171 / 187
23 勇者と魔王
171
しおりを挟むコリンナの肩を借りて部屋を出たサシャは、隣の部屋にてソファーに座らされる。そうしてコリンナは一度部屋から出ると、食べ物を持って戻って来た。
「お腹すいてるでしょ?」
「う、うん……」
「先に食べましょう」
話は後回しにして、二人は食事に手を伸ばす。だが、サシャは昨日の出来事を思い出しながら食べていたので、食べ終わるまで少し時間が掛かる事となった。
「さてと……何から話す?」
サシャの食事を終えるのを待ってから、コリンナは問う。
「えっと……ウチと戦っていた敵はどうなったしぃ?」
「その敵を倒したところを誰も見てないから、オレもだいたいしかわからないんだけど……」
コリンナは、姫騎士から双子勇者が体を張って倒したと聞いていたのでそのまま伝えるが、サシャが途中で倒れたと聞いて、予想を述べる。
サシャが倒れていた場所に、勇者が体を引きずった跡があったと聞いたので、勇者が敵を倒したのだとコリンナは結論付けた。
「うそ……兄貴が……」
「たぶんね。じゃないと説明がつかないでしょ?」
「そうだけど……」
サシャは信じられないようだ。今まで攻撃をした事のない勇者では仕方がない。
「それで二人とも酷い怪我だったから、治すのに時間が掛かって、現在に至るの」
「確かに、ウチも兄貴も血まみれになった記憶があるけど……」
「事実よ。アニキはサシャさんより、酷い怪我だったと聞いたわ。それなのに、サシャさんを先に治してくれと言ってたみたい」
「兄貴……」
徐々に戦いの記憶を思い出すサシャ。自分が吹き飛ばされ、勇者が覆い被さった事も……
「あ~~~!!」
そして、泣きながら勇者に助けを乞うた事も……
「急にどうしたのよ?」
突然叫んだサシャに驚いたコリンナは質問するが、サシャは悶えてそれどころではない。
「な、なんでもないしぃ……」
なんとか声を絞り出したサシャであったが、顔が真っ赤なので、コリンナはよけい不思議に思っている。
そうして水をがぶ飲みしたサシャは、ようやく落ち着きを取り戻し、コリンナに質問する。
「そういえば、ベッドに魔王が居なかったけど、兄貴の事を諦めたしぃ?」
「魔王さんは……」
「どったの?」
コリンナが言葉に詰まるので、サシャは首を傾げる。
「魔王さんは、死の山に連れ去られた……」
「えっ!? 誰にだしぃ!?」
「姫騎士さんが戦ったんだけど……」
コリンナは、姫騎士と共に双子勇者の元へ向かった魔王の話をし、包み隠さず説明すると、サシャの顔色が変わる。
「ウチの代わりに、犠牲になった……」
「……そうみたい」
「た、助けに行くしぃ!!」
サシャは突然立ち上がるが、立ちくらみがして、すぐにソファーに腰を落とす。
「その体では無理よ。それに、サシャさんが戦っていた敵より強い敵が待ってるって、使者が言ってたって……」
「アイツより……」
サシャは敵の強さを思い出し、自分の体の異常に気付く。
「くっ……なんだしぃ!? なんで震えてるんだしぃ!!」
体は正直だ。サシャは手も足も出ずに負けた敵に恐怖し、手が震えている。
「サシャさん……」
そのサシャを心配そうに見るコリンナ。それからもサシャは自身の震えを止めるために、体を強く押さえていた。
そうして二人が静まり返っていると、部屋の扉が開く。
「ここに居たのか」
姫騎士だ。姫騎士も酷い顔をしているので、疲れが溜まっているようだ。
「一通りの事は説明しておいたわよ」
「そうか……」
コリンナの言葉を聞きながら、姫騎士はサシャの対面のソファーに腰掛ける。
「おふた方の体調が戻り次第、死の山に向かうつもりなのだが……。魔王殿を取り戻す協力をしてくれないか? 頼む」
「ウチは……」
頭を下げる姫騎士に、サシャは声が出ない。普段なら即答していただろうが、敵に恐怖して萎縮してしまっている。
その顔に気付いたコリンナは、姫騎士に耳打ちしていた。
「そうか……まだ勇者殿も目覚めていないのだ。それまでに考えていてくれ」
それだけ言って姫騎士は部屋から出て行き、コリンナも勇者の看病に向かう。残されたサシャは、ソファーに横になって考え事をしていたら、そのまま眠ってしまったようだ。
翌日……
「サシャーーー!!」
昼過ぎに、ついに勇者が目覚めた。勇者は悪夢を見ていたからか、汗だくで体を起こし、右手で何かを掴もうとしていた。
「アニキ。ようやく起きた……よかった、よかった~。うぅぅ」
「……コリンナ?」
付きっ切りで看病していたコリンナは、涙を流しながら勇者に抱きつく。その行為に、勇者は何が起きているかわからないので周りを見ていたら、テレージアがパタパタと勇者の目の前にやって来た。
「いったい何日寝てるのよ? まったく……心配かけんじゃないわよ~」
テレージアは嬉しそうな、ほっとしたような、複雑な表情で勇者に語り掛ける。
「何日?? 俺は……サシャ! サシャは!?」
ようやく自分の身に起きた事を思い出した勇者は、真っ先にサシャの心配をする。
「大丈夫よ。このテレージア様が、二人とも治してあげたわよ~」
自慢するように胸を張るテレージアだが、どことなく、いつもより元気がない。
「じゃあ、どうしてここに居ないんだ? どこに居るんだ!?」
「ちょっと庭に行ってるだけよ。落ち着きなさい」
「庭か!? すぐに向かう!!」
「だから話を聞け! もっと大事な話があるの! このままじゃ、魔王が死んじゃうのよ!!」
涙を流しながら勇者を怒鳴るテレージア。その剣幕に押されて、勇者はベッドに倒れた。
「あんたが寝てる間に、魔王は敵に連れ去られて行ったんだからね! なんで寝てたのよ! あんたは勇者なんでしょ!!」
「………」
「テレージア。言い過ぎ……」
コリンナに指摘されて「ハッ」とするテレージア。魔王が攫われた事は勇者のせいではないのだが、今ごろ悲しみが爆発して、当たり散らしてしまったようだ。
放心状態になった勇者に、コリンナは優しく語り掛ける。
「アニキが悪いわけじゃないよ。サシャさんもアニキも、死ぬほどの怪我を負っていたのよ」
「それでもオレは……」
ここ最近、勇者の自覚に目覚めた勇者は、魔王が攫われた事に悔やんでしまう。あの時、自分に何かできたのではないかと……
しかし答えは出ない。
部屋の中は、勇者が無事だった事を喜ぶ気配は無くなり、沈黙が流れるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる