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連載
ウェブ版鍛冶見習い101・『霧の森』のヴァンパイア①
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前回のあらすじ・もうすぐエリアボスのいる十階、というところでユーリが宝箱を見つけた。
ユーリを抱えて転がったオイラの髪の毛が、ひと房、すっぱりと切断されて風に舞った。
宝箱に仕込まれていた風の魔法が発動し、かまいたちが発生したのだ。
「なに!?
ノア、どうしたっての!?」
分かってないユーリが、オイラに押し倒される格好になってきょどっている。
そこに、ブルさんが駆けつけてきた。
「助かりやした、ノアさん。
……ユーリ様、ダンジョンの宝箱を、無暗やたらに開けちゃあいけませんや。
一歩間違えば、首がなくなってましたぜ?
何のために、盗賊なんて職業があると思ってるんです?
特に、分かりやすい場所に、これ見よがしに置いてある宝箱は、罠ばっかりで中身が乏しい、ってのは常識で」
盗賊は、宝箱の開錠スキルと罠解除のスキルを持っている。
盗賊がパーティにいない場合、宝箱は無視するか、長ーい槍の先などを使って開けるのが定石だ。
まあ、槍とかの小技が通用するのは初級ダンジョンまでで、高レベルになればなるほどパーティに盗賊は必須になってくる。
身の危険があったと知って固まっているユーリの手をひいて立たせると、ポンポンとドレスのほこりを払ってやる。
「ごめんね、最初に言っとけば良かった」
「そうだよ!
最初に言っといてよ!
……怖かった、怖かったんだから」
震える声でそう言うと、ユーリはガバッとオイラに抱きついて来た。
柔らかい感触と、ふわっといい匂いが香る。
女の子なら、胸が当たってドキドキ、とかあったんだろうけどなぁ。
「ごめんて。
オイラ、宝箱なんて滅多に開けないから、すっかり忘れてたし」
「なんでダンジョンまで来て、宝箱無視なのさ」
鼻をすすりながら、ユーリがいぶかしげに尋ねる。
「え?
だって、宝箱って鍛冶の素材入ってないし?」
「食えるもんもないよな」
オイラとマリル兄ちゃんの言葉に、ユーリとカウラが声をそろえて叫んだ。
「「この鍛冶バカと料理バカがーーーっっっ!」」
ちなみに、ユーリが開けた宝箱の中身は、ハチミツの壺一つだけだった。
結論から言って、クイーンビーとの戦いは、まずまずだったと思う。
カウラとリリィの補助の元、ユーリも何匹か蜜蜂を狩れていたし、兵隊蜂はマリル兄ちゃんが、クイーンビーはオイラが受け持った。
とは言っても、クイーンビー自体に戦闘能力はそんなにない。
それなのに、なんでクイーンビーがエリアボスなのかというと……
それは、クイーンビーの指揮能力にある。
クイーンビーがいない蜂の魔獣は、それこそ烏合の衆で、各個撃破が容易に出来る。
それが、クイーンビーの指揮がある状態では、訓練された軍隊のごとき連携を見せる。
というか、兵隊蜂自体、クイーンビーがいるときしか現れない。
普通の蜜蜂に、兵隊蜂とかいないし……
さらに、普通の蜜蜂は、針に返しがあって、一度人間を刺すと針が腹から抜けて死んでしまうけれど、ここのハチの魔獣には返しがない。
こういった場合、指揮官であるクイーンビーを真っ先に倒すのが定石なんだけれど、クイーンビーを倒してしまったら意味がない。
むしろクイーンビー以外を狩りつくすくらいの勢いで。
「何あれ?
ノア、どこで何やってるの?
まったく見えない……」
何匹かの蜜蜂を倒し、一息ついてユーリが目を細める。
確かに今までの階層からすれば明るいけれど、黄昏時のような薄暗さは、物の色の判別も困難にする。
ユーリには、オイラの剣とクイーンビーの外骨格がぶつかる金属音は聞こえていても、オイラの姿はとらえられていないのかも知れない。
「ってか、ノアはもちろんだけど、マリルもすごいよ?
私たちが蜜蜂を1匹倒す間に、兵隊蜂を5匹は倒してる」
カウラがマリル兄ちゃんを見直している。
というか、マリル兄ちゃんが素早くハチを狩れているのは、もちろんマリル兄ちゃんの戦闘能力の高さもあるけれど、ハチの体の仕組みを理解しているからでもある。
ハチの胸は翅を動かす筋肉の塊だ。
胸を攻撃しても、ハチはなかなか死なない。
ハチの心臓は、お腹の真ん中らへんの、背中側にある。
というか、胸部に心臓があるのは、チョウの仲間くらいで、大抵の昆虫は腹部に心臓がある。
マリル兄ちゃんは、その心臓を正確に攻撃している。
養蜂農家の面目躍如だ。
「あ、兵隊蜂が何かドロップした!
ハチミツかな?」
「ちょっと待って、クイーンビーも何か……」
カウラが目を細めてこっちを見ている。
ちょうど、三百何回目かの攻撃で、クイーンビーがローヤルゼリーをドロップしたところだった。
クイーンビーは、エリアボスだけあって、防御力が高いけれど、オイラも以前にクイーンビーと戦ったときから比べて、ずいぶんレベルがあがった。
アベさんとの戦いでも実証された通り、ステータスも強化されているみたいだし、今回は、クイーンビー用に、攻撃力マイナス補正の剣を使っている。
そうそう、言い忘れてた。
合金スキルがレベル5(MAX・全ての金属の合金が可能)になったオイラは、新たなスキルを取得することが出来た。
その名も、『武具召喚』。
なんて勇者っぽいスキルだ、と思わなくもないけど、立派な鍛冶スキルだ。
効果は、自分の作った武具を、離れた場所からでも取り出せる。
これで、何本も剣を背負って旅をする、という不自由からも解放される。
ただ問題は、一方通行だということと、自分の打った剣でないと取り出せない、ということ。
それなんで、父ちゃんにもらったカトラスは常にリュックに差してある。
あと、当然、オイラが打った剣の在庫がなくなっても取り出せない。
さらに、もう一つ。
その名も、『鉱石転送』。
自分が最も使っている鍛冶場に、採取した鉱石を送ることができる。
これもまた一方通行。
ただ、倉庫に送るわけじゃなくて、自分の鍛冶場に送るわけだから……道々拾ってきた鉱石がたまりまくって、今ごろ父ちゃんが激怒しているかも知れない。
まあ、片付けてくれるのはリムダさんなんだろうけど。
なんだか、『武具召喚』も『鉱石転送』も、合金スキルがMAXになったサービススキルのような感じがする。
誰がサービスしてるのかは知らないけど。
「マリル兄ちゃんっ、リリィ、ユーリ、カウラっ!
そろそろ抜けるよっ!
ドロップしたものは拾い終わった!?」
オイラの言葉に、慌ててユーリが離れた場所に転がっていた壺を拾いに行く。
ローヤルゼリーをドロップしてくれた以上、これ以上の攻撃は仕掛けない。
クイーンビーと、まだ何匹か残っている兵隊蜂の攻撃を避けつつ、オイラはローヤルゼリーの壺を拾い、背中のリュックに放り込む。
兵隊蜂のドロップ品を回収していたマリル兄ちゃんが、終わったぞー、と声をあげる。
「じゃ、マリル兄ちゃんとリリィは、自力で行けるねっ?」
「おうよっ」
「ん」
オイラは左腕にユーリ、右腕にカウラをひっ抱え、クイーンビーを目指して走り抜ける。
ちなみにこの部屋は、ハチの巣を思わせる造りだ。
黄土色の六角形が並び、ブーツの下の地面が、少しネチャッとする。
スピード重視の軽戦士にとって、足を取られる嫌な地形だけれど、飛んでるリリィにははなから影響はないし、マリル兄ちゃんとオイラにとっては……力づくでなんとかなる範囲だ。
「そうだった、倒さないんだったよぉおおっっ」
ユーリが何か叫んでいるけれど。
両手に抱えちゃっている以上、剣は握れない。
ひたすら足で攻撃をよけて、マリル兄ちゃんとリリィが通り抜けるちょっとの間、クイーンビーたちを引き付ける。
ここでも、他の階と同じ、囲まれちゃったらお陀仏だ。
熱殺蜂球で蒸し焼きにされる。
オイラの体なら、どこからどこまで、っていう感覚があるけれど、抱えているユーリとカウラの体がどこまであるのかは感覚でつかみ切れていない。
多めに避けているつもりでも、時々蜂の牙や針がかすめて、カウラが身をこわばせる。
ユーリはひたすらわめいている。
集中力が切れるから、なるべく静かにして欲しいんだけどなぁ。
「せぇーのっ」
マリル兄ちゃんたちが、クイーンビーの玉座の後ろの転移魔方陣に消えたのを確認して、オイラも魔方陣を踏む。
魔方陣が淡く輝き、次の瞬間。
オイラたちは、薄暗い森の中へと転移していた。
「おお、思ったより早かったの」
すぐそこで待っていてくれたご隠居が、手をあげて出迎えてくれる。
微妙に頬が赤くなっていて……満月先生の顔は、微妙じゃなく赤い。
……どっから出した、その酒。
「お月さんがお見事、お見事。
ぽんぽんっ」
腹つづみを打ちつつ、満月先生が地べたに座ったまま、ご機嫌に空を見上げる。
夜空には満月がかかっていて、夜の森を照らしている。
今日は満月の日だったのか。
十一階以降は、夜の森。
ダンジョンの外の月とは関係なく、日によって月の大きさが変わり、月の明るさによってだいぶ難易度が変わる。
満月は良し悪し。
一番良く見えるし、満月にしか現れない魔獣もいる。
「さっきのエリアボスの部屋の蜂が、蜂蜜酒をドロップしてくれてねぇ。
せっかくだから、ここで酒盛りしながら待ってたんだよぉ」
蜂蜜酒は結構アルコール度数が高い。
テリテおばさんも微妙にご機嫌になっている。
「ダンジョンで酒盛りとか……
殿下たちが無事に来られるかも分かんねぇのに。
緊張感が足りねぇっつーの」
そう嘆きつつも、ブルさんの手にあるのは蜂蜜酒なのではなかろうか。
なんだかんだ言いつつ、結局は飲まされたと見える。
「僕らが死ぬ思いしてたっていうのに、何お酒なんて飲んでるのさー!」
「おやユーリ様、蜜蜂に遅れをとったんですかい?」
「そんなの余裕だよ!
怖かったのは、ノアに抱えられてクイーンビーに攻撃されてるとき!
呪文も満足に唱えられないし」
おや、ユーリはオイラに抱えられている最中も、魔法で援護してくれようとしていたのか。
ただわめいていただけじゃなかったらしい。
「どうする?
今日はここでキャンプする?
ここにいると時間の感覚がないけど、そろそろ外は夕方じゃないかな?
オイラは、ちょっと下の階にいる知り合いのとこに行ってきちゃいたいんだけど」
「知り合い?
こんなダンジョンの下層に?」
カウラが眉を寄せる。
確かに、このへんには冒険者の影も形もない。
オイラとマリル兄ちゃんとテリテおばさん、ブルさんは難なく抜けて来た暗闇の階層も、鼻のきかない冒険者には恐怖なんだろう。
蜂を狩るだけでいい稼ぎになる以上、無理をしてまでエリアボスを乗り越える必要はない。
「うん、ここはずっと夜だからねー。
夜が好きな連中が集まるんだよ」
「夜が好き、って?」
結局、なんだかんだでついてきたカウラとユーリ、マリル兄ちゃんとリリィを引き連れて、オイラは、地下十三階にある知り合いの家を訪ねる。
入り組んだ地形の深い森の中、絡み合った茨の迷路に阻まれた隠れ里。
案内なしにたどり着くのは不可能だろう。
というか、ここに村があること自体、他の人間は誰も知らないに違いない。
オイラは知ってるから行けるけどね。
何しろ、暗い森の中にあって、明かり一つついていない。
この里に住む者は、明かりなんて必要ないからだ。
「ね、ねぇ、ノア、ここって……?」
「なんだか不気味だね……」
それが。
オイラたちが里の入り口の広場に踏み入った瞬間、オイラたちから奥へ広がるように、パァアアっと明かりが灯っていった。
「ようこそ、ノア。
久しぶりだね」
満面の笑顔でオイラを迎えてくれたのは。
黒いシルクハットに燕尾服、黒い髪に赤い瞳。
陽気なヴァンパイアの睦月だった。
後書き
牛雑学・牛だって咳もすればおならもする。ただし、咳やくしゃみをしている牛の後ろは、勢いでう〇ちがすっ飛んでくることがあるので要注意☆
余談ですが、昨夜、ベランダにヘラクレスオオカブト(本物)が落ちていてびっくり。自生している……わけはないよねぇ。猫が発見したらしく、それを発見した長男が牛舎に駆け込んできました。
ユーリを抱えて転がったオイラの髪の毛が、ひと房、すっぱりと切断されて風に舞った。
宝箱に仕込まれていた風の魔法が発動し、かまいたちが発生したのだ。
「なに!?
