レベル596の鍛冶見習い

寺尾友希(田崎幻望)

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番外編4

鍛冶見習い番外編・タケノコと九尾膳(ご隠居目線)

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前回のあらすじ・ご隠居の乳母、ドロシーの葬儀の帰りに居酒屋のツケに払われたノマドの剣を見つけた。


「ハァァァ……」

「なんじゃ、どうしたノアちゃん。
 珍しく元気がないのぉ」

「あ、ご隠居」

 盛大につかれたため息に思わず問うと、ノアちゃんが「しまった」という顔をした。。
 わしの乳兄弟である牛方、ロイドの母ドロシーの葬儀があった翌日のことだった。
 ここは、鶴亀堂の近くにあるノマドの鍛冶屋だ。
 ノマドというのは鍛冶見習い・ノアちゃんの父親で酒飲みのロクデナシ、父親としても人間としてもどうしようもない男ではあるものの、鍛冶の腕だけはピカイチで、火竜の女王が自ら武具の依頼に来たり、火竜が住み込みの弟子として働いていたりするほどだ。
 わしの血縁であるオムラの夫であるわけだから、一応は親せきということになるのか。
 わしがわざわざノマドを訪ねてきた理由というのは言うまでもない。
 ドロシーの葬儀の後で立ち寄った居酒屋の件だ。
 ただでさえノマドが苦手とするわしが、ノアちゃんには絶対に知られたくないだろう説教話を持ってきたわけだから、話している間ずっと、ノマドの耳はペタンと寝ていた。

「父ちゃんの用はもういいの?」

「まあ、大したことではないからの」

 皮肉を込めてチラリと見やった視線に、ノマドがビクッと尻尾をけば立てた。

「は、はははは、そ、そう、大したことじゃ……!
 じゃっ、俺は仕事があるからっ」

 そのまま逃げるように鍛冶場へ向かったノマドの後を、茶を淹れていた火竜の弟子が慌てて追いかけた。
 ノアちゃんへと手渡された古びた木の盆には、二人分の湯呑が乗っていた。
 本当はノマドとわしの分だっただろうが、わしに片方渡した残りをノアちゃんがすする。

「火竜に茶を淹れてもらうなどとは、ここ以外では考えられぬことじゃのぉ」

 まこと、世の中というのは計り知れない。
 まさかここまで人間の生活に馴染む火竜がいるなどと、想像だにしなかった。
 王都ハーベスタは、『竜の棲む山脈』を背負って広がっている。これは、他国から絶対に背後を攻め入られない天然の要害であると同時に、『いざ竜が人間に攻撃を仕掛けてきたら、距離などあっても無駄、天災と同じ』という諦観を含んでいる。
 竜は、天災と同じ。
 王都では時折り、竜が飛来したときに備えての避難訓練すら行っているわりに、対竜に備えての軍事訓練は全くと言っていいほど行われていない。
 『王族の父祖は竜の神の一族であり、いわば血族である』というのが表向きの理由だが、その実、高い知能を持つ竜に、一端『敵意あり』と認識されたならば人間の国の命運など風前の灯火だ、というのが正直なところだ。
 そんな竜、しかも高位竜が人の家に住むというのは、まさに台風と人とが同居するようなもの。
 ノアちゃんがテイムしたと言っていたが、竜にとって人間のテイムの縛りなどというのは、猛獣使いの使う頑丈な鎖などではなく、容易に引きちぎれる紙のこよりと同じような物だろう。
 つまりあの竜は、誰に強制されたわけでなく、自身の意思で大人しく人の真似事をしている、というわけだ。
 しばらくしみじみとお茶を味わった後、「で?」と目で催促すると、ノアちゃんは渋々といった様子で話し出した。

「うーんとね、この春から、マリル兄ちゃんが王城近くの料理屋に修行に行ったでしょ?」

「おお、そういえば。
 『九尾膳《くおぜん》』、王都一の料亭じゃな」

「そうなんだよ。
 普通の料理屋かと思ったら、すんごいとこだって聞いてさ。
 オイラ、いつかお金貯めてマリル兄ちゃんの作った料理食べに行くつもりだったのに……
 あの、『茶漬け一杯一両二分』って伝説のとこじゃあ」

「まあ、あれは食通を唸らせるためであって、普段の茶漬け一杯に一両二分とるわけではないがの」

 苦笑いを浮かべてはみるものの、その昔、ノアちゃんには縁遠い九尾膳について面白可笑しく話して聞かせたのはこのわしだ。
 少々大げさに伝えすぎたか、と反省する。
 王都一の料亭・九尾膳の逸話は数多い。
 有名なのは、美食に飽きた通人が数人九尾膳を訪れて、『王都一の料亭を名乗るならば、我々を唸らせる茶漬けを用意してみろ』と言ったところ、なかなか出てこず、半日待たされて出てきたのは確かに極上の茶漬けと香の物。けれどその値段は一両二分。流石に高いと文句を言った通人だちに、九尾膳の主が滔々と語ったところによると、『香の物は春先の今滅多にない茄子と瓜。茶葉は選び抜かれた上煎茶に、その茶葉に合う水を用意するため玉蜀黍川上流まで早飛脚を仕立てました。その早飛脚代も含まれております』と。

「一両二分なんて、財布を逆さまにしたってとてもじゃないけど出てこないよ」

 文字通り、懐から取りだした財布をノアちゃんが振って見せると、がま口からチャリンチャリンと何枚かの銅銭が落ちてきた。
 そういえば、今まで食べ物はノアちゃんが周りの農家を手伝って駄賃にもらった野菜や米で賄っていたものの、ここのところ鍛冶をやる時間が増えてかえって金欠になっている、と前にぼやいているのを聞いた覚えがある。
 剣を売った金で生活費を賄ったらいいのでは、と以前火竜の弟子に指摘されたらしいが、ノマドもノアちゃんも、鍛冶で稼いだ金は鍛冶に使うという考えが抜けないのか、金を払って食べ物を買うという頭がないのか、それとも食費なんて全く考慮せずに入った金全て鍛冶関連につぎ込んでいるのか、いつも金がないとヒィヒィ言っている。
 というか、人外である火竜に生活費を諭されるとは、いったいどこまで鍛冶馬鹿なのか、この親子は……
 
「よしよし、それではこのわしが責任を持ってノアちゃんを『九尾膳』へ連れていってやろうではないか」

「えっ!?」

 ノアちゃんが目を丸くして驚く。
 そうじゃろうそうじゃろう、ノアちゃんが一人では叶えられぬ願いでも、このわしならば叶えてやれる。わしの偉大さを思い知り、これからはもっとこのわしに甘えるが良い。
 うんうん頷きながらそんなことを考えていたわしの顔を、何故か喜ぶでもなく心配そうにノアちゃんが見上げる。

「嬉しいけど……でも、ご隠居、大丈夫?」

「なにがじゃ?」

「だって、鶴亀堂って、言っちゃ悪いけどそんな大きなお店たなじゃないよね?
 『九尾膳』て、貴族とか王城近くの大店の旦那衆とかが行くような、一見いちげんさんお断りの料亭なんでしょ?
 ご隠居って、そんなにお金あるの?
 見え張ってお店からお金持ち出したりしたら、鶴太郎さん(鶴亀堂主)に怒られない?」

「ぶっ」

 本気で心配そうなその言葉に、わしは思わず口にしていた玄米茶を吹いた。
 王都外れの古道具屋鶴亀堂の隠居は世を忍ぶ仮の姿、わしの正体は先代国王クレイタス四世……と、確かノアちゃんは知っているはずなんじゃが……
 手ぬぐい手ぬぐい、とか言いながらわしが汚した板の間を拭いているノアちゃんを見やる。
 叔父が国王だったの、近所の爺が先代国王だのと言っても、実際に貴族社会で生きてこなかったノアちゃんには、いまいちピンと来ないのかも知れない。
 いや……その辺の町家の子どもでさえ、参代する貴族の列の前を横切ったら無礼打ちにされる、貴族や王族というのは庶民の命や小判の十枚くらい右から左へ簡単に流せるものだと、自ずから理解しているはずだ。
 どこをどう育ち間違ったのか、ノアちゃんには何かが欠落している気がする。
 だが、まあ。
 これまでなついてくれていたノアちゃんに、わしの正体を知られたとたんに距離を取られるのでは虚しすぎる。
 ノアちゃんはこれでいいのだと、妙な得心もあった。

「確かに『九尾膳』は一見お断りの格式高い料亭じゃし、わしは『九尾膳』の常連ではないがのぉ。
 わしの知己に『九尾膳』の常連がおっての、そいつに案内させるゆえ、ノアちゃんが心配するには及ぶまいよ。
 もちろん、金の心配ものぉ。
 なにせ、あやつときたら、金なら唸るほど持っておるほどに」

「そうなの?」

 目をパチクリとさせるノアちゃんを安心させるように、わしは平静を装ってゆっくりと頷いた。
 いくら先代国王の肩書があっても、「一見お断り」の店に紹介状無しに押し入るわけにはいかない。むしろ国王や王妃などは、料理人を城に呼びつけることは出来ても、自らが気軽に城下の店の常連になることは難しい。
 となると、あやつに借りを作ることになるが……まあ、ノアちゃんの喜ぶ顔を見るためなら借りの一つや二つ仕方あるまいて。
 玄米茶の残りを飲み干すと、わしは元・部下に連絡を取るべく、重い腰をよっこらしょと持ち上げた。



「えっ、ロージィ!?
 『九尾膳』の常連って、ロージィだったの!?」

「やだ、久しぶりだよぉ、ノアちゃん!
 ちょっと見ないうちにおっきくなって……って、あれ、思ってたよりは大きくなってないね」

「言わないでよ!」

 これから王都一の料亭へ出かけようというのに、何故か大きな竹籠を背負ったノアちゃんがぷーっと膨れた。
 対して、その前で艶やかな笑みを浮かべ楽しそうにノアちゃんをからかっているのは……
 落ち着いたあずき色のつば広の魔導帽、そこかしこに黒いレースを散りばめた着物ドレス、水竜の竜玉をはめ込んだ国宝級の魔法の杖。年齢を感じさせない若作りな顔は、妙齢の美女といってもまだ通じるほど。羚羊レイヨウ種特有の角が威厳を漂わせる。
 わしの元妻にして王太后、アンブローズ・ミーロック・デントコーンその人だった。
 
「久しぶりにオーグが訪ねて来たと思ったら、驚いたよぉ。
 ノアちゃんが、よりにもよって九尾膳に興味があるんだって?」

 ニヤニヤとノアちゃんの頭へと手を伸ばすアンブローズの前へと割って入る。

「ちょっと待たんか。
 わしが九尾膳の紹介を頼んだのはオーグじゃ。
 なんでよりによっておぬしが来よった?」

「オーグが予定が合わないからって頼まれたに決まってるじゃないか。
 わっちも久しぶりにノアちゃんに会いたかったしねぇ。
 河川工事だ何だ、オーグの引き受けてる仕事は多い。ここんとこオーグが忙しいのはあんただって分かってただろう?
 そんなことも推し量れずに無理を通そうとするなんて、元・賢王とやらも耄碌したねぇ」

「ぐぅ……」

 はっきり言って、わしはこの元妻に口で勝てた試しがない。
 そもそもが、わしのところへ嫁いで来てくれたこと自体で弱みを握られていると言っても過言ではない。
 アンブローズ・ミーロックは大陸中にその名を知られた大魔導士だった。研究畑の大賢者とはまた違う、攻撃魔法に偏った戦略級の魔法使い。
 彼女がデントコーン王国の王妃になったことで、数十年前までは各地であった他国との小競り合いや紛争は収まり、多少無理な政策でもゴリ押しすることができた。根強い反対があった被差別階級の廃止を推し進められたのも、彼女の抑止力あってのことだ。
 国民には知られていないことだが、そんなアンブローズにはわしが退位し鶴亀堂に引っ込むときに三行半みくだりはんを突き付けられた。三行半とは、通常夫から妻へ渡す離縁状であるはずだが……何事においても型破りな妻に今更言っても始まらぬ、と思ったわしは大人しく離縁されることにした。
 わしと離縁しても、彼女が王太后のままであるならば、国の抑止力には変わるまい。

「心配しなくても、ちゃんとオーグの紹介状は預かって来てるよ。
 他でもないノアちゃんの頼みだものねぇ、どっかの愚王はさておき」

 キャラキャラと嗤うアンブローズとわしを見比べ、ノアちゃんがこそっとわしに尋ねる。

「前から思ってたんだけど、ご隠居とロージィってどういう関係?
 昔からの知り合いって言ってたけど、なんだかうちの父ちゃんと母ちゃんっぽいっていうか」

 なかなか鋭いノアちゃんに内心ギクッとするものの、今更「元妻」などと言うのは照れくさい。わしは素知らぬ顔で誤魔化すことにする。

「なに、若い頃からの腐れ縁というだけの話じゃ。
 そんなことより、九尾膳じゃ九尾膳。予約の時間に遅れてしまうでのぉ」


 オーグの紹介状の効力は大したもので、料亭にはそぐわないノアちゃんの服装も竹籠も、あっさりとスルーされて座敷に通された。
 座敷からは手入れの行き届いた中庭が一望でき、開いた障子からは涼やかなそよ風が吹き込んでくる。中庭には池に滝があり、その辺りが涼風に一役買っているのかもしれない。

「ここに、マリルっていう料理人見習いがいない?
 春から来てるはずなんだけど」

 九尾膳の料理は流石に美味だった。
 ただ、そこに知った味と匂いを見いだせなかったらしいノアちゃんは首をひねっていた。修行に来て数か月の新人が、客に出す料理を任せられることはないだろう、とわしは言ったが、ノアちゃんはいまいち納得出来なかったらしい。
 食後に顔を見せた二番板の挨拶が終わると、すぐにくりくりとした眼差しを向けた。

「マリル、ですかい?」

 よほどの上客でもない限り、板長が挨拶にやって来ることはない。わしとロージィは身分を明らかにしていない。かと言って常連であるオーグの紹介した客に誰も挨拶に出ぬでは済まされない。そういった機微を反映した二番板の挨拶だったのだろうが……
 問われた二番板は、苦々しい表情になった。

「おりやすよ、確かにこの春から。
 オーナーの知り合いの息子だか何だか知らねえが、いい歳こいて他の料亭で修行を積んだわけでもなし、素人がいきなりこの九尾膳で修行してぇとかぬかしてね。
 他の人間が、ここの板場に入るのにどれだけ苦労してるかってんで。
 いつもヘラヘラしててつかみどころもねぇし」

 明らかに否定的な口調でしゃべる二番板に鼻白むでもなく、ノアちゃんはニコニコと座敷の端にあった竹籠を引き寄せた。

「あのね、これ、マリル兄ちゃんにお土産。
 マリル兄ちゃんの好物。
 毎年一緒に採りに行ってたんだけど、今年は無理だったから」

 はい、と渡された竹籠には手ぬぐいがかぶせてあって中身は見えない。ただ、結構な重さがあったようで、はいと気軽に渡された二番板は目を白黒させた。

「土産でやすかい?
 ただ、マリルの奴は今、オーナーについて『食満の都』へ食材調達に行ってやしてね。
 戻るのはいつになるか……」

「そうなの?
 道理で、マリル兄ちゃんのにおいがしないと思った。
 皿洗いでも野菜の皮むきでも、いるならどこかににおいが残ってるはずだもんね。
 それじゃあ、お店で使っちゃってくれる?
 今日中に食べないと美味しくなくなっちゃうから」

「いや、ここは天下の九尾膳じゃぞ、ノアちゃん。
 扱ってる食材も一級品ばかりじゃ。
 野草だか山菜だか知らぬが、使えと言われても困るじゃろうに」

 ノアちゃんの心根は尊いが、二番板も迷惑そうな顔をしている。困り顔で受け取られて、さり気に捨てられても文句は言えない。
 ところが、手ぬぐいを取って中をのぞいた二番板が、ぽかーんと目と口を見開いた。それから徐々に驚愕に引きつっていく。

「ぼっ、ぼっ、坊ちゃん!」

「坊ちゃん?」

 両肩に手を置いて、がくがくとノアちゃんを揺さぶりながら二番板が唾を飛ばす。

「こっ、こりゃあ矢竹のタケノコじゃねぇですかいっ!?」

「うん、そうだよ、知ってた?」

「知ってるも何も……!」

 イマイチよく分からないわしとアンブローズは顔を見合わせる。
 竹籠の中に入っているのは、手のひらほどの小ぶりなタケノコだった。百以上はあるだろうか。

「二番板さんや。
 矢竹というのは?」

「幻のタケノコでやす。
 孟宗竹は六月、真竹は七月にタケノコがでやすが、矢竹は八月。
 最も旨いと言われてやすが、その生体は魔物に近く、『無限の荒野』と『竜の棲む山脈』の境の森林地帯にしか生えてねぇせいで、Bランク以下の冒険者は近寄れもしねぇ竹でさぁ。
 近寄れたところで、矢竹のタケノコってなぁ文字通り矢のごとく成長が早いと聞く。いつ生えるかも分からねぇし、矢のように飛び出すタケノコを食える大きさで採るのは、まぁ至難の業で。
 この九尾膳をして、数年に一本入荷するかどうかの逸品でやす。
 それを、こんなに小せぇ一級品を、こんなえれぇ数……坊ちゃん、これをどこで手に入れなすった? しかも、マリルの野郎の好物? こんな高級品が?」

 疑わしそうに眉根を合わせる二番板に、ノアちゃんはあっけらかんと答える。

「どこでって、『竜の棲む山脈』のふもとだよ。
 マリル兄ちゃんに採り方教わってね、毎年採りに行ってるんだよ。
 八月のいつ生えるか分からないって言うけど、矢竹のタケノコが生えるのは、夕立の最後の一滴が降った後。雨後のタケノコってヤツ?
 これも、マリル兄ちゃんが発見したらしいんだけど、マリル兄ちゃんの食い意地って凄いよね、どれだけ矢竹を観察したんだ、って話だもん。
 だから、八月に夕立が来ると、マリル兄ちゃんと一緒にタケノコ採りに行くんだよ」

「……土砂降りの中、『竜の棲む山脈』のふもとにでやすかい?
 それに、マリルに教わった?」

 ぎこちなく問い返す二番板に、ノアちゃんがにっこりと頷く。

「うん、そう。
 でも、今年はマリル兄ちゃん採りに行けなさそうだから届けたかったんだけど、いないとは思わなかったなぁ。後で知ったらガッカリだね」

「矢竹の生える瞬間が分かったって、矢竹のタケノコは一級の防具も貫く強さとスピードがあるはずでやすが……」

「えっ、結構避けられるよ?
 矢竹のタケノコっていっせいに生えるから、千近い数をいっぺんに全部は採れないから、採れないタケノコを避けながら採るんだけどね。
 マリル兄ちゃんがいれば倍は採れたんだけど、オイラだけじゃこの数が精いっぱい」

「避ける?」

 その後口を開けたまま二の句が継げない二番板に小首を傾げるノアちゃんへ、アンブローズがニヤリと笑う。

「へぇ、そんなに美味しいなら今度わっちのとこへも届けておくれよ。
 ノアちゃんなら簡単に採れるんだろ?」
 
「えー、でも、夕立の中ずっと待ってて、矢竹が生えるの三秒なんだよ?
 うちの蓑もうボロボロだし、夏場だからずぶ濡れのまま待ってるんだけど、濡れると体が重くなるから二百くらいしか採れないし、あそこの雨結構痛いし」

「三秒」

「二百」

 啞然としているわしと二番板をしり目に、楽しそうなアンブローズの声が続く。

「そうお言いでないよ。
 そうだ、なら新しい蓑笠か、合羽でもプレゼントしようか。それならいいだろ?」

「ホント? 
 だったらオイラ頑張るね!」

 上手く乗せられているノアちゃんに、二番板が遠い目をしてぼそりとつぶやく。

「このタケノコひとつで蓑嵩なんぞ百は買える金になりやすが……
 そうでやすか、マリルもこの坊ちゃんと同類……」


 その後小耳に挟んだ話によると、オーナーとの旅から帰って来たマリルは、板場の人間からの目がだいぶ好意的に変わっていて面食らっていたという。板修行の経験もなくコネで九尾膳に入ったと思われ疎まれていたマリルが、何故か板場の面々から一目置かれるようになったらしい。
 そこにノアちゃんの小さな活躍があったとは、知る由もない。

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