攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
164 / 187
22 破壊神

164

しおりを挟む

『皇帝は失脚した!! よってこれより帝国は、この私、クリスティアーネの物となった! 帝国兵は剣を収め、我が軍も、民の避難誘導に即座に取り掛かれ!!』

 帝都城屋上から完結に勝利宣言をした姫騎士は、喜ぶ姫騎士軍の声を聞きながらも、それよりも民の移動を急がせる。
 勝利の余韻に浸っている暇はない。今まさに、世界の滅亡の瀬戸際。大きくなる人のような形をした影を指差し、姫騎士は声を張りあげて「西に移動させろ」と叫んでいた。


「大丈夫か?」
「あ、ああ……水をもらえないか?」

 勇者は心配して声を掛けると、姫騎士の要望に応え、木で作られた水筒を手渡す。

「ところで『勇者二人』って、なんのことだ?」
「ブフゥー! ゲホゲホ」

 どうやら勇者は、皇帝の言葉に疑問を抱いていたが、空気が読めない勇者でも、あの場面では質問できなかったようだ。
 姫騎士も、真面目な話をしていたからすっかり忘れていて、飲んでいた水を盛大に吹き出していた。

「ゲホッ……最長老様が……勇者?」
「なんで疑問形なんだ?」

 ひとまず嘘で乗り切ろうとする姫騎士。

「えっと~……とうの昔に引退した勇者と、魔王殿が言っていたような、そうでないような……」
「サシャが言ってた? その事を、どうして皇帝が知ってるんだ?」
「いや、それは……人族にも伝わっていた、みたいな?」
「……俺に何か隠してるよな?」

 勇者が他にも居たと知っては、妹しか興味のない勇者も気になるようで、質問しまくる。姫騎士もシドロモドロなので、疑惑が膨らむばかりだ。

「わ、私は忙しいんだ! 勇者殿は、魔王殿の安否を見て来てくれ!!」

 仕事に逃げ、失言を魔王で逸らそうとする姫騎士。そんな事で勇者が納得するわけ……

「そういえばサシャが心配だ! サシャーーー!!」

 納得したようだ……。屋上から飛び降りて行った……

「むぅ……あんなに必死で走らなくてもいいのに……」

 逆に姫騎士は納得していないようだ。頬を膨らませ、拗ねてるよ……

 と、姫騎士は遊んでいる場合ではなく、騎士や隊長を集め、民の避難誘導に慌ただしく動くのであった。




「サシャーーー!」

 匂いを辿って魔王を見付けた勇者は、大声を出しながら走り寄る。

「あ、お兄ちゃん」
「怪我はないか? 痛いところはないか?」

 あたふたと魔王の周りをグルグルしている勇者に、魔王は笑顔で返事する。

「大丈夫です。心配しすぎですよ」
「よかった~」

 ようやく勇者のグルグルから解放された魔王は、姫騎士の心配をする。

「姫騎士さんは、怪我をしていませんか?」
「おう。ピンピンしてるぞ」
「ついに女王様になったのですね……。これで魔界に平和が戻るのですね……。あ……」
「う、うん……」

 感慨深く目に涙を溜める魔王は、目を擦りながら遠くを見て、巨大な人の影が目に入ってしまった。勇者も目に入ってしまったらしく、二人で東の方角を見ている。

「あの大きな影は、いったいなんなのですか?」
「なんか皇帝が、神とか悪魔とか言ってたぞ」
「神ですか……」
「いまは最長老が対応してるらしいんだけど……」
「あ~~~」

 魔王、納得。サシャが戦っているとは予想はついていたが、建物のある帝都内では姿を確認できなかったので、勇者から聞けて納得したようだ。

「そうそう! 姫騎士が、最長老が元勇者だって言ってたけど、本当に勇者なのか?」
「え……勇者で間違いないですけど……」
「なんだ~。それなら俺なんて召喚しなくても、最長老に頼んでいたほうが早かったんじゃないか」
「そ、それは……最長老様は高齢なので、きっと今も、無理してるんですよ!」
「ふ~ん」