ノア、どうしたっての!?」
分かってないユーリが、オイラに押し倒される格好になってきょどっている。
そこに、ブルさんが駆けつけてきた。
「助かりやした、ノアさん。
……ユーリ様、ダンジョンの宝箱を、無暗やたらに開けちゃあいけませんや。
一歩間違えば、首がなくなってましたぜ?
何のために、盗賊なんて職業があると思ってるんです?
特に、分かりやすい場所に、これ見よがしに置いてある宝箱は、罠ばっかりで中身が乏しい、ってのは常識で」
盗賊は、宝箱の開錠スキルと罠解除のスキルを持っている。
盗賊がパーティにいない場合、宝箱は無視するか、長ーい槍の先などを使って開けるのが定石だ。
まあ、槍とかの小技が通用するのは初級ダンジョンまでで、高レベルになればなるほどパーティに盗賊は必須になってくる。
身の危険があったと知って固まっているユーリの手をひいて立たせると、ポンポンとドレスのほこりを払ってやる。
「ごめんね、最初に言っとけば良かった」
「そうだよ!
最初に言っといてよ!
……怖かった、怖かったんだから」
震える声でそう言うと、ユーリはガバッとオイラに抱きついて来た。
柔らかい感触と、ふわっといい匂いが香る。
女の子なら、胸が当たってドキドキ、とかあったんだろうけどなぁ。
「ごめんて。
オイラ、宝箱なんて滅多に開けないから、すっかり忘れてたし」
「なんでダンジョンまで来て、宝箱無視なのさ」
鼻をすすりながら、ユーリがいぶかしげに尋ねる。
「え?
だって、宝箱って鍛冶の素材入ってないし?」
「食えるもんもないよな」
オイラとマリル兄ちゃんの言葉に、ユーリとカウラが声をそろえて叫んだ。
「「この鍛冶バカと料理バカがーーーっっっ!」」
ちなみに、ユーリが開けた宝箱の中身は、ハチミツの壺一つだけだった。
結論から言って、クイーンビーとの戦いは、まずまずだったと思う。
カウラとリリィの補助の元、ユーリも何匹か蜜蜂を狩れていたし、兵隊蜂はマリル兄ちゃんが、クイーンビーはオイラが受け持った。
とは言っても、クイーンビー自体に戦闘能力はそんなにない。
それなのに、なんでクイーンビーがエリアボスなのかというと……
それは、クイーンビーの指揮能力にある。
クイーンビーがいない蜂の魔獣は、それこそ烏合の衆で、各個撃破が容易に出来る。
それが、クイーンビーの指揮がある状態では、訓練された軍隊のごとき連携を見せる。
というか、兵隊蜂自体、クイーンビーがいるときしか現れない。
普通の蜜蜂に、兵隊蜂とかいないし……
さらに、普通の蜜蜂は、針に返しがあって、一度人間を刺すと針が腹から抜けて死んでしまうけれど、ここのハチの魔獣には返しがない。
こういった場合、指揮官であるクイーンビーを真っ先に倒すのが定石なんだけれど、クイーンビーを倒してしまったら意味がない。
むしろクイーンビー以外を狩りつくすくらいの勢いで。
「何あれ?
ノア、どこで何やってるの?
まったく見えない……」
何匹かの蜜蜂を倒し、一息ついてユーリが目を細める。
確かに今までの階層からすれば明るいけれど、黄昏時のような薄暗さは、物の色の判別も困難にする。
ユーリには、オイラの剣とクイーンビーの外骨格がぶつかる金属音は聞こえていても、オイラの姿はとらえられていないのかも知れない。
「ってか、ノアはもちろんだけど、マリルもすごいよ?
