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2巻
2-1
しおりを挟むオイラはノア。鍛冶見習いの十四歳。
オイラの父ちゃんは、「神の鍛治士」とまで言われた凄腕の鍛冶士だったんだけど……母ちゃんが死んで以来、酒浸りのダメダメ親父になってしまった。
そんな父ちゃんにやる気を出してもらうべく、近所にある魔物の領域『無限の荒野』に行っては珍しい鉱石や鍛冶素材を集めていたオイラは、気が付けばレベル596とかになっていたらしい。
え? 英雄王のレベルが249? 普通のベテラン冒険者がレベル40なの?
なんでだって聞かれても……ひょっとして、火竜女王のとこにちょいちょい出入りしてるせいかなぁ?
そんなエスティが、いきなり訪ねてきて、ヒヒイロカネを見事鍛えてみせよ、なんて言ってきた。しかも、出来なかったら父ちゃんを殺すってどういうこと!? 迷惑しかかけぬ父親なら要るまいって? 要るよ!
神話にしか登場しないような神代の金属を預けられ狂喜乱舞した父ちゃんとオイラは、全身全霊を傾けて攻撃補整二万超えの武具、【神話級】のパルチザン『金烏』を打ち上げる。その腕を認められた父ちゃんは、王都の夜空に『金烏』を構え燦然と輝く火竜女王から、「竜王の鍛冶士」の称号を授けられる託宣を受けた。
それからオイラはエスティに、父親のためではなく、自分は何がしたいのか? と問われた。
父ちゃんやオイラを可愛がってくれているララ婆ルル婆、お隣のテリテおばさん、それからエスティの側近のラムダさんリムダさんが見守る中、オイラは、冒険も鍛冶も出来る「最強の鍛冶見習い」を目指すことをエスティに宣言したのだった。
01 うかがう影
「――お嬢さま」
『金烏』のお披露目が終わり、さっそくオイラの首根っこをひっ掴んで、戦いの訓練をつけるべく意気揚々と帰ろうとしたエスティ。
そんな彼女の脇に、ふっと見知った影が現れた。エスティよりも大きな手が、ぐったりとした覆面の男を引きずっている。
「セバスチャンさん!? どこ行ってたの!?」
それはエスティの執事のセバスチャンさんだった。そういえばさっきエスティが竜体になってたとき、不意に姿を消したままだった。
消えるときもそうだったけれど、今出てきたときも、全く気配を感じなかった。
何者なんだ、セバスチャンさん……
火竜最強執事の名は伊達ではないってことかな。
同じ火竜でも、ラムダさんやリムダさんなら、暗闇でそーっと近づかれても、気付けそうな気がするんだけどなぁ。
「お嬢さま。仰せの通り、捕らえて参りました」
「おお、そうであったな。ご苦労」
「どういうこと?」
首を傾げるオイラに、エスティがニンマリと笑う。
「ノアの『父ちゃん』が鍛冶を始めて以降ずっと、この男が密かにこちらを窺っておったのでな。ずっと気になってはおったが、近所の者であった場合余計な手を出しては大ごとになると思ってのぉ。昨日、ラムダに後をつけさせた」
そう言って、エスティがチラッとラムダさんを見る。
そういえば先ほどからずっと無言のラムダさんは、心なしか少し青ざめているようだ。
「ところがラムダの奴、見事にまかれてな。ともあれ、見失ったのは王城近く。『ご近所さん』でないことは、証明されたわけだ」
遺憾そうにため息をつくエスティに対し、ルル婆ララ婆が顔をしかめた。
「王城近くまで行ったんでしゅか。高位の火竜が」
「ジェル坊が知ったら、卒倒しゅるんじゃないでしゅかね」
慌てふためいて頭を掻きむしっているジェルおじさんが目に浮かぶけど、オイラは根本的なことにつっこんでみる。
「というか、そのしっぽと角、羽で尾行って無理がない?」
例えるなら、仮装した大道芸人とか、張りぼてとかが尾行してるのと同じだと思うんだ。
「ん? これか?」
エスティが頭の角に手をやると、角が一回り小さくなった。コウモリのような皮膜の羽は拳大に縮み、しっぽもかなり小さくなる。
「なに!? そんなこと出来たの!?」
目を丸くした後で、オイラは少し口をとがらす。
これならば、服装次第では、鹿系の獣人だと、ごまかせないこともないかもしれない。
ちなみに、動物の鹿の雌には角がないらしいけれど、鹿の獣人の女の人には大抵小さめの角がある。人によっては、男の人ほどではないものの枝分かれした大きめの角があったりもするから、エスティの普通よりかなり立派な角だって、個人差の範囲内で何とか収まるかもしれない。
最初からそっちの姿で来てくれてたら、無駄にご近所さんに怪しまれなくて済んだのに。
「長時間は無理じゃがの。セバスに教わって、我もラムダも、一、二時間なら可能じゃ。セバスなら丸一日、リムダも意外と才能があってのぉ、セバスほどとはいかんが我らより長時間可能じゃ」
そう言いながら、エスティの角としっぽ、羽がしゅるっと元の大きさに戻る。
結構気合を入れないと、小さくしておくのは無理なようだ。
「そんなわけで、ラムダがまかれたのは、姿のせいではない。相手のほうが一枚上手だった、というだけのこと」
「お言葉ですが! こと戦闘において、人間ごときに後れをとるはずがございません! あの者が、こしゃくにも『隠密』スキルを持っていたために」
「まあ、搦め手から来る相手に、竜は慣れておらぬ、ということでもある」
必死に弁解しようとするラムダさんに、エスティは肩をすくめる。
確かに。さっきセバスチャンさんが戻ってきたときも感じたけれど、どんなに戦闘能力が高くても、隠密で近づかれて寝首を掻かれたら、対処のしようがない。
隠密スキルか……犬の獣人にはなかった気がする。
セバスチャンさんが引きずっている男は、なんの獣人なんだろう? そう思って覗き込むと、セバスチャンさんが男をつまみ上げ、覆面をはいでくれた。
「あれ? なんの獣人だろ?」
年の頃は、三十半ばくらいだろうか。
顔だけ見ても、どんな種族なのか判然としない。しっぽは、とお尻を見ても、特徴的なしっぽは生えていなかった。
全く分からないオイラへ、セバスチャンさんが片眉を上げて断言する。
「フクロウの獣人ですな。背中の目立つ羽は、切り落としているのでしょう」
「えっ、凄い、なんで分かるのセバスチャンさん。鳥系の獣人は珍しいのに」
デントコーン王国で一番多いのはネズミの獣人。鳥の獣人もいるにはいるけれど、数は少なく、背中にその種族特有の羽があるものの骨格的に飛べるわけではないそうだ。そのため、羽はあくまでも種族を表す象徴でしかないとか。その昔、通ってた手習い処の満月先生が言ってた気がする。
「昔取った杵柄というやつでして」
「?」
セバスチャンさんの言葉に首を傾げるオイラに、エスティが解説してくれる。
「セバスは、かつてはぐれ竜だったのじゃ。その頃、気まぐれに人に交じって暮らしていたらしい。丸一日でも、羽と尾を隠していられるからな」
ふーん、と納得したオイラとは対照的に、婆ちゃんたちが目をむいた。
「高位火竜が、人に交じって!?」
「ということは、今も、人里で暮らしている竜がいるかもしれない、ということでしゅか!?」
「そのように目くじらを立てるでない。セバスは、竜の中でもとびきりの変わり者じゃ。まして、人型に変化出来、さらに羽を隠せる竜は稀もいいところじゃからのぉ」
確かによっぽど高位の竜でもない限り、人型に変わることは出来ない、と婆ちゃんたちが言っていた。
はぐれ竜は、文字通り群れからはぐれた竜のこと。人間の討伐隊が組まれることもあり、さほど高位ではない竜が多い。
竜というのはだいたいが女王を中心にまとまって住んでいるらしく、その地域は『火竜の領域』や『風竜の領域』などと呼ばれている。竜種の中でも風竜は行動範囲が広いらしいけれど、その大半が遥か上空の浮島らへんを飛んでいるため、人間の目に触れることはない。
討伐隊が組まれるようなはぐれ竜は、『魔物の領域』の外や、『魔物の領域』の中でも難易度が低く、人の行動範囲と重なる場所に棲みついてしまったものだ。
知能が高いはずの竜種が、なぜわざわざそんな危険な場所に棲みつくのか?
諸説あるが、竜の群れに馴染めない変わり者か、竜の群れからはじき出された弱い個体なのだろう、と言われている。
「その頃、様々な職業を転々といたしまして、人族についても多少は詳しくなりました。隠密系のスキルを持つ者には、猛禽類の獣人、ネコ科の獣人が多くおります。その中でもフクロウは、夜目も利き気配を消す術にも長け、私が当時仕えていた方にも重宝されておりました」
セバスチャンさんの言葉に、ルル婆が目を見開く。
「竜が、人間に仕えていたんでしゅか」
「かりそめの主ではございますが……と申しますか、今でも、テイマー契約をしております以上、人の街におります間、私の主はノア様でございますよ?」
「……えっ!?」
あまりの衝撃に目の下が引きつる。
オ、オイラがセバスチャンさんの主? いやないないないない。無理無理無理無理。
ぷるぷると小刻みに首を横に振っていたオイラへ、エスティが無情に言い放つ。
「なんでそこでノアが驚くのじゃ? 我の今の主人も、ノアであるぞ?」
「えーー?」
「なんで嫌そうなのか、聞いてもよいかや?」
唇をとがらせて、エスティが不機嫌に眉を寄せる。
「まぁ、それはさておき」
「置くでない」
エスティのツッコミはさらっとスルーして。
「このフクロウの獣人さん、誰のとこから来たのかな? 王城近くで、ってことは、ジェルおじさんとこの人だったりする?」
オイラの発想はごく当たり前のものだったように思うけれど、即座にルル婆が首を横に振った。
「それはないんじゃないかい? ジェル坊だったら、そんなこすっからい真似はしぇんじゃろ」
「割と抜けてるしねぇ」
「王様なんじゃから、隠密の一人や二人、飼っとるじゃろうが」
「ノアしゃんのとこを見張るのは、違う気がしゅるねぇ」
ララ婆にまで否定されて、それじゃあどこの、と皆が口々に推測を始める。
「鍛冶場の様子を窺ってたってこたぁ、鍛冶ギルド関連かね」
「鍛冶ギルドは王城からは離れとるじゃろ。王城近くにあると言やあ、大貴族の屋敷街じゃないかい?」
「あたしは貴族街には詳しくないんだが、大貴族ってぇと、公爵家とかですかね?」
「いや、公爵家だ何だのはむしろ少し離れた場所に広い敷地を所有しとるから、王城の近くは側用人とか大臣とか……」
テリテおばさんの発言を受けてのルル婆の言葉に、ララ婆が眉間に指を当てて呻いた。
「あー、こんなことならスフィにも、緊急用のクルミを渡しとくんだったよ」
「スフィって?」
「ヨーネ・スフィーダ。ジェル坊のパーティの一人でね、必要に応じての助っ人メンバーだったのしゃ。あたしゃらにはないツテを色々持ってたからねぇ、何か別の角度からの意見が聞けたかもしれない」
「へえ」
「ノアしゃんは会ったことがなかったかね」
とはいえ、ここであーだこーだ言っていても始まらない。
そこで婆ちゃんたちが、さっきの託宣のときのエスティの竜体化の説明も兼ねて、王城までフクロウの男を連行してくれることになった。
大盗賊であるララ婆の拘束の腕前は折り紙付き、さらに大賢者のルル婆の魔法で浮かべて運ぶ、となれば、気絶から覚めても男に逃げる道はないだろう。
ところで、エスティの竜体化から何だかんだでずいぶんな時間が経つけれど、テリテおばさんが心配していた、王国軍が出動してくる気配はない。
飛び出してきたご近所さんも、空から竜が消えたのを確認すると、ぽつぽつと家へ帰り始めているようだった。
王国軍がやってくる、というのは大げさにしても、腕に覚えのある冒険者とか、国のお役人とか、野次馬とか、結構な人数が集まってくるだろうと思ったんだけど?
オイラがその疑問を口にすると、ララ婆ルル婆が答えてくれる。
「さっきの女王さんは、何とも神々しかったからねえ。拝みはしても、物見に近づこう、っていう発想は、出ないんじゃないかい?」
「まぁ、今の世の中、竜に単独で挑む根性のある冒険者なんて、滅多にいないじゃろ」
「一番根性のありそうな冒険者は、既に顔見知りだしね」
二人は口々にそう言って、チラッとテリテおばさんを見る。
「多少腕に覚えがあっても、国からギルドへの討伐隊結成依頼待ち、ってとこじゃろうね。ひょっとしたら今ごろ、ギルドは冒険者がつめかけて大変なことになっとるかもしれんねぇ」
ルル婆が遠い目をしているのは、自分の弟子でもある東のギルドマスター・サンちゃんに思いをはせているからだろうか。ギルドに冒険者が詰めかけているとしたら、サンちゃんと受付のお姉さんはてんてこ舞いしているに違いない。
「まぁ、人に攻撃しゅるならともかく。女王竜の顕現は、瑞祥と言われてるからね。国がどうこうしてくることもないと思うよ」
「瑞祥って?」
聞き覚えのない言葉に尋ねると、ルル婆が少し皮肉な笑みを浮かべた。
「まあ、めでたいってことしゃ。偉大な国王の御代には、その治世を慶祝して、めでたい生き物が現れる、と言われているんじゃよ。有名どころでは、白虎や鳳凰、霊亀じゃね。竜王もしょのひとつしゃ。ジェル坊には、まあ、分不相応な話じゃけどねぇ」
肩をひとつすくめると、ルル婆はララ婆が縛り上げた男をふわりと浮かばせ、王城へと向かった。
その翌日。
ルル婆に皮肉気に語られていたジェルおじさん本人が、婆ちゃんたちと一緒にうちにやって来た。
律儀に仏壇の母ちゃんの位牌に線香をあげてから、こたつの前にあぐらをかいてドカッと座る。
こたつを挟んで父ちゃんと向き合ったジェルおじさんは、昨日の王城でのあらましを説明してくれた。
火竜女王とオイラが親交のあることを知っていたジェルおじさんは、驚き慌てる大臣たちや、軍動員にはやる軍関係者一同を、『竜王の顕現は瑞祥だ』の一言で黙らせたんだそうだ。
特に、王家の伝承によると、武器を持った竜は竜王の証とされ、畏れ敬えば豊穣が、弓ひけば大飢饉がもたらされる、と伝えられている。軍なんて出動させたら大惨事だ。
天災なんて大袈裟なことが起こらなくても、エスティなら、人間の一軍ぐらい、文字通りひと薙ぎで壊滅させられるだろうし。
「それで、昨日、火竜が捕らえたという男のことなんだが」
「ジェルおじさんとこの人じゃなかった?」
「なかった」
王城には、『御庭番』と呼ばれる隠密の人たちが勤めている。ジェルおじさんも、彼ら全員の顔を知っているわけではないので、もしそうだったらどうしよう、と気をもんでいたらしいけど……二家ある『御庭番』の頭二人に確認したところ、自分の配下ではない、とどちらも断言したそうだ。
ジェルおじさんは、真面目な顔をして父ちゃんに言った。
「ノマド。お前、誰かに恨まれてる覚えはないか?」
02 父ちゃんに弟子が来た!①
「はあ?」
全く心当たりがないらしく、父ちゃんが首を傾げる。
ジェルおじさんと父ちゃんの前に玄米茶を置きながら、あまりの腕のだるさについついオイラは口をへの字にする。
ちなみに父ちゃんもオイラも、昨日の『金烏』の鍛冶のせいで両手・背中・腰・太腿が筋肉痛でパンパンなので、お互いに膏薬を貼りっこして、両腕背中ともに膏薬まみれになっている。
スースーしてちょっと寒いけど気持ちいい。
「俺を恨むとしたら、オムラと結婚したことを理由にジェルか。散々無茶ぶりしてきたノアか。どっちかしかいないと思うぞ?」
「無茶ぶりしてた自覚あったんだ、父ちゃん……」
聞き流せないセリフに思わず突っ込んだオイラへ、父ちゃんが頷く。
「まあぶっちゃけ、ジェルとノアになら、刺されてもしょうがないと思ってる」
胸を張って言うことじゃないと思うんだ、それ。
「いや、そういうのじゃなくてだな、全くの他人。それも、かなりの権力を持つ人間に、だ」
「当てはまるのは、ジェルしかいないが」
「だから俺じゃない」
らちの明かない会話をしていた父ちゃんとジェルおじさんの頭を、ララ婆が手に持ったハリセンでスパーーーンッと張り飛ばした。
「いつまでコンニャク問答してるつもりだいっ! 進めなっ」
ハリセンとはいえかなりの衝撃だったらしく、ジェルおじさんが頭をさすりつつ話を続ける。
っていうかどこから出したの、それ。ルル婆ララ婆とかセバスチャンさんとか、よく分からないところから何か取り出すことが多い気がする。魔法か何か?
「つまりだな、昨日捕らえた男は、うちの間者じゃない。これはいいな?」
ララ婆のハリセンには慣れているらしいジェルおじさんは、父ちゃんへ普通に話を続ける。王様が殴られ慣れてるってのもどうかと思うけど。
「おう」
「で、昨日捕らえた男だが、今のところ何もしゃべらない。ただひとつ、確実なのは、修業を積んだ一流どころの隠密だ、ってことだ」
「どういうことだ?」
「うむ、まず、基本から説明するとな」
ジェルおじさんが言うにはこうだ。
『隠密』スキルというのは、とても危険なものである。
けれどこのスキルは、正しい修業をしていなければさほど脅威にはならない。オイラが人並み以上の『合金』『合成』スキルを持っていても、すぐ砕ける脆い剣しか打てなかったように、あるいは『魔法』スキルを取得しても理論と呪文が分かっていなければろくな魔法が使えないように。
『隠密』スキルを取得出来る種族には、フクロウ族の他にも、コウモリ族、山猫族など何種族かあって、修業を積んだ『隠密』持ちは、国の管理の下に置かれている。大抵は王城の『御庭番』を務める二家、甲家と乙家に所属し、その隠れ里に住んで、国の仕事(スパイ活動とか)に従事している。
このデントコーン王国は、色々な獣人がごちゃ混ぜで住んでいて、結婚にも特に制限はなく、産まれる子どもは必ず、両親どちらかの種族になる。突然変異で、タカとネズミの間にフクロウが産まれたりはしない。
つまり、親を把握していれば、知らないところで『隠密』のスキル持ちが発生したりはしない。
誰がどこに住んでいて、何の種族なのかは『人別改帳』というものに詳細に記されていて、もちろん転居や養子縁組、結婚なども書き加えられる。これを無視して転居などをすると『人別落ち』して『無宿者』となって、まともな仕事には就けなくなる。
この『無宿者』の受け皿となっているのが冒険者ギルドで、『人別改帳』と冒険者ギルドの登録を合わせると、95パーセント以上の国民を把握出来ているそうだ。
ちなみに近年、この『人別改帳』からさらに個人識別カードというものが作られて王都民には配られたけれど、イマイチ浸透していない。
デントコーン王国は法治国家で職業の自由とかも認められているので、フクロウ族に産まれたからといって、『隠密』を覚えて『御庭番』になるしか生きる道がない、というわけではない。一般に交じって生活をしている『隠密』なしのフクロウ族も結構な数いるそうだ。一般人にはフクロウ族が特殊な立場にいることなんて知らされていないから、平穏に暮らしたいフクロウ族はそれなりに普通に暮らしていくことが出来る。
ただ『隠密』スキル云々はさておき、隠密の修業を積めるのは、国公認の、甲家乙家の隠れ里しかないはず。
単に『隠密』スキルを覚えただけで修業をしていなければ満足に使いこなすことが出来ず、冒険者や騎士には簡単に気付かれてしまうんだそうだ。
ところが今回捕まった男は、甲家乙家どちらの出身でもなく、しかしちゃんとした隠密の修業を積んだ、おそらく『無宿者』のフクロウ族だった。
このことが意味するのは――
①甲家乙家の隠れ里以外に、隠密を育成する里などの機関がある。
②国が把握している以外に、『隠密』の修業を積んだ人間が存在している。
③その里か、あるいはその里の者を雇った何者かが、父ちゃんに関心を持っている。
ということだ。
ちなみに捕らえた男は、何もしゃべらないのは当然として、さらに奥歯に毒物が仕込んであるほどの徹底ぶりだったそうだ。
まあ、セバスチャンさんに背後から襲われた時に毒を飲む余裕がある人類なんて、この世に存在しないと思うけど。今回だけは、相手が悪かったみたいだ。
そして、捕らえたフクロウ族の男が一流だということは、それだけの規模と質の里が人知れず維持されている。つまり、よほどの大貴族か、あるいは他の国が関わっているのではないか、とジェルおじさんは言う。
「はっきり言って、女王竜の託宣があった今ならいざ知らず、五日前までの世を拗ねて酒浸りだったお前の動向を気にする輩なんぞ、全く思いつかん。一流の隠密を子飼いにするも、一時雇いするも、どちらもそれなりに金のかかることだからな。そこまでしてお前なんぞを見張って、いったい誰に何の得があるってのか……?」
胡坐をかいた膝に肘をつき、ジェルおじさんが眉間を揉む。
「甲家乙家以外の隠密の里があるかもしれんってのも大問題だが、そこが金で依頼を請け負ってるとしたらまた問題だ。まったく、これほどの厄介ごと、親父ならともかく俺の治世に降って湧かなくてもいいようなもんだが……まあその辺は国の問題だから、俺がいくら頭を悩ませようと、お前らには関係ないっちゃあない」
ジェルおじさんはふぅっ、と息をついて両膝に手を置くと、背を丸め見上げるようにして父ちゃんとオイラの顔を見比べた。
「それよりお前たちに言っておかなきゃならないのは、例の偽の使者が持って行ったっていうオムラ姉の装備の件だ。ある程度の調査は進めたが、裏でも表でもここ八年、売買された形跡が全く見当たらなくてな」
「というと?」
「売っぱらうための詐欺行為ではなかった、ということだ。装備を騙し取った人間がまだ所持しているか……あるいは、装備を欲しがっている人間の依頼で、今回のフクロウ族の男のような人間が動いたんじゃないか、と俺は睨んでいる」
全く関係ないと思っていた母ちゃんの話題が出て、それまで黙って聞いていたオイラは思わず声を上げた。
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