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二章 逃亡生活
038 思い出の場所
「だ……大丈夫でっか??」
プックのショートアッパーを鳩尾に喰らったシモンは前のめりにKO。そんな姿を見たプックも、ここまでの事態になると思ってなかったからシモンを心配していたけど、なかなか復活しない。
「待ってって言ったのに……」
ようやく復活したシモンは涙目だ。
「いや、こんなに効くと思ってなかったから……ほら? シモンはんって、レベル84なんやろ? 勇者がそんなこと言ってたから、あーしのパンチなんて、蚊に刺された程度やと思って……てか、なんで効いてますのん?」
プックは言い訳したけど、途中で疑問が浮かんだ。
「俺は紙装甲だと言っただろ。防御力はジョブのせいでめちゃくちゃ低いんだよ。前にも殴られて痛がってただろうが」
「そういえばそんなこともありましたな~」
「お前、レベルいくつになったんだよ?」
「29や。今日だけで倍以上あがったから、もうチャリチャリチャリチャリうるさかったわ~」
「そんな力で殴ったこと、忘れるなよ……俺は一生忘れない……」
「す、すんまへん。笑い話にしましょうや。な?」
シモンはまったく笑えないし、まだ動けないのでプックが食事の準備をするのであった。
夕食は、冒険者メシ。簡易コンロで湯を沸かし、スープの素と干し肉をぶち込んで、あとは堅いパンだけ。借家で暮らしていた時によく朝食で食べていたアレだ。
完成した頃にやっとシモンも復活したけど、お腹を殴られて悶えていたので、食欲はなさそうだ。
「あ、もう1個、気になってたことあったんや」
それを汲んだプック……いや、殴ったことを蒸し返されたくないから、違う話題を振ってみる。
「勇者はシモンはんのジョブ、弓使いとか言ってたやろ? 物まであないに正確な鑑定ができるのに、なんで狙撃手ってジョブはわからなかったんでっか?」
「あぁ~……」
シモンは言うかどうか一瞬悩んだけど、プックにはもうジョブのことは喋っていたので、左手に付けていた腕輪を外して手渡した。
「それ、かなり強い隠蔽アイテムらしい」
「ほお~。ホンマやな。魔石のランクも高いしミスリルまで使ってる。これは相当魔石の節約になるで。でも、こんなんなんで買ったん? 高かったやろ??」
「俺じゃない。王様が餞別とか言って……最初は気のいいオッサンだったんだけどな~……」
これは悲しい話。レアジョブに目覚めたシモンがあまりにも使い物にならなかったから、二層の国王が隠蔽した話だもん。
「まぁ~……アレだ。残念だったな。頑張って冒険者続けるんだぞ? でも、レアジョブって知られるのはアレだよな~? 仲間にした人もガッカリするだろ? 餞別やるから、バレないようにしろよ? 冒険者ギルドにも話通してやるからな? バレたら、まぁ……アレだから、絶対に隠すんだぞ? アレするからな。な??」
いま喋ったのはシモン。国王の言葉を一字一句間違わず、言い方も間も完璧に再現したら、プックは笑い過ぎてブッ倒れた。
「アレってなんでんの~ん! 王様、絶対シモンはんのこと知られたくないだけですや~ん!」
「酷いだろ? アレもなんなのか聞けなかった。話の流れ的に、完璧に死刑だよな??」
「あはははは。期待を裏切っただけで死刑って。ヒーヒー」
「蒼き群雄は怒ってくれたんだけどな~……笑い過ぎて死ぬなよ?」
今度はプックが笑い過ぎてKO。シモンはイラッと来たけど、プックの息が止まったから心配に変わるのであった。
プックはお腹を押さえて動けそうになっかので、夕食の終わったシモンは少し奥まった場所にテントの設営。簡単に設置できる1人用を縦に2個並べて、テキパキと作業をする。
それが終わるとプックの下へ戻り、今日使った銃を提出して整備してもらう。半自動式拳銃しか出番がなかったからすぐに終わりそうだが、替えの弾倉を10個中9個も消費したので、弾込めが大変だ。
これはシモンが黙々とやっていたら、プックは整備が終わったからと手伝おうとした。
「今日は疲れただろ? 体を拭いたらもう寝ていいぞ? あとのことはやっておくから」
「でも、あーし、何もしてへんし……」
「慣れないことをしたんだから、そんなこと気にするな。というか、明日に疲れを残されたほうが困る。休んでくれ」
「そういうことでっか。なら、先休ませてもらいますわ」
シモンは突き放すように言ったが、プックは優しさだと受け取ってテントに向かう。
「あ、覗いたらしばくで?」
「誰が覗くか!」
「たまにあーしの胸見とるクセに~」
「見てねぇし。見えただけだし」
「やっぱり見とったんやな……」
「タンクトップで家の中ウロウロしてるからだろ~」
「フッ……その件は勘弁してやるわ。ほな、お先~」
プックは念のため注意したけど、シモンの負け顔が見れたからそれでヨシ。奥のテントに引っ込んで、濡れた布で体を拭いてから、すぐに眠りに落ちたのであった。
プックは疲れて眠ったが、3時間ほどしたらトイレで目覚めてしまった。なのでテントから出たらシモンが座っている姿が目に入った。
ただ、もう我慢できないので、シモンにバレないように音を消して奥に行って用を足す。そうして近くにいた拳大のスライムを足でその場所に持って行った。これが冒険者のマナーだとシモンから習ったらしい。
証拠も隠滅したプックは、座っているシモンに後ろから近付いた。
「まだ起きてはったん?」
「ん? ちょっとな……」
プックが出しっぱなしの椅子に座ると、シモンはコップに温かいお茶を入れて渡した。
「なんかありましたん?」
「いや~……ここって、蒼き群雄を最後に見た場所だから、イロイロ思い出して……」
「そうなんや……てか、ストーキングしたってヤツやな? ここで諦めたんや~」
「うっ……」
「シモンはんならどこまでもついて行きそうやのに、なんで諦めたん?」
ストーカー扱いされたからシモンの口は堅くなったが、プックの喋ったほうがスッキリするという言葉に騙される。
「あいつらよ~。先に進まずにここで2日も仲良さそうに喋ってるんだぞ? そんな姿を見せられたら、心も折れるって~」
「思ったのと違う……」
プック、ここで喧嘩別れしたと思っていた模様。まさか幸せな家族の団欒を見てしまった不倫相手のように諦めたとは思いも寄らなかったので、プックも掛ける言葉が見付からないのであったとさ。
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