レベル596の鍛冶見習い

寺尾友希(田崎幻望)

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2巻

2-2

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「母ちゃんの装備を欲しがる、って? 誰が?」
「オムラ姉は、劇にも人形芝居にもなるような、人気の聖騎士だからな。熱狂的なファンが現役時代の装備を欲しがる、って可能性もなくはない。それに、装備自体も由緒ゆいしょ正しい国宝だ。剣もやりも伝説級。武具コレクターの中には、法を犯してでも欲しがる奴がいないとも限らん」

 ジェルおじさんの言葉に、思わずオイラは渋い顔になる。母ちゃんに熱狂的なファンがいた、ってのも何だかピンとこないし、犯罪をしてでも装備を欲しがる人間がいるってのも何だか気持ち悪い。
 オイラを励ますように、婆ちゃんたちが肩をたたいた。

「まあまあノアしゃん。最悪、バラして売られてる可能性もあったわけだから。それよりはずいぶんマシしゃ」
「一度バラバラにしゃれたら、全部集めて取り戻すのは、至難のわざじゃからね。詐欺師がまだ全部持ってる、ってんなら、取り戻せる可能性が残ってる、ってことじゃよ」
「……うん」

 そっか、ものは考えようだ。
 母ちゃんの装備ってのは、はっきり言ってほとんど記憶に残ってないけれど、父ちゃんが母ちゃんのために鍛えた剣やランスは、見られるものなら見てみたい。

「で、さっきの話に戻るわけだ。恨まれてる覚えはないか? 今回のフクロウ族の件もある。オムラ姉の装備自体に用があるわけでなく、お前への恨みを晴らすために、オムラ姉の装備をかすめ取った、って可能性もあるしな」

 父ちゃんは、腕を組んで悩もうとして……両腕がなまりのように重いのに気付いたようだ。首だけ傾げて難しい顔をする。

「確かに俺は、鍛冶ギルドの鼻つまみモンだし、面白く思っていない鍛冶の親方連中も多いだろう。だけど、積極的に大金を使ってまで嫌がらせしてやろう、ってほどかと言われると……基本的に、鍛冶士ってなぁ、個人主義だしな」
「オムラ姉の装備の件は、嫌がらせの範疇はんちゅうを越えてるぞ。何せ、勅書ちょくしょを偽造してるからな」
「そうだ、しょの、勅書の件はどうなったんじゃい? 他に、勅書が偽造しゃれたような事件は?」

 ルル婆の疑問に、今度はジェルおじさんが腕を組んで首を傾げた。

「それがなあ。まだ発覚してから間がないから、完璧な調査とはいかんのだが、どうにも、他に勅書が偽装されたような案件は見当たらんのだ」
「ん? つまり?」
「賊は、勅書を偽造出来るほどの技術を持ちながら他では使わず、ただオムラ姉の装備を騙し取るためだけに勅書を偽造した、ってことになるな」
「あんまりにも巧妙過ぎて、単に気が付いてないだけなんじゃないのかい?」

 疑わしそうに片眉を上げてジェルおじさんをねめつけるララ婆を、まあまあとなだめる。

「そういえば、最初にこの話を聞いた時にララ婆言ってたよね。ずいぶんとシロウトくさい、って」
「ララねえのカンは馬鹿に出来んな」

 オイラの言葉に乗っかったジェルおじさんへ、さらにルル婆が続ける。

「勅書を完璧にコピー出来る、ってのは、やっぱり、勅書を頻繁ひんぱんに目にしゅる立場にいる人間が絡んでるんじゃないかね」
「大貴族が絡んでる、って話に戻るわけか」

 うーむ。と、心当たりを思い浮かべているのだろうジェルおじさんが眉間にしわを寄せる。

「それに、人別改帳だけで『隠密』スキル持ちを把握しきってると思うのはお役所仕事すぎないかい? 修業済みのスキル持ちが、一人でも死んだふりして生き延びてれば後進の育成くらい出来るだろうよ」
「ララ姐、ひょっとして何か心当たりがあるのか……?」

