【悲報】レベル1の妹。兄の装備でダンジョン配信を始める。(84億円相当の激レア装備で最下層スタート、未確認ドラゴンに遭遇した模様)

高瀬ユキカズ

文字の大きさ
106 / 561
ダンジョン部の姫

第106話 言いくるめられる春菜

しおりを挟む
 ユカリスさんは、楽しそうにくるくると回る。

「ダンジョン配信の定番ネタじゃあ。ばらばらに分かれてモンスターを倒す。制限時間内に、最もいい装備を持ち帰った者が勝者じゃあ」

 回っていたユカリスさんはピタッと止まり、不敵な笑みを浮かべた。

「そして勝者の褒美が魅力的なほど、閲覧数が増えるというものよ」

 閲覧数稼ぎのために、ダンジョン内で企画めいたことをやることがある。
 ダンジョンチューバーがよくやっているネタ配信だ。

 でも、そんなのやるわけがない。
 私のキスを褒美にするなんて、絶対にあり得ない。
 ユカリスさんに向かって、不満げに自分の意思を伝える。

「ユカちん、誰もこんなのやらないよ。私が嫌だって言えば成立しないんだし、ダンジョン部の部員たちだってやるわけがないって」

 頬を膨らませながら、腰に手を当ててユカリスさんを見下ろした。
 だが、ユカリスさんは全く動じない。

「そうかの? 筑紫春菜は装備が揃う。部員たちは褒美がもらえる。おまけにユカリスちゃんねるの閲覧数も増えれば、みんなが得するのじゃ。Win-Win-Winとはまさにこのことじゃなかろうかな? これこそ、三方良しじゃ。」

「だから、やらないって。やるわけないよ。ねえ、部長? 石田さん?」

 私は部員たちの顔を順番に見ていく。

「九条さん? 葛城さん? 椎名さん?」

 でも、なんだかみんな、そわそわと落ち着きがない。

「ん……。え? やりませんよね……?」

 ユカリスさんはまたもや、その場でくるくると回りだした。
 どこか人を食ったような、すました顔をしている。

 デバイスの画面にはコメントが流れていた。

》やっと規制が解除になった
》声が聞こえる
》ようやく状況がわかってきた
》ハルナっちのキスをかけたゲーム?
》俺たちが許すわけない、というか参戦させろ
》ルールの改定を求む、俺たちにも参加権を
》褒美がキスというのはさすがにまずいんじゃない?
》とりあえずゲームの開催は決定?

「ちょっと待ってください。流れ的に、なんだかまずい方向に行っている気が」

 ファーストキスもまだなのに、こんなゲームみたいなことでキスなんて、無理すぎる。
 せめてほっぺになら……。
 いや、それでも無理。
 恥ずかしすぎる。

 まるで私の心を読んだかのように、ユカリスさんは妥協案を出してくる。

「じゃあ、ほっぺにしようかの? 接吻の定義からは外れるのだが、まあ良い。褒美は、ほっぺにチュー。これでどうじゃ?」

「それでも、嫌だって……。恥ずかしいって……」

 私は頑なに拒否を続ける。

「仕方ないのう。じゃあ、勝者に褒美をやるのではなく、逆に罰ゲームではどうじゃ? 敗者が泣きを見るシステムじゃ」

「罰ゲーム?」

 ユカリスさんは少しハードルを下げてきた。

「罰ゲームと言っても、そんなにひどいことはせぬから安心せい。装備を取ってきた者、全員にご褒美をやる。ただし、何も持ってこれなかった者には褒美は無しじゃ」

 話を聞いていた部長は、納得したように頷いていた。

「それなら春菜さんには迷惑はかからないか」

 石田さんも同意するように頷いている。

「さすがに拙者たちも、姫の〝チッス〟は恐れ多くて受け取れないでござる」

「僕たちは頑張ってドロップアイテムを獲ってくるよ」

「ところで、具体的にどんな罰ゲームなのでござるか?」

 石田さんに尋ねられ、思案するようにユカリスさんは指を顎に当てた。

「そうじゃのう……。筑紫春菜はキスも無理。ほっぺにチューも無理。あまりにウブすぎるからの。なら、せめてキス顔だけでも披露してもらう。敗者はそのキス顔を見ることができぬ。これでどうじゃ?」

「まあ、そのくらいなら……。問題ない? いや、本当に!?」

「問題なさそうでござるな」

 みんなは納得するが、キス顔だってそんなに簡単に見せられるものじゃない。
 このまま決まってしまいそうな空気に、私はあらがうように声を上げる。

「ちょっと待ってよ。なし崩し的に決まりそうじゃない!? キス顔だって、十分に恥ずかしいんだけど……」

「視聴者サービスにもなるぞい。〝ユカリスちゃんねる〟もユカちんのキス顔で登録者が13人増えたことがあるのじゃ」

「え? たったそれだけ?」

「それに、部員たちには装備を持ってきてもらうのじゃぞ。何かしらねぎらわねば不憫じゃ。筑紫春菜は唇にキスもだめ、ほっぺにチューも無理。他に何ができるというのかえ? ダンジョンポイントでも賞金にするかえ?」

「ポイントは1ヶ月に5万しか使えないようにされちゃってるからなあ」

「筑紫春菜も、大人の女になるならキス顔はたしなみじゃぞ。男どもにとって、キス顔ほどのご褒美はない。アイドルのように可愛い筑紫春菜の、キュートで魅力的なキス顔じゃ。まさに小悪魔のごとき筑紫春菜じゃ。唇にキスをすることは叶わずとも、せめて夢くらいは見せてやろうではないか。同じダンジョンチューバーアイドルとして、男どもに夢を見せるのが責務だとユカちんは思うのだぞ」

「別に、私。ダンジョンチューバーアイドルじゃないけど……」

「経験者から言わせてもらえば、キス顔を披露することで大人の階段を登れるのじゃ。視聴者からお子様チャンネルと揶揄やゆされることもなくなるぞ。朝ドラ女優になれるほど可愛いのだし、世界進出だって夢ではない。ユカちんが目指せなかったトップスターを目指せるのじゃ」

「いや、目指さないけれど……」

「罰ゲームの内容は、1つもアイテムを持ち帰れなかった者が、キス顔を見ることができないというものじゃ。全員が敗者になることもあれば、1人が勝者となって独占することもある。つまらんと思ったが、意外といけそうじゃのお」

 納得するように、ユカリスさんは一人でコクコクと頷いている。

「ユカちんとしては、本物のキッスを目の前で拝みたかったのじゃがな……。実はまだ見たことがないのじゃ。筑紫春菜はあるか? 本物のキッスを」

「え……。見たこと……? 目の前で?」

「あるのか?」

「え……。ない……けど……」

「じゃあ、キス顔なんてできぬか。見たことがなければ無理かのお?」

「そのくらいはできると思うけれど」

「では、褒美はキス顔ということで。ダンジョン部の5人、これで良いかな?」

「あ、はい……。僕たちは……」

「では、ルール説明じゃ。場所はこの階層。互いに接触は禁止。助け合いも妨害も禁止じゃ。時間は1時間。制限時間内にこの部屋に戻ること。装備品を1品でも持ち帰ったら勝者。0品は敗者じゃ。準備はいいか」

「え……、すぐ始まる……? 準備と言われても……」

 部員たちは慌てながら、手持ちの装備を確認し始めた。

「カウントに入る。3、2、1、スタートじゃあ!」

 ユカリスさんの秒読みで、勝負は唐突に始まる。

 そして部員たちは一斉に駆け出し、私はといえばユカリスさんと一緒に彼らを撮影することになった。ただ待っているだけでは視聴者も退屈だろうから、リアルタイムで実況を行うのだ。

   ◆ ◆ ◆ 

 1時間は短い。――すでに55分が経過していた。
 ラスト5分。まだ何も獲得できていない部員もいた。

 残り5分となり、私とユカリスさんは部屋へと戻ってきた。

 ここにきて、キス顔の練習をしていないことに気づいてしまう。
 キス顔なんて、これまでの人生で一度もやったことがないのに……。

 視聴者からは死角になるところで、こっそりと練習を試みる。
 あいにく鏡を持ってきていなかったので、想像で練習するしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

魔境育ちの全能冒険者は異世界で好き勝手生きる‼︎ 追い出したクセに戻ってこいだと?そんなの知るか‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
15歳になり成人を迎えたリュカは、念願の冒険者ギルドに登録して冒険者になった。 そこで、そこそこ名の知れた冒険者Dランクのチームの【烈火の羽ばたき】に誘われる。 そこでの生活は主に雑用ばかりで、冒険に行く時でも荷物持ちと管理しかさせて貰えなかった。 それに雑用だけならと給料も安く、何度申請しても値段が上がる事はなかった。 ある時、お前より役に立つ奴が加入すると言われて、チームを追い出される事になった。 散々こき使われたにも関わらず、退職金さえ貰えなかった。 そしてリュカは、ギルドの依頼をこなして行き… 【烈火の羽ばたき】より早くランクを上げる事になるのだが…? このリュカという少年は、チームで戦わせてもらえなかったけど… 魔女の祖母から魔法を習っていて、全属性の魔法が使え… 剣聖の祖父から剣術を習い、同時に鍛治を学んで武具が作れ… 研究者の父親から錬金術を学び、薬学や回復薬など自作出来て… 元料理人の母親から、全ての料理のレシピを叩き込まれ… 更に、母方の祖父がトレジャーハンターでダンジョンの知識を習い… 母方の祖母が魔道具製作者で魔道具製作を伝授された。 努力の先に掴んだチート能力… リュカは自らのに能力を駆使して冒険に旅立つ! リュカの活躍を乞うご期待! HOTランキングで1位になりました! 更に【ファンタジー・SF】でも1位です! 皆様の応援のお陰です! 本当にありがとうございます! HOTランキングに入った作品は幾つか有りましたが、いつも2桁で1桁は今回初です。 しかも…1位になれるなんて…夢じゃ無いかな?…と信じられない気持ちでいっぱいです。

処理中です...