レベル596の鍛冶見習い

寺尾友希(田崎幻望)

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2巻

2-3

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「こう見えて、わしゃらだって、まだ九十年も生きちゃいないからね」
「ノマドは今、四十半ばってとこかい? なら、鍛冶が出来るのは、よくてあと五十年てとこかねぇ」
「あと、たった五十年……」

 リムダさんの顔が、絶望に揺れる。

「たった五十年で、あの素晴らしい剣を打つ技術が失われてしまうなんてっ!」
「どうする? リムダさん? せっかくしっぽを落としてまで人間に擬態ぎたいしたけど、諦めてエスティんとこ帰る?」

 オイラの言葉に、リムダさんは勢いよく首を横に振った。

「いえ、こんなことしてる場合じゃありませんっ。こうしてる間にも、ノマドさんの寿命が近づいてるだなんて! 早くノマドさんを起こして、鍛冶の技術を教わらないと! こう見えて、ぼくは物覚えが悪いんです。思っていた時間の四分の一しかないなんて、一分一秒だって惜しい! ノマドさぁああんっ!」

 バタバタと、リムダさんは父ちゃんを起こしに走っていった。
 ちなみに昨夜、ネム、ジャム、ラムの弟子希望三人組は、リムダさんを見ると青ざめて「あ、同じ弟子希望のリムダといいます。火竜です」と自己紹介されたとたんに腰を抜かした。
 しばらく放っておいたら、なんとか立ち上がって、物陰からぷるぷるしながらリムダさんの様子を窺っていたけれど、リムダさんが話しかけようとしたところで、逃げた。
 多分、父ちゃんの兄弟子の、モン……何とか親方のところに帰ったんだろう。

「くあぁぁっ、何もこんな早ぇうちから起こさんでも……」

 リムダさんに叩き起こされたらしく、欠伸あくび混じりでやって来てこたつに潜ろうとする父ちゃんのしっぽは、まだ力なく垂れている。

「ダメですって、ノマドさん。鍛冶をやりましょう」
「昨日また無理しちまったからなぁ、体中痛くてよ」
「……■■」

 ぐでーっとこたつ布団にあごを乗せて伸びる父ちゃんの横で、リムダさんが何やらつぶやいた。聞いたことのない言葉……っていうか、竜語?

「んっ? んあっ!? なんだこりゃ!?」

 リムダさんが呟き終わった瞬間、父ちゃんの体が淡い水色の光に包まれた。リムダさんの赤い目にも、ほのかに水色の輝きが見える。

「これで、筋肉痛は大丈夫になりました? 始められそうですか?」

 ぽわわっ、と笑うリムダさんを、ルル婆が唖然として見つめた。

「なんという……! 火竜が、治癒ちゆ魔法じゃと!?」
「治癒魔法?」

 それって、あれだよね、冒険者ギルドで何か言ってたやつ。火竜が使えちゃダメなの?
 よく分かっていないオイラに、未だ衝撃の抜けきらないルル婆が説明してくれる。

「火と水は正反対、火竜ってのは治癒魔法を得意とする水竜とは対極の生き物なんじゃ。当然、治癒魔法なんぞ使えるはずがない。土竜や木竜ならば、水竜には及ばないもののそれなりに使うとは聞くが、よりにもよって火竜。攻撃特化の火竜が治癒魔法も使えたなら、そりゃもう最強種と言っても過言ではない……」
「あ、もちろんぼく以外の火竜は治癒魔法使えませんよ。ぼく、その分攻撃は苦手なんです。火竜っぽくないってよく言われます。先祖返りって言うんですかね、ぼくの何代か前に水竜がいたらしくて」

 ほんわりと笑うリムダさんは、確かに「強さが全て」「問題は拳と根性で解決」「戦うのが楽しくて仕方ない」という脳筋エスティを筆頭とする火竜のイメージにはそぐわない。

「火竜の祖先に水竜じゃと!? どういうことじゃね?」

 研究者の眼差しになったルル婆に詰め寄られ、リムダさんが困ったような顔になった。
 そうか、そのことを説明するには、秘密だってセバスチャンさんが言ってた、女王竜と伴侶はんりょについて触れなきゃなんだろうから……