 ジェルおじさんが顔色を変えてララ婆に詰め寄ろうとしたとき、玄関の戸が、がんがんがんっと叩かれた。

「すみませーんっ! 誰かいませんかぁぁっ! こちら、『火竜王の鍛冶士』、ノマド様のお宅だとうかがったんですがぁ」

 若い男の声だ。
 オイラが扉越しに応える。

「そうですけど、今日は鍛冶場は休みなんです。武器の注文ですか?」

 基本的に、鍛冶士が武器の注文を受ける方法は二種類ある。
 鍛冶ギルドから受注する方法と、個人的にお客さんから受ける方法だ。
 鍛冶ギルドに依頼すると、もちろん仲介料というものを取られる。だから、馴染みの鍛冶士がいるベテラン冒険者の場合、直接鍛冶士に欲しい武器を頼みに行く。
 けれど、だいたいの冒険者は武器屋で武器を購入するし、農家は農具屋で農具を買い、料理人は金物屋で包丁を買う。
 そこで求められるのは、鍛冶士の名前ではなく、単純に武器や農具の性能だ。それと、普遍性と生産性。
 安定した品質の刃物を、一定量そろえたい。それが店側の要望だ。
 つまり、鍛冶ギルドにいく依頼というのは、

『[攻撃補整]500以上、[速さ補整]200以上、[防御補整]200以上、[耐久性]100以上の武器を50本』

 とかいうものだ。
 それを、鍛冶ギルドがあちこちの鍛冶士に割り振って依頼する。鍛造たんぞう武器というのは、短い時間にたくさん作れるものではないから、そんな仕組みが確立したってわけだ。
 まあ、中にはシャリテ姉ちゃんみたいに、どこの鍛冶士に頼んでも作ってもらえないから、鍛冶ギルドに依頼して作れる鍛冶士を探してもらう、なんて依頼もたまにはあるみたいだけど。
 ともかく、例えば父ちゃんが大社たいしゃに奉納したような、攻撃補整一万、耐久性0、なんて偏った性能の武器は、いわゆる『ロマン武器』と呼ばれて、滅多に店売りされることはない。
 つまり、よっぽど名の売れた鍛冶士でもない限り、普通の鍛冶士に求められるのは、依頼された品質の武器を安定して打てる能力、ということだ。
 そんな状況なので、父ちゃんみたいに、成功すれば【伝説級】、一歩間違うと【見習い級】なんて鍛冶士は、鍛冶ギルドで鼻つまみになっても文句は言えない。
 だから、今まで新規のお客さんなんて来たためしがなかったんだけど……昨日の託宣を見た誰かかな?

「とにかく、ここを開けてくれ!」

 国王であるジェルおじさんもいることだし、あんまり開けたくないんだけど……
 オイラが逡巡しゅんじゅんしている間に、ジェルおじさんとルル婆ララ婆は荷物を抱えて奥の座敷へと引っ込んで行った。
 それを、『開けてもいい』ということだと解したオイラは、外に向かって「はいはーい」と声をかけた。
 戸を押さえていた心張棒しんばりぼうを外したとたん、一気に戸が引き開けられ、若い男が転がり込んできた。
 それも、三人。
 オイラに掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってくる。

「あっ、あっ、アンタが、ノマド様ですかっ」
「馬鹿、『火竜王の鍛冶士』が、こんなガキなわけないだろっ」
「ノノノノ、ノマド様はどこにっ!?」

 騒ぎを見かねて、父ちゃんが土間へと下りてくる。

「どうしたってんだ、いったい?」
「ノマド様ですねっ!?」
「お、おう」

 三人は、その場にガバッと両手をついた。

「「「どうか」」」
「俺を」
「俺っちを」
「ぼくを」
「「「ノマド様の、弟子にしてくださいっっっ」」」



 03 父ちゃんに弟子が来た!②


「ネムです」
「ジャムです」
「ラムです」

 三人は、よく似た顔をしていた。
 歳は十代後半、マリル兄ちゃんくらいだけれど、マリル兄ちゃんと比べるとだいぶ小柄だ。
 全員がクルクルとした赤い巻き毛のそばかす顔で、テンの獣人だそうだ。
 彼らは、従兄弟いとこ同士で、共に鍛冶士を目指して王都でも一流の鍛冶士に弟子入りし、今はその鍛冶場の見習い兼下働きをしているという。

「昨日、俺たちも鍛冶場の外に出て、竜王の託宣を聞いたんです」
「それで、昔話に出てくる、『竜王の鍛冶士』が本当に現れたんだ、って。近くの鍛冶場の見習い仲間ともすごい盛り上がったんスよ」
「ぼくたちがいた、鍛冶場の親方にも報告したんですけど。あの方角はノマドの鍛冶場だろう、あいつの鍛冶は邪道だ、あんなのにあこがれても身を滅ぼすだけだぞ、って」

 とりあえず、玄関の土間じゃなんだから、と囲炉裏いろりのある板の間に上がってもらったけれど、三人は座り込むなり口々にまくしたて始めた。
 囲炉裏には火が入ってなかったから、火鉢の鉄瓶で沸かしたお湯で玄米茶をれて、三人の前に置く。
 婆ちゃんたちがいるようになってから、テリテおばさんに大量に分けてもらって玄米茶は常備しているんだよね。ちなみにテリテおばさんは、茶摘みから自分でやっているけれど、オイラはまだそこまでの域に達していない。

「ここに来る前に、鍛冶ギルドにも寄ったんです。けど、鍛冶ギルドでは昨日の竜王の託宣は黙殺もくさつする方向で行く、って決まったみたいで。今ごろ、ギルド所属の鍛冶士には、通達が行ってると思います」
「あんまりだと思うっス! 俺っちだって鍛冶見習いの端くれ。『武具鑑定』は遠すぎて使えなかったっスけど、あの竜が持ってた武器が、そんじょそこらの鍛冶士に打てるもんじゃないって、遠目にもハッキリ分かったっス! それなのに!」
「他の鍛冶見習いたちも、昨日はあんなに、凄え凄えって盛り上がったのに。今日になったら手のひらを返して、親方に睨まれるから、って黙っちゃって」

 涙すら浮かべつつ、ネム、ジャム、ラムは力説する。

「俺たち、悔しくて!」
「せめて、俺っちたちだけでも弟子入りしてやろうって」
「話し合って、覚悟を決めて出て来たんです!」

 ドン、と三人に同時に叩かれたちゃぶ台が軽く宙に浮く。

「そこまで言ってくれるなぁ、ありがたいが……」

 ネム・ジャム・ラム三人組の勢いとは対照的に、父ちゃんは困ったように頭を掻く。

「お前さんがたの親方の言うことも、間違ってないと思うぞ。ちなみに、親方の名前は?」
「……モンマブリスクです」
「あちゃあ」

 父ちゃんが額に手を当てて、天井を仰いだ。

「どうしたの? 知ってる人?」
「知ってるも何も。前に言ったろ? 俺の他に、二種合金が出来て、『特殊二重合金』を試してもらった人。俺の、兄弟子だ」

 なるほど。
 父ちゃんの鍛冶は特殊で、同じ金属同士を合わせる『特殊二重合金』という、新技法を使う。
 そういえば、異端扱いの『二重合金』を試してくれるなんて、なんて奇特な人がいたもんだ、と思ったけれど、父ちゃんの兄弟子だったのか。
 てか、『二種合金』が出来るって時点で、レベル31以上確定。鍛冶士の平均レベルは10弱なのに、父ちゃんもレベル80だったし、二人を育てたのはいったいどんな師匠だったんだろう。
 まあ、ルル婆のつえもその師匠が作ったって話だしなあ。普通の鍛冶士ってことはないか。

「モン兄貴の言うことも、もっともなんだ。俺のやり方を真似出来る鍛冶士は少ない。というより、今までいたためしがない。まして俺は後ろ盾も得意先もない一人鍛冶だ。俺の弟子になったところで、大成する道はない」

 珍しく真摯しんしに三人組と向き合う父ちゃんの言葉に、ちょっと引っかかるものを感じる。

「そんなの、オイラ初めて聞いたんだけど?」

 父ちゃんの言葉が本心からのものだとすると、オイラが父ちゃんにしごかれる、ってのはに落ちない。ネム・ジャム・ラムの将来は心配しても、オイラの先はどうでもいいってこと?
 まじっ、と見つめるオイラに、父ちゃんの目が横にそれる。

「いや、そのー」

 言いよどんだ父ちゃんに、ふすまの向こうから追い打ちがかかった。

「後ろ盾もない、って、わしゃらやジェル坊もいるんじゃけどね」
「火竜女王も増えたしね」

 隣の部屋に一時避難していた婆ちゃんたちが、父ちゃんをからかう好機と見るや顔を出した。
 家の中にオイラと父ちゃんしかいないと思っていた三人組は目をパチクリさせている。

「ジェルは、友達だ。火竜女王から再び依頼が来ることはないだろうし。ララ姐とルル姐の二人は……えーっと……」

 なんと言っていいのか分からない父ちゃんの耳が、だんだん寝ていく。

「あたしゃらは、なんだって?」
「おや冷たいね。後ろ盾でも友達でもない、ってんなら、わしゃらはいったいなんだっていうんじゃい?」
「知り合い? 顔見知り? しょれとも妻の友人かね?」

 婆ちゃんたちの口撃に、父ちゃんのしっぽがすっかり内側に丸まったのを見かねて、オイラは苦笑いを浮かべる。

「まあまあ、婆ちゃんたち。婆ちゃんたちはオイラにとって、本当の婆ちゃん以上なんだからさ。かっこよくてかわいいし。世界一の婆ちゃんだよ。それでいいじゃない」

 オイラの助け舟に、一転、婆ちゃんはデレッとする。父ちゃんをからかっていたことなんてもうどうでも良くなったようだ。相変わらず、オイラには甘い婆ちゃんたちだ。
 父ちゃんはほっとした様子で、三人組に続けた。

「そっ、それはともかく。いっぱしの鍛冶士を目指すなら方法は三つだ。得意先をいっぱい抱えてるネームドの大手で働いて経験を積み、腕を磨いて親方に認めてもらう。そのうえでさらに勤め上げて、のれん分けしてもらうか、独り立ちの口利きをしてもらう。運が良ければ、跡取り娘の婿むこに入ってネームドを継ぐ。モン兄貴のとこなら、そのどれをとっても申し分ないはずだ」

 自分たちでも分かっていたのか、父ちゃんが話すにつれて、ネム・ジャム・ラムの三人は次第にうつむき始めた。
 ただ、三人は知ってたみたいだけれど、オイラは聞いたことのない単語がひとつあった。

「父ちゃん、ネームドって何?」
「ああ、いわゆる、打った武器に自分の名を刻めるレベルの鍛冶士、ってことだ。店売りの武器には、名が刻んでないことが多いだろ? その武具を持ってることで、持ち主が、『モンマブリスクのブロードソードなんだぜ』って自慢出来るくらい、名の通った鍛冶士だけが名を刻むことを許される。そういった鍛冶場には、店売りの大量生産のギルド依頼なんて来やしない。打って欲しい客のほうが列を作るからな。基本、鍛造武器ってのは受注生産だ。持ち主の希望に合わせた武器を打つ。名のある冒険者だって一か月待ち、半年待ちなんてことだってざらだ」

 父ちゃんの説明に頷きつつも、何だか釈然しゃくぜんとしない。

「父ちゃんて……」
「なんだ?」
「なんなの?」
「はぁ?」
「いやだって、鍛冶ギルドからの依頼も受けないし。腕はあるけど、無名だし」

 オイラの素朴な疑問に、父ちゃんはポリポリとほおを掻いた。

「俺も、あと一歩でネームドに手が届く、ってとこまでいったんだよ。けど、俺の鍛冶手法は鍛冶ギルドにゃ認められなくてなぁ。かといって、食うためだけに、店売りの均一な武器を打ち続ける、ってのも性に合わねぇ。結局、オムラ専用の武器と、オムラの顔見知りから受ける依頼品を打つだけで、あとはひたすら、自己研鑽けんさんに努めてたってわけだ」

 言いながら、父ちゃんのしっぽがゆっくりとファサッファサッと左右に揺れた。なんだっけ、何かを考えているときの父ちゃんのクセだ。久しぶりに見る気がする。

「自己研鑽て?」

 なんとなく砥石といしで磨かれている父ちゃんを想像しつつ首を傾げたオイラに、こともなげに父ちゃんが言う。

「売れなかろうがなんだろうが、武器をひたすら打ちまくってたってことだな」
「えー……」

 頭痛くなってきた。
 つまりは、母ちゃんが生きてた頃も、オイラが知ってるダメダメ父ちゃんと基本は同じだったってこと? まあ、鍛冶してただけマシかな?
 そうだった。ここんとこ、ヒヒイロカネ鍛冶に夢中になりすぎて忘れてたけど、父ちゃんに生活能力は皆無なんだった。
 額に手を当てて沈黙したオイラをよそに、父ちゃんが三人組に向き直る。

「まあ、そうだな。話のタネに、『竜王の鍛冶士』の腕ってのを見せてやるよ。それで自分たちに生かせると思うなら、ここにいる価値もあるだろう。だが無駄だと思ったら、モン兄貴のとこに帰るんだ。お前さんたちが俺のために怒ってくれたことは素直にうれしいがな」

 さらっと告げた父ちゃんに、三人組は湯飲みをひっくり返しそうなほど身を乗り出した。囲炉裏に火があったら危なかったに違いない。

「ノマド様の鍛冶をっ!?」
「俺っちたちに!?」
「見せてくれるんですかっ」
「その前に、そのノマド様ってのはやめてくれ。俺は、モン兄貴の、出来損ないの弟弟子なんだからよ」

 はにかんで笑った父ちゃんの顔は、どこか懐かしそうだった。きっと仲のいい兄弟弟子だったんだろう。

「って、父ちゃん、腕バキバキなんじゃないの? 大丈夫?」
「何言ってるんだ、お前もやるんだぞ?」

 ……父ちゃんの笑顔が怖いです。
 ここ最近は言動がまともだったから忘れてたけど、鍛冶に関する限り、父ちゃんは常識の外に住んでいる。
 もうひとつ思い出した。さっきの父ちゃんのしっぽの動き。あれは、どんな剣を打とうか考えているときの父ちゃんのクセだった。
 そう考えると、エスティの『金烏ジンウ』のときにはしっぽが揺れてなかったから、考えるまでもなく直感的に決定していたんだろう。

「ノア、オリハルコン鉱石持ってこい! それからグリフォンの羽だ」

 一種類ずつの指定ってことは、アレですね、はいはい。


「同じ金属同士の二重合金!?」
「同じ素材の二重付与!?」
「[攻撃補整]9020、[速さ補整]8500、[防御補整]5000、[耐久力]2500!? しかも【伝説級】!? 短剣で、攻撃補整が9000超え!?」

 結局、夜中までかかって、父ちゃんは一振りの短剣カトラスを鍛え上げた。
 短剣にしては大振りで、船上での戦いなどに使用される取り回しのいい剣だそうだ。
 父ちゃんの鍛冶を見ていた三人は、最初、首を傾げていたが、徐々に顔を引きつらせていった。

「たったの半日で、【伝説級】……」
「ってか、最初の鉱石、いつの間に金属になってたんだ!?」
「いやそれより! 二重合金って、特殊二重付与ってなんだ!?」

 混乱する三人をよそに、父ちゃんは出来上がった剣をじっくり見つめる。

「『竜王の鍛冶士』の称号のせいか、特殊合金と特殊付与の感覚が掴みやすくなった気がするな」
「そういえば父ちゃん、エスティの『金烏ジンウ』を打ったとき、よくぶっつけで『二重合金』と『特殊二重付与』、成功したよね。相槌あいづち打ちながらも心配してたんだよ、オイラ」
「まぁ、この八年、イメージトレーニングする時間だけは、腐るほどあったからなぁ……」

 父ちゃんが遠い目をする。
 なるほど、鍛冶が出来なかった八年間、ひたすらスキル再現の練習だけをしてた、ってわけか。そりゃ成功するかもしれない。
 そこに――
 コンコン、と、遠慮がちに、鍛冶場の戸が叩かれた。
 今の時点で鍛冶場にいるのは、まだあわあわしながら議論しているネム・ジャム・ラムの三人組と父ちゃんとオイラだけだ。
 婆ちゃんたちは、『年寄りは夜が早いから』とさっさと寝てしまったし、ジェルおじさんは三人が来た時点で、また来ると言って帰って行ったそうだ。

「あのー」

 どこかで聞いたことのある頼りない声に目を向けると、少し開いた扉の向こうにあったのは、つい昨日までうちの鍛冶場に日参していた顔だった。

「あれ? リムダさん? 一人で来たの?」

 おずおずと頷くその人物は、エスティのお供火竜、ラムダさんの弟・リムダさんだ。

「は、はい……。け、剣を打たれたんですかっ。拝見しても……?」
「ええ? 構いませんよ?」

 父ちゃんも、エスティやセバスチャンさんはともかく、リムダさんの印象は薄いのだろう。首を傾げつつも、打ち上がったカトラスをリムダさんに渡した。

「へ、陛下の『金烏ジンウ』ほどではありませんが……なんとも素晴らしい」

 うっとりと短剣を眺めた後、リムダさんは深々と頭を下げた。

「ぼっ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼくをっ! ノ、ノノノノノマドさんのっ、弟子にしてくださいぃぃぃぃっ」
「「はいぃ……?」」

 父ちゃんとオイラの声がハモった。



 04 火竜の弟子


「……なんで、火竜がここにいるんでしゅかね?」
「あたしゃの目がどうかしちまったのかと思ったけど、そうかい、ルルにも見えるかい」

 翌日。
 朝食の席に座るリムダさんを目撃した婆ちゃんたちが、オイラにジト目を向けてくる。
 違う違う違う。今回は、オイラの仕業じゃないんだってば。

「ま、まぁ婆ちゃんたち。カツサンド作ったんだけど、食べる?」
「朝から重いもの食べしゃせるね。ビーフカツかい?」
「……美味おいしいね。ってこれましゃか」

 オイラはドヤ顔で頷く。

「ドラゴンサンド!」
「竜がいるってのに、竜の肉出しゅ奴がどこにいるってんだよっ!!」

 スパーーンッ、とどこからともなく取り出されたララ婆のハリセンが炸裂さくれつする。

「だってこれ、リムダさんのしっぽなんだよ?」
「「ハァ?」」

 頭を押さえつつ口をとがらせて言ったオイラに、婆ちゃんたちが唖然あぜんとしてリムダさんのお尻を確認する。
 人型になったリムダさんのお尻には、人型の竜の象徴とも言える赤いしっぽはない。羽も小さくして、ポンチョのようなものを羽織っているので、パッと見には、鹿の獣人に見える。

「弟子入りしたんです。ノマドさんに。しっぽは、まあ、土産みやげ代わりっていうか」

 はにかんで言うリムダさんには、ぽわわっと擬音がつきそうだ。

「弟子入りって。そうだ、火竜女王はっ!? 女王の許可は取ったのかいっ!?」
「もちろん、陛下には伺いましたよ。そしたら、『なるほど、面白い。竜種の鍛冶士か。よかろう、百年、二百年くらいなら待っていてやる。ものになるまで修練してくるがよい』と。火竜の皆も快く送り出してくれましたし」
「百年、二百年くらいって……」
「さすが竜種、時間の感覚が人とは違うね……」

 頬を引きつらせる婆ちゃんたちをよそに、オイラは小首を傾げる。

「百年間修業って、百年も経ったら、父ちゃん死んでると思うけどなぁ」
「ええっ!?」

 心底ビックリしたようにリムダさんが叫ぶ。

「え? ひゃ、ひゃくねん、修業するの、ダメ、なんですか……?」




 考えもしなかったといった様子のリムダさんへ、ルル婆ララ婆がダメ押しする。


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