攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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21 帝都攻め 2

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 決戦当日……

 魔王と勇者がソファーで抱き合って寝ていたので、騒ぐ姫騎士とコリンナ、怒りのサシャ乱入のトラブルはあったが、整列した兵士の前で姫騎士は高らかに宣言する。

『今日、歴史が変わる……』

 静かに語る姫騎士に、期待のこもった兵士の視線が集まる。

『長く帝国が支配した歴史が終わり、新たな歴史が作られるのだ。それは、この地の者が幸せに暮らせる歴史……私が目指すものは、誰ひとり不幸な者が出ない歴史を作り出す事だ』

 姫騎士は一呼吸置くと、言葉を続ける。

『理想論だと思う者は笑ってくれ。だが、私はその地を見た。その民を見た。千年間、幸せな歴史を作り続けた王を見た! 魔王殿。隣に来てくれるか?』

 突然呼ばれた魔王はあたふたしながら姫騎士の隣に立ち、魔王という言葉に兵士はざわざわとする。

『知らない兵士もいるだろうから紹介する。この方は魔界を治める魔王だ。皆はもっと恐ろしい化け物を想像していただろうが、正真正銘、魔王なのだ』

 約半数の兵士は魔王を知っていたので静かなものだが、半数は驚きを隠せない。

『魔界を恐ろしい場所だと教えられた者が大多数だろう。事実は、千年間、一切の争い事の無い歴史を紡いだ土地なのだ。これこそが、私の理想論が成功すると信じる最大の理由だ!』

 姫騎士が熱く語り、皆が静かになったところで、魔王にマイクを譲る。

『あ、えっと……私は、先ほど姫騎士さんに紹介された第三十三代魔王のステファニエです。これだけ多くの人族の方に見られるのは、場違いだとは思います。ただ、ひとつだけ言わせてください』

 魔王の言葉……皆は何を言うのかと、黙って見つめる。

『あの……ごめんなさい! 姫騎士さんは魔族の事を褒めてくれましたけど、そんな事はないんです。今回、残念な事に人族の方と戦争になり、多くの人を、私の命令で殺してしまいました……。恨まれても仕方がありません。でも、魔族全員が悪いんじゃないんです! 命令した私が悪いんです! どうか恨むなら、私ひとりにしてください。どうか、どうか……うぅぅ』

 涙する魔王に、姫騎士は腰に手を回して支える。そしてマイクを返してもらい、目に涙を溜めて語り掛ける。

『魔王殿が悪いわけではないのだ。我々が奪うために進軍し、心優しい魔族を傷付けたから悪いのだ。本当にすまなかった……』

 魔王に謝罪した姫騎士は、兵士に向き直る。

『諸君! 我々の歴史はあやまちだった。奪う事では何も解決しないのだ! これから皇帝から王位を奪う私が言うのはおかしな話だが、この戦いを最後に、平和な歴史を築いて行こうではないか!!』
「「「「「おおおお!!」」」」」

 姫騎士の声に兵士は呼応し、その声は大きな波となって響き渡るのであった。




「出陣だ!」

 姫騎士軍の準備が整うと、姫騎士の号令で二万の兵は、帝都を半円状に囲むように進む。
 先頭は白馬に乗った姫騎士。その右隣には勇者が歩き、左隣にはマント姿のサシャがスケボーに乗って進んでいる。
 姫騎士達の後ろには騎士や騎兵、兵士がずらーっと並び、中央の馬車には魔王やコリンナ、テレージアも待機している。

 先頭を進む姫騎士が帝都の西門を潜ると、広がった兵士は近くの開いた穴から侵入し、各々別の道を行き、隊長に連れられて帝都城へと向かう。勝手知ったる帝都内なので、道に迷う事はない。
 帝都内に入っても帝国軍からの襲撃は無く、姫騎士軍は順調に進み、ほどなくして、帝都城を囲んで集合する事となった。


「では、勇者殿?」

 帝都城正門に待機した姫騎士は、各所からの報告を聞き、勇者を誘って降伏勧告に向かおうとするが……

「え? サ……最長老様もついてくるのですか??」

 勇者の前では最長老として通しているサシャが、ずいっと前に出て来た。姫騎士の帰りはいつも勇者のお姫様抱っこだったので、阻止しようとしてついて行くみたいだ。
 姫騎士もそれに気付いたのか、アゴをくいっとして命令するサシャに負けて、白馬に乗って向かおうとする。

「馬に矢が当たったらかわいそうじゃないか?」

 聞いていた作戦とは違っていたので、勇者は不思議に思って質問する。

「さ、最長老様がいるから大丈夫なんだ。あの防御結界を見ただろ?」
「ふ~ん……それなら大丈夫か」

 サシャに忖度そんたくして言い訳する姫騎士。勇者も納得してくれたようだ。


 そうして三人で正門に向かって進み、姫騎士は降伏を呼び掛ける。

『戦力差は歴然だ! 武器を捨てて投降しろ!!』

 姫騎士の声に、城門の上に立つ騎士が返答する。

『これより皇帝陛下の書状を読み上げる。「我が娘クリスティアーネのむくろを使って人族を滅ぼそうとする魔族ども、ここまで追い込んだ事は褒めてやろう。しかし、帝国は滅びない。神の鉄槌を持って討ち滅ぼしてやろうぞ!」』

 皇帝の書状の内容に、姫騎士は反論する。

『私をヴァンパイアだと思っているようだが、それは父……皇帝の嘘だ! 自分の意思で、玉座を奪いに来たのだ!!』
『者ども、魔族のれ言に心惑わせるな! これは人族の存亡の掛かった聖戦だという事を忘れるな! 弓隊、放て~~~!!』

 いつものように説得は決裂し、姫騎士達に弓矢の雨が降り注ぐが、いつもと違う方法で回避する。
 サシャだ。サシャが自分と姫騎士の前に防御結界を展開して守っている。もちろん勇者はその結界の中に入れてもらえないので、弓矢は当たるが弾いている。

「それじゃあ、俺はここから穴を開けていけばいいのか?」

 本来ならば、姫騎士を自陣に送ってから城壁に穴を開ける作戦だったのだが、サシャの登場で送る必要が無くなったので、確認する勇者。

「……姫騎士?」
「あ、ああ……」

 返事の無かった姫騎士に再度問うと返事をくれたが、何やら歯切れが悪い。

「どうかしたのか?」
「いや……父の言っていた神の鉄槌が気になってな。あの父がお伽噺とぎばなしを持ち出すなんて……いや、そんなものはないだろう」
「??」

 一人で納得する姫騎士に、勇者は首を傾げてしまう。

「ああ。作戦だったな。私は最長老様に守ってもらうから、そのまま行ってくれてかまわない。頼んだぞ」
「おう!」

 姫騎士の態度に疑問を抱いていた勇者は指示が出ると、いい返事をしてクラーチングスタートの姿勢を取る。
 そして一秒後、勇者の姿は消え去り、音だけを残して城壁に穴が開いた。

「消えた……」
「あんのバカ……」

 勇者が消えた事で、二人の反応は真っ二つ。姫騎士は驚き、サシャは苛立った表情になった。

「バカって……見えたのか?」
「ちょっち行って来るから、クリクリは戻ってくれしぃ。防御結界はしばらく持つから心配するなしぃ」
「何がなんだか……」
「いいから任せるしぃ!!」

 焦って勇者を追うサシャは空を飛び、姫騎士はいまだに放たれる矢にさらされる。姫騎士は二人の心配をするが、防御結界がいつまで続くかわからないので、白馬を反転させて自陣に戻るしかなかったのであった。
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