176 / 187
24 破壊伸再び
176
しおりを挟む姫騎士、コリンナ、テレージアの愛の告白じみた夜を勇者が乗り越えた翌日……
朝早くに目覚めた勇者は、一人で準備を済ますと城から出た。そして門に向かって歩いていると、門の前には姫騎士とコリンナの姿があった。
「声も掛けずに出て行くとは、些か薄情ではないか?」
「そうよ。オレ達ぐらい、挨拶させてよね」
どうやら二人は、勇者の行動を読んで待ち構えていたみたいだ。
「あ、ああ。すまない……」
勇者は勇者で顔が赤い。昨日の事があったから、顔を会わせたくなかったようだ。そんな気持ちは汲まず、姫騎士は力強い言葉を述べる。
「勇者殿は強い! この戦争に勝利したのは、勇者殿の力があってこそだ! 自信を持って戦って来てくれ!!」
次にコリンナ。姫騎士とは違い、優しく語り掛ける。
「アニキ……俺もそう思う。魔界が救われたのも、人界が救われたのも、全部アニキの力よ。だから、アニキは誰にも負けない!」
二人の激励を聞いて、勇者は自分を鼓舞するように返事する。
「そうだな……俺は強い! だから負けない!!」
勇者の力強い言葉を聞いて、姫騎士とコリンナは笑顔で叫ぶ。
「「頑張れ~~~!!」」
「おう!!」
こうして勇者は、二人の応援の声を聞きながら走り出したのであった。
目指すは死の山。帝都から真西に走れば辿り着ける。しかし、深い森と魔獣が勇者の行く手を阻む。真っ直ぐ走れず、くねくねと走り、魔獣が出れば足を止めて戦う……
と、普通ならばそうなのであろう。だが、頑丈な勇者には関係無い。
勇者のスピードと力ならば、大木など障害物となり得ない。勇者とぶつかった瞬間、弾けて穴が開き、そこに何も無かったように進める。
敵を倒すと決めた勇者の前では魔獣も同じ。勇者に遠距離から攻撃しても、その数秒後には魔獣の目の前に居る。さらにその一秒後には腹に大穴を開けて倒れる。
勇者の走る道を塞ぐ物は、あって無いような物。スピードを落とさず走り続ける勇者は森を駆け、魔獣を蹴散らし、ついに死の山に辿り着いたのであった。
「さて……ここから何をどうしたらいいんだ?」
崖っぷちで立ち止まった勇者は、死の山を見ながら呟く。しかし、呆けている場合ではない。勇者を追って、大量の魔獣が集まって来ている。
「飛び移ったらいいのかな?」
だから呆けている場合ではない。魔獣がすぐそこまで来ている。
「それとも飛び降りたらいいのか?」
だから……噛まれた。勇者が呆けている内に、近付いた巨大なライオンのような魔獣に頭から噛まれてしまった。
「見えないだろ!」
噛まれてもビクともしない勇者。両手を広げ、魔獣の口から突き出すと、その姿勢のまま高速回転。ライオンは口が吹き飛び、独楽のように回る勇者に腹を抉られて絶命する。
その一匹で終わらず、勇者は動き続け、魔獣を蹴散らして倒して行く。
そうしてぐるぐる回っていた勇者に襲い掛かる魔獣が居なくなると、止まって様子を見る。
「これを俺がやったのか……」
勇者を囲むように倒れる魔獣に、ミンチになったホーンラビットを思い出し、ややテンションの下がる勇者。だが、ここまで来て、怯えている場合ではない。頬をパンパンと叩いて気合いを入れ直す。
そうしていると、空から人が降って来た。
「くふ、くふふ。派手にやってますね」
端末だ。端末が気持ち悪い笑い声を出しながら、ふわりと地上に降り立った。
「お前は……自分のかわいい妹を殺そうとしたヤツ!!」
うん。勇者は長兄を覚えていた。それも、変な覚え方だが……
「たぶんラインホルト殿下の事を言っているのですね。ですが、彼の体は私がいただきました。どうぞ、使者とでもお呼びください」
勇者のボケはスルー。端末は丁寧におじぎをする。
「その使者が、魔王を攫ったって言ってたな……どこにやった!」
「目の前に居ますよ」
「目の前??」
「死の山に、本体と共に取り込まれています」
「取り込まれた……じゃあ、間に合わなかった……」
勇者は愕然としながら死の山を見る。すると死の山は、ゆっくりと形を変え、ピラミッドのような形を作る。