「ルル婆、それは竜の秘密だから聞いちゃダメ」

 手を広げ、リムダさんをかばうように割って入ったオイラに、ルル婆がいぶかし気な顔を向ける。

「そう言うところをみると、ノアしゃんは何か知ってるんじゃね? なんでノアしゃんは良くて、わしゃはダメなのか、しょこんところをよっく説明してもらおうか」

 ルル婆の眉間にしわが寄る。普通の人だったら全面降伏しそうな大賢者の威嚇顔だったけれど、オイラは結構見慣れているおかげで、萎縮いしゅくすることなく言い返せる。

「そりゃもちろん、オイラとエスティが友達だから! リムダさんは話せないけど、エスティから聞くなら問題ないよ。ルル婆も気になるならエスティに直接聞いてみたら?」

 あっけらかんと答えたオイラに、エスティを苦手なルル婆が酸っぱい顔をする。それを見たララ婆がケラケラと笑った。

「こりゃ一本取られたね、ルル。さすがの大賢者も、ノアしゃんにかかっちゃ形無かたなしだ」
「むぅ」

 口をとがらせたルル婆を珍しそうに眺めた後、ララ婆はふと何かに気付いたように天井を見上げた。

「おや、手紙が来たよ」
「手紙?」

 スタスタと迷いなく外へ出るララ婆の後についていくと、本当に空から庭へ巻紙まきがみが落ちてきた。
 飛脚ひきゃくが届けてくれたわけでも、どこかの小僧さんが届けてくれたわけでもない。本当に、空からひゅっ、と結構なスピードで。
 それをララ婆は難なく受け止める。
 見上げると、高いところに黒い鳥のようなシルエットが見えた。

「こんな手紙の届き方、初めて見た」

 シュルシュルと巻紙を開きながら、ララ婆が少し自慢げに笑う。

「なに、冒険者稼業もご無沙汰ぶさただし、ルルは最近研究研究で中々構ってくれないからね。無聊ぶりょうをかこって飛脚屋を始めたんだよ。さっきのは、あたしゃ専用の早飛脚しゃ」

 そこに少し遅れて出てきたリムダさんが、遠ざかっていく鳥のシルエットを見やる。

ぼくの頭上を飛んでみせるなんて、ずいぶん勇気がある子ですね」

 何か意味を含んでいるようなリムダさんの言葉に、その意味が分かったらしいララ婆が挑戦的に笑った。

「あたしゃが卵の頃から手塩にかけて育てた伝書鳩でんしょばとだからね。多少の無理は聞いてくれるってもんしゃ。そもそもここは、『竜の棲む山脈』が近い。並の伝書鳩じゃあビビッて近寄りもしてくれないよ」
「伝書鳩ですか。鳩にしてはずいぶんと高いところを飛びますね。あれは……地上1000メートルくらい?」

 鳩って、そんなに高いところを飛んだっけ? 跳び上がれば、結構簡単に捕まえられる高さにいる気がするんだけど。キジバトって美味しいよね。照り焼きとか最高。ドバトはいまいち。

「はは、王都にゃ例の魔道具があるからね。ただ、あれにも抜け道はある。200メートルより上は感知出来ないんだよ。だからこうやって、あの高さから手紙を届けるくらいなら、なんの問題もなくやれるってわけしゃ」

 そこまで言われて、ようやくオイラにも分かった。
 例の魔道具ってのは、『魔獣感知の魔道具』のことだろう。オイラの首元にいる黒モフくらいの弱い魔獣なら見逃すことがあるみたいだけど、岩オオカミや針トカゲ、竜みたいな人を殺傷出来るクラスの魔獣は完璧に感知出来るってジェルおじさんが言っていた。
 ということは、ララ婆が『伝書鳩』と呼んでいた鳥(?)は、かなりの強さの魔獣だってことで……

