攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
170 / 187
22 破壊神

170

しおりを挟む

 突如走り出した端末を姫騎士は追うが、端末のほうが足が速いので追い付けないでいる。そうして端末は、双子勇者を治療していた魔王の元へと簡単に辿り着いた。

「あなたが魔王様で間違いないですか?」

 いまだ双子勇者を治療している魔王に、端末は問い掛ける。

「そうですけど……何かご用ですか?」

 丁寧に声を掛けられたので、魔王も丁寧に返事をする。

「私について来て欲しいのです」
「それはできません。このままお兄ちゃん達を置いて行けませんから」
「ふむ……できれば無傷で連れて行きたいのですが……」
「貴様~~~!!」

 二人が喋っていると、姫騎士が血相変えて追い付いて来た。

「仕方ないですね……」

 それだけ言うと、端末は魔王に剣を向ける。

「動くと、魔王様を傷付けますよ?」

 端末の脅しに、姫騎士は急ブレーキ。武器も無いので何もできない。

「この~~~!!」
「うっ……な、なんです? このハエは……」
「ハエって言うな~~~!!」
「姫騎士さん!!」

 テレージア、大活躍。ハエと言われて怒っているが、端末の顔の周りを飛んで視界を奪った。そこを魔王の機転。サシャの刀を抱えて走り、姫騎士にパス。
 刀は重量があったので姫騎士に若干届かなかったが、姫騎士はダッシュで拾い、魔王を背に隠して刀を構える。

「無駄な足掻きですよ? くふふ。戻ってください」

 端末は、今度はサシャの首元に剣を持って行った。

「姫騎士さん……」
「魔王殿! 早まるな!!」

 人質を取られたからには、魔王は自身を投げ出そうとするが、姫騎士に肩を掴まれてしまう。

「ですが、サシャさんが……」
「わ、私がなんとかする!!」

 二人が揉めていると、端末は言葉を発する。

「この二人は取っておきたいので、素直に従ってください。どうしてもと言うのなら、クリスティアーネ様の首をねましょうか……」
「私がついて行きます!!」
「待て! 話を聞いてからだ!!」

 前に出ようとした魔王を、再度姫騎士は止めて、端末に質問する。

「どうして勇者達を残しておきたいのだ?」
「実験台にする予定です」
「実験??」
「先ほどの破壊神を見ましたでしょ? 実はアレ、本体の失敗作なんですよね」
「勇者殿を、ここまでボロボロにした化け物が失敗作だと……」
「そうです。あなた達が死の山と呼ばれる場所には完全体が眠っているので、その実験に、この二人はちょうどいい。いえ、この二人しか相手にならないでしょう」

 完全体と言うからには、破壊神より強さは上。姫騎士はその答えに行き着き、声が出ない。なので、魔王が変わりに質問する。

「その完全体を復活させてどうするのですか?」
「実験です。暴走しない完全体を見る事が、本体の夢なんですよ。そのためには、本体が必須。もちろん依代よりしろである魔王様も必須となります」
「実験だけですか……」

 端末の言葉に、魔王は決断する。

「姫騎士さん……私、行きます」
「ま、魔王殿!?」
「私が行かないと、姫騎士さんが殺されちゃいます」
「し、しかし……」
「大丈夫ですよ。必ず、お兄ちゃんが助けてくれます。それにサシャさんも居ます。元の世界を救った勇者様ですよ? 私を救い出すぐらい、簡単ですよ」
「………」

 笑顔を向ける魔王に、姫騎士は声を出せずにいる。その沈黙を魔王は許可と受け取って、端末に歩み寄る。だが、半分ぐらいの距離を残して振り返った。

「テレージアさん。心配してくれてありがとうございます。一人で行きますから、ここに残ってください」

 どうやら、テレージアは魔王の背中にくっついていたようだ。

「で、でも……」
「テレージアさんが残らないで、誰がお兄ちゃん達を治すのですか? 治してくれないと、私を助けてくれる人が居なくなるじゃないですか~」
「……わかったわ。二人を完全に治して、絶対に魔王を助けに行くからね!」
「はい! 待っていますね」

 テレージアが涙をこらえて叫ぶと、魔王は笑顔で返事し、端末の元へと歩く。

「くふっ。聞き分けがよくて助かりました。では、行きましょうか。くふふふ」

 端末は魔王をお姫様抱っこすると、黒い羽を動かして浮き上がる。そうして、姫騎士とテレージアの叫び声が響く中、西に向かって飛び去るのであった。

 残された二人が途方に暮れていると、ヨハンネス率いる騎士団が到着し、事情を説明して、勇者とサシャを丁重に帝都へと運ぶ。そこで、呼び戻した魔法使いの集団と、テレージアによる集合魔法で治療を開始する。




 民が帝都に戻る中、夜になるとクリスティアーネ女王誕生の宴が開かれた。

 姫騎士は双子勇者の事も心配だが、主役が抜けるわけにも、騎士や兵士、民をまとめる必要もあるので、出席しないわけにもいかない。
 その席で、女王としての務めをまっとうする事を固く誓う。しかし、現状に置かれている危機については触れなかった。これは、危機が去ったいま、端末はこちらに攻めて来るとは言っていなかったので、民衆に無駄な心配をさせないための判断だ。

 その騒ぎの中、テレージアは献身的に双子勇者の治療を続け、魔法使いを使い捨てにし、夜通し【癒しの風】を詠唱し続けたのであった。


 翌朝……

 帝都には平和を告げる朝日が降り注ぎ、その光は城の一室にも入り込んだ。

「ん、んん……ふあ~」

 大きなあくびをして体を起こす少女。

「あれ? ここは……兄貴!?」

 サシャだ。戦いの最中に気を失ったサシャは、真っ先に勇者を探す。すると、隣で眠る勇者をすぐに発見した。

「な、何してるんだしぃ!!」

 その勇者は、姫騎士とコリンナに挟まれて眠っていたので、サシャは大きな声を出す事となる。

「うぅ…ん……何を騒いでいるのよ」

 目覚めたのはコリンナだけ。その他はピクリとも動かない。

「あんた! ウチの言った事を忘れたんだしぃ!?」
「シーーー! 静かにして。みんな疲れているのよ」
「だから……」
「あのあとの話、聞かなくていいの?」
「あのあと……て、敵は!?」
「場所を変えよっか」

 コリンナはベッドから降りると、焦って騒ぐサシャを連れ出そうとする。

「トト……あれ? 力が入らない……」

 立ち上がったサシャは、ベッドに腰を落としてしまった。

「テレージアから凄い怪我をしていたと聞いたわ。治療に一晩中掛かったんだから、疲れが取れてないのよ」

 コリンナが勇者の腹の上で「スピー」と寝息を立てているテレージアを見ると、サシャはなんとも言えない表情で見る。

「肩を貸すわ」
「う、うん。ありがと……」

 こうして、疲れて眠る勇者達を残して、サシャはコリンナの肩に掴まり、部屋を出て行くのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...