 魔王が慌ててした言い訳は、奇跡的に姫騎士と合致し、なんとかごまかせたようだ。しかし、また質問が来ても困るので、違う話もまじえる。

「最長老様のあの魔法でも死んでいないって、いったい何と戦っているのでしょう?」
「ゴーレムみたいだったけど、たしかに気になるな」
「お兄ちゃん。見て来てもらってもいいですか? 私もそろそろ救護に戻らないといけませんので」
「おう! 任せろ!!」

 どうやら魔王も仕事に逃げて、勇者を排除したようだ。勇者はと言うと、最愛の妹に似た魔王のお願いに喜んで応え、ダッシュで東に向かうのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 一方その頃、転移魔法で帝都東門まで飛んだサシャは、先ほどより大きな影となった端末を見ていた。

「アレで死なないなんて、どうなってるんだしぃ……」

 サシャは、端末の不気味さから、最初からフルスロットル。自身の最強攻撃で、一気に決めようとした。だが、端末は死なず、元の姿より大きくなっている。

「チッ……やっぱ、魔王より上か……」

 元の世界の魔王の強さを思い出し、気合いを入れ直すサシャ。

「最強はウチだかんね!!」

 そうして凄い速度で空を舞い、端末に飛び込むのであった。


「【暴風猫ぼうふうねこ】! 【炎兎えんと】! 【氷亀ひょうき】! まだまだ~! 【千本聖槍せんぼんせいそう】だしぃ!!」

 風の刃渦巻く猫、灼熱の炎をまとったうさぎ、絶対零度の亀、何やら愛らしい姿の動物ばかりだが、全てドラゴンぐらい一撃でほふる力がある。さらに、聖なる光の槍を千本。サシャは魔王に通じた魔法の数々を連続で放ち、端末を攻撃する。
 しかし、端末の体は穴が開くものの、すぐに修復してしまう。

「う~ん……手応え無しだしぃ……てか、攻撃もして来ないって、どゆこと?」

 暖簾に腕押し。端末に攻撃が通じないと感じたサシャは、空中で胡座あぐらを組んで考える。そうして端末の様子を見ていると、体が縮んでいっている事に気付く。
 端末の影は徐々に縮むスピードが上がり、3メートルほどの体になった。

 サシャはまたかと思いながらも、端末の前に降り立つ。

「いったい、どうやったらあんたは死ぬんだしぃ?」

 サシャが尋ねると、端末は顔らしき物の中心から、かなり横にズレた場所にある口から声を出す。

「サ先ほどの爆発は効きましたヨヨよ。続ヅければ、死ヌ死ぬかもしれませンンんね」
「ん? どったの??」

 饒舌じょうぜつに語っていた端末が呂律ろれつが回っていないので、サシャは質問する。

「ココこれは、少シシしマズイかモもしれませンンん。せ、制御ガガが……」
「なんだ。ダメージになってんじゃん。じゃ、このままトドメを刺してやるしぃ!」

 サシャは刀を構えるが、それよりも先に端末は動く。

「わっ!」

 【つるぎの舞い】だ。端末は完コピして刀を振りながら踊る。サシャも同じように舞い、応戦するが、防御結界を破られて肩に傷を負ってしまう。

「二刀流……」

 そう。完コピだけでなく、端末は刀を二本作り出し、進化させたのだ。

「だからなんだしぃ!!」

 本家本元は伊達ではない。二刀流の【剣の舞い】より素早く刀を振るうサシャ。だが、それすら凌駕され、サシャの体に傷が増える。

「四刀流は、ズルくね?」

 刀を合わせながらも端末の腕は増え、本家を超える……いや、もうすでに、オリジナルのスキルとなった【四重の舞い】。
 サシャは防御結界があるからかすり傷で済んでいるものの、劣勢に立たされてしまった。

「うっわ~……まだ生えるんだ……」

 そうして、七本にまで増えた端末の腕を見たサシャの額から、ツーっと冷や汗が流れるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...