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二章 逃亡生活
056 エルフの女王と会食
しおりを挟む「なんとまぁ、まさか勇者に追われているとは……」
シモンが五層であった出来事から逃亡中ということまで説明すると、エルフの女王コルネーリアだけじゃなく、この部屋にいる家臣も信じられないといった顔をしている。
「本当のことです。だから俺たちは、ここならバレにくいと思って来たんですけど、まさかこんなに人がいるなんて……ぶっちゃけ、勇者パーティはエルフを狙っているから、ここは引き上げたほうがいいです。次の層に行く途中にエルフがいなかったら、疎開地を探すと思うんで。俺と同じ考え方をしたら、確実にここに来ます」
シモンが真剣に訴えると、コルネーリア女王も鋭い目に変わった。
「勇者がエルフを狙っているとは、どういうことでありんす?」
「現在、上の階層は、勇者対策で女子供を疎開させています……」
次は勇者対策の説明。勇者パーティは粗暴だから、各階層は女子供を守るために疎開させていること。これは六層にも情報が届いていたから、すでに対策済みだ。
問題なのが、勇者パーティが対策に気付いてしまい、四層を一気に抜けて予定よりも恐ろしく早く、五層の迷宮街に現れたことだ。
その時の勇者パーティの発言から、エルフを狙っているのではないかと迷宮街の雄姿と話し合ったこと。その証拠に、五層の領主やギルマスの手紙を提出した。
「間違いは無さそうでありんすな……」
「はい。だから、俺たちは3日ぐらいで出て行こうとしていたんです」
「なるほどのう……」
コルネーリア女王は持っていたセンスをパチンと閉じて、決断する。
「それならば尚の事でありんす。恩人をほっぽり出すほど妾や民の心は狭くありんせん。もしも勇者が現れたら、逃がす時間稼ぎぐらいしてやるでありんす。これを礼とさせてくれぬか?」
「えっと……」
シモンは答えに困ったのでプックを見たら、諦めたように首を横に振った。おそらく、コルネーリア女王は逃がしてくれないと察したのだろう。
「わかりました。謹んで頂戴します……」
「うむ。狩りのない時はゆるりとしてくれ」
シモンも一緒。脅しに負けたような気分でお礼を受け取るシモンであった。
これで面会は終わったのかと思ったけど、まだまだ女王地獄は続く。場所を変えて会食だ。
「久し振りの肉は美味だのう。のう?」
「「「「「はっ」」」」」
家臣一同も嬉しそうに食べているから、シモンたちはどうしていいかわからない。特にコルネーリア女王の目の前に座らされたシモンはどこを見ていいのかもわからないみたいだ。真っ直ぐ見たら、深い谷間が目に入るし……
「じょ、女王様も、お肉を控えていたのですか?」
「うむ。民が我慢しているのに、妾だけ食べるワケにはいくまい。今ごろ向こうも、笑顔で頬張っているからの贅沢でありんす」
「そうなんですね。故郷の王様と大違いです」
「故郷というと、五層かえ?」
「あ、俺は二層から旅をしていまして……」
シモンは故郷の国王に粗末な扱いをされていた愚痴から始まり、蒼き群雄と一緒に苦難を乗り越えて五層までやって来たと聞かせていた。
「蒼き群雄なら妾も会ったことがありんす。懐かしいのう」
「本当ですか??」
「うむ。エルフの少女が行方不明になる事件があってのう」
これは入口の迷宮街での話。数人の少女がいなくなったので探していたところ、蒼き群雄が迷宮の中で誘拐犯を捕まえたのだ。
その誘拐犯は六層の中では一番大きな組織で、五層にてエルフを売り払おうとしていたとのこと。その組織も蒼き群雄が先陣を切って戦ったそうだ。
「あった! 町で人身売買してたマフィアが壊滅したって聞いたことがある!!」
「へ~。そんなことあったんや。シモンはんはその時、何してたん?」
「退職金で、宿屋に引きこもってヤケ酒飲んでた……」
「やさぐれ期かいな……」
せっかくいい話を聞いたのに、プックがあの時代を思い出させたので、シモンのテンションは急降下だ。
「その方、シモンと言ったか?」
「あ、はい」
「蒼き群雄の皆が、こぞって褒めていたでありんす。あと、喧嘩別れみたいになったことも悔いてありんした。いい仲間やったんやな~」
「みんな……俺のこと、まだ覚えてたんだ……」
「そりゃ六層やからな。別れてそんなに時間が経ってないからやろ」
「プック~。感動してんだから、邪魔しないでくれない? 涙が引っ込むだろ~」
「あ、こりゃ失敬。お口チャックしますがな~」
せっかく上がったテンションもプックのせいで低下。それで笑いが起こり、この日は蒼き群雄の話を楽しくしたり聞いたりするシモンであった……
会食が終わると、やっと帰れると思ったけど、恩人にはゆっくり休んでほしいと部屋まで用意されていたから緊張地獄は続く。ただし、1人で入れる温泉まで用意してくれていたから、緊張は吹き飛んだ。
ただ、部屋は一部屋しかないとのこと。お風呂上がりに部屋に集合した2人はまた緊張だ。
「久し振りのベッドや~!」
「やらかっ。横になったらすぐに寝てしまいそうだ」
いや、温泉とベッドのおかげで天国気分だ。
「それにしても女王様、いい人でんな。あーしたちを匿ってくれて、こんなに扱いがいいなんて」
「それはどうだろうな~……いざとなったら、俺たちは勇者に売られるかも?」
「それは疑い過ぎちゃうか?」
「うちの王様、アレだぞ? さすがに女王様は見栄のためにはアレしないと思うけど、民のためならアレするって」
「あはは。だからアレってなんですの~ん」
プックが笑っているが、シモンの返事は来ない。
「あ、そうや。いちおう言っておくけど、このパーテーションを越えたらしばくで? ……シモンはん?」
それが気になってパーテーションから顔を出したら、シモンは目を閉じていた。
「もう寝てる……ちょっとはやり取りしいや~」
お決まりのやり取りは、シモンが寝てしまったので不発。プックは残念そうにしていたが、プックも目を閉じた瞬間に眠りに落ちるのであった。
2人は五層からの疲れが一気に来たのであろう……
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