157 / 187
20 帝都攻め 1
157
しおりを挟む「うぅぅ。楽しくなって来たところだったのに~」
アンコールを二曲歌い終えたサシャは、一曲だけだと聞いていた姫騎士、魔王、コリンナに羽交い締めにされ、ステージから降ろされて愚痴っている。
「も、もう兵士も疲れているのだから、勘弁してやってくれ!」
「うぅぅ……あ!」
恨めしそうに姫騎士を見ていたサシャだったが、いらぬ事を思い付いたようだ。
「ウチとアイドルユニットを組んでくれしぃ!」
「アイドルユニット??」
「みんなで歌って踊るしぃ!」
突然のサシャのわがままで、姫騎士は「無理無理」と首を横に振り続ける。それでも説得を繰り返すサシャに、またわがままを言われると困ると感じた魔王とコリンナは、姫騎士を売る。
「それぐらい、いいじゃないですか?」
「みんな姫騎士さんが好きだから、きっと喜ぶわよ」
「なっ……」
二人に売られた姫騎士はたまったもんじゃない。声も出ないほど驚いている。そんな中、サシャは決定したかのように喜ぶ。
「二人も乗り気でよかったしぃ。一度、五人ユニットでやってみたかったんだしぃ」
「「五人??」」
笑顔のサシャに、魔王とコリンナは同時に質問した。
「ウチだしょ? それにクリクリと魔王……」
「私ですか!?」
「それとコリっち!」
「オレまで!?」
「あとは~。フリフリ~……」
「そこはあたしでしょ!」
サシャのメンバー発表に、皆が驚いているとテレージアが飛び込んで来た。
「あ、テレシーが加入してたの忘れてたしぃ。六人ユニットだったしぃ!」
「も~う。忘れないでよね~」
「ごめんだしぃ」
テレージアはアイドルが楽しかったのか、サシャが謝ると珍しく簡単に許していた。
だが、いきなりユニットに加えられた魔王とコリンナは違う。顔を青くして止めようとする。
「「む……」」
二人が無理と言おうとしたた瞬間、誰かに肩を同時に叩かれて、言葉が止まる。
「いいんじゃなかったのか~? それとも、私を売ろうとしたのかな~??」
姫騎士だ。仲間と思っていた魔王とコリンナに売られてオコのようだ。二人は怖くて姫騎士の目を見れず、アイドルユニットに加入する事となった。
「さあ、ビシバシ特訓するしぃ!!」
「お~!」
サシャの掛け声にテレージアは手を上げて応え、特訓に励む三人であっ……
「「「いやいやいやいや」」」
これから帝都攻めがあるからと、平和になってから特訓すると言って、アイドル活動は延期となるのであった。
サシャの説得に時間の掛かった姫騎士であったが、その夜はやる事が多かった。帝都から続々と抜け出る住人が現れ、対応に走り回る。
住人だけでなく、多くの帝国兵も姫騎士軍に合流するので手が足りなくなり、魔王やコリンナも手伝いに動き回っていた。
そうして夜が明けた頃には、帝都の三分の一もの人族が姫騎士軍の元へ流れ、帝都攻めをするには兵士の疲弊もあり、一日延期となってしまった。
* * * * * * * * *
一方、帝国皇帝の元へは、宰相から続々と凶報が届いていた。
「へ、陛下……」
「またか」
真っ昼間から帝国兵が姫騎士軍に流れると、その場所から住人が流出するので止めようがない。いちおうは止めに兵は派遣されるのだが、流出箇所が多くて止められないでいる。
「も、申し訳ありません!」
報告を終えた宰相は、謝るしかない出来ない。だが、皇帝は叱る事はせずに冷静に語り掛ける。
「よい。もう外壁は役に立つまい。いま残っている者を城壁内に集めよ」
「しかし数が……」
「忠誠心の高い者が残ったのだから、よいではないか。これで士気が上がるというものだ」
「それはそうですが……」
