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連載
ウェブ版 鍛冶見習い96・『霧の森』のミストタイガー
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前回のあらすじ・テリテおばさんがセルケトに勝って『霧の森』に転移した。
「さてと、テリテおばさんがニーズヘッグをのしてくれたとこで。
ここ、『霧の森』には、変わったダンジョンがあるんだ。
ちょっとそこに寄り道してこうと思う」
「寄り道?
急いでるんだろ?」
ニーズヘッグのしっぽだけでも落として食べられないものかと、しっぽをツンツンしていたマリル兄ちゃんが、眉を寄せる。
ちなみに亜竜はしっぽを落としても種類によっては生えてこなかったりするんで、しっぽを切るのはやめてやってほしい。
まあ、セルケトによると、魔方陣の守りは死んでも復活できるらしいから、しっぽくらい生えるのかも知れないけど。
確か、ニーズヘッグは毒もあった気がするし。
「ダンジョンに1日寄っても、まだ間に合うはずだから大丈夫。
それより、ちょっと預けてたものを取りに行きたいんだよね。
今回の、ラウルのダンジョンの件で必要になるかも知れないし」
「預けてたもの?
ダンジョンに?
ノッカーに預けてた?」
リリィが小首をかしげる。
今まで、幸せそうにユーリとカウラを観察していて無口だったけれど、『霧の森』に来て視界がきかなくなり、ようやく話に加わる気になったようだ。
「ううん、この『霧の森』のダンジョンは野良ダンジョンでね。
ただ、そこに棲みついてる知り合いがいるんだ。
そこに、ダンジョンで拾ったものの、持ち切れなかった分を預けてあって」
話しながらも進もうとするけれど、ユーリとカウラ、それに満月先生とご隠居は目の前が真っ白で、進むのに苦労している。
オイラとマリル兄ちゃんは臭いでだいたいのものの場所は分かるし、テリテおばさんは言わずもがなだ。
『霧の森』は木こそたくさん生えてるものの、背の高い下草なんかはあまりない。
笹やシノもあんまりないから、根っこや石にだけ注意すれば、歩きやすくはある。
足元も、落ち葉が積もってフカフカしてるし。
転んでもそんな大事にはならないと思うけれど、いつものごとく、ユーリとカウラはオイラが抱える。
なんだか定番化してきた。
両手に美少女美少年で傍目にはうるわしいけれど、オイラの気分としては犬の子でも抱えてるみたいな感じがしている。
あ、犬はオイラか。
「しょうがないね、ご隠居と満月先生はあたしが背負うとして。
ブルさんは……」
「あ、俺のことはお気になさらず」
半ば空気と化していたブルさんだけれど、さすがはリカオンの獣人。
リカオンは犬科だ。
鼻が利く。
最初こそ何度か木にぶつかっていたものの、そのうちにコツがつかめて来たのか、マリル兄ちゃんと遜色のない動きになってきた。
ひょっとして、テリテおばさんのとこで一年も修行したら、アベさんとかよりかなり強くなるんじゃあないだろうか。
「ブルームは何でもできるね」
「器用貧乏ってやつで」
感心したようにカウラがブルさんを見ている。
さっきのニーズホッグの場所からだいぶ移動したおかげで、霧も少しはマシになってきている。
真っ白い闇、といった感じだったものが、近くの木立が影絵のように見えるほどには回復してきている。
「ところで、野良ダンジョンて?」
ダンジョンに着くまでには、まだしばらくある。
道すがら、ダンジョンと妖精について説明すると、ユーリがあきらめの境地、といった顔をしだした。
「ノアの周りっていったいどうなってるの?
そんな世界の秘事ともいえることが、次から次へと……
魔導書広げて天才とか名乗ってるのがアホらしくなってくるよ」
「いや、オイラには魔導書とか読めないし?
ユーリは充分誇っていいと思うよ?」
「でも、魔導書には、先人が知ってることしか載ってないんだよね。
当たり前って言えば当たり前なんだけど……」
なんだかユーリがブツブツ言っている。
「でね、ここのダンジョンが変わってることは。
まず、魔物の領域の中にあること。
『霧の森』自体が魔物の領域なのに、さらにその中にダンジョンがあるから、必然的に難易度が高くなるよね。
さらに、このダンジョン、『暗闇のダンジョン』って呼ばれてるんだけど、相当年季の入ったダンジョンでね……中に、転移の魔方陣まであるんだ」
「ダンジョンの中に魔方陣?