「そんな抜け道を、ぼくに教えてしまっていいんですか?」

 ほよんと小首を傾げたリムダさんを、ララ婆がカラカラと笑い飛ばした。

「遥か上空を竜が通過しゅるのまでいちいち感知してたら、王都は年がら年中上を下への大騒ぎしゃ。第一、竜は天災に同じ、感知は出来ても防ぎようはない。知られようが知られまいが同じことしゃね」

 ララ婆らしい割り切った豪快ごうかいさに、リムダさんは呆気あっけにとられたようにちょっと目をしばたたき、それから、なるほど、と言って微笑ほほえんだ。

「おじいさまのおっしゃる通り、人も中々に面白いものですね」

 おじいさまって、セバスチャンさんのことだよね? ここに来るときに、何か言われたのかな?

「ところでララ婆、1000メートルも上のほうを通る伝書鳩が良く分かったね」

 オイラの言葉に、ララ婆が得意そうに笑った。

「これでもあたしゃは盗賊だからね。気配察知はお手の物しゃ。ま、さすがに1000メートルはルルの魔法でも展開してもらわなきゃ無理だけど、手紙を落とすときには、300くらいに高度を落としてくれてるからね」

 そこで、シュルシュルッと巻紙を巻き直すと、家の中へと声をかけた。

「ルル、ちょいと急いでソイ王国に戻らにゃならんようだよ」

 開けっ放しにしていた玄関から、座布団に乗ったまま浮いたルル婆がふわりと現れる。

「おや、急ぎの知らせかい?」
「リリがいなくなったと」
「そりゃ急ぎだ」

 急ぎと言う割には落ち着いている婆ちゃんたちに、オイラは首を傾げる。聞いたことのない名前だ。

「リリって?」
「ソイ王国の留守を任せてるあたしゃの……――っ!?」

 説明しかけたところで、ララ婆がバッと上空を振り仰いだ。

「……こりゃあ、今すぐおいとましゅるってわけにゃあいかないかね」

 諦めたように同じ場所を見つめるルル婆の視線の先で、赤い人型の竜が三頭、弧を描くように優雅に舞い降りて来た。


「お師匠さん、起きてください、お師匠さん!」

 リムダさんの声に、こたつで二度寝を決め込んでいた父ちゃんが寝ぼけまなこをパチクリさせた。

「お師匠さん? って、俺か?」
「そうです、弟子入りするんですからそう呼ぶのは当たり前でしょう?」

 リムダさんの言葉に、父ちゃんが何だか照れくさそうに眉尻を下げる。ぼさぼさの髪をボリボリと掻き、よっこらしょっと立ち上がった。

「じゃあ、鍛冶でもするか?」
「いえ、せっかくなんですが、ちょっと僕の保護者がご挨拶あいさつをしたいと……」
「保護者?」

 言われて、辺りをぐるりと見回した父ちゃんは、そこで初めて、今まで土間になかったはずのテーブルセットで、優雅にくつろぐ主従の姿に気が付いたようだった。

「……保護者?」

 思わず顔をひきつらせてそちらを指さす父ちゃんの耳が見る間にペタリと寝て、外側にくるっと巻いていたしっぽが力なく垂れる。
 そんな情けない父ちゃんを見たエスティは、美しい緋色ひいろ扇子せんすをパサリと広げ、楽し気にニヤリと笑った。

「そう構えるでない。『金烏ジンウ』の報酬を渡し忘れておったことに気付いてのぉ。それに、リムダがおぬしに弟子入りすると言うて聞かぬゆえ、親代わりとして挨拶しに参ったのじゃ」

 テーブルセットの椅子いすは、もちろんエスティが座る一脚しか用意されておらず、ティーポットを持ったセバスチャンさんと銀のお盆を持ったラムダさんは、立ったまま後ろに控えている。
 なぜか、ラムダさんの服はちょっとすすけていて、体のあちこちにアザがあったり絆創膏ばんそうこうが貼られていたりした。

「リムダは、いつもラムダの陰に控えて、自分を抑えているようなところがあってな。そのリムダが、自分の意志をここまで通そうとするのは初めてでのぉ。面倒をかけるとは思うが、よろしくしてやってくれ」

 紅茶のカップを手に取り大きく足を組んだエスティは、そこが鍛冶屋の土間とは思えないほど威厳に満ちている。

「何せ、今まで闘争本能というものが皆無だったリムダが、『馬鹿なことは止せ』と引き留めるラムダに闘いを挑み辛勝し、我からも一本取るほどであったからのぉ」
「……え?」

 思わずラムダさんとリムダさんを見比べると、ラムダさんがぶすっとした声を出した。

「我が弟が、人間の弟子になるなど到底応援出来るものではありませんが……まあ、リムダがそこまでやりたいと言うのならば黙認しましょう。しかも、私に勝ったとたんに飛び出して行って。せめて自分が付けた傷くらい癒やしてから行っても良さそうなものでしょうに」
「忘れてました」

 ほわん、と頭に手をやるリムダさんには、傷ひとつない。そうか、火竜で治癒魔法を使えるのがリムダさんだけってことはつまり、両方満身創痍まんしんそういになってもリムダさんだけのほほんと回復出来るってわけで。それって無敵って言わない?
 あんな遅い時間にリムダさんが訪ねてきた理由が分かった気がする。ラムダさんとエスティを『説得』出来たその足で、うちにやって来たわけか。

「っていうか、エスティからも一本取ったの?」

 当代最強、威厳も迫力もありまくりのエスティと、ほやほやぽやんとしているリムダさんが戦っているところなんて、全く想像が付かない。

「我とは勝負ではないがのぉ。寝ている内の不意打ちでもなんでも、一撃当てられればリムダの勝ちというゲームのようなものよ。まあ、見事にしてやられたわ。まさか人型になってセバスの背中に張り付いておるとは思わなんだ。元々、我とラムダ、リムダは共にセバスについて学んだ兄弟弟子じゃからのぉ。お互いの手の内も知り尽くしておるわけじゃ」

 ああ、なるほど。確かにセバスチャンさんといるときのエスティはすきが多い気がする。強いセバスチャンさんがいるから安心しているのか、それともセバスチャンさんにしか意識がいってないのか。
 っていうかそれって、セバスチャンさんもリムダさんに協力してくれたってことだよね。さっきも『おじいさまが――』って言ってたけど、反対していたラムダさんとは違って、セバスチャンさんはリムダさんの理解者なのかもしれない。

「望みがあるならば、実力で示すのが火竜流。リムダは見事にその実力を示した。火竜唯一の治癒魔法の使い手であるリムダがいなくなるのは痛いが――その願い、我は全力でかなえてやらねばなるまいよ」

 エスティが紅茶のカップをテーブルへ置き、扇子で片手をポンポン叩くと、セバスチャンさんを振り返った。

「セバス、あれを」
「はい、お嬢さま」

 セバスチャンさんが、以前にヒヒイロカネと一緒に持ってきた大きな革のカバンを取り出し、広げて見せる。
 中には、ぎっしりと金塊きんかいが詰まっていた。
 この国では金の価値が高い。
 それは金は竜が独占しているからで……つまり、竜なら簡単に用意出来るわけだ。

「ヒヒイロカネ鍛冶の代金に、多少色を付けておいた。リムダを鍛冶士として育てるのに、入用なものがあればそこからまかなってくれ。足りなければ、いくらでも用意させよう」

 父ちゃんはセバスチャンさんが自分の足元に置いたカバンを、よいこらしょと持ち上げようとして……持ち上がらず、オイラに向かって顎をしゃくった。
 父ちゃんの様子に首を傾げながらも、オイラも手に取りよいしょと持ち上げたとたん、ずしっ、と思いがけない重さに、思わずたたらを踏む。
 こんなに重いとは思わなかった。
 かなりスキル補整のあるオイラですら持ち上げるのがやっとで、見た目はそこまでじゃないのに、鉱石を満載まんさいにしたオイラのリュックよりよほど重い。
 オイラが何とか持ち上げたのを見て、満足げに父ちゃんが頷く。

「ノア、それ、やるわ」

 気軽に父ちゃんに言われた一言に、思わず反応が遅れた。

「えっ!? でも、これ、父ちゃんの鍛冶の報酬……」
「これから、お前の集めた鉱石や素材を、たんまり使わせてもらうつもりだからな。前払いだ」

 父ちゃんは、かね無頓着むとんちゃくだ。
 いや、かすかに耳の先がピクピクしているから、ひょっとしたら今まで苦労をかけた罪滅ぼし、とも思っているのかもしれない。
 でも、こんなのもらっても使い道がないし……と思いかけたオイラの耳に、思いがけない父ちゃんの提案が届いた。

「邪魔なら、お前の倉庫にでも入れとけ。金でも武器は作れるからな」
「えっ、ホントに!?」

 がぜん、金に興味が出てきた。

「ノマドも大概だけど」
「ノアしゃんも、似た者親子じゃよね」

 帰り損ねた婆ちゃんたちが背後で何か言っている。エスティがいるから、ひそひそ声だ。

「といっても、普通に使ったんじゃ柔らかすぎて実戦には使えん。装飾用か、神社仏閣じんじゃぶっかくへの奉納用がほとんどだな。ただ、金てのは竜が好むだけあって、実はミスリルより魔法親和度が高いと言われてるんだ。そのせいか、金を使用した合金を持っていると、マグマ石、ミナモ石、ツムジ石、タマキ石なんかの特殊金属の鉱石や、ゴーストライトってまぼろしの金属の鉱石が見つけやすくなる、って言い伝えもある。まあ、貴重な金を、合金なんぞに使うようなバカは……」

 そこまで言ってこちらを見る父ちゃんの目には、オイラの目が、キュピーーンと光ったように見えただろう。

「……いたな」

 父ちゃんによると、『合金』スキルを使って合金にした金属というのは普通元に戻せない。つまり希少な金を合金に使ってしまった場合、金としての再利用は出来なくなる。さらに、合金の一種として金を利用した剣より、金をそのまま売ったほうが高値が付く。だから金は合金には使用しない、というのが鍛冶士の常識だそうだ。
『合金還元』なんてスキルは非常識だ、とも言われた。
 あれ? 確かオイラ、父ちゃんに無理矢理取らされたような気がするんだけど……?

「これだけあるんだもん、合金の一種に使うだけなら、何本作れるかなっ。マグマ石はもういっぱいあるけど、ツムジ石とか見つけられたら凄いよねっ」

 わくわくしているオイラへと、にゅっと父ちゃんの腕が伸びてくる。

「何本作れるかはともかく、お前はしばらく鍛冶修業だ。鉱石拾いなんて行ってる時間はないぞ?」

 逃がさん、とばかりにガシッと首をホールドされて、オイラは口をとがらせた。

「ええーーっ。目の前にこんなオイシイえさぶら下げといて、そういうこと言う? ってか、オイラ、一か月に一回は冒険者ギルドの依頼達成しないと、テイマー免許切れちゃうんだけど? そしたら黒モフとも一緒にいられないし、リムダさんだってここにはいられないよ?」
「そっ、それは困りますっ、お師匠さんっ」

 オイラの言葉に、リムダさんが涙目で父ちゃんに迫る。
 父ちゃんは片眉を上げて事もなげに言った。

「何言ってんだ、お前の倉庫にあっただろ? 鬼アザミのトゲだっけか? あれを何回かに分けて納めりゃいいだろうが」
「何気にしっかり見てたんだ。でも、鬼アザミのトゲだって、三回も依頼達成すれば終わっちゃうよ? そしたら、マンティコアの針とか、グリフォンの羽とかギルドに持ってくはめに……」

 オイラの言葉に、父ちゃんは渋い顔をする。ついでにオイラのホールドを解いて腕を組んだ。

「鍛冶の素材を納めちまうってのはいただけねぇなぁ」

 だよねー、と思うオイラの視界の隅っこに、火鉢の灰をかき混ぜながら肩をすくめる婆ちゃんたちが映った。

「似た者親子じゃね」
「おんなじこと言ってるよ」

 エスティはといえば、セバスチャンさんの淹れた紅茶のカップを片手に、ニマニマしながら無言でオイラたちとリムダさんの様子を見守っている。

「冒険者ギルドの依頼にあって、ここで鍛冶しながら手に入るものって言ったら……」

 オイラと父ちゃんは顔を見合わせ、それから視線をゆっくりとリムダさんへ向ける。
 何を感じたのか、リムダさんの顔がサァーーッと青ざめた。
 そのまま土間にペタンとへたり込む。

「ひ、ひぃぃっ? ひょっ、ひょっとして、ぼ、ぼぼぼぼぼぼくのっ、素材ってことですかぁっ?」

 リムダさんが両腕で体を抱きしめて後ずさる。

「しっ、しっ、仕方ありませんっ。ぼぼぼぼくもテイマー契約が切れて鍛冶が出来なくなるのは困りますしっ。覚悟は決めましたっ。つめでもウロコでもっ。必要なだけ、はいでくださいぃぃっ」

 腰が引けて、涙目でぷるぷる震えながらも言うリムダさんに、オイラと父ちゃんはにっこりと笑顔を見せる。

「またまたぁ。そんなわけないじゃん」
「そうだとも」

 オイラの言葉に、父ちゃんも同意する。

「ほ、本当ですか……?」

 信じられない、と上目遣うわめづかいで見上げてくるリムダさんへ、オイラは安心させるように言葉を重ねる。

「そうだよ。当たり前じゃん?」
「火竜の爪もウロコも、立派な鍛冶の素材になる。それをギルドに納めるなんて」
「「そんなもったいないこと」」
「ひぃぃぃぃぃ」

 オイラも父ちゃんもニッコリと微笑んだのに、なぜかリムダさんはさらに青ざめて高速でぷるぷるしだした。



 05 オイラたちの半年①


 その後しばらく、リムダさんはオイラたちにおびえていた。

「大丈夫だよ。もらったしっぽにだってウロコ付いてるんだから。オイラが今まで採った他の火竜のしっぽにだってウロコ付いてたし。当分は困らないから」

 だけどオイラがそう言うと、遠い目をして達観した様子だった。
 エスティは、「面白いものが見られた」とセバスチャンさんとラムダさんを引き連れて上機嫌で帰って行き、それを見送った婆ちゃんたちも帰り支度を始めた。
 なんでも、王都の外まで出れば、例の『伝書鳩』がソイ王国まで乗せてってくれるんだそうだ。
 それ、もう完璧に、伝書鳩じゃない、ってか魔獣だよね……?
 と、喉元のどもとまで出かけたけれど何とかみ込んだ。婆ちゃんたちが伝書鳩だと言うなら、それは伝書鳩なんだ、うん。
 いくら上空とはいえ、王都に魔獣がいちゃマズイわけだし。
 つっこもうとしたときのララ婆の笑顔が怖かったからでは、決してない。ないったらない。


 オイラとリムダさんはその後、毎日毎日どっぷりと鍛冶漬けだったけれど、なぜかエスティがちょくちょく顔を出すようになった。
 そしてそのたびに、オイラを裏の荒野に引っ張り出し、戦いの稽古けいこをつけてくれるようになった。

「ノアが来なくなって退屈での。我のほうから来てやったのじゃ。少し付き合うがよい」

 とか言って。
 その間の、父ちゃんの相槌役はリムダさんだ。
 ちょっと気弱そうだから心配だったけれど、さすがは火竜。炉の火を怖がることもないし、飛び散る火花で火傷することもない。オイラとは比べ物にならないほどの力持ちで、回数を重ねる内に立派に金槌を扱えるようになった。
 加えて、レベルも1000くらいあり、スキルポイントの余りもかなりあったので、『三種合金』『三重付与』までのスキルも問題なく取得することが出来た。火竜に鍛冶士の特性なんてあるのかと思ったけれど、竜がとれるスキルの幅は人間よりずっと広いらしい。
 戦うのが大好きな火竜は普通、戦闘系のスキルに全振りしていてスキルポイントの余剰なんてほぼないらしい。けれど、戦闘意欲の薄いリムダさんはそこまでする気にならず、結果的にスキルポイントも余りがちだったようだ。


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