現在、帝国兵は約半数まで減っている。一万の兵で、六万にまで増えた姫騎士軍を相手にしなくてはいけないのだから、宰相も口ごもってしまった。
「それに例の兵器もあるだろう。頃合いを見て投入すればいいだけだ。いつでも出せるようにしておけ」
「は……はい!!」
ついに皇帝は最終兵器を使う決断をする。万の敵を討ち滅ぼした兵器だ。これを使えば、万の幸福が得られるのだろうと……
皇帝の命令に、宰相は足早に執務室から出て行く。その背中は、笑っていたように皇帝には見えたのだが、勝利の笑いだと受け取ったようだ。
それからは兵士や貴族を中心に帝都城に集まるのだが、民はほとんど全員、姫騎士軍の元へ走り、広大な敷地を誇る帝都はもぬけの殻となるのであった。
* * * * * * * * *
そんな帝都とは違い、姫騎士軍は民が膨れ上がり、対応に苦労していた。これも皇帝の策略のひとつ。民に甘い姫騎士ならば、必ず放り出さないと考えての策だったのだ。
現に兵士の半分以上は民の対応にあたり、食糧の配布だけでもてんてこ舞いになっている。この事態には勇者も駆り出され、走り回って各所に食糧を配っていた。
「これは急がないといけないな」
姫騎士軍は膨大な人口増加で、寝泊まりするテントはまったく足りていない。これでは、住人は屋根の無い場所で寝泊まりするしか方法がなく、不満が高まるのは必至。姫騎士は早急に帝都を奪って生活の基盤を作りたいようだ。
会議ではその事を伝え、兵士の数の調整。こちらには勇者が二人もいるので城壁は役に立たないとみて、倍の人数で押し切る作戦で決定する。
会議出席者は賛成大多数で決定したのだが、魔王は何か言いたげだった。しかし、口を挟める雰囲気ではなかったので、暗い顔をしながら会議の場から離れて行った。
その夜……
巨大馬車の前で、焚き火を見つめる魔王の姿があった。
「サシャ」
「お兄ちゃん……」
魔王が塞ぎ込んでいると、勇者が後ろから声を掛け、そして隣に座る。
「辛そうだな」
魔王の顔を見た勇者は、いつものテンションでは話せないようだ。
「明日の戦闘は、どうしても避けられないのですよね……」
「……だな」
「それに、多くの死者が出そうです……」
魔王の心配は人族の死者。会議の場でも、脱走兵から皇帝に忠誠を誓う者が集まって士気が高いと聞いていた。もちろん姫騎士も、出来るだけ死者を減らしたい考えだが、味方の命に関わる事なので、手加減するのも難しい状況なのだ。
魔王は、先の戦争で自軍が殺した人族を思い出して、塞ぎ込んでいるようだ。
「お兄ちゃん。怖いです……」
魔王は震える手を、勇者の太ももに置く。すると勇者は魔王の手に手を合わせ、笑顔を見せる。
「大丈夫……大丈夫だ。俺がなんとかする」
「え……?」
攻撃の出来ない勇者。魔王に触れられて倒れる勇者。今まで不甲斐ない姿を見せていた勇者の力強い言葉に、魔王は不思議に思う。
「俺は勇者。勇者なんだ……もう間違わない」
「お兄ちゃん??」
「サシャは何も心配する事はないぞ。俺に任せておけ!」
「お兄ちゃん……ありがとうございます!」
魔王は勢い余って勇者に抱きつく。すると勇者はいつものように気絶……
「さぁ、明日のために、早く寝よう」
「はい! ……あれ?」
いや、気絶せずに、魔王と共に立ち上がって歩き出した。魔王も不思議に思ったのか、腕を組んだり抱きついたりしながら一緒に大型馬車に入るのであった。
「プシューーー!」
「やっぱり……」
リビングのソファーに倒れ込んだ勇者は、ショートして眠りに就くのであったとさ。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる