攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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26 閑話

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 世界に平和が戻り、勇者が目覚めて喜んでいたのも束の間、勇者の恋心を知った魔王はショート。それと同時に、恋心を本人にバラされた勇者もショート。二人はしばりく起きないどころか、次の日まで眠っていた。

 ようやく目覚めたのはお昼前。勇者は戦いの疲れで眠っていたようだが、魔王は少し違う。乗っ取られた体から元の体に戻るには反動があるからか、体や精神に疲労が蓄積されていたようだ。
 しかし、最初の頃よりは力も体重も元に戻って来ているので、このまま野菜漬けでいれば、思ったより早く元に戻りそうだ。

 そうしてお城の食堂で集まった、双子勇者、魔王、姫騎士、コリンナ、テレージア、フリーデは静かに会食する。どうやら皆、恥ずかしい事を口走ったと自覚があったようだ。昨日の会話に触れる者すらいない。

 そんな中、食事を終えた魔王は口を開く。

「姫騎士さんも女王に就けた事もあり、そろそろ魔界に帰ろうと思います」

 魔王の発表に、どう答えていいかわからない皆であったが、姫騎士だけが返答する。

「そうか……長い間、私に協力してくれてありがとう。これからは、人界の王と魔界の王との付き合いになるが、お互い良き付き合いを続けよう」
「はい! 一緒にこの世界を幸せにしましょう!」

 姫騎士と魔王は立ち上がって握手を交わし、それだけでなく、目に涙を溜めて抱き合う。そうして落ち着くと、魔王はコリンナを見る。

「人界は姫騎士さんが平和にしてくれるのですけど、コリンナさんの雇用契約はどうしましょうか?」
「う~ん。俺もどうしていいか……しばらく魔界でお世話になってもいい? それから妹分と話し合って、ゆっくり決めて行きたいんだけど……」
「はい。大丈夫ですよ。なんなら、決まらないまま魔界の住人になっちゃってください。コリンナさんなら大歓迎です」
「魔王さん……これからもよろしく!」

 こうして魔王とコリンナも笑顔で固く握手を交わす。

「それで、お兄ちゃんとテレージアさんに相談があるんですけど……」
「は、はい!」
「もう~。仕方ないわね~」

 魔王はもじもじして言うものだから、勇者は愛の告白をされるものだと思って声が裏返り、テレージアも正妻の座を譲られるものだと思って了承しているようだ。

「昨日、魔界に連絡を入れた際に、エルフのエルメンヒルデさんから報告がありまして、世界樹を移植できそうな土地が見付かったそうです」
「あ、そんなことか……」
「本当!?」

 魔王の言葉に、勇者はややガッカリし、テレージアは先程よりも目が輝く。

「本当です。ただ、移植先が魔族としては困っておりまして……」
「え~! 世界樹よ? 薬だっていっぱい作れるのよ? ぜったい魔族にとって損にならないわ! 移植してよ~」

 駄々をこねて魔王の周りを飛び回るテレージア。しかし、魔王はテレージアを見ずに勇者を見ている。

「その場所は、お兄ちゃんの帰還に関わる場所なのです」
「え? おれ??」

 勇者は関係ないと思っていたが、名指しされて戸惑う。

「勇者召喚に使った絨毯じゅうたんは覚えていますか?」
「まったく……」
「ですよね。では、帰還するには、五年間魔力を絨毯に集めなくてはいけないと言った事は?」
「あ~。そんなこと言ってたな」

 勇者は召喚された際に騒ぎまくっていたので絨毯は気付いていなかったが、魔王の話は妹が絡んでいたので、ちょっとは覚えていたようだ。

「その保管場所が、移植予定地になっているのです。世界樹を植えてしまうと、おそらく魔力を貯められなくなって、お兄ちゃんを元の世界に戻せなくなると思います」
「あ……」

 ようやく魔王の話を理解できた勇者。テレージアも理解できたようで、勇者を見る。

「そっか……勇者も元の世界に帰りたいよね」

 皆は勇者との別れを惜しみ、勇者に視線が集まる。勇者はなんとも言えない顔で返答に困っていると、サシャが手を上げる。

「人界のほうの魔法陣って、二人で通れないしぃ?」

 その手があったかと、皆は姫騎士と魔王を見るが、同時に首を横に振る。

「勇者召喚は、一人だけと明確に言い伝えられているから難しいと思う」
「魔界もです。そんな事をしたら、お二人がどうなるか……」
「つまり、世界樹を植えてしまうと、一人しか帰れないと……。兄貴が帰るまで植えないってのは?」
「世界樹が弱って来ているので、五年も待つ余裕は無いようです」
「悩んでいる暇はない、か……。ま、ウチが残ってもいいけど、兄貴はどうするしぃ?」

 サシャは軽い感じで決断し、勇者に振る。

「俺が残るよ。サシャは王様とかと仲良かっただろ? きっと心配してるはずだ」
「ウチと離れ離れになるけどいいしぃ?」
「俺には、それだけしか心残りはないからな。一度は会えないと思っていたサシャと会えたんだ……。一緒に戦えたんだ……。お兄ちゃんだと認めてもらえたんだ……。もう、俺はバカ兄貴じゃない。……寂しいけど、大丈夫だ」

