66 / 133
番外編
鍛冶見習い番外編・志村さん追悼SS
しおりを挟むそのおじさんは、満開の桜の下で、優し気に微笑んでいた。
あれ?
いつの間にオイラ、花見になんて来てたんだっけ?
「ノアー、つまみ作って。
卵焼きの甘いヤツがいいな」
「ほーい」
母ちゃんに言われて、オイラは即席のかまどで花見の宴会の追加の料理を作り始める。
辺りを見回せば、確かに知った顔がいっぱいで、次々にゴザに合流して、オイラが持ってきた重箱の弁当は、既に半分ほど底が見えている。
懐かしいな。
あのおばあちゃんもおじいちゃんも、近所に住んでるのに久しぶりに会った気がする。
あれ、なんで会わなくなったんだったけ?
「ノアー、まだー?」
「ほいほーい」
いつもなら、こんな時には必ず駆り出されるはずのマリル兄ちゃんの姿は、なぜか見えない。
テリテおばさんも父ちゃんも来てないみたいだし、別の花見の席にでも呼ばれてるのかな?
母ちゃんと向かい合って穏やかに清酒を呑んでいるおじさんも、確かに見覚えがあるのに、喉に引っかかったように名前が思い出せない。
水色のサロペットに、ピンク色のバンダナを首に巻いて、お尻のところにはソファーのように茶色い大きな犬がまとわりついている。
『おおっ、なんだよ、こんなんやってるなら呼べよぉ』
宴会には物の怪が寄ってくる、なんて話を聞いたことがあるけれど、現れたのはピンクのクマたちノッカーだった。
優し気な桜色の中で、クマのぬいぐるみの鮮やかなピンクが浮いている。
オイラが追加したばかりの菜の花の和え物をつまみつつ、大興奮でおじさんに話しかけていた。
『生麦生米生卵!』
『すもももももももものうち!』
『かえるぴょこぴょこむぴょこぴょこ!』
『最初はグー!ジャンケンぽん!』
楽しそうなピンクのクマの声ははっきり聞こえるのに、おじさんの声だけは、そこだけ切り取られたようによく聞こえない。
しばらく嬉しそうにおじさんにまとわりついていたピンクのクマが、オイラの炒めているキンピラをのぞきにやって来た。
「ね、ミュールちゃん、あのおじさんと知り合いなの?」
『当たり前だのクラッカー。
なんでぇノア、まさか知らねぇってのか?』
「確かに知ってるはずなんだけど……」
『そりゃそうだろ。
国で一番偉大なおじさんだからな』
器用にぬいぐるみの口元をゆがめてニヤニヤ笑うピンクのクマの後ろ、手酌で穏やかに酒を進めるおじさんの周りには、綿毛猫たちダンジョンの動物も集まってきている。
ダンジョンだけじゃない、丸っこくて大きな鳥や、大きなヒョウのような動物、トドのような動物たちまでもが、おじさんから料理を分けてもらい、楽しそうに宴席に参加している。
母ちゃんまでもが、頭に肩にハトを乗せて、手の中の煎り豆を取られまいと格闘している。
いつの間に、こんなに動物が集まって来たんだろう。
遠くには、竜の姿さえ見える。
人間も動物もたくさん集まって来たけれど、その中心はおじさんなんだというのがなんとなく分かる。
集まって来たみんなが、おじさんのことが大好きなんだ。
「あれ?
そういえば、ミュールちゃん。
なんでここにいるの?
確かダンジョンから出られないんじゃあ……」
言いかけたオイラの周りを、ザァっっと花吹雪が舞った。
花の嵐の向こうに霞んだおじさんが、何か言った気がした。
百年くらいしたら、また一緒に酒でも飲もうや、と。
「百年?
百年も経ったら、オイラ、よぼよぼのじいちゃんだよ?」
その時。
オイラの耳に、確かに聞こえた。
優しいおじさんの声で、「だいじょぶだぁ」と。
「ノア、ノア!」
「え?父ちゃん?」
目を開けたオイラは、目の前いっぱいに広がる、舞い散る桜の美しさとはかけ離れた父ちゃんの顔に目を瞬かせた。
見回せばそこは、いつものうちの土間だった。
「あれ、オイラ、母ちゃんと花見してたはず?」
「なんだそりゃ、うらやましいな。
お前は、棚から金だらいが落ちてきて、頭に直撃して気ぃ失ってたんだ」
「え、何それ危な」
「まさか棚の足が外れるたぁな。
もう古ぃからなぁ」
傾いた棚を見上げる父ちゃんを見ながら、オイラは思い出していた。
あの満開の桜の下、宴会をしていたのは、今はもう会えなくなってしまった人達だった。
そして、あの動物たちに囲まれて穏やかに笑っていたおじさんは。
この国の人間なら、誰もが知っている芸人さんだった。
動物好きで有名な人だった。
ちょうどさっき、その人が亡くなったと聞いて、物凄く悲しいと思っていたところだったから、あんな白昼夢を見たのかもしれない。
いつか、また。
いつかオイラが桜の季節に死んだら、再びあの宴会に行くことができるだろうか。
今は亡い人達に、いつか会える日が来るといいなと思いながら、オイラは納屋へと釘を取りに向かった。
後書き
うちの小4の娘さえもが、志村園長が亡くなったことにショックを受けていました。小1の娘さえ、見たことがないはずの「へんなおじさん音頭」が踊れます。彼は文化だったと思います。もちろん、志村さんとの面識はありませんが、私なりの追悼の気持ちです。どうか、動物たちと心穏やかに過ごされますように。
志村さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
35
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。
=========================
<<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>>
参加時325位 → 現在5位!
応援よろしくお願いします!(´▽`)
=========================
S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。
ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。
崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。
そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。
今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。
そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。
それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。
ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。
他サイトでも掲載しています。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。