それって珍しいのか?」
すっかり背負った肉の重さに慣れたマリル兄ちゃんの足取りに乱れはない。
この調子なら、もう少し重量を増やしても大丈夫かな?
そんなことを思いながら歩いていると、横から虎の魔物がとびかかってきて、テリテおばさんのナタの横っ腹に鼻面を殴られて吹っ飛んだ。
鼻血を飛ばして、ぐぶぶぶっ、と鼻を鳴らしながら後退る。
耳が寝て、毛が逆立ち、腰が引けて涙目だ。
一撃で、テリテおばさんと自分との実力差を思い知らされたらしい。
まあ、Sランクのヘカトンケイルだって一撃なんだから……って、あれ、ってことはテリテおばさん、かなり手加減したのかな?
「あんた、アタシに向かってくるたぁ、いい度胸してるじゃないか。
この森にいる間、アタシの子分にしたげるよ」
「がふっ、がふ」
目を細めて言うテリテおばさんに、虎の魔獣は全力で首を縦に振る。
あれ?なんか言葉通じてる?
「マリル」
「はいよ」
マリル兄ちゃんが手慣れた手つきで、背負っていたグレートボアの肉を一塊切り分けると、テリテおばさんに放った。
テリテおばさんの手からその肉をもらうと、虎の魔獣はぐぶくぶと喉を鳴らしながらたいらげた。
「俺らもそろそろ昼飯にするか」
マリル兄ちゃんはその間にも、肉を切り分け、手早く火を起こして肉をあぶる。
湿った『霧の森』の中でも、油分が多く、すぐに火のつく小枝を選んで道すがら拾っていたようだ。
塩と胡椒は常に持ち歩いている。
そのへんは、さすがと言う他ない。
「この僕に、焼いただけの肉を食べろって!?」
食ってかかるユーリを、ご隠居がやんわりとなだめる。
「食わず嫌いをしとらんで、一口食べてみれば分かるじゃろう。
グレートボアの肉なんぞ、大枚はたいたとて、滅多に食えるもんじゃないからのぉ」
「おいしいよ?」
差し出した串焼きの肉を、ユーリがしぶしぶと受け取り……一口かじって目を見張る。
「何コレ!?
何これ何これ何これ!?」
夢中で食べ始めるユーリを、目を細めてご隠居が見つめる。
その横で、カウラもブルさんも一心に肉にかぶりついていた。
黒モフは肉はあんまり食べないんで、持ってきた小ぶりのおむすびを食べている。
「さすがは冬のテリテ、威圧だけでなく、上位魔獣の肉を与えて、絶対的格差を見せつけ服従させるとは。
テイムするでもなくミストタイガーを手なずけるなんて、並の冒険者には逆立ちしても真似出来ませんね」
感心する満月先生に、自分も豪快に肉の塊を咀嚼しつつ、テリテおばさんが首をかしげる。
「そうなのかい?
アタシゃ牛飼いだからね、昔から動物にゃなつかれるんだよ。
ミルクの臭いでもするのかねぇ」
「そういや、昔から母ちゃんの臭いはミルクの臭いだよな」
「もはや体臭と化してるね」
がはは、と笑いながら虎の首をがしがしとなでる。
テリテおばさんの側にいると、巨大な虎の魔獣も、ちょっと大きめの猫に見える。
「そうじゃない、そういうことじゃなくて」
なんだかブルさんが呟いているけど。
昔から、テリテおばさんは動物になつかれるのは確かだ。
まあ、逆らう気も逃げる気も起きないのかも知れないけど。
「さて、じゃあそろそろ行くかね」
テリテおばさんが腰をあげると、オイラの側に座っていたユーリとカウラをひょいとつまみあげ、リリィと一緒に虎の魔獣の背中に乗せた。
「えっ、えっ、えっ!?」
「だいぶ霧も薄くなったし、ご隠居に満月先生は自力で進めるだろ。
問題はあんたらだけど……いつまでもノアちゃんにおんぶにだっこでもないだろ。
自分でどうにか出来るようになるまで、せめてこの子から振り落とされないようにね」
「さ、さっき襲ってきた魔獣に乗れって!?」
「嫌なら自分で歩いても構わないよ」
「ぼっ、僕が足手まといだとでもっ」
「違うってのかい?」
テリテおばさんに言い返す言葉もなく、ユーリはふくれっ面になる。
いくら魔術の天才でも、テリテおばさんの戦いを目撃しておいて、自分も戦力になる、とか言えるほど厚顔ではないらしい。
その横で、カウラが、虎に向かって、よろしくねー、と言いながらなでていた。
リリィは、ユーリとカウラと同じ場所にいられて文句はないようだ。
確かに、ずっと飛んでいたリリィは体力切れ寸前で、テリテおばさんの気配りには頭が下がる。
そもそもそのつもりで、虎の魔獣を手なずけたのかもしれない。
「そういえば、ダンジョンの魔方陣って珍しいのか?」
歩き出すと、マリル兄ちゃんがさっきの話の続きを聞いて来た。
みんなのお腹に消えた分、荷物が軽くなって足取りも軽い。
「少なくとも、オイラは他に知らないよ。
それに、ダンジョンの魔物以外の魔物も棲みついてるんだ。
ラウルに聞いたんだけど、ダンジョンの魔獣ってのは、ノッカーが他でスカウトしてくるらしいよ?
それをダンジョンマスターのスキルで、何体もに増やしてダンジョンに放つ。
スキルで増えた魔獣は、冒険者に倒されてもダンジョンのどこかで復活できるし、元になった魔獣は全ての魔獣が倒されない限りダメージもない。
さらに、増えた魔獣が得た経験値は全て入ってくる……
ダンジョンにとっても魔獣にとっても、ウインウインの関係だよね。
まあ、何体に増やせるかは、ダンジョンマスターのレベルによるみたいだけど。
さらに、ダンジョンマスターのレベルがあがると、スカウトした魔獣を元に、ダンジョン内だけのオリジナルモンスターとかも作り出せるみたいだよ。
野良ダンジョンがどーなってるのかは、よく分かんないけど」
「ちょっと待て、それだと、ダンジョンの魔獣は、狩らないでいると飽和状態になって、ダンジョンの外に出てきちまう、ってのはおかしくないか?」
確かに。
マリル兄ちゃんが言ったのは、有名なダンジョンの特色のひとつだ。
「ああ、それは。
ノッカーがわざと流した噂らしいよ。
事実、何回かダンジョンの魔物が外に出るっていう騒ぎも起こしたらしいしね。
ほら、ノッカーにとっては、ダンジョンに人間が来てくれるかどうかは、死活問題だから」
「ちょっ、それ、ひどっ」
そんなわけで、ダンジョンは実は妖精が運営している、というのはあんまり広めないほうがいい。
世の中、知らないほうが楽しい、ってことはいろいろあるわけで。
ノッカーだって苦労している。
ダンジョン産まれの魔獣は、ダンジョンの外で死ねば復活できない。
ダンジョンの魔獣が飽和状態になった、というのを装うのは、手ゴマを減らしてまでの懸命な宣伝活動だ。
「なるほど、だから、ダンジョンには似たような魔獣がいることが多いんだね」
テリテおばさんがうんうん頷いている。
確かに、ダンジョンは、地下一階にはウルフ系、二階にはボア系、三階にはちょっと強めのウルフ系、みたいな偏りがある。
もともと一体の魔獣をスキルで増やしているんだとしたら、その辺も納得だ。
「それで、この『霧の森』のダンジョンで何がやっかいか、っていうと……
『獣の森』でもそうだったけど、有名な魔物の領域や、ダンジョンの前には、宿場町が出来ることが多いんだよね。
出入りする冒険者を目当てに、旅籠とか、お茶屋さんとか、飯屋とか、酒屋とか。
ギルドの出張所なんてのもあったりする。
でも、ここのダンジョンは、そもそも魔物の領域にあるから……」
「なに!?
ひょっとして、魔物の領域で、野宿とか!?」
勘のいいユーリが目を丸くする。
後書き
牛雑学・牛のうんちは良い堆肥になる。でも、牧草の種が入っているので、野菜農家には嫌がられがち。ホームセンターで売ってる袋詰めのものは、ちゃんと発酵処理してあるので大丈夫。
「さてと、テリテおばさんがニーズヘッグをのしてくれたとこで。
ここ、『霧の森』には、変わったダンジョンがあるんだ。
ちょっとそこに寄り道してこうと思う」
「寄り道?
急いでるんだろ?」
ニーズヘッグのしっぽだけでも落として食べられないものかと、しっぽをツンツンしていたマリル兄ちゃんが、眉を寄せる。
ちなみに亜竜はしっぽを落としても種類によっては生えてこなかったりするんで、しっぽを切るのはやめてやってほしい。
まあ、セルケトによると、魔方陣の守りは死んでも復活できるらしいから、しっぽくらい生えるのかも知れないけど。
確か、ニーズヘッグは毒もあった気がするし。
「ダンジョンに1日寄っても、まだ間に合うはずだから大丈夫。
それより、ちょっと預けてたものを取りに行きたいんだよね。
今回の、ラウルのダンジョンの件で必要になるかも知れないし」
「預けてたもの?
ダンジョンに?
ノッカーに預けてた?」
リリィが小首をかしげる。
今まで、幸せそうにユーリとカウラを観察していて無口だったけれど、『霧の森』に来て視界がきかなくなり、ようやく話に加わる気になったようだ。
「ううん、この『霧の森』のダンジョンは野良ダンジョンでね。
ただ、そこに棲みついてる知り合いがいるんだ。
そこに、ダンジョンで拾ったものの、持ち切れなかった分を預けてあって」
話しながらも進もうとするけれど、ユーリとカウラ、それに満月先生とご隠居は目の前が真っ白で、進むのに苦労している。
オイラとマリル兄ちゃんは臭いでだいたいのものの場所は分かるし、テリテおばさんは言わずもがなだ。
『霧の森』は木こそたくさん生えてるものの、背の高い下草なんかはあまりない。
笹やシノもあんまりないから、根っこや石にだけ注意すれば、歩きやすくはある。
足元も、落ち葉が積もってフカフカしてるし。
転んでもそんな大事にはならないと思うけれど、いつものごとく、ユーリとカウラはオイラが抱える。
なんだか定番化してきた。
両手に美少女美少年で傍目にはうるわしいけれど、オイラの気分としては犬の子でも抱えてるみたいな感じがしている。
あ、犬はオイラか。
「しょうがないね、ご隠居と満月先生はあたしが背負うとして。
ブルさんは……」
「あ、俺のことはお気になさらず」
半ば空気と化していたブルさんだけれど、さすがはリカオンの獣人。
リカオンは犬科だ。
鼻が利く。
最初こそ何度か木にぶつかっていたものの、そのうちにコツがつかめて来たのか、マリル兄ちゃんと遜色のない動きになってきた。
ひょっとして、テリテおばさんのとこで一年も修行したら、アベさんとかよりかなり強くなるんじゃあないだろうか。
「ブルームは何でもできるね」
「器用貧乏ってやつで」
感心したようにカウラがブルさんを見ている。
さっきのニーズホッグの場所からだいぶ移動したおかげで、霧も少しはマシになってきている。
真っ白い闇、といった感じだったものが、近くの木立が影絵のように見えるほどには回復してきている。
「ところで、野良ダンジョンて?」
ダンジョンに着くまでには、まだしばらくある。
道すがら、ダンジョンと妖精について説明すると、ユーリがあきらめの境地、といった顔をしだした。
「ノアの周りっていったいどうなってるの?
そんな世界の秘事ともいえることが、次から次へと……
魔導書広げて天才とか名乗ってるのがアホらしくなってくるよ」
「いや、オイラには魔導書とか読めないし?
ユーリは充分誇っていいと思うよ?」
「でも、魔導書には、先人が知ってることしか載ってないんだよね。
当たり前って言えば当たり前なんだけど……」
なんだかユーリがブツブツ言っている。
「でね、ここのダンジョンが変わってることは。
まず、魔物の領域の中にあること。
『霧の森』自体が魔物の領域なのに、さらにその中にダンジョンがあるから、必然的に難易度が高くなるよね。
さらに、このダンジョン、『暗闇のダンジョン』って呼ばれてるんだけど、相当年季の入ったダンジョンでね……中に、転移の魔方陣まであるんだ」
「ダンジョンの中に魔方陣?
それって珍しいのか?」
すっかり背負った肉の重さに慣れたマリル兄ちゃんの足取りに乱れはない。
この調子なら、もう少し重量を増やしても大丈夫かな?
そんなことを思いながら歩いていると、横から虎の魔物がとびかかってきて、テリテおばさんのナタの横っ腹に鼻面を殴られて吹っ飛んだ。
鼻血を飛ばして、ぐぶぶぶっ、と鼻を鳴らしながら後退る。
耳が寝て、毛が逆立ち、腰が引けて涙目だ。
一撃で、テリテおばさんと自分との実力差を思い知らされたらしい。
まあ、Sランクのヘカトンケイルだって一撃なんだから……って、あれ、ってことはテリテおばさん、かなり手加減したのかな?
「あんた、アタシに向かってくるたぁ、いい度胸してるじゃないか。
この森にいる間、アタシの子分にしたげるよ」
「がふっ、がふ」
目を細めて言うテリテおばさんに、虎の魔獣は全力で首を縦に振る。
あれ?なんか言葉通じてる?
「マリル」
「はいよ」
マリル兄ちゃんが手慣れた手つきで、背負っていたグレートボアの肉を一塊切り分けると、テリテおばさんに放った。
テリテおばさんの手からその肉をもらうと、虎の魔獣はぐぶくぶと喉を鳴らしながらたいらげた。
「俺らもそろそろ昼飯にするか」
マリル兄ちゃんはその間にも、肉を切り分け、手早く火を起こして肉をあぶる。
湿った『霧の森』の中でも、油分が多く、すぐに火のつく小枝を選んで道すがら拾っていたようだ。
塩と胡椒は常に持ち歩いている。
そのへんは、さすがと言う他ない。
「この僕に、焼いただけの肉を食べろって!?」
食ってかかるユーリを、ご隠居がやんわりとなだめる。
「食わず嫌いをしとらんで、一口食べてみれば分かるじゃろう。
グレートボアの肉なんぞ、大枚はたいたとて、滅多に食えるもんじゃないからのぉ」
「おいしいよ?」
差し出した串焼きの肉を、ユーリがしぶしぶと受け取り……一口かじって目を見張る。
「何コレ!?
何これ何これ何これ!?」
夢中で食べ始めるユーリを、目を細めてご隠居が見つめる。
その横で、カウラもブルさんも一心に肉にかぶりついていた。
黒モフは肉はあんまり食べないんで、持ってきた小ぶりのおむすびを食べている。
「さすがは冬のテリテ、威圧だけでなく、上位魔獣の肉を与えて、絶対的格差を見せつけ服従させるとは。
テイムするでもなくミストタイガーを手なずけるなんて、並の冒険者には逆立ちしても真似出来ませんね」
感心する満月先生に、自分も豪快に肉の塊を咀嚼しつつ、テリテおばさんが首をかしげる。
「そうなのかい?