 勇者の覚悟にサシャは胸を打たれるが顔には出さず、魔王を見る。

「だってさ? あとは魔族の問題だしぃ」
「お兄ちゃん……本当にいいのですか?」
「おう! ステファニエの好きにしてくれ」

 勇者の返答に、魔王はテレージアの小さな手を取って語り掛ける。

「テレージアさん。世界樹は、魔族が責任を持って育てます。一緒に頑張りましょう!」
「うぅぅ。魔王~。勇者~」

 魔王の決定にテレージアは大泣きし、二人の顔に抱きついて頬擦りしていた。
 しばしこの場を涙と笑い声が響き、これで大団円。誰しもそう思う中で、サシャがよけいな事を言う。

「そんで、兄貴と魔王は結婚するしぃ?」

 ピシッ……と、場の雰囲気に、ヒビが入った。

「え、えっと……」
「そそそ、それは……」

 しどろもどろの勇者と魔王。周りからの視線も突き刺さっているので、しょうがないのだろう。

「両想いなんだから、ハッキリしろしぃ!」

 サシャに脅されるように言われた二人は見つめ合い、勇者から口を開く。

「そ、その……ステファニエ。俺と結婚してくれるか?」
「お、お兄ちゃん……はい。嬉しいです」

 これで本当の大団円。皆に祝福され……

「はい! カットー!!」

 ……ずに、サシャから待ったが入る。

「魔王のNGだしぃ」
「なっ……何が悪かったのですか!?」
「いつまでお兄ちゃんって呼んでるんだしぃ」
「あ! お兄ちゃんの名前、知りませんでした~」

 一同、絶句。この場に居る者で、勇者の名を知る者が二人しか居ないのだから、姫騎士とコリンナも固まってしまった。
 そんな中、勇者が魔王の頭を撫でる。

「ちゃんと自己紹介してなかったもんな。俺の名前はサロモンだ」
「え……お兄ちゃん、いま、なんと言いました?」
「だからサロモンって……」
「「「ええぇぇ!?」」」
「そんなに変な名前なのか!?」

 勇者の名前を聞いて、今度は一同、驚愕。サシャとテレージアが腹を抱えて笑っているところを見ると、あえて黙っていたみたいだ。

「『サロモン』って、初代魔王様と一緒の名前ですよ!!」
「そうだ! 千年前、人界を救ってくれた勇者様の名だぞ!!」
「子供でも知ってるわよ。山をも斬り裂く勇者サロモンって!!」

 名前発表だけで、魔王、姫騎士、コリンナは大騒ぎ。しかし、サシャの「テイクツー、アクション」で、無駄なプロポーズが始まる。

「ステファニエ。俺と結婚してくれ!」
「はい! サロモンさん!」

 二度目とあって、わびさびのないプロポーズになったが、一同、二人を祝福してはくしゅ……

「ちょっと待ったしぃ~~~!!」

 いや、プロポーズを無理矢理させた張本人が止めた。

「お兄ちゃんの結婚相手に相応しいか、ウチが見極めてあげるから、結婚はそのあとだしぃ!」
「「へ??」」

 無理矢理であったが満更ではない勇者と魔王は、最強の小姑出現に固まる。

「あと、五年も帰れなくて暇だから、あんた達も、お兄ちゃんの結婚相手の審査してやるしぃ。にしし」
「「「お……おおおお!!」」」

 サシャに指差された姫騎士、コリンナ、テレージアは沸き上がるが、結婚決定し掛けていた魔王は別だ。

「んなっ!? サ、サシャさん! どうしてそうなるんですか!?」
「あ~。ウチに意見したしぃ。マイナス一点っと……」
「うっ……いまのは、ちがっ……サロモンさ~ん」

 小姑に意見のできない魔王は勇者に泣き付く。

「サシャ、いったいどうしたんだ? ステファニエが困ってるだろ?」
「だって~。大好きなお兄ちゃんが他の女に取られるのはしゃくなんだしぃ。ね?」
「うっ……かわいい……」
「サロモンさん!!」

 腕を組んで甘えてくるサシャに、勇者はデレデレ。魔王に怒られても、鼻の下を伸ばしたままだ。

「さあて、あんた達も五年間、頑張るんだしぃ!」
「「「おお~!!」」」
「皆さんもなんとか言ってくださいよ~」

 サシャに鼓舞された、姫騎士、コリンナ、テレージアは手を上げて応え、魔王は慌てて止める。

「それと、たぶんウチは、自分の世界に帰っても、必ずここに戻って来るから覚悟しとくんだしぃ!!」
「「「「えっ……」」」」

 そんな事は不可能だと思いながらも、サシャならやってしまいそうだとうっすら思う魔王達。さすがに最強の小姑がずっと残ると聞いては、皆は嫌みたいだ。

「サシャならできるぞ~」

 それを諸手を上げて応援する勇者の姿に……

「「「「いやいやいやいや……」」」」
「サロモンさんも止めてくださ~い!!」

 全員でツッコミ、魔王の叫びが城に木霊するのであったとさ。


 こうして世界は双子勇者によって救われたのだが、人々は双子勇者に振り回されながらも平和に暮らしたのであった。




              めでたしめでたし

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