攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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24 破壊伸再び

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「くふ、くふふ。もう少し善戦すると思っていましたが、神となった私相手では、こんなものですか。あとはもう一人の勇者と遊んで、データ収集は終わりとしましょう。くふふ」

 キタシは残念そうに呟くが、顔は正直だ。長年の研究が花開き、歪んだ笑みを浮かべて笑い声が漏れている。

 こうしてキタシは、サシャが居るであろう東の地に向けて浮かび上がるのであった。




「がはっ……」

 その頃勇者は、死の山と人界の中間地点の地面に減り込み、血を吐いて苦しんでいた。

「ぐぅぅ……魔王を、助けないと……」

 そうして体を引きずり、ほふく前進で進む。しかしその時、頭上から声がした……

「まったく情けないしぃ」
「サ、サシャ……? げふっ」
「あたしもいるわよ~」

 勇者が仰向きに体を向けて空を見ると、セーラー服を着たサシャとテレージアの姿があった。

「な、なんでここに……」
「なんつ~か、やられっぱなしじゃ気が済まないから?」
「そんなこと言って~。お兄ちゃんが心配だったんでしょ~?」
「んなわけないしぃ!」
「はいはい。先に勇者の体を治しちゃいましょうよ」

 照れながらサシャが言ったので、テレージアにはバレバレだったようだ。しかし、勇者の怪我は重傷なので怒っている場合ではなく、二人は治療に取り掛かる。

「「【癒しの風】」」

 テレージアの治療魔法。何故、テレージアがここに居るかと言うと、自身の治療魔法のほうが上だから自分も連れて行けと、サシャを説得したからだ。
 事実、サシャの治療魔法は上位の位置にあるのだが、それをテレージアは軽く上回っている。
 なので、薬箱としてついて来る事を許可したのだ。

「どう? 完全回復よ。ふふん」
「うちの魔力があってこそだしぃ」

 ドヤ顔のテレージアに、サシャは若干イラっときているが、そこまで強くは言わない。この間も、キタシが近付いているからだ。

「もう治ってるんだから、さっさと立つしぃ!」
「お……おう!」

 呆けてサシャを見ている勇者は、怒鳴られて直立不動。

「一度しか言わないから、よ~~~く聞くしぃ」

 サシャの前置きに、勇者は尻尾を振る犬のようにわくわくして待つ。

「ウチが兄貴を全力サポートするから、好きなだけ暴れろしぃ!!」
「あ、うん……」

 どうやら勇者が思っていた言葉と違っていたようで、尻尾は垂れ下がった。するとテレージアがサシャの耳元でささやく。

「ちょっと~。勇者の元気がなくなったじゃない。少しぐらいサービスしてあげなさいよ」
「なんでウチが……」
「負けてもいいの? サシャが応援したら、ぜったい勇者のテンションあげあげよ」
「ううぅぅ。わかったしぃ……」

 この戦いに負けるわけにもいかないサシャは、テレージアの説得に応える。

「お兄ちゃ~ん。大好き~~~! ぜったい勝って~~~! 頑張れお兄ちゃ~~~ん!!」

 サシャのやけくそ。勇者を鼓舞するために、心にもない事を大声で叫んだ。
 そのサシャの言葉に勇者はと言うと……

「う、うお~~~! うおおぉぉ~~~!! ううおおああおあおお!!!」

 泣きながら雄叫びをあげてるよ。

「ヤベ……やり過ぎかも?」
「う~ん……動いてるから大丈夫なんじゃね?」

 その惨状に、テレージアとサシャはコソコソと話し合っている。まぁサシャがデレた時には、勇者は灰になる事があったので、いい傾向なんだろうと思われる。

「来たしぃ! 【身体強化】だしぃ!!」

 サシャは勇者の地力を底上げすると叫ぶ。

「お兄ちゃん! ぶちかましてやるしぃ!!」
「うがああおおお!!」

 サシャの叫びを聞いて、勇者は地を蹴る。サシャとテレージアの前から一瞬で消えたのだが、その前の、勇者の鬼気迫る顔を見た二人はブツブツ言っている。

「アレ……大丈夫?」
「さあ? ウチも、あんな獣みたいな兄貴、見た事ないからわかんないしぃ」
「アレこそ、勇者が倒す魔王みたい……」
「まぁ……もしもの事があったら、ウチが殺すしぃ」
「頼んだわよ……」

 どうやら勇者の顔がとんでもなく怖かったので、二人は魔王認定してしまったようだ。
 しかし、こんな事をしている場合ではない。テレージアを肩に乗せたサシャは勇者を追い、戦闘区域に入るのであった。


 キタシを視界に入れた勇者は大ジャンプ。だが、音速を超えた勇者だったのだが、キタシに捕捉されてしまう。

「ほう。生きていましたか。それはそれで助かります」

 それだけ言ったキタシは、勇者に向けて巨大な拳を振るう。その拳も音速を超え、勇者との距離は凄まじい速度で詰まる。すると勇者は拳を引いてパンチの体勢。
 同じ速度、違う強度、違う質量。どちらの拳が強いかは、一目瞭然。キタシの拳が勝つに決まっている。

 だが、そうはならなかった。勇者がキタシの拳を貫いたのだ。

「何故??」

 キタシの計算も間に合わない。いや、勇者を……双子勇者をナメ過ぎだ。サシャの強化魔法を受けた勇者は、キタシと同等の身体能力となっていた。その身体能力ならば、空気を踏む事さえできる。

 勇者は接触する前に、三度、空気を蹴って加速したのだ。

 これで速度は勇者の勝ち。強度は互角。質量はキタシなのだが、当たった面積が違う。面積が小さいほうが、力の集中が高い。その結果、貫通となったのだ。

 勇者は貫通すると、空気を蹴って反転。大きく振りかぶってキタシの肩口をぶん殴る。

「おお! まだここまでの力がありましたか」

 称賛しているキタシは、肩が消失して腕が落ちそうになる。しかし、一瞬でくっ付き、地上に向かう勇者に膝蹴りを入れた。

「ぐう!」

 ギリギリガードが間に合った勇者は空に舞い上がり、キタシのパンチが飛んで来た。

「がはっ!」

 今回はガードが間に合わず、勇者は血を吐く。

「【多重空気層】だしぃ! テレッち!」
「わかってるわよ! 詠唱開始!!」

 勇者が吹き飛ばされた場所には、サシャが空気の層を作って優しくキャッチ。そこに、二人の【癒しの風】で、勇者を完全回復。

「兄貴! サボってんじゃないしぃ!!」
「おう!!」

 サシャ達のサポートを受けた勇者は、空気を蹴ってキタシに突撃。キタシの腹をぶん殴ってクレーターを作る。
 その攻撃で、キタシは死の山があった辺りまで後退させられるのであった。


「なるほど……もう一人の勇者がサポートしているのですか。探す手間が省けて有り難いですね。くふふ」

 より良いデータが取れると喜ぶキタシ。腹のクレーターもすぐに戻る。そんな中、キタシに追い付いた勇者は足をぶん殴り、半円状の穴を開ける。
 その攻撃に対して、キタシは上からパンチを落とし、勇者を地面に叩き付ける。そこに追い討ちの踏み付け。勇者は地面に着く瞬間に空気を蹴って、横に飛んで事なきを得た。

「兄貴! 形振なりふりかまうなしぃ! ぐるぐるパンチでやっつけてやれしぃ!!」
「わかった!!」

 勇者は地を蹴って、右手と左手をぐるぐる回しながらキタシに突撃。

「くふっ。なんですかそれは? まるで子供の喧嘩のようですね。くふふふ」

 笑いながら右手を振りかぶったキタシは、勇者に拳をぶつける。

「はい??」

 その瞬間、拳が掻き消されたので、キタシは惚けた声を出すのであった。
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