アタシゃ牛飼いだからね、昔から動物にゃなつかれるんだよ。
ミルクの臭いでもするのかねぇ」
「そういや、昔から母ちゃんの臭いはミルクの臭いだよな」
「もはや体臭と化してるね」
がはは、と笑いながら虎の首をがしがしとなでる。
テリテおばさんの側にいると、巨大な虎の魔獣も、ちょっと大きめの猫に見える。
「そうじゃない、そういうことじゃなくて」
なんだかブルさんが呟いているけど。
昔から、テリテおばさんは動物になつかれるのは確かだ。
まあ、逆らう気も逃げる気も起きないのかも知れないけど。
「さて、じゃあそろそろ行くかね」
テリテおばさんが腰をあげると、オイラの側に座っていたユーリとカウラをひょいとつまみあげ、リリィと一緒に虎の魔獣の背中に乗せた。
「えっ、えっ、えっ!?」
「だいぶ霧も薄くなったし、ご隠居に満月先生は自力で進めるだろ。
問題はあんたらだけど……いつまでもノアちゃんにおんぶにだっこでもないだろ。
自分でどうにか出来るようになるまで、せめてこの子から振り落とされないようにね」
「さ、さっき襲ってきた魔獣に乗れって!?」
「嫌なら自分で歩いても構わないよ」
「ぼっ、僕が足手まといだとでもっ」
「違うってのかい?」
テリテおばさんに言い返す言葉もなく、ユーリはふくれっ面になる。
いくら魔術の天才でも、テリテおばさんの戦いを目撃しておいて、自分も戦力になる、とか言えるほど厚顔ではないらしい。
その横で、カウラが、虎に向かって、よろしくねー、と言いながらなでていた。
リリィは、ユーリとカウラと同じ場所にいられて文句はないようだ。
確かに、ずっと飛んでいたリリィは体力切れ寸前で、テリテおばさんの気配りには頭が下がる。
そもそもそのつもりで、虎の魔獣を手なずけたのかもしれない。
「そういえば、ダンジョンの魔方陣って珍しいのか?」
歩き出すと、マリル兄ちゃんがさっきの話の続きを聞いて来た。
みんなのお腹に消えた分、荷物が軽くなって足取りも軽い。
「少なくとも、オイラは他に知らないよ。
それに、ダンジョンの魔物以外の魔物も棲みついてるんだ。
ラウルに聞いたんだけど、ダンジョンの魔獣ってのは、ノッカーが他でスカウトしてくるらしいよ?
それをダンジョンマスターのスキルで、何体もに増やしてダンジョンに放つ。
スキルで増えた魔獣は、冒険者に倒されてもダンジョンのどこかで復活できるし、元になった魔獣は全ての魔獣が倒されない限りダメージもない。
さらに、増えた魔獣が得た経験値は全て入ってくる……
ダンジョンにとっても魔獣にとっても、ウインウインの関係だよね。
まあ、何体に増やせるかは、ダンジョンマスターのレベルによるみたいだけど。
さらに、ダンジョンマスターのレベルがあがると、スカウトした魔獣を元に、ダンジョン内だけのオリジナルモンスターとかも作り出せるみたいだよ。
野良ダンジョンがどーなってるのかは、よく分かんないけど」
「ちょっと待て、それだと、ダンジョンの魔獣は、狩らないでいると飽和状態になって、ダンジョンの外に出てきちまう、ってのはおかしくないか?」
確かに。
マリル兄ちゃんが言ったのは、有名なダンジョンの特色のひとつだ。
「ああ、それは。
ノッカーがわざと流した噂らしいよ。
事実、何回かダンジョンの魔物が外に出るっていう騒ぎも起こしたらしいしね。
ほら、ノッカーにとっては、ダンジョンに人間が来てくれるかどうかは、死活問題だから」
「ちょっ、それ、ひどっ」
そんなわけで、ダンジョンは実は妖精が運営している、というのはあんまり広めないほうがいい。
世の中、知らないほうが楽しい、ってことはいろいろあるわけで。
ノッカーだって苦労している。
ダンジョン産まれの魔獣は、ダンジョンの外で死ねば復活できない。
ダンジョンの魔獣が飽和状態になった、というのを装うのは、手ゴマを減らしてまでの懸命な宣伝活動だ。
「なるほど、だから、ダンジョンには似たような魔獣がいることが多いんだね」
テリテおばさんがうんうん頷いている。
確かに、ダンジョンは、地下一階にはウルフ系、二階にはボア系、三階にはちょっと強めのウルフ系、みたいな偏りがある。
もともと一体の魔獣をスキルで増やしているんだとしたら、その辺も納得だ。
「それで、この『霧の森』のダンジョンで何がやっかいか、っていうと……
『獣の森』でもそうだったけど、有名な魔物の領域や、ダンジョンの前には、宿場町が出来ることが多いんだよね。
出入りする冒険者を目当てに、旅籠とか、お茶屋さんとか、飯屋とか、酒屋とか。
ギルドの出張所なんてのもあったりする。
でも、ここのダンジョンは、そもそも魔物の領域にあるから……」
「なに!?
ひょっとして、魔物の領域で、野宿とか!?」
勘のいいユーリが目を丸くする。
後書き
牛雑学・牛のうんちは良い堆肥になる。でも、牧草の種が入っているので、野菜農家には嫌がられがち。ホームセンターで売ってる袋詰めのものは、ちゃんと発酵処理してあるので大丈夫。
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ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
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