私たちが蜜蜂を1匹倒す間に、兵隊蜂を5匹は倒してる」
カウラがマリル兄ちゃんを見直している。
というか、マリル兄ちゃんが素早くハチを狩れているのは、もちろんマリル兄ちゃんの戦闘能力の高さもあるけれど、ハチの体の仕組みを理解しているからでもある。
ハチの胸は翅を動かす筋肉の塊だ。
胸を攻撃しても、ハチはなかなか死なない。
ハチの心臓は、お腹の真ん中らへんの、背中側にある。
というか、胸部に心臓があるのは、チョウの仲間くらいで、大抵の昆虫は腹部に心臓がある。
マリル兄ちゃんは、その心臓を正確に攻撃している。
養蜂農家の面目躍如だ。
「あ、兵隊蜂が何かドロップした!
ハチミツかな?」
「ちょっと待って、クイーンビーも何か……」
カウラが目を細めてこっちを見ている。
ちょうど、三百何回目かの攻撃で、クイーンビーがローヤルゼリーをドロップしたところだった。
クイーンビーは、エリアボスだけあって、防御力が高いけれど、オイラも以前にクイーンビーと戦ったときから比べて、ずいぶんレベルがあがった。
アベさんとの戦いでも実証された通り、ステータスも強化されているみたいだし、今回は、クイーンビー用に、攻撃力マイナス補正の剣を使っている。
そうそう、言い忘れてた。
合金スキルがレベル5(MAX・全ての金属の合金が可能)になったオイラは、新たなスキルを取得することが出来た。
その名も、『武具召喚』。
なんて勇者っぽいスキルだ、と思わなくもないけど、立派な鍛冶スキルだ。
効果は、自分の作った武具を、離れた場所からでも取り出せる。
これで、何本も剣を背負って旅をする、という不自由からも解放される。
ただ問題は、一方通行だということと、自分の打った剣でないと取り出せない、ということ。
それなんで、父ちゃんにもらったカトラスは常にリュックに差してある。
あと、当然、オイラが打った剣の在庫がなくなっても取り出せない。
さらに、もう一つ。
その名も、『鉱石転送』。
自分が最も使っている鍛冶場に、採取した鉱石を送ることができる。
これもまた一方通行。
ただ、倉庫に送るわけじゃなくて、自分の鍛冶場に送るわけだから……道々拾ってきた鉱石がたまりまくって、今ごろ父ちゃんが激怒しているかも知れない。
まあ、片付けてくれるのはリムダさんなんだろうけど。
なんだか、『武具召喚』も『鉱石転送』も、合金スキルがMAXになったサービススキルのような感じがする。
誰がサービスしてるのかは知らないけど。
「マリル兄ちゃんっ、リリィ、ユーリ、カウラっ!
そろそろ抜けるよっ!
ドロップしたものは拾い終わった!?」
オイラの言葉に、慌ててユーリが離れた場所に転がっていた壺を拾いに行く。
ローヤルゼリーをドロップしてくれた以上、これ以上の攻撃は仕掛けない。
クイーンビーと、まだ何匹か残っている兵隊蜂の攻撃を避けつつ、オイラはローヤルゼリーの壺を拾い、背中のリュックに放り込む。
兵隊蜂のドロップ品を回収していたマリル兄ちゃんが、終わったぞー、と声をあげる。
「じゃ、マリル兄ちゃんとリリィは、自力で行けるねっ?」
「おうよっ」
「ん」
オイラは左腕にユーリ、右腕にカウラをひっ抱え、クイーンビーを目指して走り抜ける。
ちなみにこの部屋は、ハチの巣を思わせる造りだ。
黄土色の六角形が並び、ブーツの下の地面が、少しネチャッとする。
スピード重視の軽戦士にとって、足を取られる嫌な地形だけれど、飛んでるリリィにははなから影響はないし、マリル兄ちゃんとオイラにとっては……力づくでなんとかなる範囲だ。
「そうだった、倒さないんだったよぉおおっっ」
ユーリが何か叫んでいるけれど。
両手に抱えちゃっている以上、剣は握れない。
ひたすら足で攻撃をよけて、マリル兄ちゃんとリリィが通り抜けるちょっとの間、クイーンビーたちを引き付ける。
ここでも、他の階と同じ、囲まれちゃったらお陀仏だ。
熱殺蜂球で蒸し焼きにされる。
オイラの体なら、どこからどこまで、っていう感覚があるけれど、抱えているユーリとカウラの体がどこまであるのかは感覚でつかみ切れていない。
多めに避けているつもりでも、時々蜂の牙や針がかすめて、カウラが身をこわばせる。
ユーリはひたすらわめいている。
集中力が切れるから、なるべく静かにして欲しいんだけどなぁ。
「せぇーのっ」
マリル兄ちゃんたちが、クイーンビーの玉座の後ろの転移魔方陣に消えたのを確認して、オイラも魔方陣を踏む。
魔方陣が淡く輝き、次の瞬間。
オイラたちは、薄暗い森の中へと転移していた。
「おお、思ったより早かったの」
すぐそこで待っていてくれたご隠居が、手をあげて出迎えてくれる。
微妙に頬が赤くなっていて……満月先生の顔は、微妙じゃなく赤い。
……どっから出した、その酒。
「お月さんがお見事、お見事。
ぽんぽんっ」
腹つづみを打ちつつ、満月先生が地べたに座ったまま、ご機嫌に空を見上げる。
夜空には満月がかかっていて、夜の森を照らしている。
今日は満月の日だったのか。
十一階以降は、夜の森。
ダンジョンの外の月とは関係なく、日によって月の大きさが変わり、月の明るさによってだいぶ難易度が変わる。
満月は良し悪し。
一番良く見えるし、満月にしか現れない魔獣もいる。
「さっきのエリアボスの部屋の蜂が、蜂蜜酒をドロップしてくれてねぇ。
せっかくだから、ここで酒盛りしながら待ってたんだよぉ」
蜂蜜酒は結構アルコール度数が高い。
テリテおばさんも微妙にご機嫌になっている。
「ダンジョンで酒盛りとか……
殿下たちが無事に来られるかも分かんねぇのに。
緊張感が足りねぇっつーの」
そう嘆きつつも、ブルさんの手にあるのは蜂蜜酒なのではなかろうか。
なんだかんだ言いつつ、結局は飲まされたと見える。
「僕らが死ぬ思いしてたっていうのに、何お酒なんて飲んでるのさー!」
「おやユーリ様、蜜蜂に遅れをとったんですかい?」
「そんなの余裕だよ!
怖かったのは、ノアに抱えられてクイーンビーに攻撃されてるとき!
呪文も満足に唱えられないし」
おや、ユーリはオイラに抱えられている最中も、魔法で援護してくれようとしていたのか。
ただわめいていただけじゃなかったらしい。
「どうする?
今日はここでキャンプする?
ここにいると時間の感覚がないけど、そろそろ外は夕方じゃないかな?
オイラは、ちょっと下の階にいる知り合いのとこに行ってきちゃいたいんだけど」
「知り合い?
こんなダンジョンの下層に?」
カウラが眉を寄せる。
確かに、このへんには冒険者の影も形もない。
オイラとマリル兄ちゃんとテリテおばさん、ブルさんは難なく抜けて来た暗闇の階層も、鼻のきかない冒険者には恐怖なんだろう。
蜂を狩るだけでいい稼ぎになる以上、無理をしてまでエリアボスを乗り越える必要はない。
「うん、ここはずっと夜だからねー。
夜が好きな連中が集まるんだよ」
「夜が好き、って?」
結局、なんだかんだでついてきたカウラとユーリ、マリル兄ちゃんとリリィを引き連れて、オイラは、地下十三階にある知り合いの家を訪ねる。
入り組んだ地形の深い森の中、絡み合った茨の迷路に阻まれた隠れ里。
案内なしにたどり着くのは不可能だろう。
というか、ここに村があること自体、他の人間は誰も知らないに違いない。
オイラは知ってるから行けるけどね。
何しろ、暗い森の中にあって、明かり一つついていない。
この里に住む者は、明かりなんて必要ないからだ。
「ね、ねぇ、ノア、ここって……?」
「なんだか不気味だね……」
それが。
オイラたちが里の入り口の広場に踏み入った瞬間、オイラたちから奥へ広がるように、パァアアっと明かりが灯っていった。
「ようこそ、ノア。
久しぶりだね」
満面の笑顔でオイラを迎えてくれたのは。
黒いシルクハットに燕尾服、黒い髪に赤い瞳。
陽気なヴァンパイアの睦月だった。
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最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~
Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。
うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。
でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。
上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。
——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?
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