「ちょうど融合が終わったようですね。くふ、くふふふ」
「魔王は……魔王は!?」
勇者が端末に掴み掛かると、するりと逃げて空を舞う。
「おそらく、いまから顔を見せてくれますよ。顔だけですがね」
「どういうことだ!!」
端末の意味のわからないセリフを聞いた勇者が怒鳴り付けると、崖っぷちに手のような物がズシンと引っ掛かった。
勇者はその音に、端末から死の山に視線を戻すと、帝都で戦った破壊伸のような顔があり、その倍もの大きさをしていた。
「こいつは……」
「出て来ましたよ」
端末の指差す破壊伸の頭には、ぽっこりとコブができており、そのコブは上に伸び、人の形となった。
「くふ、くふふふ。ご足労いただき有難う御座います。せっかく来ていただいたので自己紹介をしたいところなのですが、遠い昔の事なので、記憶が定かではありません。たしか『キタシ』と呼ばれていたはずなので、そう呼んでください」
「魔王……」
人の形とは、魔王の姿。声まで魔王と同じなので、本体のセリフは勇者の頭に入って来ない。
「それどころではなさそうですね。しかし、もう一人はどうしました? あなただけでは実験には足りないのですが……まぁ私の研究成果を壊した張本人なのですから、もう一人の勇者より楽しめるでしょう」
呆気に取られている勇者はさておき、キタシはペラペラ喋り終えると真上に浮き上がり、徐々に体全体が現れる。その姿は、破壊神と同じような人型。ロボットのようにカクカクした体を持ち、破壊神より倍の大きさをしている。
「まずは手始めに……」
キタシの一手目は、大きな足での踏み付け。勇者の姿は一瞬にして見えなくなった。
「うおおぉぉ!!」
しかし勇者は避けていた。後ろに飛んで大声を出しながら反撃。キタシの爪先にパンチを打ち込む。
「ふむ。この感じは、ヒビが入った程度でしょうか? その力で消し飛ばないとは、さすがに初期値が違いますね」
「この~~~!!」
まったく効いていないので、勇者は回転を上げて、パンチパンチ。数百のパンチを浴びせかけるが、キタシの爪先がちょっと削れた程度。
その様子は、端末からキタシに映像が送られる。
「では、こちらからも攻撃してみましょう」
「ぐはっ!?」
キタシの攻撃は、素早く足を前に出しただけ。しかし勇者にダメージを与えたようだ。質量、スピード、硬度、全てにおいて勇者より勝っているから、簡単に吹っ飛ばす事ができたのだ。
「くっそ~!!」
地面に転がって止まった勇者はすぐに起き上がり、助走をつけてパンチを繰り出す。怒りでフォームもバラバラ。ピッチャーがボールを投げるが如く、大振りのパンチを放った。
力いっぱい殴った勇者の拳で、爪先は吹き飛び、キタシも少し揺らいだ。
「いまのはよかったですよ。少し消し飛びましたね。では、次は私の番です」
「させるか!!」
勇者に、順番を譲っている余裕はない。攻撃を受けないように足に張り付き、一気に駆け上がる。旅の勇者ならば、ロッククライミングもお手の物。あっという間に、魔王の体の元まで登り切った。
「魔王! 魔王! 起きろ!!」
そして体を掴んで揺さぶる。
「起きろと言われましても……私の体ですから、もう起きているとしか返事ができません」
「魔王はそんなに弱い子じゃないだろ? お兄ちゃんは、わかっているぞ」
「ですから、そんな事を言っても無意味です。それに、あなたと血縁関係ないでしょ」
「頼む! 起きてくれ~~~!!」
勇者に目の前で叫ばれたキタシは、迷惑そうな声を出す。
「仕方ないですね」
「ぐふっ!!」
魔王の姿をしたキタシの右手が勇者の腹を貫通し、勇者は血を吐く。
「やる気がないのなら、さっさと死んでください」
「魔王……魔王……」
勇者の声は魔王に届かず、キタシに高々と投げられ、大きな拳を受ける。その攻撃を喰らった勇者は苦しそうな声を出し、猛スピードで魔の森に突き刺さるったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる