攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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26 閑話

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 世界が双子勇者に救われた次の日、勇者は目覚めなかった。すぐに起きると思っていたサシャ達は心配して看病していたが、昼になっても起きる気配がなかったので、帝都に戻る事にする。
 サシャは魔法で土の板を作ると勇者を寝かせ、魔王達も乗り込ませたら、空中浮遊魔法で空を行く。
 帝都城に着くと姫騎士やコリンナ達に出迎えられるのだが、世界は救われたと言っても喜ぶでなく、勇者の心配がなされる事となった。

 それから三日後……

「ん、んん……」

 勇者が目覚めた。それから薄ぼけた記憶を探っていると女の声が聞こえる。

「やっと起きたしぃ」
「サシャ??」

 ベッドのかたわらには、サシャただ一人が椅子に座っていた。

「ここは……」
「帝都のベッドだしぃ」
「帝都……ステファニエ! つつつ」

 勇者は体を起こそうとしたが、痛みでベッドに体を倒す。

「大丈夫だから寝てろしぃ」
「あ、そっか……ステファニエは助かったんだったな」
「違うしぃ。兄貴が魔王を助けたんだしぃ」

 ぶっきらぼうに、勇者の間違いを正すサシャ。

「そうか……俺が、か……」

 勇者は右手を天井に向けて握り込む。そうしてしばらく無言が続いていたが、勇者が声を発する。

「ステファニエ……みんなはどこに行ったんだ?」
「今日はクリクリの即位式だから、みんな出席してるしぃ」
「クリクリ?」
「クリスティアーネ……兄貴って、姫騎士の名前も知らなかったの?」
「そう言えば……そんな名前だった気がする」

 勇者の答えに、サシャはため息を吐く。

「はぁ……兄貴の興味はウチだけだったの忘れてたしぃ」
「そうだな。サシャだけだったな……」
「だった? ひょっとして、好きな人ができたしぃ??」

 サシャはわかっているくせに、からかうように質問する。

「そ、それは……秘密だ!」

 そしていまさら照れる勇者。

「うっざ……もうわかってるしぃ」
「なんでわかるんだ!?」
「なんでわからないと思うんだしぃ!」

 もじもじする勇者にサシャはツッコムが、それだけでは終わらない。

「てか、兄貴の事を少なからず好いている人もいるんだから、ケジメはちゃんとつけろしぃ」
「え……なんで知ってるんだ……」
「そりゃ、ウチは兄貴の妹だかんね。手に取るようにわかるしぃ」
「妹……サシャの口から久し振りに聞いたな……」

 目を潤ませる勇者にサシャは失言に照れて、慌てて話を逸らす。

「ようやく妹離れしてくれて、せいせいしてるしぃ」
「いや、サシャの事はいつまでも愛してるからな!」
「キモイしぃ!」
「ははは。またまた~」
「いいから寝てろしぃ! 魔王が来たら起こしてやるしぃ」
「うん。そうする」

 魔王と聞いて、勇者は素直に従い目をつぶる。すると、勇者は戦いの疲れがあるからか、すぐに寝息を立てる。

「寝るの早くね?」

 もちろんサシャは納得いかないので、勇者の鼻をつまんで憂さ晴らしをする。だが、勇者が苦しそうにしたら、手を離していた。

「ここだけの話、昔の頼りになるお兄ちゃんが帰って来てくれて、ウチは嬉しいんだしぃ……よく頑張ったね。お兄ちゃん」

 そうしてサシャは勇者の頭を撫でて、穏やかな時間が過ぎて行くのであった。




 その日の夕方、勇者の元へ続々と人が集まる。

 まず最初に現れたのはコリンナ。サシャが勇者の胸に頭を乗せて寝ているのを見て「ギャーギャー」騒いで起こしていた。
 そこで目覚めた勇者に抱きつき、涙ながらに無事を喜んでいた。

 次に入って来たのはテレージア。本当は全員揃ってから、皆の恥ずかしい言動を茶化そうと考えていたらしいが、我慢できずに飛び込んだ。
 テレージアもコリンナと同じく、涙を流して勇者の回復を喜んでいた。

 次は魔王。勇者の顔を見るなり涙を流して抱きつく。一番迷惑を掛け、皆にも心配させた事にも涙し、全員に抱きついて感謝していた。

 最後に入って来たのはドレス姿の姫騎士。全員が泣いているものだから、どうしていいかわからず、勇者に、二言、三言、語り掛けたが、やはり心配していたからか泣き出していた。

 そうして皆の気持ちが落ち着いたところで、勇者は感謝の言葉を述べる。

「みんな……こんな俺なんかを心配してくれてありがとう。もう大丈夫だから、泣く必要はないんだ。こんなの明日になったら治ってるさ」

 皆が目を擦る中、テレージアがよけいな事を言う。

「ぐすっ……そういえば、勇者が魔王を助けに行く前の晩に、姫騎士はなんか言ってなかった?」
「なっ……」
「帰ったら、伝える事があったんでしょ~?」

 テレージア、泣いていたんじゃなかったのか? もう悪い顔になっている。姫騎士は姫騎士で、驚愕の表情をしていたが、真面目な顔に戻って口を開く。

「勇者殿が戻ったら、婚姻を申し込もうと思っていたのだ」

 真顔で恥ずかしい事を言う姫騎士に、一同唖然。しかし、姫騎士は笑いながら次の言葉をつむぐ。

「この気持ちは本物なのだが、勇者殿は魔王殿を好いているのだろう? 私が入る事はできないと知っている。迷惑だと思うが、そんな女が居たとだけ、心に留めておいてくれ」

 いさぎよく身を引く姫騎士に、勇者は返答する。

「なんで姫騎士まで知ってるんだ!?」
「まぁまぁ……。つぎ、コリンナも伝えたい事があるんでしょ~?」

 驚く勇者の疑問はテレージアに邪魔される。そのテレージアに指名されたコリンナは、真面目な顔で勇者に語り掛ける。

「お、俺も姫騎士さんと気持ちは一緒。アニキの事が好きだ! でも、アニキは魔王さんが好きなんだろ……だから!」

 勇者の恋心がまた知られているとあわあわしていると、コリンナが爆弾発言する。

「俺は愛人でいい!」
「「「「愛人~~~!?」」」」

 一同驚愕。まさかの発言に驚きを隠せないが、姫騎士は違う。コリンナに食って掛かった。

「コリンナ! 話し合って、私達は身を引く事にしただろ!!」
「だって~。そういう人も居るって、姫騎士さんが教えてくれたんじゃない」
「確かに言ったが……だからって、志願してなるものではない!!」
「じゃあ、あたしも勇者の愛人にしてもらおっかな~?」
「「テ、テレージア!?」」
「その手があったのね~。あははは」

 コリンナの爆弾発言に乗じてテレージアも参入。姫騎士までもが「せめて子種だけでも……」とか言う始末。場は荒れに荒れ、収拾がつかなくなる。
 しかし、一人の女の叫びで、騒ぎは収まる事になる。

「お兄ちゃんは、私が好きってなんですか~~~!!」

 魔王だ。皆の発言は初耳で、あわあわしていたのに一向に話に入れずにいたので爆発した。

「プシューーー」

 魔王は本当にいっぱいいっぱいで、勇者みたいにショートして倒れるのであった……

「プシューーー」

 ついでに、渦中の勇者もショートして気絶するのであったとさ。
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