がバルトルトの隣に立った。
「何か用か?」
「俺はない。サシャが用があるんだって」
「はぁ……なんだ?」
勇者の返事に、バルトルトはため息を吐きながらサシャを見る。
「様子がおかしくね?」
「どこがだ?」
「これだけ数の差があるのに、ゴブリンは逃げるどころか向かって来てるしぃ」
「確かにな……だが、ゴブリンは頭が悪いから、焦って向かって来ているのだろう」
「……ゴブリンをあんまりナメないほうがいいしぃ。たぶん六匹目が何か指示を出したんだしぃ」
「まだ言っているのか。六匹目は居ないし、ゴブリンはそんな統率された行動はしない」
「するしぃ!」
サシャの意見はバルトルトに聞いてもらえない中、勇者がサシャの味方をする。
「居るぞ。ゴブリンライダーだ。逃げようとしているみたいだな」
「あ~……先見隊だしぃ」
「は? お前達は何を言っているんだ?」
「見えないのか? あそこにいるだろ?」
勇者は指を差すが、バルトルトは何も見えない。勇者の驚異的な視力には、ついて行けないようだ。
「逃がすと厄介だし、ちょっち行って来るしぃ」
「気を付けるんだぞ~」
「ま、待て……え??」
勇者がのほほんと注意を促すが、サシャは無視して空を舞う。大声で止めようとしたバルトルトは、突然浮いたサシャに驚いて止められなかった。
「空中浮遊魔法か……」
「そうだ。サシャは俺の元に舞い降りた天使さんなんだ~」
驚きながらもサシャの魔法の正体を突き止めたバルトルトの呟きを聞いて、勇者は気持ち悪い顔で返事をする。
バルトルトはその言葉の意味がわからなかったので勇者を見たが、うっとりする勇者が気持ち悪かったのか、視線を前方に戻すのであった。
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